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神命迷宮  作者: 雪鐘
女王編
2/681

0.5 最初の前の初

「ふわぁ…っ」


 身体を起こし、伸ばすと自然と欠伸(あくび)が出た。

窓からは暖かい日差しが部屋の中を照らし、朝であることを告げている。

日和(ひより)は布団を(まく)り、ベッドを降りた。

着ていたパジャマを脱ぎ、数着しか入ってないクローゼットにかかった制服を取り出して着替える。

既に準備してある学校指定の鞄を持って部屋を出て階段を下り、紺色に白いラインの入った鞄は居間の入り口に置いて洗面台へ向かった。

顔を洗い、腰まで垂れた若干金が織り交ざった焦げ茶色の髪を梳く。

準備を終えて鞄を拾い上げると居間へと入る。

中ではにこりと優しい笑みを浮かべた祖父がいた。


「おはよう、日和ちゃん。朝ご飯、もうできてるよ」


 炬燵机には食パンと目玉焼き、ベーコンが乗った大皿が2枚。

その二皿目を置き終えたようで皿にかかった指を離して老人はにこりと笑った。


「おはよう、おじいちゃん。いつもありがとう」


 少女の名は金詰(かなつめ)日和(ひより)

珍しい髪を持ち、茶色の目をした高校1年生で目の前にいる祖父・樫織(かしおり)隆幸(たかゆき)と二人暮らしをしている。

父は既に他界、母は写真家をしていて海外にいるそうだが、そもそも出会った事など片手ほどしか記憶にない。

世間と比べればかなり珍しい家族関係ではある。

しかし日和本人は一切気にすることはない。

自身が特殊な家庭環境に育っていることに特別な意識は持たず、ただ食パンの上に目玉焼きを箸で器用に乗せて頬張る。

ざくっ、と歯で押し潰した時のトーストされたパンの音と口に広がる優しい味が朝にはとても身に染みる。

今日も日和にとっては日常的な朝、日和は食パンを食いちぎり咀嚼(そしゃく)を繰り返した。


「今日は買い物して帰るよ。おじいちゃんは欲しいものある?」


 口に入れた物を飲み込み、日和は祖父に視線を向けた。


「必要そうなものはそんなにないから、いつもの買い物を頼むよ。日和ちゃんは今日、何を食べたい?」


 祖父のこの質問は大抵夜ご飯の献立である。

しかし日和は大体なんでも食べる為、つい言いたくなる言葉は「なんでもいい」だ。

それでは祖父に迷惑をかけるので日和はいつもこの話題に悩む。


「んー…じゃあ…ロールキャベツ?」

「ああ、それなら春キャベツがあるから、挽肉をお願いしようかな」

「分かった、挽肉ね。明日は私が作るから、その分の食材も買うね?」

「日和ちゃんの手料理か…ならハンバーグが食べたいな」

「ハンバーグ?なら挽肉多めに買わないとね。パン粉、まだあったっけ?」

「いや、パン粉はこの前切らしたから…」

「じゃあ追加で買っておくから」


 日和はにこりと微笑むと、残り二口ほどの食パンを一気に平らげ、最後にベーコンを食べた。

そろそろ学校へと向かう時間だ。


「ご馳走様、そろそろ行ってくるね」

「ああ、気をつけて行ってらっしゃい」


 手を合わせて席を立ち、足元の鞄を手に取る。

祖父は席を立つこともなく手を上げて見送った。

これが日和の中の、日常だ。


 家を出ると春の日差しが通学路を明るく照らしている。

もうすぐ梅雨の時期に入り雨で濡れる事を考えると、だいぶ日差しは熱を帯びてきたように感じる。


「…うっ…?」


 ゴールデンウィークが明けた5月の後半、少しだけ熱い太陽の日差しは日和の視界を少しだけ歪ませたように感じた。

家の前を少し歩き、十字路で見覚えのある姿が見える。

白いシャツに臙脂(えんじ)色の上着、烏羽(からすば)色地にラインが入ったチェック柄スラックス。学校指定のブレザー制服だ。

紺青色の髪を後ろで纏めた一本結びの少年は長身で眉目秀麗、水のように透き通ったような青い目を日和に向けた。


「おはよう、日和ちゃん」

「兄さん、おはよう」


 にこりと日和はその姿に笑いかける。

高峰(たかみね)(れい)は家こそ学校を挟んだ奥という日和の家とは正反対の位置にあるが、出会った幼少の頃から常に一緒に居てくれた日和の兄のような存在、所謂(いわゆる)幼馴染だ。

