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神命迷宮  作者: 雪鐘
前章譚・正也の日本旅行記

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495.研究施設探検

「さて、お前も暇だろ。外へ――…って言いたい所だが、まだ東京の空気には慣れてねーだろ?これ、妖研究所の全スペース入室許可証やっから探検して来い」

「ぜ、全スペース入室許可証…?」

「9階は原則指定研究員以外入室不可になってんだ。不測の事態にならんよう備えてもいるが、念には念をって奴だな。お前なら問題ねーだろ」

「軽っ……」


 あまりにも軽いノリで渡されたからツッコミがつい口に出た。

でも、もしかして渡されたカードホルダーはもしかして重要な物なのでは……。


「とりあえず案内人でも呼ぶかぁ。ちょっと待ってろ」


 どうやら本当に研究所探検をさせるつもりらしく、朔は引き出しから石を取り出した。

強く握ると『仁海、いるか?一人妖研究所の案内をしてやってくれ』と声をかける。

それからしばらくすると、『所長、来ましたよ』と一人の女性が現れ笑顔を見せた。

髪をバレッタで纏め上げ、黒縁の眼鏡をかけた大人しそうな女性だ。


「あら、君は……初めまして、仁海(ひとみ)瑠衣(るい)です。よろしくね」

「えっと……置野正也です」


 女性はにこりと微笑んで頭を下げる。

優しそうな雰囲気だ。


「おう仁海、正也に研究所内を全部見せてやってくれ。入室許可証は持たせてる」

「あらあらホントですね。所長がそんなもの渡すなんて珍しい。…じゃあ正也君、一緒に研究所内を探検してみましょうか」


 仁海瑠衣はおっとしとしつつも芯のある、女性らしさの強い女性のような雰囲気がある。

「ではご案内しますね」と先を歩き出し、俺と瑠衣さんでエレベーターに乗り込む。

さっきも術や身体能力を見てもらった6階のボタンを押してエレベーターを降りる。

入口を前に、瑠衣さんは口を開いた。


「この妖研究施設は6階が入口で術士の健康観察や能力測定をしたりしているの。さっき受けたと聞いたわ。7階は医療センターのようになっていて、怪我をしたり術士酔いや能力異常があると世話になるから覚えておいてね」


 入口の自動ドアを抜け、入ってすぐのエレベーターに乗り込む。

押せるボタンは3つ、6・7・8だ。

どうやら8階まではこの研究所内で移動できるけど、9階だけはエレベーターから直接向かうことはできないらしい。

6階には既に世話になったから直接へ7階へ進む。

7階は一つの病院のように診察するような部屋が一つと、残りのいくつかの部屋は全て病室のようになっていた。

何かあればここで休ませてもらえそうだ。

ちなみに7階全体を軽く見回したけど、今は殆どの部屋が空きとなっていて、体調不良者を見る人も居なかった。

問題はないのだろうかと思ったけど、瑠衣さんは「ここの担当リーダーは戌井さん。今はリーダーと仲良くお話してるんじゃないかしら」と言っていた。

ああ、それならさっき俺と話をしていたから……きっとここにいないのは俺のせいかな。


「じゃあ8階へ行くわよ。8階は装具や備品関係で研究したり開発したりしているの。主に武器となるものやブースターを作っているのね。私はここの担当研究員、リーダーは赤広(あかひろ)鳥羽(とば)さん。皆には名前の頭とおしりを取って『あかばさん』って親しまれているお兄さんよ」


 再びエレベーターに乗り込んで降りると、だだっ広い空間に簡単な仕切りを置いただけのオフィスが広がっていた。

出て目の前には役所のように、正面はカウンターテーブルのようなものが並んでいる。

『依頼』『受け取り』『不具合報告』テーブルに合わせておいてある看板は術士が世話になるものだろう。


「今日はまだ大人しい時期でよかったわ。忙しい時は常にバタバタとしてるから、利用する時は早めに逃げてね」

「忙しい時……」

篠崎(あなた達)から流れてきたもので例えるなら、昨年の夏に届いたブースターは大変だったわね。私たちの技術に法律はないけれど、流石に基準要項やマニュアルくらいならあるわ。それなのに明らかに違法で作られたようなブースターが持ちかけられて、似たようなものを作って研究することになったから。勿論そのおかげでブースター制作における手軽な手順や強化が可能となった訳だけど」

