498.力を学ぶ
「あっはははははははは!!」
「こほん、悪かった」
「いや、気にしてない」
腹を抱え大爆笑するのは武器を受け取った三角麻都。
その隣では恥ずかしそうに頭を抱えて謝る神谷翔がいる。
そんな二人の前で俺は首を横に振った。
「いや、だって、分かるでしょ!こんだけ強い力出しといてどう考えても特別な術士じゃん!それを……あっはははははははは!!」
「だから悪かったって…!!」
「麻都さん、笑いすぎ……」
状況を軽く説明すると、篠崎と聞いて驚き叫んだ翔。
そこへエレベーターから降りてきた麻都さんが合流して、「どしたどしたー?」と聞いてくる麻都さんに楓が状況の説明をしたら、今のようになった。
時間はそんなに経ってない。
だけど何かがツボに入ったらしく、麻都さんは面白いように笑い飛ばし続けている。
「ほら、そろそろ二人出る時間じゃないの?行かなくていいの?」
「あっ、そうだった!ふふ、武器も新調して貰ったし腕が鳴るね!ほら翔、行くよ!」
「行けなかったの、ずっと麻都が笑ってたからだからな!?」
楓に声をかけられ、麻都さんは翔を連れて「そんじゃ、行ってくるねー!」と巡回に向かうようだ。
残った楓に一つ、疑問が生まれた。
「……楓は行かなくていいの?」
「今日は非番だから。僕はまあいつでも行けるけど、今日は相方の都合がつかないからさ」
「相方……?」
そういえば、東京の術士は二人で組んでるんだっけ……?
あまりそういう動きも聞いた事がないから物珍しさを感じてしまう。
特に篠崎では皆バラバラに動いていた。
日和と出会って、弥生の存在が明るみに出たから警戒態勢になって誰かと一緒に行動するようになっていたけど、特別な何かが無い限りはペアを組んだりなどしなかった。
多分或る意味では大阪と同じようにエリアに分けて動いていたし、完全に個人だったと思う。
東京ではどうしてペアを組むのだろう。
その理由を楓は教えてくれた。
「快斗達は術士同士だから珍しいけど、僕達は基本術士と狐面でタッグを組むんだ。所謂相棒関係だね。基本は術士が妖を倒し、狐面はそのサポート。主に結界を張ったり、周りに人が居ないかを見張ったり、妖が現れたら情報を送って、とにかく術士が動きやすいよう場を整える仕事をしているんだ。
快斗は術士であるけど狐面としての動きも履修しているから、今は光のサポートをしているんだ」
「へぇ……手厚い……」
「それもこれも、昔ある事件があったからだね。それ以来所長は『妖には気を抜くな』と口を酸っぱく言うようになった。何があっても術士を一人にしない、何かがあればすぐに応援を呼べる体制を整える。その為にさっきの翔のような狐面だとか、僕のような非番の術士が用意されるんだ」
「成程。楓は一応術士としても巡回に出るんでしょ?」
「まあね。といっても僕の力はさっき見た通りで、勿論妖退治にも使うけど…どちらかというとサポートの方がしやすい力でもある。だから僕は結構非番が多いんだ」
夏樹も風の力を凝縮させて武器を飛ばしたりすることもあった。
夏樹自体は家のせいで倒れ、戦えなくなってしまってサポートしかできなくなってしまったけど……俺達の中でも一番戦闘に自由な力を有し、その技能も元々はあった。
そういえばこの冬波音と夏樹しか居なかったけど、篠崎は大丈夫だろうか。
冬は強い妖が出やすい時期なのに。
せめて戦える程に回復していたら良いんだけど。
……そういえば写真では、夏樹も波音も元気そうにしてたな、と思った。
「……篠崎にも、風使いはいる。もし楓が良かったら、少しでも術が使いやすいよう一緒に考えるけど」
気付けば何も考えず口走っていた。
偉そうなことを言ってしまっただろうかと思って、思わず口元を押さえて。
楓の様子を見れば……目を見開いて驚いた表情をしていた。
「……いいの?」
「え?」
「勿論術士としての技能向上は目指したいけどね。でもやっぱりこういうのって中々人には相談できないというか、同じ力のベクトルでないと共有ができないというか……」
「……言いたいことはなんとなく分かる。でも、術士は基本的に同じ原点だと思うよ」
「同じ原点?」
「うん。自分の力を知り、操る。それは当然の話だけど、理解の仕方があるかなって」
「理解の……仕方……」
