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8話 マジックメカ ピ太郎

 腕つまみ目覚まし魔導具で朝5時に目を覚ました俺は、ソファから起き上がって出かける準備を始めた。


 サラとクリスタは一つのベッドで隣り合ってぐっすりと眠っている。

 俺は木箱からスコップを取り出すと、二人を起こさないように部屋を出て、アドラント大通りの東門の外れにある機械遺跡へと向かった。


 本当は寝ていたいのだが、スライム討伐クエストの報酬だけじゃサラにロクに生活費が払えない。副業もやっておく必要がある。


 機械遺跡の周辺はガラクタのゴミ山で、そこを抜けると段々畑のように地下に大穴が空いているのが見えた。

 顔見知りの少しイケメンなおっさんと挨拶を交わしながら、梯子を降る。

 そして、段々畑の最下層に辿り着いた俺は、泥まみれになりながらひたすら穴を掘っていく。辺りには山のように積まれたガラクタと土が広がっている。


 機械遺跡というのは、穴を掘ると黒電話やら、ブラウン管テレビやら、冷蔵庫やら、エアコンやら、多種多様な家電が出て来るゴミ山のことだ。

 出て来た家電は電気がなくても空気中の魔力で動くのだが、たまに壊れるので需要は大きい。


 その為機械遺跡は俺のような金に困ったろくでなしにとってはまさに聖地で、家電を掘り出し、露店で安売りして小銭稼ぎにしようと目論む連中で連日賑わっている。


「あーあ。本当は魔術でカッコよく高難易度クエストをクリアして喰っていきたいんだけどな……」


 俺がひとりごちながら土を掘り起こしていると、カン、と高い音がした。久々の収穫だ。

 スコップを土深く突き刺し、梃の原理を使ってスコップの先を持ち上げる。

 ……出てきたのは白っぽい卵のような球体だった。球体はピーピーと電子音を出しながら辺りを跳ね回った。


 とても複雑な動きだ。マジックメカ、略してマジメカと呼ばれる人の言葉を理解できるロボットの一種かも知れない。

 やがて卵は俺に気づくとスピンしながら小動物のようにすばしっこい動きで俺の肩に登ったり、頭に乗ったりした。


 ――もしかして、こいつ俺に懐いているのか?


「よし。お前の名前はピ太郎だ。よろしくな!」


「……ピー!」


 ピ太郎は可愛らしい電子音で鳴いて返事した。俺は思わずニンマリした。


 上機嫌で河川敷を歩き、東門へと向かう。ピ太郎は川の水で汚れを落としてやったのでピカピカに光って、俺の肩で嬉しそうに跳ねている。


 ――しかしもう昼か。ピ太郎と遊ぶのが楽しすぎて予定より大分遅くなってしまった。

 今日のスライム討伐クエストはもう無くなっているだろうな。サラには後で謝っておかないと。

 心地いい風が吹いて俺の前髪を揺らした。その時、


「おい! ケンスケ! この前の逆襲をしに来たぞ!」


 橋の陰から見知った少女が河川敷に立ちはだかった。5人の子分と大鎧ロボも後に続き、俺の行く手を塞いだ。……ベルベ団だ。


「お前まだ懲りてなかったのかよ! 俺の邪魔するんなら、ゴレタが誰の命令でも聞いちゃうって弱点言いふらすからな!」


 しかしベルベは生意気な笑みを止めなかった。


「勝手に言えばー? ゴレタにはもう弱点なんかないもんねー!」


「じゃあ遠慮なくゴレタに命令しちゃうぞ! ゴレタ! ベルベをくすぐれ!」


 ……しかしゴレタは微動だにしなかった。

 

「アハハハハハ! バーカ! ゴレタの耳を見てみろ!」


 ゴレタの耳というか、兜の側面には白い耳当てのような物が付けられている。

 なるほど、これで自分以外の命令を遮断しているということか。考えたなベルベの奴。


「ゴレタ! ケンスケのうんこ野郎をぶっ飛ばしてお尻丸出しにしろ!」


 ベルベは通信機を取り出して叫んだ。ゴレタが猛スピードで前進してくる。

 剣は魔力の流れの邪魔になるので例によって持っていない。

 ……というかこのマジメカ、普通に魔王よりずっと強い気がするんだが。


 万事に休した俺が、お尻を公開披露する覚悟を決めた時、ピ太郎が俺の肩から飛び降りてゴレタの前に立ち塞がった。


「ピ太郎! ……戦ってくれるのか?」


 ピ太郎はその場で回転して答えた。言葉は伝わらなくても俺には分かる。

 僕に任せろと言っている。――よし! 頼んだぞピ太郎!

