39.プレゼント
話数調整難しい。
翌日、朝登校してきた波音は早速教室内で結界を張り、日和に詰め寄った。
「――ちょっと、昨日女王に会ったんですって!?貴女、大丈夫だったの!?」
「あ…波音、おはよう。えっと…大丈夫だったよ」
突然話しかけられた日和は狼狽えながら何度も頷く。
女王相手には無事だったのだが、帰宅した後は竜牙がほどほどにお怒りだった。
自分からは用事がないと話しかけない竜牙の口数がいつもよりも余計に少なく、難しい表情をしていて大変に気まずい空気を感じ取る事ができたのだが、今朝も変わりの無い竜牙に心のダメージをさり気無く負っていた所だ。
「なら良いけど…ごめんなさいね、昨日は私巡回休みの日だったから…」
「そうだったんだ。…あ、そうだ波音に渡したい物があって」
「…?何かしら」
波音は眉を下げて申し訳なさそうにしている。
休みだったのならば仕方がないし寧ろ落ち込んでいたのだ、休める時にゆっくり休んで欲しい。
日和は鞄から猫の包装紙に包まれた物を取り出し、波音に差し出す。
「これ、波音に」
「…え、私に?誕生日でもないけど?」
「その…昨日、波音落ち込んでるように見えたから…」
日和の言葉に波音は目を丸くして、包みを受け取る。
そして、くすっと笑った。
「なあに?この私を励まそうなんて思ってるの?…へぇ、可愛いじゃない」
中のトートバッグを一目見て、波音の表情こそあまり変わらなかったが、どこかうずうずしているのが見える。
「波音が編み物を紙袋に入れてたのを思い出して、波音に似合いそうなの選んだの。あと…」
「…?」
日和がごそごそしだしたのを見て、波音は不思議そうに日和を見つめた。
「これ、探していたついでに可愛かったので…その、お、お揃いにどうかなって思ったんですけど…」
友人から物を貰うのはそう多くは無い。
そもそも友人らしい友人を作ってきた覚えはないのでそれこそ誕生日でない限りは受け取った覚えなど無いのだけど…目の前の日和は少し頬を染めながらもプレゼントしてきた。
カバンはとても可愛らしいデザインだ。
そして次に取り出したのは、一緒に購入した猫模様のペン。
「お、お揃い…」
「仲良しのお友達、みたいになりませんか?」
「あ…、ありがと。大事にするわ…っ」
波音は日和の手から赤い猫柄のペンを受け取った。
日和の顔を見ると顔が赤くなっているけど、それは自分も同じだ。
「また後で、ね」と波音は机へと戻り、席に座ってから……顔が更に熱を感じた。
ここで日和がですます調に戻っていたのに気付いて、冷静さなど完全に消失してしまった。
(緊張しながら渡されたら、私だって緊張しちゃうじゃない…!!)
多分日和はプレゼントを贈り慣れていない。
そもそもあんな性格なのだから贈る相手も玲や祖父だけだっただろう。
それなのに自分に何の記念日でもないプレゼントを贈るなんて……絶対奥村弥生の入れ知恵に決まってる。
この日の授業は、中々頭に入らなかった。
昼食では気は保ったもののやはり意識してしまう。
いつも通りに探知をしながら帰宅するが、また集中できていないと焔に怒られてしまった。
こればかりは日和のせいだ、100%私のせいにしないで欲しい。
「波音です。ただ今帰りましたわ」
早く自室に戻りたいと気が急く波音はインターホン越しに話しかける。
鍵が外れる音と共にぎい、と音を立てて門が開いて波音は足を進めた。
手入れのされた庭を通り過ぎて玄関の前に立てば世話人が扉を開けてくれる。
どれもいつもの事だ。
中に入ると、目の前で母は花を活けていた。
「…お母様、戻りましたわ」
「波音。…今日は問題なくて?」
紅蓮のように燃えるような赤い髪を揺らして母の刺す様な視線を受ける。
その言葉はとても固い。
「ええ、昨日女王が出たと聞いたけど、大丈夫だったみたいです。…後でまた、巡回に出ます」
「…そうですか。波音、高峰の心を忘れない様に。いつかその名を取り戻すまで」
「……はい、お母様」
波音は母の横を抜けて1階の奥へ向かう。
中庭の横を抜けて自分の部屋に入り、一つため息をついた。
圧力の強い母の前で話すのは未だに緊張する。
それは15年経った今でも一切変わっていない。
変わったのは…――。
「――どうして、私が猫が好きだってバレたのかしらね?」
部屋の中、文房具に鞄、アクセサリー、小物と言う小物がみっちりと猫で埋め尽くされていた。
リアルなものからキャラクター風のものまで。
日和からもらった鞄とペンをその中に混ぜると何の違和感もなく、溶け込んだ。
それだけで頬が自然と吊り上がる。
「にじみ出てるんじゃない?波音の性格が猫だから」
「どういう意味よ」
呼びもしないのに出てきた式に、波音は不貞腐れながら紙袋のものを新入りのトートバッグに詰めた。
編み棒が若干はみ出るが、あまりの可愛さに思わず表情がにやける。
その時、ドアが叩かれた音がし、波音は扉を開けた。
父だ。
「…聖華、おかえり」
「お父様…どうしたの?」
父は部屋の中の一点を、じっと見つめる。
新たに日和から貰ったバッグの猫と目が合ったようだ。
「可愛い娘の様子を見に来ただけなんだけどね……おや、新しいお仲間かい?」
「そう、友達が…くれたの。昨日の私を心配してくれて」
部屋の中をぐるりと見まわしながら父の表情が一気に緩む。
「…そうかい、良い友達が出来たみたいだね。聖華は今から巡回かい?」
「ええ、そうよ」
「気をつけて、ね。無理しないように」
「ありがとう、お父様」
父はにこりと微笑むと後は何を言うことも無く部屋を出ていった。
どうやら本当に様子を見に来ただけらしい。
「じゃあ波音、巡回行こうか」
「…そうね。行ってくるわ」
波音は後ろを振り返り焔に吐き捨て、部屋を出て行く。
日和から贈られた鞄とペンは、私の新たな宝物だ。
波音の元々の名前は高峰聖華。
水鏡聖華にしなかったのは巡りが良くないからだそうです。




