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夜空の狐仮面  作者:
蝶の羽ばたき
58/100

それなりに慣れてる



「よく来たな怪盗塩犬。帰れ」


「だだだだだから俺は怪盗塩犬じゃない! ええはい違いますよそんなわけないからな!」



 入り口付近で発生するこのやり取りもすっかり慣れたものだ。

 火和良(カワラ)は慣れていなさそうだが、常連からすると最早お馴染みの光景の一つにカウントされ始めているらしい。


 ……実際、火和良(カワラ)が来る度に発生してるものねえ、このやり取り。


 そして火和良(カワラ)火和良(カワラ)で週に四回は確実に来るぐらいには常連なので、そりゃ慣れもするわなという感じ。

 まあ元気なのも仲が良いのも良い事だ。


 ……二人からすれば仲が悪いって感じなんでしょうけれど。


 どころか雷那(ライナ)からすれば仲が良い悪いとか以前に敵判定かもしれないが。



「はいはい、入り口でソレやってると他のお客さんが出入り出来ないからそこまで。火和良(カワラ)は空いてる席に座ってちょうだい」


「あ、ありがとうございます……本当に怪盗塩犬とは無関係ですよ!?」


「そう念押ししなくってもわかってるわよそのくらい」


「ですよね!」



 心底安心したという表情で火和良(カワラ)は空いている席に座ったが、無駄な念押しこそがわかりやすさを極めてる自覚無いんだろうか。

 私が指摘しないせいで自覚出来ないとかだったら申し訳ない気もする。



「ちなみに、本日のご注文は?」


「そうですね……エスプレッソで。あと店長から今日はジェノベーゼについて探って来いって言われたのでジェノベーゼを!」


「ハァイ」



 相変わらず正直過ぎる程に正直だこと。

 そういうところが火和良(カワラ)の良いところだし、疑われずに済んでいる部分でもあるのだろう。



「量は普通? 大盛り?」


「大盛りで!」


「了解。ちょっと待っててちょうだい」


「……(アザミ)様、そこの駄犬には残飯で丁度良いのでは」


「何でお店のお客さんに残飯出すのよ」



 っていうかそもそも残飯自体無いわよ、と雷那(ライナ)の額にデコピンをしておく。

 あまり威力が無いものだが、雷那(ライナ)は拗ねたように唇を尖らせながら額をさすった。



「さて」



 エスプレッソを先に淹れて雷那(ライナ)に運ぶのを頼み、ジェノベーゼをちゃちゃっと作る。

 大盛りは作りやすくてありがたい注文だ。


 ……大盛りはその分お値段高くなっちゃうけど、作る側としては楽なのよね……。


 元々私はどんぶり勘定でホイハイセーイッ! という感じに作る方が合ってるタイプ。

 冷蔵庫に微妙に余ってる物で名前の無い料理を作るタイプなんてそんなもんだ。

 それもあって大盛りとかの方が作りやすい、というのはある。


 ……というか、細かく分量守って、が苦手なのよね……。


 絶妙に余る部分の扱いに困るので、まあ多少人参多めになるくらい良いか、と投入するタイプ。

 味付けは感覚とこれまでの経験からどうにでもリカバリ出来るし。

 で、そうやっていくと調整の為に継ぎ足しが増える場合もあり、結局大盛りになるという。


 ……リメイク前提で作る事も多いし、それでも余りそうなら近所に差し入れるなりお客さんにサービスとして出すって事も出来ちゃうし。


 うーん、我ながらカフェ感が無い。

 動物達の里親探しを兼ねているのもあってカフェにしたが、実は食堂の方が性に合ってたりするんだろうか。

 得意料理的には本当そっち方面な気がするけれど、まあ今の店も気に入ってるので良いとしよう。

 コーヒーとかも普通に好きだし。



「はい、大盛り」


「おお! 待ってました! ありがとうございます!」


「どういたしまして」



 うちの店で言う大盛りは、本気の大盛りである。

 いわゆるデカ盛り系。

 元々学生のお客さんとかも居るし、私も少ない量でそれなりの値段貰うのは性に合わない、と思っていたのでうちの店の料理は通常でしっかり一人前。

