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神命迷宮  作者: 雪鐘
術士編
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107.四術妃・ナヅチミツカヤ

 日和の力は二つある。

一つは金詰の家のものである、術士の電気の力。

そしてもう一つは四術妃の持つ、所謂(いわゆる)神の力。

電気の力はどういう訳か、日和は今はまだその力を操るどころか処刑台の女王を倒して以来発現の気配すらしていない。

 今あるのは加護と祓いの力を持つ神の力の方だ。

それらは人の神である四術妃が人々の信仰や崇拝によって使える力であり、悪い気から身を守る『加護』と悪い気を消す『(はら)い』の効果を持つ。

勿論その力を使うには日和自身も人望であったり徳望といった物が必要で、それが無ければ命を削って使われる物である。

 日和の作ったクッキーや正也に贈ったハンカチはその加護の力が宿り、日和が倒れた竜牙や夏樹にかけていたのは祓いの力だった。

そしてそれらを使い続ければ、いつか近い未来に日和の寿命が尽きる。

 要約すると、竜牙の言葉はそういう話だった。

日和は自身の手を見て、夏樹は竜牙が祓いを受けていた時を思い出す。

そして何も言わず風琉と二人で深く納得した。


「……本来ならば、その力を使ってほしくはない…のだが?」

「それで竜牙はあんなに怒ってたんですね…。その、すみませんでした…」


 猛省する日和の横で、風琉はクッキーを頬張りながら夏樹をじっと見る。

起き上がった時よりも更に顔色が良くなっていた。


「……夏樹はなんで目覚めたの?」

「そのクッキーを風琉が食べたから、だと考えている。術士の力は式と術士で循環するものだろう?」

「あ、なるほど…」


 日和の作ったクッキーは加護と祓いの力がオンパレードに盛り込まれていた。

『一般人には作れない物』とは表現したが、そもそも加護や祓いの力を使える者が物どころか食べ物にさえ付与できるとは思ってもみなかった。


「つまり僕にはその悪い気がついていたって事?」

「…お前の姉は今、『言霊(ことだま)使い』をしていると師隼から聞いた。

 私があの時妖から受けたのも呪詛(じゅそ)の類になるようだが、言霊使いもそういうものを操るらしい」

「特定の言葉で相手を呪ったりするのね?」


 風琉は竜牙の言葉をよく理解していた。

夏樹は風琉の前で二度倒れている。

その順応性の高さかもしれない。


「そして私のクッキーを食べて回復したんですね…。次杏子さんに会う時はどうしたらいいんでしょう?」


 首を傾げる日和に竜牙は首を横に振る。


「それなら多分…問題は無いだろう。お前の作ったクッキーは自身の命を削るほど優秀で立派な物だと思う」


 褒めながらも(けな)す竜牙は「味見しな」と風琉に1枚渡され日和のクッキーを口に運ぶ。

さして味はしないが、バターの香りはふわりと広がった。

味覚があれば美味しいのだろうが、それよりも盛り込まれている加護と祓いの力が強すぎて頭痛がしそうになった。


「うーん…その削れた命分は戻せないのかな?」


 クッキーを不思議そうに眺めて首を傾げる風琉に、竜牙は目を伏せる。


「私はその方法を知らない。寧ろこの世に居て初めて力を使える人間に遭遇した」

「他にもいるんですか?この力を使える人」

「その力は四術妃の魂を持っているから使えるんだ。力自体は類似の物なら存在するのだろうが、私は知らない。ちなみにこの力を使えるのも今は日和だけだろう」

「今は…って事には過去も?」

「それってつまり…日和さんは師隼様のような先祖返りではなく、転生してるんじゃ…」


 実は師隼も転生体である…と言える訳もなく、竜牙は口に出さずに黙り込む。

風琉と夏樹は互いに顔を見合わせ、揃って日和を見つめた。


「えっ、えっと……ラニアや師隼から話を聞いた時に自覚はしましたが、でも面影だけだって…」

「あの時は、その力を感じなかったからな。…私を祓って終わりだとも思っていた」