高校に入るまでは毎日一緒に登下校してくれていたが、高校に入ってからはほぼ全くと言っていいほど共に歩かなくなった。

それでも、たまにこうやって一緒に歩いてくれている。

 元々は互いの祖父が同級生だった為、両親の居ない日和を心配して祖父が共に居るよう言ってくれた。

高校に入ってからそれが無くなったのは玲が一つ上の学年であり、部活をしているからだ。

弓道部一の腕を持つ文武両道、しかも外見も良く物腰も柔らかい。

高校に入学してから知ったことだが、玲は学校で学年関係なく人気の高い人間らしい。

そんな人がわざわざ自分の為に居てくれるのがなんとも複雑な気分である。

 何が問題なのかと言うと、自分はそういう事にてんで興味がなく、他人の好意や悪意も気にも障らない。

今こうやってにこにこと笑っているのだって、この高峰玲に教えてもらったからである。

『無表情でいるよりも、基本笑っていれば嫌な事も言われないし何も気にする必要はない。あとは我を通すだけ』

そう言う玲も、よくにこにこしている。彼の場合は(もと)からそうなのかもしれないが。


「あ。そういえば日和ちゃんは昨日、ちゃんと帰れた?」

「え?うん、大丈夫だったよ。遅かったのにありがとう」

「ううん、また何かあったら言って。極力助けにはいくからさ」


 昨日の18時頃、日和は商店街の本屋に居た。あろうことか、その帰り道に日和は迷子になった。

思わず玲にスマートフォンで連絡をして助けてもらったのだった。

長い付き合いである玲に申し訳ないと思う半分、一切拒否せず直ぐに助けてくれる感謝が残りの半分、ほんの少しだけ日和に対して心配性である事を心配している。

住宅街を抜けた横断歩道で足が止まると日和の視界がぐらりと揺れて崩れかかった。視界の端だったが玲はすぐに気づいて日和の体を支える。


「おっと、大丈夫?」

「ん、大丈夫…。ありがとう」


 こういう部分ですぐに手が出るのだ。昔から多大に世話になっているが未だに扱いは変わりない。

気をつけて、と玲は日和の手を引き横断歩道を渡る。通学路は折り返し点となり、玲は手を離して2,3歩前に出た。

合わせて周りには同じ制服がちらほらと見え始めていた。


「あとは大丈夫そう?また何かあったら言って」

「うん、大丈夫だよ。変な噂が立つと面倒でしょ?ありがとう」


 いつもこの半分で玲は先に学校へ向かう。

前に一緒に校門まで行ったらその後女子生徒に言い寄られたのだという。

モテる人間は大変だ。


「ふぅ…」


 一つ息を吐いた日和も自分のスピードで歩き始めた。

ここからはいつも一人だけ。

特に朝練もない一般生徒であるが、教室には少し早めに着くようにしている。

理由は特に無い、いつも早めに迎えに来てくれる玲に合わせているだけだ。

ちなみにそんな日和自身も『細身で長い髪の美少女が入ってきた』と男子人気が上がり始めているのは本人が知る事は無い。

そしてこの金詰日和という少女を守る事こそが高峰玲の仕事であることも。

金詰日和

10月2日・女・15歳

身長:163cm

髪:金交じりの焦げ茶色

目:黒

家族構成:祖父

趣味:特になし


腰まである髪は料理する時とお風呂くらいしか纏めない。だってめんどくさいもん。

線が細く体重もかなり軽い。表情もかなり薄めであまり動かない。

興味が出れば気になるが基本興味を持たないので感情の起伏も少なめ。

少なめってだけで出る時は出る。

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― 新着の感想 ―
Xのイラストから気になって来ました! キャラクターが魅力的な作品ですね✨ 登場人物の人となりが伝わって来るわかりやすく丁寧な文章が印象的でした! 玲さんとは幼馴染だけど、日和さんは正体を知らないのか…
[一言] 日和ちゃん、いいですねぇ!フィアンセみたいな青年と共になんて…!果たしでどう彼女が怪異に関わるのか、すごく楽しみです!
2022/08/11 18:58 退会済み
管理
[一言] 時間がなかなか取れなさそうなので、チマチマ読みにきます! 食テロが……!! よだれが止まりません!!
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