表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神命迷宮  作者: 雪鐘
前章譚・正也の日本旅行記

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

465/681

439.ブースター工房の小屋の中

「おい、何してくれてんだお前…!俺を殺す気かてめぇ!!」


 腹が立つ。

何より、"都合の良い客"として扱われていた事が特に腹立つ。

許せねぇ。

周りの術士や妖、ブースター、そんなものより何より()()()()()()()()()()()()()が一番に許せなかった。


「その原因は、お前だ!!!」


 左足を前に出して、全身の力を拳に集結させて殴る。

腕には力と術士としての力も乗った筈なのに、爆発しても何かが当たった感覚が腕には伝わらなかった。


「おっと危ねぇ!ただの威勢がいいだけのガキが、粋がってんじゃねぇよ。それともブースターが無けりゃこの程度の力か?それならまだ、俺の作った作品達の世話になってた方が良かったな?」


 にっと笑うオッサンには苛立ちしか湧かなかった。

攻撃を避けられたのも腹立つし、子ども扱いされたのも苛立たしい。

何よりまだこいつの道具として扱われているのが…脳の血管が切れたイメージが容易にできる程頭に血が上った。


「てめぇ…!!」

「――雅紀、熱くなり過ぎだ。冷ますぞ」

「……ぐっ」


 再び手に力を籠めると何にも触れても無いのに小さな爆発音が鳴る。

この力で今度こそできる一発食らわせてやる!

それなのに、それを()()()に止められた。

今はこの建物の上に雨を降らせ、さっきからずっと冷ややかな顔をしている男…滝俊平に。


「流石、滝殿は現状を分かっておるわい。わしがお前達のブースターを揃えとるんやぞ?俺が怪我でもしたら、お前達は一瞬にして弱小術士に成り下がってしまう。それで今後の活動が出来るんな?おお?」

「この…クソ野郎!!」


 振りかぶるとまた避けられた。

こいつ、本当に何なんだ。何もかもが気に食わねぇ…!!!!


大貴貫(おおきぬき)さん、流石の僕も怒っていることをお忘れなく。じゃないと何の為にこうして雨を降らせているのか分からないでしょう?天井が穴空くのも、時間の問題ですね」


 にこりと笑う俊平にぞぞっ、と背筋が凍る。

天井に穴が開く?こいつは何してんだ?

穴が開いたら雨漏りがして……――


「――おい!それ、俺もやられるじゃねーか!」

「うん、そうだよ?だからこうして力仕事を君に任せてるんじゃないか」


 目先の危機に堪らず俊平の胸倉を掴むと、「何を当然」と言わんばかりの態度を取られた。

大きな地震が起こって最近数が増えた妖が更に強くなって襲われた。

だからこそ雨の中を搔い潜ってこいつの元にやってきたってのに、こいつまでも俺のことを下に見やがって…!

……いや、元々領地侵攻しようと隣である泰希や俊平の所には向かっていた。

当然の報いってやつなのか…?全部、俺が悪いのか…?


「……気に入らねェ…どいつも、こいつも……ふざけんな…お前ら揃って、ふざけんなクソ共がああああああ!!!」


 全身に力を込めて全力で叫ぶ。

同時に心の底から黒々としたものが湧き出て俺の心を包み込んだ。


「――大丈夫だから、落ち着いて」

「……っ!?」


 そんな中、どこからか聞き覚えのないヤローの声が聞こえて、意識が引き戻された。

誰だよ、こいつ。

なんだよ、こいつ。

それより俺は……俺は()()()()()()()()()()




