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4話 悪ガキ軍団 ベルベ団

 それから俺達は毎日のように、畑のスライム討伐クエストをこなしていった。


 スライムのドロドロで全身がベタベタになるのは辛いが、それでも憧れの偉大な魔術師に少しずつでも近付いているのは間違いなく確かだ。


 俺の胸はやる気に満ち満ちていた。

 例えるなら、廃部寸前のサッカー部を立て直す為に奔走し、やっとイレブンを集め終えた熱血少年……といった感じだ。



 ……まあ例のクソガキ兄弟とは依然として競合関係にあったが、少しコツを掴んだ今ではクソガキ兄弟が8体のスライムを倒す間に、俺とサラで2体のスライムを倒せるくらいにはなっている。


 そんな折、俺とサラがいつものキャベツ畑に到着した時だった。ふとサラが首を傾げて言った。


「そういえば、今日は珍しくあの兄弟来てないですね」


 確かに珍しい。あいつらは8時に冒険者ギルドが開いたら、俺達と競うようにすぐさまスライム討伐クエストを受けて畑まで猛ダッシュしていくのが常なのに。


 突然、後ろから生意気そうな声がした。


「お前らよくも私のベルベ団のシマを荒らしてくれたな!」


 振り向くと声に違わず生意気そうな面をした12歳くらいの黒髪の少女が、年の割に大きめな膨らみの下で腕組みをして立っていた。……ガキ大将のつもりだろうか。


 そしてあろうことか傍には2メートル近くはあるであろう、大きな灰色の全身鎧ロボットを侍らせている。

 あのロボは、マジメカと呼ばれている人の言葉を理解するタイプの奴だろう。

 ……クソガキの癖にこんな貴重なもん持ってるとは生意気な。


 俺は軽く嫉妬しながらも大将に負けじと声を荒げる。


「……シマだとお? そんなもん知らねえよ! 俺達は正式にクエストを受けてやってんの! 文句あるなら冒険者ギルドに言いやがれ!」


「ふーんそんな態度取っていいのか? お前の正体みんなにバラしちゃうぞー! お前剣聖最強って言われてるケンスケだろー? カジェラが言ってたぞー! カジェラはベルベ団の参謀で何でも知ってるんだぞー! すごいだろー!」


 クソガキは不敵な笑みを浮かべて、さらにまくし立てた。


「でもお前今は魔術師になってるから弱いんだろー! だからこのベルベ様がお前を倒して、ベルベ団の名声を世界中に響かせてやるぜ! ――行っけーゴレタ! ケンスケをやっつけろー!」


 ゴレタと呼ばれた鎧マジメカが、図体に似合わない素早い動きで前進してくる。本当は魔術でカッコよく返り討ちにしたい所だが、下手したら死ぬし背に腹は代えられない。


「サラ! ここは任せろ!」


 一旦間合いを取って、フェイントを織り交ぜ、右斜め前方に前進、抜刀。


 ――あ、剣なかった。


 俺はゴレタに蹴飛ばされて資材置き場のトタン小屋に激突した。


「ぐっ……大丈夫ですかケンスケ様!」


 隣の畝からサラの声がする。サラは剣で受けようとしたが敵わず、鎧マジメカに剣ごと吹き飛ばされてしまったようだ。


「私が魔術で何とかするしかないですね……」


 サラが大鎧に向かって手を向けようとした瞬間、


「今だ野郎共! あの女をベチャベチャにしちゃえーー!」


 奥のぶどう畑から一斉に子供達が現れ、スライムの体液をサラに投げつけた。


「……んっ……何これ……動けないです!」


 サラの全身は緑のドロドロで覆われてしまった。

 スライムの体液は粘度が高く、接着剤としても使われる素材だ。誰かの助けがなければまともに動くことはできないだろう。

 腕の動きで術式を組む魔術師にとっては致命的な事態だ。


「へっへっへー! お前の魔術対策もちゃんとしてあるぜー! これダリムが考えた作戦なんだぜーすごいだろ!」


 棍棒を持った鼻タレ小僧が照れ臭そうに坊主頭をかくのが見えた。あいつがダリムか。……まあどうでもいいな。そんなことより状況がヤバすぎる。


「よーしゴレタ! ケンスケのお尻を丸出しにしちゃえー!!」


 ――まずい。そんなことされたらサラに絶対失望される。……折角ちょっといい感じになりかけて来た気がしないでもない所なのに。


「うわあああああ! やめろおおおおお!!」


 そう叫んだ瞬間、何故か鎧ロボの動きが止まった。


「あれ? どうしたゴレタ?」


 ベルベは怪訝そうに首を傾げている。


 ――これもしかして誰の命令でも聞いてくれる奴か?