「うっ、なんか……すみません……」


 そういえば日和が買った指輪がブースターで、外れなくて命を落としかけたことがあったな……。

師隼がなんとかしてくれたけど、そもそもブースターが無い地域の俺達が当然その構造を知ってる訳がない。

師隼だってこの東京支部を頼って解決方法を探していたんだなとしみじみ思う。

あの時は肝が冷えたので、本当になんとかなってよかった。


「でもね、一番に駆り出されたうちのリーダーは頭を抱えてたけど、あの件で私達の作る装具に更なる機能性を持たせ、安全確認を取れたことは大きいわ。誰もあのブースターを作った人間を責めようなんて思わないわ」


 瑠衣さんはにっこりと笑顔を見せる。

そこへ、『おーい、瑠衣』と声がかかった。


「あら、噂をすれば何とやら。お疲れ様です、あかばさん」

「おっす、何やってんだ?」

「所長からの頼みで、新しく来たこの子へこの研究施設内を紹介しています。9階()まで紹介しろって言われているんですけど」


 瑠衣さんに声をかけたのは俺と同じような背の白衣を着た研究員。

この人があかばさんか、気のいい兄さんみたいな雰囲気を感じる。


「ほほー。……ああ!もしかしてオッサンが言ってた篠崎の術士ってやつかぁ!?初めまして、俺は赤広鳥羽。このエリアのリーダーやってるんだ。よろしくなー」

「置野正也です。よろしくお願いします」


 それこそ気のいい挨拶をされて、無理に警戒する必要がないというか、取り繕う必要も感じさせない感じ。

研究員っていうとどこか固いイメージがあるけど、どの人も基本ゆるいというか、あっさりとしてるというか……ああ、朔に似てるんだなと思った。

多分これ、類は友を呼ぶってやつだ。

ところで大体ほとんどの人が朔の事をオッサンと呼んでいる。

この部署じゃ共通言語なのだろうか。


「まさか実際に篠崎の術士に会えるなんて思わなかったなぁー。あとでサイン頂戴!なんて言うのは冗談だけど、色々話は聞きたいなあ」

「リーダー、やけにテンション高いですね」

「そりゃそうよ。術士最高峰って聞くと普段の生活とかどんな装具使ってるのかとか、研究職に就いてる人間にゃ諸々気になっちゃうもんよ」


 まさか本当にサインを求められるとは思わなかった。

喜大さん、冬馬さんに引き続き、明らかに研究職特有の表情をされたけど、皆篠崎が気になるのかな……。

でも確かに強い妖と戦う武具や術が気になると言われれば、そうなるのも仕方がないのかもしれない……?