***

「もうそろそろかな?」

「体感的には多分せやな。かなり近づいとると思うで」


 かなり真っ直ぐに進んだ。

流石に地下だから方向感覚はどうにも分からなくて、だけど今は岩元理胡が天井の地面に糸を突き刺して周囲の様子を探ってくれている。

そんな使い方は考えもしてなくて、中々便利だなって思った。


「うーん……あ、雨に当たらんなった!ここや!」


 地上に届いていた糸は雨に当たらない場所にまで来たらしい。

雨に当たると気力を削られるって聞いてたけど、当の理胡は大丈夫だろうか。


「んじゃそろそろ上がるよ。理胡、体調は?」

「雨にゃ術が当たってるだけでウチ自身が当たっとる訳やないからな。早よ上行こうで」

「うん」


 土を階段状にして地上へと目指す。

そこになんだかぞわりと嫌な予感がして、咄嗟に袂のハンカチを握った。


「正也、どうした?」

「……ごめん朔、急ぐ…!」


 ただならぬ気配に慌てて上へと飛び上がる。

地面を抜ければ多分床であろう木目が見えて、更に奥からは「ふざけんなクソ共がああああああ!!!」と叫ぶ声が聞こえた。


「――大丈夫だから、落ち着いて」


 床を岩で砕き、更に室内へと飛び上がれば激昂を越えた声と少年の姿に斗真の影がちらついて、咄嗟に言葉が零れた。

目が合った少年は明らかに驚いた顔をして、だけどその周囲に異様な空気を感じる。

反射的に槍の切っ先を、朔には満たない大柄な男に向けた。


「ここのブースター作った人、誰?」

「なっ、なんだお前は…!!」


 突然現れて驚いたのか、以前の理胡みたいに真っ青になった表情に裏返った声で男は叫ぶ。

俺が誰だろうと関係ない。

今は、この状況を壊すことの方が大切だ。


「もう一度聞く。大阪の術士が持つブースターを作った人、誰?」


 周囲に自分が用意できる最大限の礫を展開させると男は小さく「ひっ」と声を漏らした。

何だか脅迫してる気分。

でもそれ以上に、俺は俺が思っている以上に怒りが湧いていた。


「……返事がない。じゃあこの工房自体壊すね」


 男は体を震わせたまま何も言わなかった。

怖くて言えないのかもしれないけど、そんなこと知らない。

苦しめてる方が悪いし、反感を買ってるんだから自業自得だ。

周囲に展開させた礫を周りに当たらない程度、自分の周囲を回って貰うと男は「ちょちょちょ、お前なんや!突然現れて、何しに…!」と声を荒げる。

相手は俺を知らないんだから当然と言えば当然の反応。

だけど、だからといってこの手を緩める気は一切しなかった。


「大貴貫のおっちゃん!」

「んっ!理胡か…!?」


 最初はどこにぶつけようか。

そんなことを考えていると、床下から顔を覗かせた理胡が男の名前を呼んだ。


「理胡…!助けてくれ!なんや突然知らん男が床から飛び込んできて……おろ?」

「せや、アタシらが呼んだんや!アタシやてめっちゃ痛い目見たんやから!!」

「んぐっ…!?」


 理胡を助けと思ったのか、男は近づいて来た理胡に助けを求める。

しかし理胡も当然怒ってるので男の胸倉を掴んだ。


「当然ウチも怒っとるよ?ナメた真似されたんや、覚悟はええよなぁ?」


 次に現れたのは茗子。

おっとりとした物言いと笑顔だけど、どこかの令嬢を彷彿とさせる真っ黒な笑みだ。


「床突き破る良え感じの音が響いたし、すでにスカッとした気分ではあるんやけど…おっちゃん、悪いけど俺も被害者。怒らん訳にはいかんよなぁ」


 最後に朔と共に顔を出したのは泰希だけど、それ以上部屋に上がってくる様子はない。

寧ろ更に人が増えるものならまずは出した礫を片付けなければならない。

場所を取ってるのは俺だけど、工房の中はさして広いものではなかった。


「な、ななななな、なんやお前らッ…つか、苦しっ…」


 ぎゅぎぎぎぎ、と理胡の胸倉を掴む手が更に強くなる。

……いや、よく見ると首周りの皺がおかしい。

どうやら首にも理胡の糸は巻き付いているようだ。


「理胡、多分それ以上やると首絞める…」

「何言うとんねん!アタシら皆死にかけたんやで!?同等になって貰わなアカンやろ!」


 あっ…理胡、本気だ。


「な、んで…皆揃いに来てんだよ…なんで…」


 さっき叫んだのを止めて、それからずっと尻餅をついた少年は震えながら小さな声を漏らした。

視線を向ければ男の胸倉を掴んで怒りを露わにする理胡を始め、こっちが連れてきた人員を凝視している。


「……なにも襲われたのは僕達だけじゃない。そういう事かな…。どうやら大貴貫殿は大阪の術士(僕達全員)を怒らせたようだ」


 その傍に立ち、冷静に状況を見つめるのは見たことのない長身痩躯の男性。

俺よりも歳は上っぽそう、大学生程だろうか。

玲みたいに…とは言わないけど、落ち着いた雰囲気がある。


「…なんだ、雅紀も俊平も来ていたんだな。原因は、これか?」


 泰希は唯一残していたブースターを二人に見せつける。

元々大切そうにしていたペンダント型の、一番まともなブースターだ。


「僕達が妖に襲われた原因は、他に思いつかなかった。単に地震に煽られただけじゃ、妖は周りを見ることなく一目散にこっちには来ないだろう?」


 そう言って雨の術士、滝俊平が見せたのは屑のような細かい宝石ばかり。

形はあまりにも不揃いで、寧ろ怪我をしそうなくらい鋭利そうな形をしたものがある。

つまり……既に砕いたものだろう。


「まあ襲われたとしても、僕の雨の力じゃ大体の妖は潰れるんだけど……その中でもこいつは追いかけて来る妖含め、僕のところまでやってきた。襲われたのは僕だけじゃない、雅紀も一緒だと分かった。

 妖の量は少しばかり増えてるし凶暴性も増している。それでも動きとしては不自然だったよ。まさか僕達の力を補助する道具が原因だなんて、夢にも思わなかったね」


 滝俊平の真っ青な瞳が泰希から『大貴貫』と呼ばれている男に向いて口角が上がった。

その表情に男は「ひっ」と再び息を吸い込む。


「さあオッサン…アタシらがなんでこうやってここまで来たか分かっとるんやろ!?いい加減自分がやった事吐けや…!」


 理胡は再び手に力を込めて大きな体を揺する。

男は「分かった…分かったから!すまん、すまんて…!!」と必死な声を上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おおぬきのおいたんのもとに全員集合、ですね…!これでもうおおぬきのおいたんは逃げ場がなくなって、いろいろ白状しなくてはならなくなりましたが、いったいなぜこんなことをしていたのでしょう…。興味…
2023/02/02 14:50 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