 

「ゴレタ! その変な雑魚ボールからやっつけろ!」


 ゴレタは少しかがむと、拳をピ太郎へと叩きつける。


「上に避けてスピンアタック!」


 ピ太郎は俺の声に呼応して高速回転しながらゆっくり跳ね上がると、ゴレタの兜に体当たりして、再び俺の前に戻ってきた。

 ――効いて……ないな。


「すばしっこい奴め! ゴレタ! サンダーアタックだ!」


 突き出したゴレタの腕が光り輝いたと思うと、そこから稲光のような電流が迸り、ピ太郎に向かって降り注いだ。


「ピ太郎!?」


 ピ太郎はピクリとも動かなくなり、白いボディはひび割れて焦げっぽい匂いを出していた。


「よっしゃー! いっけーゴレタ!」


 大鎧が軋む音を出しながら振りかぶった。


「――やめろ!」


 俺は両手を広げてピ太郎の前に立ちはだかり、ゴレタの拳を肩で受け止めていた。

 俺の足は衝撃で地面にめり込んでしまっているが、戦士の頃に鍛えた防御力が生きているのか大して痛くはなかった。


「俺をお尻丸出しにするのはいい! 何ならテレビで世界中に俺のお尻ペンペンする動画を流してくれてもいい! ……だがピ太郎をこれ以上傷つけるのは許さねえ!」


 ベルベはバツが悪そうにそっぽを向いた。


「わ……わかったよ。……ちょっとやり過ぎたよ。今日の所は引いてやるよ! ゴレタ帰るぞー!」


 ベルベは踵を返した。同じくバツが悪そうな子分たちも後に続こうとした。

 一件落着と思ったその時、白いローブの男が、黒い渦のような魔法陣を伴って現れた。

 恐らく自己転移魔術。……相当腕が立つ魔術師だろう。

 白い仮面から口だけ出した男は、その口を不気味にニヤつかせながら、ベルベに甲高い声を上げた。

 

「おやおや、折角のチャンスなのに何故ケンスケさんに止めを刺さないのです?」


 ベルベは白ローブに少しおびえた様子で返した。


「……うるさい! お前が協力するって言うから利用してやっただけだ!」


「利用されていたのはあなたの方ですよ。ベルベさん」


 白ローブの右手が光ると、ベルベは吹き飛ばされて川の方に転がっていった。

 子分たちが心配そうにベルベの方へ駆け寄っていく。……命に別状はないようだ。

 白ローブはベルベが落とした通信機を拾って、口元を吊り上げた。


「ゴレタさん。……ケンスケさんを殺害してください」


 ゴレタが両手の拳を振り上げた。拳に途方もない量の魔力が集中しているのが分かる。明らかに今までとはレベルが違う。

 俺の今の魔術じゃ100%勝てない。

 拳が振り下ろされる。回避……、


 ――動けない! ……しまった。さっきのゴレタの攻撃で足が地面に埋まったままだった。


 俺が覚悟を決めた瞬間、白い影が高速回転してゴレタの拳を弾いた。

 ピ太郎だ。


「やめろピ太郎! お前だけでも逃げろ!」


 俺の声を無視して、ピ太郎はヒビだらけのボディでゴレタに果敢に向かっていった。

 

「……雷撃」


 無情な白ローブの声に合わせてゴレタの腕から閃光が再びピ太郎に降り注ぎ、ピ太郎の白いボディは粉々に割れてしまった。


「――ピ太郎おおおお!」


 ダメかと思って俺が崩れ落ちそうになったその時、白いボディの中から銀色に光るメカドラゴンが飛び出した。


「ピピー!」


 進化したピ太郎は水平回転しながら素早く上昇すると、翼を広げてゴレタと白ローブに燃え盛る炎を吹きかけた。

 俺はピ太郎と心が一つになるのを熱く感じていた。これなら行ける!


「今だピ太郎! ヒートアローだ!」


 赤く光るピ太郎の爪が白ローブを切り裂いた。後ろに倒れた白ローブは慌てて取り落とした通信機を拾い、体勢を立て直そうとした。

 その隙を逃さず、俺は取って置きの魔術を唱えて白ローブに放つ。

 小さな黒い魔弾はゆっくりと白ローブに当たると、すぐに消えてしまった。


「フン! その程度の魔術でこの私を倒そうとでも? ゴレタ! 雷撃で奴を始末しろ!」


 しかし、何も起こらなかった。

 それもそのはず、白ローブが持っているのはただの細長い石ころだ。

 俺は通信機のアンテナを指でつまんでフラフラ揺らしながら言った。


「エクスチェンジ、初歩的な交換転移魔術だ。そんだけ隙だらけだったら猿でも外さんよ。……よっしゃゴレタ! 白ローブに鉄拳制裁だ!」


 ゴレタが白ローブに向き直った。ピ太郎も炎を最大火力で吐き出す準備をしている。

 不利を悟った白ローブは悔しそうに口を歪めて手にした石を地面に叩きつけると、何やら唱えて霧のように消えてしまった。


 あまりの事に呆然としながらも、俺は考え込んだ。

 俺には奴の格好に見覚えがあった。……確か魔術院の制服だ。王宮で一度見た記憶がある。

 ……そういえば、サラは2年前に魔術院から脱走したとか言っていた。


 ――まさか!


「サラが危険だ!」


 俺はピ太郎を連れて西門に向かって全速力で駆けだした。


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