477.修行の終わり
ep.127小休止「文化祭」
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にエブリスタ版で加筆された分をこちらにも加筆しました。
朔の部屋を片っ端から掃除した。
書類を纏めて、被っていた埃も取って、布団は流石に干せなかったけど細かい部分まで掃除して。
一日寝ていたのは本当だったのかもしれない。
そう思うほど体も動かした気がして、なんだかスッキリした。
「お前、案外しっかり掃除するタイプなんだな……」
「んー……だってこのまま帰ったら、きっと朝日と夕月が大変だと思って」
「めちゃくちゃ偉い奴だ、お前は」
軽く会話を交わしながら、直ぐにでも鷲埜芽家を出られるよう荷物を纏めた。
なんだか最初の頃と比べてすごく荷物の量が増えた気がするけど、気のせいだろうか。
特に朔の荷物は殆どなかった気がするのに、今となっては大型の鞄が二つほどある。
しかも片方はほぼ紙のみ。
朔が落ち着くまで、移動も含めててんやわんやとしそうだ。
その後は食事に呼ばれて、朝日と夕月の二人で頑張ったというご飯を食べていた。
出ていたお米も皿数も今まで以上に並んでいる。
だけどそれだけじゃなくて、朔や此花、采紫郎さんも一緒になって食べたことが一番心に残っているかもしれない。
こんな大人数で食べたのは久しぶりの気がする。
勿論家の宴会を考えるとそこまでではないのだけど……正直ああいう席よりも日和が作った昼食会の方が好きだ。
皆で好きに食べながら会話が出来る空気が良い。
その片鱗を味わえただけでも、楽しい気持ちになっていた。
「正也君って皆で食べるの慣れてるよね」
「そう?」
「ほら、弟子の皆も弟子同士で一緒に食べるけど、やっぱり恥ずかしかったり空気に呑まれてどうしたらいいか分からない人っているから……」
此花に話しかけられ、そういうものかと不意に見上げる。
そう考えると日和がそうかもしれない。
しばらくすれば慣れていたけど、大人数が慣れていなければどぎまぎしてしまったりするものなのだろう。
「確かに。俺は、父上が使用人を含めた宴会をよく開いてるから慣れてるけど……」
「そうなんだね。にしても使用人かあ、正也君のお家ってとても大きそうだね」
「……うーん、大きいとは、思う。でもここの弟子の数とか考えたら同じようなもの……?」
「そうなんだ。……今度、機会があったらお邪魔してみたいな。なんちゃって」
「来るなら、歓迎する」
此花と会話が弾んでいると、何やら視線を感じた。
振り向けば采紫郎さんも朝日も夕月も何故か俺達を見ている。
なんで……?
「こ、此花も……一緒に行くのか?」
急に静かになった空気の中、先に声を上げたのは采紫郎さんだ。
しかしその声は少し動揺したように震えている。
「え?」
「こ、此花が行きたいなら……良いんだよ?勿論此花が居なくなるとすごく寂しいし生きるのも辛いけど、此花の希望だと言うのならば送るぞ……?そうなれば分倍河原、お前は丁重に二人を篠崎へ送らせるがな!!」
「待て待て采紫郎、多分これはそういう空気じゃないから落ち着け」
「言っても朔さん、此花とても楽しそうだし……」
「俺達は引き止められねえよ……此花が居なくなると、寂しくなるな……」
「お父さん!?私何処にもいかないよ!?兄さん達もそんなことないから落ち着いて!」
「そうなのか!?でも行きたいんだろ!?」
「遊びに!遊びに、ね!お父さんも落ち着いたら一緒に行こう?当主じゃなくなった後なら良いと思うよ、兄さん達によるけど……」
今にも泣きそうな采紫郎さんと朝日と夕月に朔と此花が引き止める。
何でこんな空気になったのかは分からないけど、鷲埜芽家は仲が良いなあと思う。
俺も父上と使用人達程に仲が良ければ、あの宴会のような空気も楽しめるのだろうか。
鷲埜芽家みたいな楽しい家を、作れるのだろうか。
ちょっとだけ、この家が羨ましいなと思った。
