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12.悪役の味方

 何がどうしてこうなった。


 最初は、色々見て回り、気になったものを買い、空き教室を開放した休憩スペースで、お喋りしながら買ったものを食べていた。


「悪が栄えたためしなぁし!! 助太刀いたそう! とぉっっ!」


 そして今、この世界観の中のどこの界隈で流行ってるの? っていう寸劇が目の前で繰り広げられている。


「われも加勢いたしまするぅっ! やあっ!」


 ちなみに、助太刀いたすのが王妃殿下、加勢いたしまするのはロザリア王女殿下である。

 私は、学園の校舎に囲まれた中庭で始まった寸劇を、為すすべもなく見守っているところだ。


「むむぅ!? 手強わね……!」


 学園の演劇部による観客参加型お芝居。劇中のターニングポイントとなるところで、いくつかの選択肢を提示しどれを選ぶか観客に問い、その答えによって結末が違うのだそうだ。そのためにはいくつかのパターンを準備し、練習しなければいけないが、劇自体は短めで、一日に四、五回くらい上演するらしい。


「そうはっ問屋がっおろさないわよぉっ!」


 この世界にも、問屋がおろさない、って表現あるんだ。


 これだけ目立てば、騒ぎになるのでは……と思ったが、あれほど堂々とテンションの高いお二人に、面と向かって「王妃様と王女様は一体何をしてるの?」とは言えないらしい。年配の貴族の方の一部に至っては、「また何かやってるな」くらいの生温かい目で見ている気がする。


 このよく分からない状況に至った経緯はこうである。

 まず王妃様が、裁縫部と演劇部が合同で開いている『衣装屋』を見つけ、入りたいと言い出した。そこでは、王妃様が騎士風の鎧に着替えた。鎧、と言ってもサテン生地でできていて、それを小さな魔石を要所要所に縫い付けて、風魔法で膨らませているため、あまり重くはなっていない。女性でも気軽に着られるものにしたらしい。ロザリア様は、着ていたお忍び用の動きやすい簡素なドレス(素材は決して安いものではないが)の上から、大きめな貫頭衣を着ている。旅人風、らしい。

 私もなにかするべきか、と思ったが、何故か、マリアンナはそのままが一番良い、と言われて止められた。ちょっと淋しかったけれど、特に着たいものもなかったので、私だけが普通に制服である。

 高貴な騎士とぶかぶかさすらいの旅人といつもの制服の伯爵令嬢の三人で、またぶらぶら回っていた。そして、劇の立て看板を発見したロザリア様が、この演劇部のお芝居が観たい、と言い出した。私も、それは観られたら観たい、と密かに思っていたものだったので、快諾。


 内容は、昨今ちまたで流行りの婚約破棄もの。どこかの国のやんごとなき身分の御仁と、町娘の愛の物語。悪役として、高慢ちきな高位の令嬢が二人の愛の障害として立ちはだかる。ヒロインの町娘は、めげずにひたむきに、やんごとなき御仁を癒やし励まし、一途に慕う。そんな町娘に、そのやんごとき御仁も心を寄せ……というストーリーだ。


 悪役の令嬢は、実際その位に当てはまる方々に配慮してか、高位にある爵位の令嬢、とぼかしている。その令嬢が、ストーリーの一つの終盤では婚約破棄をされ劇の盛り上がりが最高潮にある場面で、無敵の力を発揮する。あんなに、騎士たちを一振りでなぎ倒していたにも関わらず、成人もしていない男女が力を合わせただけで、クリティカルなダメージを与え、悪役令嬢は再起不能、捉えられ、ヒーローとヒロインは結ばれる。

 ちなみに、悪役令嬢はその後どうなったかは語られてはいない。


 私は、現状正式な婚約者ではないので、『婚約破棄』はされないし、何人もの騎士をちょっと腕を振っただけで殲滅させる予定も、もちろんない。できるかできないかは、別として。

 しかし、悪役令嬢役の子はわざわざ、髪を銀髪にしている。元々その髪色、という可能性もあるが、今まで、それほど全く私と一緒の銀髪の女生徒は見かけたことがない。


 ――やっぱり、遠巻きに見る生徒からすると、婚約者気取りの高慢令嬢に見えているのね……。


 演劇部の方々は、マリアンナは劇なんてわざわざ見ないだろう、と思ったのかしら。


『すまないが、君を愛したことはない。許してくれとは言わない。しかし、私は見つけてしまったのだ。真実の愛を』

『ごめんなさい、私が悪いのです……。私が、この御方のそばにいたいと、願ってしまったために……』


『真実すまないと思っていたから、これまでは見逃してきたが…もう許せぬっ!』

『やめてっ! 私は大丈夫よ、私のために戦わないで、あなたの傷つくところは、もう見たくないわっ!』


 楽しみにしていた劇だったが、もうこの先は見たくない。不自然ではない角度で下を向き、耳を塞ぐのは露骨なので、なるべく違うことを考えて遮断しよう。

 と、したこところで両脇に座っていた騎士と旅人が動いた気配がして顔をあげると、さっきまで隣にいた方々は、既にステージの上だったのだ。

 二人が味方として、背に守るように立ったのは、もちろんヒーローとヒロイン側――ではなく。


 なんと、悪役令嬢側だった。


 ヒーローとヒロインに向かって、悪なんて言ってしまっている。


「ふふ……! 何をしていらっしゃるのかしら…! はしゃぎすぎです、おふたりとも」


 なんと、愉快な展開にしているのだろう。涙が出そうなくらい、面白いではないか。


「……ありがとうございます」


 ステージ上では、悪役令嬢と、あんなに暴れていた騎士と旅人が程よい引き際でヒーローとヒロインに倒されて、クライマックスシーンだ。


 見惚れてしまうくらい素敵な敗者っぷりでした、と拍手で私の騎士さまと旅人さんを、お迎えしよう。



ありがとうございます。


全くの別作品ですが、短編を投稿しました。もしお時間がありましたら、読んでいただけると嬉しいです。

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