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神命迷宮  作者: 雪鐘
術士編

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148.炎の契り

「波音、おはようございます」

「日和…おはよう」


 今日は早めに学校に着いたのでメモを見ながら少しのんびりとしていた。

もう肌寒い程度にも拘わらず波音はマフラーにイヤーマフ、手袋にコートと真冬のように完璧な防寒対策で登校してきた。

金曜日は休んでいたが、今日はちゃんと来れたみたいだ。

それでもその目は少し眠たそうにしてる。


「波音、まだ眠たそうですね…大丈夫ですか?」

「んー…ちょっと眠いけど、でも大丈夫。最近気温が落ち着いたから割と起きられるようになったわね」

「それなら良かった。あ、そうだこれ…どうでしょう?」


 昨日は調査を終えて夕方に帰り、その後はずっと編み物をしてた。

ついでに作ってみたものを波音に見せる。


「あら…可愛い猫。まだ教えて一月弱なのに、早いわね」


 頭だけだが、猫の編みぐるみを見せると波音の表情が朗らかに笑った。


「私も作って来たわよ。あんたに似合うのはこれかなと思って」


 波音が部活用の鞄から取り出したのは、蝶のモチーフのコースターだ。

グラデーションのかかった糸で編んであるからか、オーロラのように綺麗な模様を描いている。


「わあ、可愛いです!やっぱり波音が作る物は綺麗ですね…!」

「ふふふ、ありがとう。お昼や部活でまた作りましょう」

「…はい、楽しみですね!」


 波音は珍しく満面の笑みを浮かべている。

そ、そんな事無いわよ…!といつもなら照れてしまうイメージがあったのに、褒め言葉を素直に受け取る姿に少しの違和感を感じつつ、それても日和はそれを一切不思議には思わなかった。





 部活は着々と家庭科部として動いていた。

最初は作った手芸品を見せ合いする中に料理研究会の人間が混じっていたり、逆に料理研究会の中に手芸部の人間が混じっていたのが、今では料理をしたりレシピを練ったりするようになっている。

波音も日和も新年度から入る予定だったが前倒しで参加するようになった。


「えー、金詰さんの猫ぐるみ可愛い!体も作ってよ!」

「水鏡さんのデザインって洗練された物が多いね。可愛いものも見てみたいな」

「このお菓子美味しいー。授業後にこんな幸せで贅沢……」

「見てみて、編み物に疲れたからアクセ作ったの!どうかな?」

「ちょっと、このマフラービーズ編みこんでる!これ大変だったでしょ??」


 今日で最後の部活を楽しむ最上級生を入れた総勢14人の女子グループがそれぞれ好きに騒いでいる。

賑やかな空気は置野家に住んでいた頃に味わっていたが、それとはまた別の賑やかさは中々新鮮な感覚だった。

勉強を趣味としていた日和でも今までに生活した中で、こんな形で趣味の空間に浸る事など日和の中には一時も無い。

狐面の調査を始めていた日和には心が潤うようにも思える。


「……そうだ、波音。これ」

「ん?…これ、は?」


その中で、日和は鉤針編みで作った花を波音に差し出した。

波音は不思議そうにそれを手に取り、じっと見つめる。


「昨日ちょっと出かけた時、真っ赤で綺麗な糸を見つけたのでお花を作ってみたんです。色合いが焔っぽくないですか?」

「焔…」


 一瞬、すっと波音が目を瞑り舟を漕いだ。


「なみ――」

「――……だって、焔。どう?」


 再び顔を上げた波音は何事もなかったかのように胸ポケットを見ると小さな焔がひょっこりと現れて、自身と同じ大きさの花をじっと見つめて笑う。

波音は落ちないよう、焔の隣に日和の作った花を軽く差し込んだ。


「へえー、すごく綺麗に出来てる。可愛いね、気に入ったよ」


 そう言う焔は波音が火を噴くのと同じポーズで口元に指を置き、ふぅ、と息を花に吹き付けた。


「……?」

「日和ちゃんにこの花預かってもらいたいんだけど、良いかな。好きにしていいから」

「え?」


 焔の行動によく理解できなかった日和は首を傾げる。

焔はにこりと笑って、波音の肩に乗った。


「ほら、波音もう少しで誕生日でしょ?僕さー、そろそろお別れだから…昔の黄色い火の守り覚えてる?おんなじ力を込めておいたから、日和ちゃん預かっててよ」


 焔の言葉で日和は祖父の遺体に会う直前を思い出した。

まだ一年も経ってない以前の事だと言うのに、遠い昔の様に感じる。


「あ……私が預かって、良いんでしょうか…」

「焔がそう言うんだから、良いわよ。私からもお願い、貴女が預かってて」


 波音の笑顔がどこか儚く見える。

その時の波音の心情が分からないが、日和は一層大事にしようと花を預かり、にこりと笑いかけた。

それだけで波音は嬉しそうに笑っている。


「…そうだ日和、お願いがあるのだけど、良い?」

「ん、なんです?」

「私…誕生日の日に神宮寺家(そっち)に行くんだけど…その後時間あるかしら?」

「私はいつでも大丈夫!」

「じゃあ…待ってるわ。驚かないでね?」

「…?」


 にこりと笑う波音に日和は首を傾げる。

それでも、その理由を聞く気にはなれなかった。

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