 つまり大盛りはガチの大盛りになるのだが、大盛りを頼むのはガチの大食いくらいなので問題は無い。


 ……映え目当てで食べる気ゼロみたいな子の場合、うちの子達が来店を拒絶してくれるしね。


 食べ物を粗末にするタイプも見抜ける辺り、動物の直観力は凄いと思う。

 お陰でこちらも困った客の相手をしなくて良いので万々歳だ。


 ……これが人間の店員によるお帰りくださいならSNSで炎上させられるかもしれないけど、相手が動物なら仕方ない、って扱いになるのが助かるわ。


 寧ろ動物が拒絶するレベルってどういう事だ、という感じになるので本当ありがたい。

 ちゃんとした客相手ならうちの子達は愛想がいいと周知されているのも大きいだろう。



「ほふひへば」


「リスみたいになってるから食べてる分を飲み込んでから喋りなさい」


「むぐ」



 大口を開けてジェノベーゼを頬張っていた火和良(カワラ)は、もぐもぐと口を動かして咀嚼しては少しずつ飲み込んで口の中を空にし、ふぅ、と息を吐いた。



「そういえば、最近は大丈夫ですか?」


「何についてのどういう心配?」


「その……変な男性の付き纏い、とか」


「俺に対する当てつけか何かか犬」


「誰もお前だとは言ってないだろ雷那(ライナ)! っていうかソレ言うって事は少なからず自分が不審者だっていう自覚があるんだな!?」


「普通に考えて一人の女性に異様な執着を見せて様付けで盲信したように慕って押し掛けるように下宿とか明らかに危険人物だろうが」


「自分に対する解釈が冷静過ぎる!」



 いや本当に冷静過ぎて私もちょっとビックリした。

 これ大丈夫かなと思いつつ指摘はせずいたわけだが、雷那(ライナ)自身に自覚はあったし、実際大丈夫じゃ無かったというわけか。



「まあ問題は無いし、私としては助かってるから良いんだけど」


「そういう緩さが狙われる理由でもあったじゃないですか(アザミ)さん!」


「そう言われてもねえ」



 ここがゲーム世界だと自覚してからは私自身の身体能力が異常に高いという自覚も備わり、楽しくなって色々やったら地味にハイスペックになってしまったのだ。

 つまり不審者に襲われようと普通に撃退出来る。


 ……狐仮面時でも屈強なチンピラ相手に立ち回れるんだから、タチの悪いナンパくらいなら、ね。


 転がすだけで財布の中身を抜き取ってないだけ私は優しい。

 一応相手の顔だけは写真に撮って瑠璃(ルリ)に事情を説明しておくけれど。

 じゃないと向こうが突然見知らぬ女に暴行振るわれたとか通報してきた時に困るし。



「……この人は本当、自覚が無いからなあ……」


「どういう事だ、犬」


「犬言うな。(アザミ)さんは知っての通り、心身共に素晴らしい人だから変な人にも好かれがちなんだよ。寧ろ変な人の方が気に入りがち」


「まあ俺がここまで心酔するんだからそうだろうな」


「お前の自己分析本当に冷静過ぎないか……?」



 逆に不安だ、と火和良(カワラ)は微妙な表情で呟いた。



「ただ、そういう人達が周囲に多いって事にもなるから、(アザミ)さん自身は結構鈍いんだよ。悪人に対しては拒絶出来るけど、どのぐらいの悪人が相手でも頓着しないっちゃしないし」


「流石に外道過ぎるようなのは嫌よ?」


「だからって態度を変えたりとかしないじゃないですか」


「わかりやすく悲鳴をあげて拒絶って失礼だもの」


「そうやっていつも通りのテンションで躱すから余計に調子乗るようなのが出るんですよ……」



 火和良(カワラ)は頭を抱えて溜め息を吐く。



「俺がお世話になってた時も、ストーカー化した男が窓から侵入しようとしてましたし……ワン達が全力で撃退したから無事でしたけど」


「そんな事があったのか?」


「あったんだ。瑠璃(ルリ)さんのお陰で警察の常連が増えた事もあって実質パトロールみたいなもんだし、そういう不届き者は減ったんだが……悪い事をしている自覚が無い奴らは、うん、うん……」