***
「荷物は纏めたか?」
「ん?うん。大丈夫」
朝、朔の車に荷物を載せて、すぐにでも出る準備が整った。
空は綺麗に晴れている。
鷲埜芽家の前には采紫郎さんと日華を筆頭に朝日と夕月、更に後ろには弟子達も揃っていた。
かなりの大所帯だ。
「もう大丈夫かい?」
「はい、えっと……お世話になりました」
采紫郎さんに頭を下げるとにっこりと微笑む。
その姿はずっと、出会ってから変わらなかったなと思う。
「貴様の術、新たな力が身につけば更なる変化も求められよう。今後も自身の腕を信じ、励むことだな」
「うん、ありがとう、日華。これからも、頑張る」
「……出る前に一つ、貴様に我の守りでもやろう。お前の布は既に大きな力が込められている。他の、大切な物を寄こせ」
じっと日華と目が合って、つい珍しいことを言うものだなと思ってしまう。
「おい、日華がまた変なこと言ったぞ…」
「修行中も中々僕たちと戦わせてくれないくらいの執心っぷりだったもんねぇ」
それは周りも同じだったようで、朝日と夕月もやっぱり揃って意外な顔を見せていた。
ところで"大きな力が込められた布"ってもしかして、日和のハンカチだろうか。
だったら他の大切な物ってなんだろう。
俺、何を大切にしてたかな……。
うーん……。
「あっ」
意図せず声が出て、俺は車のトランクへ戻った。
カバンのポケットから取り出したのは、弥生の手紙だ。
「これでもいい?」
「また面白いものを取り出す。妖の匂いを感じるが……我も元はと言えば妖の端くれ、多少の緩衝材とは成り得るだろう」
流石式神、と言えば良いのか嗅覚は鋭い。
俺としては何の変哲もないただの『妹からの手紙』なんだけど、誰が準備したのかは分かるようだ。
日華はフン、と鼻を鳴らすと采紫郎さんが受け取って地面に置いた便箋を踏みつけた。
流石に体は動物だから、そういう扱いになるのは仕方がない。
雑に扱われてるとは思ってはいないけど、流石に朝日と夕月が苦い顔をしていた。
「我、太陽の化身となりし式神・日華。この者に我の"灼熱"を与えん」
日華の体や毛は青々と燃え上がり、炎が手紙に吸い込まれていく。
手紙は燃えることなくその力を吸収し、日華の代わりに采紫郎さんが手に取った。
そして日華の毛を一本プツンと抜くと、便箋と一緒に折りたたんで封筒の中へ。
少し加工された手紙が差し出され、戻って来た。
手に取るとじわりと強く、熱い力を感じる。
まるで日和のリボンに込められた竜牙の力みたいだ。
「それを、肌身離すな。我の力は我が認めた者のみに扱えるもの。我の力があれば、お前の新たな力の手助けくらいにはなるだろう」
「日華、ありがとう。あと……色々手伝ってくれたことも、ありがとう」
「まだまだ帰るにも遠いのだろう?この後の旅路も、多少の苦難があったとして飲まれぬことを願ってやろう」
「うん、頑張る」
日華は用を終えたみたいに采紫郎さんの隣に戻っていく。
朝日と夕月からは何もないみたいで、此花と一緒に手を振られてそれを返す。
采紫郎さんは前に出て、じっと真っ直ぐに見られて告げられた。
「我らが鷲埜芽家の弟子・置野正也に今後の安寧を。力を得たならば、自分が求める先へ羽搏きなさい」
「はい。ありがとうございました」
「んじゃ采紫郎、何かあったら連絡くれよ?こっちも相当な準備をしなければならんらしい」
「ああ、基本はそっちに任せる。正也はしっかり師隼に返せよ?」
「わーってるって!」
大勢に手を振られて、俺は朔の車に乗り込んだ。
鷲埜芽家の弟子にもなって、気持ちも来た時とは違って入れ替わった気分だ。
俺は、負けない。
何があっても、それがどんなものでも、ちゃんとそこに存在したことを見届ける人間になりたい。
俺の旅は……まだもう少し、続く。
四国・鷲埜芽家のお話が終わりました。
話は全体の2/3に至ったかなと思います。まだもう少し終わりは見えませんがこの前章譚、最後までお付き合い下さいませ!




