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神命迷宮  作者: 雪鐘
術士編2

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313/681

300.日和の術士修行

 師事してくれることを喜ぶ日和は正也に笑顔を向けて手を振る。

その間にのりあは早速いくつもの羽根を取り出して握りしめ、プログラムを起動した。

一瞬だけ視界に映ったのは電子の仮想空間、徐々に形や色味を成して現実味を帯びていく。

気付けば術士が組む結界とは全く違う世界がそこにあった。

術士の結界が視認を妨害するものであるならば、のりあの組む結界は世界を丸ごと作ってしまったような、生命も物も感じない冷たい空間のように感じる。


「ナヅチミツカヤの貴女には居づらい空間かもしれないわね。この結界は今見えている範囲…そうね、直径で200mくらいを作ったわ。

目に見える物は全て偽物だから壊れても実害はないから気にせずどうぞ。ここから更に時間操作でこの結界内の時間経過を遅めるわよ。今から大体3時間使う予定だけど、この結界内では9時間程になるかしらね。それでいいかしら?」


のりあの不機嫌顔に圧がかかる。

日和は息を呑み、覚悟を決めて頷いた。


「はい、わかりました。よろしくお願いします」

「まず先に、確認させて」

「わひっ!?」


 開口一番にのりあは乱雑に日和の髪に触れる。

乱暴なのは最初だけで金糸のような髪を一本一本丁寧に、全体的に見渡している。

何をしているのかという少しの不安と気恥ずかしさを感じながら、日和は大人しく待つことになった。

のりあからは一言も言葉が漏れることは無く、集中してじっくりと髪の毛を確認している。

日和は早速のりあが日和の周りを一周し、髪から手を離すまで静かにした。


「……確認したわ。術士の力はちゃんと行き渡っていた。なら力に慣らす必要はないわね…じゃあ次の段階、力を発現なさい」


 じっとのりあの目が日和を覗く。

これくらい当然でしょ?と目が物語っている。

日和としてもそれくらいやりたいところだが……首を傾げた。


「えっ…と、どうやるんでしょう…」

「……」


 日和の返事にただでさえ半眼だったのりあの目が更に半眼になる。

明らかに面倒くさい、或いは愚図とでも言いたげな、嫌そうな雰囲気が漏れ出ている。


「貴女、何度か術士の力を使ってるのよねぇ?ナヅチミツカヤの力がいくら簡単に出るからって力を使った時の感覚忘れてどうするのよ?それでよく術士になりたいなんて言葉吐けるわね」


 のりあの言葉が鋭利な槍のように深々と日和の心に刺さる。

言ってる事はその通りなので違いは無い。

だからこそ何も返事をすることも出来ない。


「うぐ…そ、その…あの時は必死だったので…って、使ったの知ってるんですか?」

「逆に初めて会った時既に一部色が染まっていたでしょう」

「それは、その…子供の頃からなので…いえ、女王は一度倒しましたけど…」


 麗那と過ごした過去の記憶を思い出した事で、少し術が使える自信にはなっている。

そこは興味がなさそうに「ふうん、そうなの」とのりあの短い返事が来た。

しかしぴしゃりと「女王を倒したのならその時の感覚を忘れてるなんて相当な愚図ね」と返された。

分かってはいたが、のりあの言葉は波音以上の殺傷能力がある。

日和はずきずきと痛む心を撫でて一つの疑問を吐いた。


「あの、四術妃の力を使ったのはなんで知ってるんですか?」

「私がここへ来たのはそもそも篠崎の術士不足の為に手伝えって話を受けたのに合わせて、小鳥遊杏子が来るっていう警告の為よ」


 日和はなるほど、と言わんばかりに両手を叩く。

それなら日和が加護や祓いの力を使ったことを知っていてもおかしくない。

 竜牙の力をも使い出した日和の力を目の当たりにしているのりあは大きなため息を吐き、「両手を前に出して集中なさい」と吐き捨てるように言う。


「えっ…?あっ、はい!」


 いつの間にかのりあの真面目な表情が日和をじっと見つめている。

宮川のりあの術士講習が始まっていた。

日和は焦りながらも両手を前に出し、じっと広げた手の平全体に視線を合わせる。


「貴女の力は黄金色の雷光。足の指先から、頭の天辺から、全身を巡って手の平へ、指の先へ放出されるイメージを持ちなさい」


 のりあの言葉に合わせて日和は神経を研ぎ澄まし、全身の細かい場所まで意識を向ける。

ゆっくりと全ての血管を通って足の先や頭の先から手の指先へ駆け巡るイメージを持った。


「頭の中で…そうね、調子の悪い懐中電灯でも想像しなさい」


 脳内で、ころんと目の前に懐中電灯が転がる。


「さて、今から使いたいのにスイッチを入れても点かないおんぼろの懐中電灯があるわね?貴女はどうする?