「自覚があるならまだしも、無自覚相手だと大前提として話が噛み合わんという問題もある、か」


「そうなんだよなあ……」



 フォークでくるくるとジェノベーゼを絡め取り、火和良(カワラ)は大きな口で頬張った。

 こんな話をしていても火和良(カワラ)は食べた瞬間から嬉しそうな顔になってくれるので、こちらも嬉しい。

 やはり作った料理を美味しく食べてもらえるというのは良いものだ。



「よう」


「いらっしゃい」



 どうやら一人で来たらしい瑠璃(ルリ)が、お、と火和良(カワラ)を見てそちらへと近付く。



火和良(カワラ)も来てたか」


「あ、瑠璃(ルリ)さんこんにちは! 相席ですか!?」


「おう、折角だしな。あ、俺はいつもので」


「はーい」



 了解していつも通りカプチーノをちゃちゃっと淹れる。

 今日のラテアートはホルスタインにしてみよう。


 ……瑠璃(ルリ)、結構大丈夫そうだったわね。


 前の一件では一日休んででもリフレッシュ優先していたが、それが良かったんだろうか。

 いつもならこのぐらいの頃はもっとぐったりしている気がする。


 ……でも他の皆も、ここ三日くらいは元気そうだったわね。


 つまり早めに諸々の処理が終わったという事だろう。

 しかしあれだけの人間をしょっ引いてそんな早く済むものなのか。

 打ち上げリフレッシュで色々吹っ切れた瑠璃(ルリ)が本気を出しつつ要らない部分をショートカットしたなら出来そうだが、それにしても瑠璃(ルリ)の顔が明るいような。

 もし本気を出していたならその分だけ疲労が蓄積されていそうなものなのに。



「お待たせ、瑠璃(ルリ)


「いや全然……うわ可愛い。写真撮らせてくれ」


「お好きにどうぞ」



 ラテアートとして描かれたホルスタインをスマホに収め、瑠璃(ルリ)は満足げな笑みを浮かべて一息ついた。



「しかし、こっちでも不審者の話をしてたとはな」


「こっちでも?」



 私がカプチーノを淹れている間に先程までしていた話についてを説明したのだろうが、瑠璃(ルリ)の方でも不審者の話をしていたんだろうか。



「ほら、前にお前が俺に伝えてきたろ。下着送りつけてきたド変態」


「ああ……あったわね」



 思い出したくない記憶過ぎて放り投げていたが、そういえばそんな事があった。



「え、俺知らないのですが……?」


雷那(ライナ)が来る前だもの。言ってないし」


「いや最低限報告はしとけよ」



 カプチーノを飲みつつ、瑠璃(ルリ)がじとりとこちらを見る。



「住み込みさせるんなら知っといた方が後で知るよりはメンタル的にマシだと思うぞ」


「動物の世話の方が最優先事項だもの、うち」


「あー……」



 命を預かる身としての大事なアレソレの方を優先、というのは瑠璃(ルリ)からしても納得いったらしく、成る程なあ、という念の籠った「あー……」が出た。



「それで、下着を送り付けて来た、とは?」


「俺も知らないです何ですかその話!」


「警察相手なら通報気分で話もするけど、日常会話で下着を送り付けられた話とかしないわよ普通に」



 まあ良いけど、と肩をすくめる。

 何が楽しくて送られてきた趣味でも何でもない下着についてを語らなければならないんだか。



「……うちの子達が警戒するから出禁状態の人って結構居るんだけど、その中の一人から贈り物が届いたのよね。で、ソレが下着だったの」


「その時点で凄まじく気持ち悪い所業なんですが」



 火和良(カワラ)は顔を青褪めさせながら腕をさすった。

 鳥肌が立ったらしい。


 ……まあ、そうなるわよね。


 瑠璃(ルリ)は顔を顰めていて、雷那(ライナ)も信じられないものを見たかの如く嫌そうな顔をしている。

 というか雷那(ライナ)の顔、完全に寒気で毛が逆立ってる時の顔では。



「更に気持ち悪いところについて語りましょうか?」


「うわ良い笑顔だ怖い」



 失礼な。

 我ながら圧のある笑みになったなとは思ったけれど、火和良(カワラ)は本当に正直が過ぎる。



「その下着、あちこちに宝石が散りばめられてたの。本気の宝石でかなりのお値段するんでしょうねってヤツ。ブラのここ、谷間部分にはかなり大き目の宝石まで嵌め込まれてたし」


