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神命迷宮  作者: 雪鐘
女王編
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4.転落

「日和ちゃん、次の金曜日の夜ご飯はお外で食べないかい?」

「金曜日?じゃあ…明々後日だね。楽しみにしてるね」


 今日の夕食で、祖父とそんな話をした。

祖父は外食が好きだ。

頻度にすると月1回程度だが、毎度さまざまな所で食べる。

ちなみに先月は定食屋だった。


「日和ちゃんは、何が食べたい?」

「えーっと…おじいちゃんは食べたい物は無いの?」

「そうだねぇ…じゃあ、天ぷらかな」

「いいね、天ぷら」


 という訳で次回は天ぷらになるらしい。

宿題をしながら、先ほどの食事中の会話を思い出した。

毎度思う事だが、祖父と外に出かけるのは久し振りだ。

意識すると地味に自分がそわそわとしている事が気になってしまう。


「あ…兄さんに教えておかないと…」


 中学校に上がって少しまでは三人で行っていたが家の事があるので玲は来なくなってしまった。

それでも毎度外食に行くときは連絡するようにしていて、行く時は決まって「行ってらっしゃい」と言われていた。

離れても繋がりがあるのは、変化が少ないのはなんとなくだけど助かる。

宿題を進める手は、今日は止まらなかった。



***

 授業が終わり、昼休みのチャイムが鳴る。


「日和ー、ご飯食べよー」


 教科書を片付けて、今日も紙パックの飲み物だけで良いかと考えているといつも通り、くるりと180度ターンを決めた弥生がうきうきと話しかけてきた。


「うん――」

「――ごめんなさいね」


 こちらもいつもの二つ返事をしようとしたところで、今日は珍しく声がかかった。

水鏡波音――。

赤茶色の髪につり目できりっとした表情。

立ち姿がいつも腕組みしている姿は様になっていて、女王とあだ名をつけられていそうな威圧感を感じる。


「えっと…確か水鏡…さん」

「名前を覚えてくれて光栄だわ。貴女、金詰日和さんだったわよね?一緒にお昼を頂きたいのだけど、いいかしら?」


 お嬢様を思わせる口調だが若干の(とげ)を感じる。


「えっと…こちらの弥生も一緒みたいなんだけど、いい?」


 ちらりと横目で弥生を見ると、こちらの視線に気づいたのかにこっと笑う。


「…あー…私は大丈夫。一人で食べるね!日和、いってらっしゃーい」

「えっ」

「ふーん?なら(さら)って行くわ」


 その返事はあまりにも想定外で、弥生に手をひらひらさせて送られた。

そして私は有無を言えることなく、読んで字のごとく、攫われた。

場所は屋上。

昨日も行った、屋上だ。


「ここなら立ち入り禁止エリアだもの、邪魔が無くて良いわね」


 当の波音は柵に身を乗り出し下を見る。

何故下を見る必要があるのか。

とりあえず、話しかけてきた時よりも更なる威圧を感じる。

この怖さは、なんだろう。


「えっと…な、何の用でしょう…?」


 多少の恐怖に思わず声が震えた。

波音は視線をこちらに向けると身体も合わせて向けて、腕を組み、距離を詰められる。

あまりの迫力に、じりじりと後ろに下がってしまう。


「単刀直入に聞くわ。昨日の3時限目、貴女体調悪くて休んでたわよね?」

「えっ」


 思わず心臓が跳ねる。


「どこで、休んでたの?」


 突然の人の秘密を突くような質問に変な汗を感じた。

見透かされている雰囲気が大変体に悪い。


「えっと……こ、ここで…」

「ふうん…。ねえ、ここに居たなら普段見ないような物、見てるわよね?」


 その質問で、波音が何を聞きたいのかが分かってしまった。

あの和風の衣装を身に纏った男性、竜牙だ…――。


「普段…はここに来ないから…分からないけど…」

「へぇ、しらばっくれるの?」


 にや、と悪魔的に波音は微笑む。


「……っ!…あ、あの!私、なにかしたんですか?」


 一瞬、自分の背に柵がある事を後悔した。

思わずたじろいだ時に、がっ、と鈍い音が背中に響いた。

じり、と波音は距離を詰める。


「何か…。そうねぇ、逆に()()の貴女が何もしてないことが不思議でならないわ」


 人差し指を口元に当て、悪魔みたいな笑みをこちらに向けてくる波音と視線がばっちり合った。

全身がぞわりと震え、全力で身体を柵に押し付けた。


ぴりっ…


 波音の言っている事が、よくわからない。


「そんなに溢れた『力』があるのに、昨日の今日で無くなるなんてね。あげたんでしょ?()()。残ってる分で構わないわ、私に見せなさい」


 愉しむように細めていた目が突然獰猛な獣のような眼になって日和を捉え、一気に距離を詰めてきた。

私はそれが怖くなって、全身が火傷するような熱さを感じた。


――ガシャン。


 ……金属が擦れ、何かが外れる音がした。

身体は斜めになり、気付けは視界に空が広がって―――景色が逆さまに映った。


「えっ…」


 逆さまの景色が線の集合体となって下へ落ちていく。

違う、落ちているのは自分だ。


「――危ない!!」


 玲の声が、聞こえた気がした。

見覚えのある顔が一瞬だけ覗いて、手を伸ばして遠ざかる。

…ああ、私死ぬんだ。お父さんの元に行くのかな。

それならそれで、いいのかもしれない…――。

奥村弥生

2月10日・女・15歳

身長:158cm

髪:砂色

目:茶

家族構成:祖母

好きなこと:日和と話すこと。髪をいじること。いつかお洒落な服を着せたい。

嫌いなこと:勉強


一歩間違えればギャルになりかねない目鼻がくっきりした顔立ち。メイク似合いそう。

食事は一切抜かないが体型維持は大事。無駄はないのにちょっとむちっとしてるのが気になる。

胸が少し大きいのが自慢。波音に少し睨まれた。

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― 新着の感想 ―
[一言] かなつめがどうと以前水鏡さんが言っていましたが、これもそうなのでしょうか….すごく気になります!
2022/08/11 19:17 退会済み
管理
[良い点] 性格に問題のある?子(波音)に何もわからないヒロインが追い詰められていく感じがよく伝わってきて、良いですね。落下していくところからどうなるのか、気を持たせる幕引きも見事です。 [一言] と…
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