 簡単よ、電池を取り替えればいいの。どう?ついたかしら?…点かないわね。中々使わなかったからあまりにもぼろぼろなんだもの、仕方が無いわね…全て綺麗にしてしまいましょうか。

部品をひとつずつ丁寧に外して様子を見るの。電球は切れてない?反射板は?ソケットは?スイッチは?全ての異常が無いかを確認していくのよ」


 頭に浮かぶ懐中電灯をのりあの言葉に合わせて動かし、解体し、汚れを取りながら様子を見ていく。

のりあの言葉が段々と自分の心に思えて自然と想像が勝手に膨らんでいった。


「さて、一通り見たけど問題はなさそうね。久しぶりに使うのだから確認も大事。問題ないなら使っても大丈夫でしょう。

 じゃあ組み立てるわよ。ひとつずつ丁寧に、壊してはだめよ。替えはないのだから。……組立ったかしら?じゃあ最終確認しましょう。電球は切れてない?反射板は?ソケットは?スイッチは?」

「大丈夫です。つけますね」

「しっかり握って、正面を明るく照らしなさい。さあ、スイッチを」

「…はい」


 ――カチッ

幻聴だ。

想像から生まれた幻聴。

だけど想像とは少し違うが、出た。

日和の手の平からばちっ、と音を立てて、日和の力が出た。

まるで子供の頃に出したような、拙く弱々しい光だが、思わず安堵と嬉しさで顔が綻ぶ。


「……そう、それが貴女の力。貴女は今からこの力で、妖を止めるのよ」

「これが…」

「今の動作を何度も体に染み込ませ、慣れさせ、最終的には意識しただけで、自由に使えるようにするわ」

「よ、よろしくお願いします…!」




 日和が喜びに任せて頭を下げてから何時間経っただろうか。

何度も同じ事を繰り返して自然と全身から力を捻出し、放出させられるようになったように思う。

最初は小さい静電気のような力だったのに、今では肩幅ほどに広げた手の平の間にバチバチと音を立てて電気の力が行き交っている。

今までに何度も見ていた術士の力が目の前にあるのだと実感した。


「…だいぶ形にはなったようね。6時間経過……まあまあかしら」


 のりあはふう、と息を吐き、新たに羽根を握る。

日和の目の前によく見る狼型の妖が現れた。


「っ…!?」


 日和は構え、太腿(短剣)に手をかける。


「ふうん…あのチョロチョロ動いてる奴らの仲間をしていただけあるわね。ちなみにそれは私が今作り出した幻影よ。術が当たればすぐ死ぬわ」

「これが…幻影?…あっ」


 あまりにも精巧な姿に日和は近づく。

帯電させた手で触れるとばちっ、と音を立て、英語と数字の羅列を残して消えてしまった。


「分かったかしら?こいつを様々なところに置いてやるから、全て消して来なさい。当然、簡単に届かないところにもいるわ。どうやって倒すかは自分で考えなさい」

「は、はい…っ!」


 のりあが指を鳴らすのを合図に、周囲に妖の幻影があちこちに現れた。

地面ならまだいいが、建物の屋根や隙間、中には室内、ビルの外壁に張り付いているものまでいる。

ベランダも何も無い絶壁の壁を登るか、屋上から落ちる中で倒すことくらいしか今の所思いつかない。


「あなたの力がなんなのか考えて動くことね。全部で15体よ。まあ、精々頑張りなさい」


 くるりとのりあは背を向けて離れていく。

これ以上は干渉しない、と背中が言っていた。

(……今から、妖を…)

日和は歩き出す。

とりあえず1体目、と目の前の妖の幻影に触れる。

先程と同じ様に文字と数字の羅列に変換されて姿は消えた。


「私の力は電気の力…」


 周囲を見て、手に届きそうなものを片っ端から倒していく。

当然の事だが地面に近い幻影なら簡単に倒せる。

しゃがんだ少し奥、跳べば届く範囲、狭い所でも腕を伸ばせば届いた。

届きそうな範囲は全部で8体倒したが、まだ7体いる。


(この術を使って妖を倒す…まだ術を使い出しただけですが、のりあさんの最終目標はある程度使えるように、でしたね…。ならばただ帯電させて倒すだけじゃだめ…。波音だって、手に炎を灯しても火薬を使ったり火球を飛ばしたりしてます…。私にも、何か…)


 日和はゆっくりと手を伸ばし、手に力を込める。

一瞬だけ稲光が正面へ放たれた。

だが距離は1mほど、これでは実戦にも満たないだろう。


「ぐっ…!」

(もっと全身から、絞り出すように…!)


 日和は深い集中に入り大きく息を吐く。

そして先を見据え、全身に力を込めた。

全身の毛穴が開くような感覚と体から溢れた力が手に集まって、放つ。


「あっ、馬鹿っ…!」


 のりあの声が一瞬聞こえ、日和が放った力は想像以上に大きく空に放たれた。

――パリン…!

日和が放った光が消えた先で、ガラスの割れたような音が響く。


「えっ…!」


 放たれた力は結界に当り、穴を作った。

そして圧縮された空気が一気に解放されていくような風が巻き起こり、のりあの作った結界は穴が開いた場所から紐が解けるのようにがらがらと崩れていく。


「……す、すみません、のりあさん…!」


 やってしまった、と日和がのりあへ視線を向けるとのりあは頭を抱えて首を振っていた。


「貴女にはまだ早かったようね。まず力の制御をさせるべきだったわ」


 溜息をひとつ吐いたのりあの表情はそれはもう、愚図を見るような目で怒りに満ちていた。

これは絶対謝っただけでは許されない。

それが、術士修行最初の日だった。

祝・300話!

タイミング的にはとても良いですね。嬉しいーっ!

4章も最後の最後、いよいよ終盤戦です。これからも神命迷宮をよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 日和ちゃんのパワーコントロールの修行、普通ならば長くなりそうではありますが、日和ちゃんは天才ですし、もしかしたらすんなり終わるかもですね…!
2022/09/04 18:18 退会済み
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