「……あの、自分の胸元を指差すのはやめませんか……」


「何で?」



 その方がわかりやすいだろうに、火和良(カワラ)は顔を赤くして口元を押さえながら視線を逸らした。



「……その、想像してしまうので……」


「頭の中でどう考えようと別に気にしないわよ」



 腰に手を当て、肩をすくめて私は言う。



「私は心が読めるわけでも思考が見えるわけでも無いんだから好きになさい。実行する馬鹿野郎に比べれば脳内妄想で済むだけ安いものだわ。私自身には実害無いし」


「もっと自分を大事にしてください(アザミ)さん!」


「申し訳ありません(アザミ)様コレに関しては俺もそこの馬鹿と同意見です!」


「そう言われてもねえ」



 道歩いてるだけでもそういう視線を向けられる事はあるし、通りすがっただけでもその晩か翌朝におててを恋人にする際に用いるイメージとして使用される事だってあるだろう。

 しかしそれだけならば真正面から言われでもしなければこっちだって気付かないんだし良いと思う。

 少なくとも私自身が汚れるわけじゃない。


 ……痴漢やらストーカーやら、ああいうのの実害を考えると、ね。


 胸見てちょっとそわそわするくらい可愛いものだろう。

 我ながら結構大き目の胸だし、胸元を見て妄想されるくらいなら慣れてるので問題無し。

 ちょっとくらい良いじゃんとか言って揉みにくる酔っ払いなんかに比べればずっとマシだ。



「とにかくそんな程度は可愛いって思えるような気持ち悪さがあったのよ、下着には」


「宝石が散りばめられている、っていう部分だけ聞くとマシに思えますけど……下着を輸送した時点で好感度マイナスとはいえ」


「流石に身に着けたりはしなかったけど、タグでサイズ確認したら私のサイズにピッタリだったのよ、その下着」


「え゛」


「ん゛な゛」



 火和良(カワラ)雷那(ライナ)が酷い顔で硬直した。

 この世にあってはならないものを見た時のリアクションじゃないだろうか、ソレ。



「……え」



 雷那(ライナ)より早く、火和良(カワラ)が復活する。



「あの、(アザミ)さんのサイズにピッタリって、スリーサイズとか」


「向こうは知ってたんでしょうね。どうやってか知らないし、私だってそんなものを公表する趣味は無いのに。そもそも胸だの尻だのは食べた物や運動量でそれなりに変動しやすい部分だから最新版じゃないと意味無いんだけど」


「うっわ怖い! 鳥肌立ちましたよ鳥肌!」



 食べ終わってて良かった食欲無くすところだった! と火和良(カワラ)は叫んだ。

 そういえばカプチーノを淹れてる間に皿が空になっていたが、確かにこんな話をされれば食欲は無くなるか。

 私だってこんな話を友人に聞かされたと考えたら、目の前に食事があってもいまいち喉を通らないような気がする。

 もそもそとなら食べれるだろうが、美味しい美味しいとは食べれまい。



「まあそんな気味悪い下着を身に着ける趣味は無いし、というか親しくしてる後輩からプレゼントされたとかならともかく、出禁になってて悪い噂も聞く男からのプレゼントな下着は、ねえ……」


「根本的にアウトですし生理的にも厳しいような……」


「だから身に着けてないわよそんなの」


「で、俺がそれについて一応って事で報告されたわけだ。警察への届け出みたいなもんだな」



 カプチーノを再び一口飲みつつ瑠璃(ルリ)が言う。



「俺は俺でその報告受けてたし、俺の部下達もここの常連だから万が一が無いようその送り主を見かけたらとっ捕まえておけよって言ったんだが……なあ。そうやって周知されてるもんだから話題として掘り返されたっつーか何つーか」


「?」



 どういう意味だろうか。

 そう問う前に、目を据わらせた雷那(ライナ)がテーブルにバンと強く手を置いた。



「……雛菊瑠璃(ルリ)。迅速にその送り主とやらについてを吐け。確実に仕留めてくれるわ」


「いや仕留めんな。お前がやったら本当に大変な事になるだろうが。鉄車の一件について忘れてねえぞ」



 警察の味方してくれりゃ良い技術なのに全然そんな気ねえし、と瑠璃(ルリ)雷那(ライナ)をじとりと睨む。



「は? 何故俺が警察の味方をする必要がある? 使い潰されて顔も知らずこちらに感謝するでもない見ず知らずの有象無象の為に死ねと? そんな下らん人生なぞ御免だな。働きアリのような一生を選ぶくらいならまだマグロ漁船に乗る方が幾らかマシだ」


「そんな究極扱いされる事が多い職業と同列に並べるなよ悲しくなるだろ!」


「悲しくなるという事は否定出来んという事だろうが」


「うぐ」


「何より俺は見ず知らずの誰かの為に動くよりも(アザミ)様が健やかに生活出来るよう整えたい派だ。その為にも(アザミ)様を害する可能性がある輩について疾く吐くが良い」


