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29.これが巷に聞くデート

 ドールベン侯爵の姿が見えなくなり、しばらくお互い何も話さずに歩いていたが、やがてアレクシスの方から口を開いた。


「ドールベン侯爵の言っていた事だけど」


 やはり、アレクシスも『邪魔者』という言い回しに引っかかったのだろう。


「良い事言っていたと思うんだ」

「気になったわよね……って、え? 良い事?」


 良い……邪魔者?


「僕たち、城下町を二人で歩いたことなんてなかっただろう? 確かに、それも社会勉強というか、視察にもなるというか」

「ああそっち、こっそり城下町で楽しむ、っていう方?」

「そういう言い方をすると語弊が生まれそうだけど」

「え? どんな?」


 語弊?城下町できゃっきゃ楽しむことが?


「うん……まぁ、それは置いておこう。……ほら、城下町の宝飾店とか、色々な店を見たら、僕もこういう物が欲しい、とか見つけられるかもしれない。いや、見つけられなくても、マリーと行くだけで楽しいから」


 アレクシスと、活気のある王都で街歩き……。私は、いつも馬車で移動だし、その、何でしょう、友達も? 居なかったからね? 店を冷やかしながら歩く、なんて学生の青春の一ページも、今世では刻んだ事はない。

 だから、純粋に……楽しそうだ。


「だから、今度一緒に行かない?」


 そんなの、返事はもう決まっている。


「……行きたい。楽しみ! 何を着て行こうかな……」


 心は既に、支度を始めそうな勢いだ。制服で街歩きっていうのも王道で楽しそうだけれど、制服で学園の外を練り歩いてもよかったっけ?規則。


「良かった! ……楽しみだね、デート」


 そう、デートだから服も色々慎重にもなるというもの……え?


「デート!!?」



◇◆◇



「マリアンナ様……? どうかされましたか……? デートの下準備に、何か不備がありましたでしょうか?」


 アナの声に、ハッと我に返る。

 どうやら、回想中の『デート!?』が今も口に出ていたようだ。それとアナ、デートの下準備ってなんだ。『準備』だけで良いのでは。


「いえ、何もないわ。そう、何も問題はないわ」


 準備は万端なはずだ。

 目立つ銀髪と赤い瞳は、なるべく目立たないように、つばの広い帽子を選び、裕福な大家族の商人の、四番目くらいの娘が着ていそうな、ライトブルーのワンピースを選んだ。

 アレクシスにもらった首飾りは、いささか服と合わないのと、街歩きに着けて、スリや強盗に狙われても嫌なので、服の内側に入れている。若干、よく見たら盛り上がっているかもしれないけれど、そこは気にしたら負けだ。


 そう、準備は万端。

 何故なら、一人で準備したのではない。

 侍女のアナはもちろんの事、とある人物と相談したからだ。



◇◆◇



 あの事件以来、遠巻きに見られるようになった、この舞台(世界)のヒロインだった、エレナ。

 そして、同じく、元々遠巻きにされる私。

 お昼休みや、教室移動などで、行動を共にするようになるのには、そんなに時間はかからなかった。


「それ、デートじゃないですか!」


 昼休み、学園のカフェテリアで、並んで食事をしていた。


「声、声が大きいわ! …やっぱりそうよね、はたから見ると、デートになるのよね」


 目をキラキラさせながら、声がワントーン上がったエレナを窘めつつ、やはりこれはデートミッションなのだ、と再確認をする。


「それはそうよ! いいなあマリアンナ、好きな人とお城下デート」


 エレナとは、お互い敬語は無しで、という取り決めをしたのだが、エレナは私に対して、未だに敬語が抜けていない時がある。曰く、「同い年の気がしない。先輩感がある」との事だ。

 私はそれを、『安心感と頼りがい』ということだと、ポジティブに受け止めている。


「好きな人って! …ねえ、エレナは、マイクと出かけたりした事はないの?」

「マイク!? デート!? ない! マイクとは、男爵家に引き取られる前はたまたま、たまたま二人でどっかに行く、とかはあったけど、デートではない! 子供が二人でお使い行った、とか、子供の遊びレベルで、デートでは、ない!!」