「ところでリーダーは今暇なんですか?よかったらブースターとか装具をいくつか見せてあげようかなって思ったんですが」

「うん、めっちゃくちゃ暇。んじゃ奥からいくつか持ってくるから待っててー」


 そう言って鳥羽さんは奥のオフィス内に消えていく。

しばらくすると大荷物を持って戻って来た。

長物が一点、箱が三点、鉤爪のような武具を持って、作業用の机がある中を縫うように戻ってくる。器用だ。


「お待たせー。これがウチの作品ね」

「いっぱい……」

「昔から色々作ってるからねー。これがブースター、こっちは武器だよ」


 そう言ってカウンターテーブルに箱が三つ開いて置かれた。

その隣には鉤爪が、長物は布を解かれてその姿を現す。

少しお洒落な細工に石が嵌め込まれた杖が出てきた。

よく見ると石からは少しだけ力を感じる。

どうやらブースターが嵌められているようだ。


「へえ……すごい」


 箱の中のブースターはそれぞれイヤリング、ペンダント、ブレスレットと装飾品のように収められて並んでいる。

武器の二点はブースター類は付けられてはいないようだけど、きっと俺の槍みたいに術士の力で何かしらの効果をつけられているのだろう。

ちなみに俺の槍は夏樹の風の力により少しだけ軽量化された上自由に取り廻せるよう加工されている。

目の前の装具に興味が向いて、思わず手に取りそうになった。

はっと気付いて引っ込めようとすると、鳥羽さんは「いいよ。手に取って見てみな」と声をかけてくれた。

杖に触れると特に何も感じないけど重さだけはずしりと手に響く。

頭には宝石のように真っ赤な石が埋め込まれて、下に向けてしゅっと伸びている。

長さは100cm程、尖った先には金の装飾がされているけど、見れば見る程不思議な武器だ。


「これはうちの術士に届けるやつなんだ。この鉤爪は稲見優香ってちっこい術士の、その杖は三角麻都っつー術士のもんだ」

「勝手に触ってよかったの?」

「おう。気にすんな」


 にっと笑う鳥羽さんの言葉を信じて、もう少しだけ武器を眺めさせて貰った。

精巧な作り、金属の重さだけが響くけど女性でも容易に振り回せるくらい。

この術士は杖をどのように使って戦うんだろう、そうして胸を馳せたくなる品が目の前にあった。


「鳥羽さん、この杖の先の石ってもしかして……」

「おう、それがブースターだ。篠崎じゃほぼお目通りできない代物だろ?こいつが本物だよ」


 鳥羽さんの口ぶりから、まるで俺が偽物を見たような言い方をしてくるなと思った。

でもよくよく考えたら偽物は見ている。

日和の指輪もそうだけど……兵庫の大貴貫さんが作っていた代物だ。

……ああそうか。朔を介して茗子のブースターを鑑定したのは紛れもない、この鳥羽さんであることに気付いた。


「……日和の指輪もそうだけど、茗子のブースターも見てくれてありがとう」

「んお?……ああ、どっちもあんたが関わってたのか。こちらこそ、礼を言うよ。おかげでこっちの研究が捗る。ブースターの安全性や安全性が確保されない場合にどうなるのか改めて検証する機会が出来たからな」


 武器だけじゃなくてブースターも気になって、手に取ってみる。

人が着飾る為に付けるような装飾品のように台座も石も加工されて、見た目では術士が戦う為に必要な物のようには見えない。

元より台座に嵌められ飾られた石が、妖の欠片と言われても「信じられない」と言ってしまいそうなくらいに磨かれている。

大貴貫さんが作るブースターは石の形を整えて丸くさせるものばかりだけど、こっちは完全にカットが入った代物。

随分と手が込んでいる。


「妖の核が気になるか?俺達には専門の石切屋が居るからな。本人も一応術士なんだが、表で戦うよりも裏でこういう仕事してる方が気持ちが楽なんだとよ」

「そう、なんだ……」

「俺の話をしてんのか?」


 ブースターを眺めていると、鳥羽さんの後ろから渋い男性の声が聞こえた。

でも、聞いた事のある声だ。

最近どこかで聞いたような、そんな声。

思わず顔を上げて鳥羽さんの背後を見ると、知ってる顔がそこにはあった。


「あ」「おう、この前の兄ちゃんじゃねえか」


 思わず声が漏れたのと、相手の俺を把握した声が重なった。

焼けた様な褐色肌に整えられた黒い髪、衣服は白衣ではなく作業用のツナギだけど…きっとその下には鍛えられた筋肉があることだろう。

相手の男性は秀翠のホテル、ジムや温泉で出会った男性だった。

更新日が少なくなってすみません。

頑張って更新していきます。


13日ですが、佐艮パパお誕生日おめでとうございます!息子さんは頑張ってます……!

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― 新着の感想 ―
[一言] まじすか、あのサウナのおじさんがここで…彼、何してたのでしょう…。
2023/06/14 20:41 退会済み
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