「俺もちょっと前まで悩んでたんだけど、それでもまだ知らないことがあった。四国に行って教えて貰ったんだけど、まずは自分の力を知ることが大切なんだ」
***
5階の事務所から、俺と楓は6階の身体能力をチェックしたあの部屋へ移動した。
術を使う時はこの部屋を使って欲しいと言われたから、丁度いい。
朔が術士強化週間だとも言ってたし、いろんな術士にどんどん知恵をぶち込んで欲しいとも言われた。
ちなみにこれは主に喜大さんだ。
「さて。えっと……どこから始めようかな」
「どこからでも。どうしたらいい?」
「そうだな……じゃあ術の理解の話から。
これは俺が知らなかったんだけど、こうして自分の体から湧かせる力と……――」
俺は手の平に土を沸かせる。
楓は小さく「おお……」と声を漏らした。
「――こうして外部の力を借りて操る力があるの、知ってる?」
次に周囲の"気配"に意識して土の塊を出す。
土の無い床から突如現れた塊に、楓は軽く目を見開く。
「えっ……」
「基本活動は外だから、俺も気付かなかった。でも、こうして出せるんだ。よかった、この場所はいろんな術士がいろんな力を操って練習している場所だって聞いてるから、言う事聞いてくれた」
「言う事?」
「実は、外部の力はいろんな術士が術士の力を使って生まれた欠片。術を使って具現化された力が術士の意識が途切れた時と一緒に散って、その辺りに散らばる。そしてまた術士の力として再利用される。楓も多分、自身で風を湧かせながらその威力は周囲の欠片の力を使ってるんじゃないかな。欠片にも声があるんだけど……知ってる?」
「し、知らない……」
「よかった。これで知ってるって言われたら、『篠崎の術士なのに』って言われそう」
驚く楓は「そんなことは言わないけどさ」と小さく笑う。
そして右手を左手で押さえながら力を込めると青色の球を模る空気の揺れが湧いて手のひらの上でぐるぐると渦を作った。
見てわかる、明らかな風の使い手だ。
「その風の中心に意識を向けているんだよね。その中心以外に意識は向けられそう?」
「う……ん……――あっ!」
楓は試そうと思ったのか、視線を風の塊から逸らす。
するとその場で拡散するように球は壊れて消えてしまった。
「多分そうやって自身の力が壊れたことで、効力を失った力は欠片となって床や地面に散らばっていく。欠片それぞれは目で見えないけど、こうして術士の力を再び通すことで自分の力の一部として姿を見せて、こちらの助けになってくれる」
先程沸かせた土の塊に意識を向け、操ってみる。
上に、下に、ひゅんひゅんと音を立てながら空気を切って、最後はその場で弾かせた。
パァン、と割れるように崩れた土の塊は落ちる過程で色を失って消えていく。
本当は消えているのではなく、床に欠片となって零れるのだろう。
一部始終を見た楓は「すごい…」と一つ声を漏らし再び自身の手を覗く。
そこには、何が見えるだろう。
俺はしゃがみ、何もない床に手の平を当てる。
竜牙や父上も昔から何度もしていた行為だ。
「俺は今まで、たまにこうして地面に手を着いていた。俺の力である地面は大体何でも教えてくれたから、こうやっていろんな事を聞いていたんだ。探してる人間はどこか、とか…妖の気配のする方面、とか……」
去年はこれで日和を探したりしてたな。
訊けば教えてくれた地面だけど、それは地面ではなく術士の欠片だった。
波音は分からないって言っていたけど、玲や夏樹は知っていたと思う。
訊いていた相手が果たして術士の欠片であることを知ってるかは知らないけど。
「この力をある程度理解していれば、技術が伸びたり、或いは自分のレベルを理解する指標になるとは思う。あくまで一つの目安だけど」
「なるほど……。じゃあ、今からちょっとでも付き合ってくれる?技術向上、僕の力が何処まで通じるのか気になるからさ」
「勿論」
それから俺は、楓と術について考えながら操り、動いた。
訓練自体は楽しくて、終えると楓も満足そうに笑っていて……ちょっとだけ、術を人に教える竜牙の気分を味わった気がする。
でも俺もこのままじゃ多分駄目だ。
もっともっと自分の力を理解して動かなきゃ……。
皆を見てるとそんな気にさせられたんだ。
中々投稿が進まず申し訳ありません。
今現在は書き次第投稿している形となります。
できるだけ早めに安定投稿できたらいいなぁと考えております。