「衣草(カオル)といいお前といい、才能がある若者ってのは何でこう政府を嫌うんだ……」



 世界引っ繰り返せるだけの実力あるんなら世界平和くらいお茶の子さいさいじゃねえのかよ……。

 瑠璃(ルリ)はがっくりと肩を落としてそう零した。



「良いから吐け」



 ギロリ、と垂れ目ながらも圧のある睨みで雷那(ライナ)は言う。



「その輩とやらはどいつだ」


「ん」



 今夜七時頃、莢蒾(がまずみ)家にある大粒のルビー、蝶の羽ばたきをお迎えに上がります。

 怪盗塩犬



「ほう……」



 瑠璃(ルリ)の懐から出されたコピーの予告状を見て、雷那(ライナ)はビキリとこめかみに青筋を浮かばせながら火和良(カワラ)を見た。



「つまり怪盗塩犬が犯人か」


「俺じゃない俺じゃない断じて俺じゃない! 弁明の余地と弁護士の用意をさせてくれ!」


「というかまず火和良(カワラ)は怪盗塩犬のファンであって本人じゃないわよね?」


「あわわそうですそうでした俺怪盗塩犬じゃないんですよええはい断じて! 断じて!」


「わかってるわよ」



 あからさまに慌てている火和良(カワラ)の頭をぽんぽん撫でて落ち着かせる。

 わかり切っているので今更今更。



「というか送られたの私なんだし、相手が怪盗塩犬じゃないって事はわかってるわ。いやまあ相手が怪盗塩犬じゃない可能性も無くは無いんでしょうけど、そういう事しそうにないタイプだものね」


「そもそも怪盗塩犬に狙われた側だからな」



 どういう愉快な漫才してんだお前らは、と瑠璃(ルリ)は残っていたカプチーノを飲み干して溜め息を一つ。



「……という事は、この莢蒾とやらが下着を送り付ける出禁のド変態と」



 ふむ、と雷那(ライナ)は真面目な顔で予告状にある莢蒾の文字を見つめた。

 見つめたというか、凝視する事で文字の向こう側に居る莢蒾を呪い殺そうとしているかのような眼光だけれど。



「何件か他にも報告あるぜ。どうも気に入った女性へのアプローチとして下着を送り付けるのが趣味みたいでな」


「最悪の趣味では」


「警察の敵だろうそんなもの。しょっ引け」


「残念ながらやりたくても出来ない。揉み消されてたり無かった事になってたり、届け出を出した女性が自分から取り消したりと様々でな。というか届け出が出されてないだけで他にも下着送られたヤツは居ると思うぞ」


「何をしているんだ警察は」


「頑張ってる警察も居るっつの。残念ながらちょいちょい小早川みたいな裏切者が居るだけで」


「致命傷よねえ」



 当日の内に片が付いてしまうレベルには致命傷なヤツだ。



「……んでもって、この莢蒾については調べれば調べる程に女性関係で後ろ暗そうっていうのがなあ……」


「そうなんですか?」


「関係者女性……付き纏われていると告げていた女性達は特に口をつぐむ傾向にある。しかし口をつぐむようになってから莢蒾が会いに行くのを拒絶しなくなっているのもわかっている」



 ……莢蒾、ねえ。


 原作ゲームでは女関係でクズ過ぎるというのが語られていたが、流石にちょっとハードだからと削られていて詳しくはわからなかった。

 公式ファンブックによるインタビュー曰く、女性プレイヤーが多いゲームでそういったアレソレは流石に、との事。


 ……だから結局、よくわからないんだけど。



「……何をしでかしたタイプかはわからないけれど、怪盗塩犬が出るって事はそれだけの後ろ暗さがある可能性が高いって事よね。更に加えて、莢蒾に良い印象を持っていなかった女性達程口をつぐむって事は、それだけの事をされた可能性があるって事かしら?」


「多分な。とにかく女遊びが派手だっつーのはわかってるから、夜の街をメインに調査した方が情報が集まるくらいには下半身が元気なようだったぜ」


「そんなのに下着をプレゼントされるとか、改めて考えると嫌過ぎるわね……よし、この話はここで打ち切りましょう」



 パン、と手を叩いて空気リセット。

 そんな明日にも我が身が危うそうな話は聞かなかった。

 我が身というか貞操が危なそうとか考えたくも無い。



「ところで瑠璃(ルリ)、ここしばらくは怪盗塩犬が出たら相当忙しそうだったのに、今回は結構早くから元気そうになってたわよね。リフレッシュしてたとはいえそんなに早くお仕事が終わったの?」


「本気で話変えたな……」



 呆れた目をしてから、いいや、と瑠璃(ルリ)は肩をすくめる。



「あんまりにも俺がキレてたもんだから他の部署の奴らも総動員になっただけだ。俺じゃないと駄目な仕事も多いから結局多忙なのは変わらねえけど、ある程度の負担が分散されるだけでやりやすくて助かるぜ」


「成る程ねえ」



 この勢いだと瑠璃(ルリ)が本気でぶっ倒れるのではと心配していたので、その心配が減ったのは嬉しいことだ。

 今後も忙しくさせてしまうのは確定だろうし。



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