「デートをしたことあるの? とは聞いてないんだけどな」

「まあ、マイクが? どうしても? どうしても私と行きたいって言うなら? …行ってあげなくも、ないけど…」

「マイクとデート行きたいって?」

「そう、マイクとデート行きたい…って違う! 反対反対!」


 引っかからなかった。残念。

 エレナが、自分を落ち着かせるように、傍らの水を口に含む。


「マイクは…きっと私の事は、手のかかる幼馴染みたいに思ってるよ。…ほら私の事より! マリアンナの事ですよ!」


 喉を潤してから、ワントーン下がった声で呟いた事は、私が首を突っ込むことでもないし、色持ちの瞳のお相手というのは色々と複雑な問題だ。だから、今は触れず、私のデートの話題に戻したエレナに乗っかることにした。


「デートって、どんな格好をしていけばいいの? 町に溶け込める服装がいいのよね?」

「かつ、デート向けのお洒落なやつね。殿下は、なんて言って誘ったんですか?」

「えっと…城下町を、こっそり楽しもう…?」

「殿下、意外と怪しい誘い方しますね!」


 何でそんな風な言い回しをしたのだっけ……?

 あ、そうだ、あの人に会ったんだ。


「ああそう、ドールベン侯爵って知ってる? その人に会って話した流れで誘われたんだったわ」


 お父様の爵位が低いエレナは、ドーベルン侯爵の事は知らないかもしれないと思ったが、意外な反応を見せた。


「ドールベン……侯爵……って、背が小さめで、なんか、胸が上向いている感じの人……?」


 人差し指を顎に当て、軽く上を向き、記憶を辿るように呟いた。


「胸が上……。まあ、そうね、鳩胸っていうのかな」

「あ、会ったことある、その人」

「そうなの? 王宮とかで?」


 私と似たような状況で鉢合わせをした、という事だろうか?


「ううん。学園に入る二、三年前……十三歳のとき。……そうだ、お母さんが病にかかった時だから、覚えてる」


 十三歳の時……。確か、エレナが色持ちと分かって男爵家が引き取ったと発表があったのは、十四歳の時。読み書きはできるがそれまであまり勉強をしてこなかったから、高等部入学までは、家庭教師に中等部までの勉強を教わっていた、と聞いた事がある。

 と、いう事は、エレナがドールベン侯爵と出会ったのは、男爵家に引き取られる前。平民として暮らしていたエレナが、どうやって出会ったのだろう。


「色持ちって分かる前の事よね? どうやって会ったの?」

「お母さんが病気になって、治療のお金が足りなくて、仕方なく男爵を頼ったの。お母さんは一人で頼みに行く、って言ったんだけど、私、心配でこっそり付いて行っちゃって。そこでたまたま会ったのが、侯爵だったと思う」

「そうなんだ……。ドールベン侯爵と、リントン男爵ってお知り合いだったのね……」

「リントンは、ドールベン侯爵の傘下にあるから。そこで会った、というか、そこでこの瞳が発現して、侯爵家に連れていかれたの」

「そうなんだ……侯爵が、何でわざわざ男爵邸に来てたのかしら」

「男爵邸の近くで、馬車が壊れたからって言ってた気がする」

「ああ……そういう訳ね」


 あれ? 何か、引っかかった気がする。

 えっと、そこで瞳が、発現して…発現して!?


「エレナ、あなた十三歳で発現していたの!? 十四歳じゃなかったの?」

「うん、なんかよく分かんなかったけど、発現してから発表まで一回ねかせたみたいだね…って、そういうものじゃないの……?」


 一年も発表まで猶予があって、何の意味があるのだろうか。私は全然知らなかったけど、アレクシスや、王妃様、国王陛下はご存じだったのだろうか……?


 もちろん、報告はしたはずよね……?


 ふと時計が目に入ると、昼休みの終わりが迫っていた。


「あら、もう時間がないわ。早く食べてしまいましょう」


 話に夢中になってしまい止まっていた手を動かし、パンを口に運ぶ。

 

 富裕層向けのランチのパンはふわふわでバターが薫り、いつも美味しい。

 しかし、先ほどの引っ掛かりが心から取れず、今日だけは作業のように食べてしまい、カフェテリアの料理人に、心の中でそっと謝っておいた。

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