「そういえば師隼様も『神様の降臨だ』って言ってましたね。なるほどあの力が…」


 夏樹は顎をさすりながらどこかすんなりと納得しているようだった。

生憎あの時の事はほとんど覚えていないし、師隼から祓いを受けたとしか聞いていない。

正直どういう状況だったのか聞きたいところではあるが、日和の前で聞くのも嫌なのでこれも黙っておく。


「じゃあ日和ちゃんはなんで神様の力が使えるようになったの?」

「それは……日和の日頃の行い、だろう」


 風琉の質問にはざっくりと答えた。

今後のヒントには極力したくない、と顔で伝える。


「以前の生活と今の生活の違いかな?」

「…さて、正也を待たせすぎた。すまないが巡回を終えるまで日和が変なことを起こさないように見ていてくれ」


 (さと)い夏樹には返事をせず、竜牙は立ち上がる。

風琉はベッドに片足を乗せて窓を開けるとどうぞ、と竜牙を見た。


「……じゃあ、行ってくる」


 竜牙は窓から飛び出すとそのまま屋根伝いに走り、正也の元へと向かった。


「……」

「……」

「……」


 風琉は窓を閉めるとまた床に座り、静かにしている。

合わせて日和と夏樹も静かになった。


「……あっ、優さん!優さんに夏樹君が起きたことを伝えないとですよね!?」

「あ、うん…そう、だね…心配もかけたし、謝らないと…」


 日和はぱたぱたと駆け出し、部屋を出ていく。

残った風琉は夏樹の顔を覗いた。


「……どうすんの?」

「……どうもできないよ」

「それもそうだね」



***

 石柱に打ち上げられてバランスを崩した狼型の妖を槍先の様な岩が胴を貫いた。

妖は一瞬にして霧散し、その姿をしっかりと確認した正也は息をつく。


「ふーん、だいぶ術使えるようになってんじゃない」

「波音」


 装衣(そうい)換装した波音が後ろからやってきて声をかけてくる。


「あんた、前は術使うの苦手じゃなかった?」

「まあ…。呪われてた間は、無駄じゃなかったらしい」


 基本的に竜牙は何も教えてはくれなかった。

目で見て盗むにしても憑依換装中は換装が切れない様に意識を保つことに集中してしまって、以前は竜牙がどう動いているのかまでは意識が向かなかった。

それが処刑台の女王によって呪われたことで竜牙の戦い方がよく分かり、術も比較的自由に使えるようになったのは皮肉な話ではある。


「――すまない、遅くなった」

「たった今終わったところよ。主を置いてどこをほっつき歩いていたの?」


 丁度終えた時にやってきた式神には波音が口を尖らせて嫌味たっぷりに言う。

自分からすれば何があったかは大体の察しがつくので何も言わないでおいた。


「竜牙…大丈夫だった?」

「……まあ」


 あまりよくはなかったらしく、竜牙は言葉を濁す。

その辺りは半分くらいは自分にも非があると思っているので、尚更口に出せない。


「狼型が2体、私と正也でそれぞれ倒したわ。でもまだ時間があるわね」

「…そういえば竜牙、日和からの」


 スマートフォンで時刻を確認する波音をよそにポケットに入れていた包みを一つ、竜牙に渡す。


「あ、ああ…」


 包みを受け取る竜牙は食べるかどうかを悩んでいるようだ。


「俺も波音も全部食べた」

「美味しかったわよ。日和に伝えておいて」

「自分で伝えれば良いのに…」

「今日は私が報告に行くから、あんたは日和を迎えに行って帰りなさい」


 波音はにっこりと笑っている。

そう言うなら、仕方がないかとも思う。

竜牙が包みからクッキーを一つだけ口に咥え、残りを袂に片づけるのを見ながら足を進めた。


「……」

「ちょっと、いきなり歩き出してどうしたのよ?」

「女王が、いないなと思って」


 波音が深いため息をつく。


「あんた、感覚麻痺ってるわよ」

「知ってる」

術士だけでなく狐面のこともあるので、師隼は先祖返りだということにしてます。

自分は神様なんて言ったら混乱をきたすので仕方ないですね、転生体です。

違いが難しい。

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