 俺は一か八か試してみることにした。


「なあゴレタ、サラに付いているスライムの体液を剥がしてくれないか?」


 ゴレタはサラに近づくと、大きな手でスライムの体液を丁寧に剥がしてくれた。


「……はあ……助かった」


 ベルベはスライムから脱出したサラを見ると、地団駄を踏みながら怒鳴った。


「やめろゴレタ! そうじゃないだろ! ケンスケをやっつけろ!」


 ベルベの命令でゴレタはこちらに向き直ったが、俺はデスゲームの開幕を告げるサイコ教師のように落ち着いた口調で言った。


「ゴレタ。ベルベ団の奴らをやっつけてくれ」


「うるさい! お前がゴレタに命令すんな! ゴレタ! ケンスケをやっつけろ!」


 お前が抵抗する気ならこちらにも考えがある。


「ゴレタ。ベルベのお尻を丸出しにしてくれ」


 ……やましい気持ちは一切ない。……これは正当防衛だ。


「やめろこの変態! 丸出しにするのはケンスケのお尻だ! 頼むゴレタ! 言うことを聞いてくれ!」


 ゴレタは相反する命令処理に混乱しているのか、体中に青白い電流を走らせながら奇妙なダンスみたいな動きをし出した。

 しまいには頭から黒い煙を上げて動かなくなった。


「やめてくれー! ゴレタを壊さないでくれー! 友達なんだよー!」


 ベルベは今にも泣きだしそうだ。どう考えても自業自得ではあるが、少し可哀そうになって来た。


「わかったわかった。もうゴレタに命令したりしないから。その代わり俺達をいじめたり、俺の正体をバラしたりするのはやめてくれよ」


「うんわかった……もうしないよ……ごめんなさい……」


 泣き出したベルベを心配そうに子分たちが見ている。まあ根は悪い子ではないのだろう。

 ふと、サラがベルベの傍までゆっくり歩いて行った。


「よしよし、もう泣かないで」


 サラは泣きじゃくるベルベを優しく抱きしめて撫でていた。


 ――サラはなんて優しいんだ。


 俺は正当防衛とはいえ、スケベ心全開でベルベのお尻を丸出しにしようとした事を大いに反省するのだった。


---


 やがてベルベ団はとぼとぼと西門へと帰っていった。

 俺達はその姿を見送ると、気を取り直してスライム討伐クエストを済ませた。

 そして、全身に纏わりついたスライムのドロドロを冒険者ギルドのシャワーで綺麗サッパリ洗い流した。

 帰りにいつものカフェに寄り、餅ピザとぶどうゼリーを二人分頼む。


 チーズと餅をビヨーンと伸ばしながら餅ピザを食べ終えると、俺はサラに呟くように言った。


「今日みたいな事態になったら困るし、後で魔術師ギルド行って変装魔術掛けて貰ってくるよ。……俺、あんまり目立ちたくない性分でさ」


 そういえばサラと出会ってから何かと忙しくて、変装魔術を掛けて貰うのを忘れていた。

 俺の顔がCG合成で勝手に取り込まれた例の国策映画、評判はいまいちだし、俺はチョイ役なので気付く奴もそんなにいないだろうが、ベルベ団の奴やサラには俺の正体がバレたし一応用心しといた方がいいかもしれない。


「……ケンスケ様」


「ん? どうした?」


 サラは俯いて照れ臭そうに、


「……その……ケンスケ様は今のままの方が……いいです……」


 小さくそう呟いたのだった。


 ここで「何で?」、と聞く程ヤボでも鈍感でもない俺は、何だか嬉しくなって思わず変な笑みをこぼしてしまった。


「……じゃあ、このままでいいかなー」


 何となくサラから目を逸らして、ゼリーを持って来たマスターの受け入れ準備をする。


「はい、ぶどうゼリー二つおまち」


 俺は上機嫌でぶどうゼリーにスプーンを刺した。

 サラと食べるぶどうゼリーはいつも旨いが、今日は特に旨かった。


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