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27話 ケンタとミカの村(後編)

 次の日、俺とサラが支度して商業施設を出ようとすると、村人たちが集まって総出で見送ってくれた。

 村長は前に出て深くお辞儀する。

 

「この度は本当にありがとうございます! ……何とお礼を申し上げればよいか」


「そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ。俺達に任せてください」


「……ご出発の前に一つだけご注意を。森の奥の谷は危険なので、決して近づかれませんように」


「わかりました」


 手を振ったり応援する声を上げたりする村人たちに見送られながら、俺達は出発した。


 施設の奥にある脇道からサラと西の森に入った俺は、たまに襲ってくるコボルドやスネガ等のモンスターを斬り捨てつつ、サラと草木を分け入って進んで行く。


「ごめんなさいケンスケ様。……お役に立てなくて」


 サラの魔術は強過ぎて下手したら生態系に悪影響を与えてしまうらしいので、いざという時まで待機して貰うことにしていた。


「気にすんな! 鳥が強かったら頼むよ」


 しかし、それらしき鳥モンスターは一向に見つからない。

 村長の話だとその鳥は警戒心が強いので、森に入ったらすぐ攻撃してくるとのことだったが……。


「……おかしいですね」


「うーん。全然見つからないな」


 いくら探しても、白い鳥の姿は影も形も無かった。

 やがて、俺達はとうとう村長が危険だと言っていた谷の麓まで来てしまった。


「どうしましょうケンスケ様……」


「まあ一応ここら辺も探してみよう」


 ふと、人の気配を感じて振り返る。


「ケンスケ! 俺も手伝わせろ!」


「……おにいちゃん! ……やっぱり帰ろうよ!」


 ケンタが木刀を持って駆け付けてきた。ミカも心配そうにケンタの後を追っている。


「コラ! ついてきたらダメだろ!」


 一応叱っておく。……面倒なことになってしまった。


 ――殺気だ。


「サラ! ミカを頼む!」


「はい!」


 白く輝く炎が真っ直ぐ光線のように向かってくる。

 俺はケンタの前に立ち塞がり、剣を風車のように回転させ炎を打ち消す。

 サラの方を見ると、透き通った魔法結界を幾重にも張り巡らせて炎を防いでいた。


 ――炎の発生元に目をやる。


 白い鳥の頭とこげ茶色の翼、そして獣の下半身を持ったグリフィンが、炎の残滓を白く煙のように纏い、俺を真っ直ぐ睨みつけたまま、ゆっくりと地上に舞い降りる。

 恐らくこいつが討伐対象のモンスターだろう。

 

 ――こいつ、かなり強い。魔王よりもずっと。

 

 咄嗟に駆け出して、剣圧を放って牽制しつつ近付く。

 グリフィンはそれを飛び上がって避け、爪を器用に動かして白い魔法陣を描いた。

 数多の閃光のような炎が、白い軌跡を描きながら俺へと向かってくる。

 

「ケンスケ様! 守りは任せてください!」


 辞典のように分厚い巨大な魔術結晶が俺の眼前に現れる。魔術結晶は波打つような波紋を立てながら閃光を吸収していく。


「ナイスだサラ!」


 俺はサラの魔術結晶を足場にして二段ジャンプし、上段に振りかぶる。

 すると地面から漆黒の物理障壁が亡者の手のようにいくつも生え出て、俺の剣閃を受け止めた。

 

 火花を散らしながら耳をつんざく金属音が響き、結界はバラバラに割れて崩れ落ちる。

 俺は勢いあまって前につんのめったので、飛び込み前転の要領で勢いを相殺してそのまま立ち上がる。

 

 ――グリフィンは既に飛び上がって逃げていた。

 

 しかし物理障壁を出すのに魔力を使い過ぎたのか、少し弱っているように見えた。

 

「ケンスケ様! 5番で行きましょう!」


 サラが走って近付いて来て言った。


「よっしゃ!」


 俺は予備の杖を取り出し、サラと向かい合って立つ。


「「せーの!」」


 サラと同時に杖を頭の上に掲げると、赤い巨大な魔法陣が頭の上に光り輝いた。

 そして燃えるような轟音を立てながら、矢継ぎ早に8発の火弾が空高く打ちあがった。

 

 火弾は上空で軌道を変え、煙を出しながら一斉にグリフィンに向かって行く。


 上空のグリフィンは戦闘機のようなアクロバット飛行で火弾を避けていたが、火弾はグリフィンをしつこく追尾し、やがて火弾の一発が命中した。

 そして怯んだ所に残った7発も次々に命中して連鎖的に大爆発を引き起こす。

 

 ――爆発が終わると、グリフィンは跡形もなく消し飛んでいた。

 

 初めて試したが、これが合成魔術という物か。


 当然ながらさっきの魔術は殆どサラの御業だ。

 しかし俺も少し魔力を注入したので、まるで自分が魔術を放ったようで何だか気分が良かった。

 

「ありがとうサラ!」


「え? 私何もしてませんけど?」


 二人で声を立てて笑い合う。

 俺が討伐証明用にグリフィンの翼の羽を抜き取ってローブの内ポケットに入れると、


「すげえ! すげえよ二人とも!」


 ケンタとミカが目を輝かせて駆け寄ってきた。


「ケンスケの剣すごかった! 黒い奴もガッキーンって壊しちゃってさ!」


「サラおねえちゃんの魔術がドーンってなって、すごかった!」


 俺はサラと顔を見合わせて軽く苦笑いするしかなかった。


「ほら! ここはモンスター多くて危ないからとっとと帰るぞ」


「「はーい!」」


 それから村に辿り着くまでずっと、子供たちは俺たちの周りを駆けまわりながら、ずっと先ほどの戦闘の再現をして遊んでいる。

 俺はサラとその光景を、目を細くして見守り、和やかな気分のまま村に帰っていった。

 

---


 やがて村に戻った俺達が商業施設の中に入ると、村人たちが一斉に駆け寄ってきた。


「どうでしたか?」


「もちろん、討伐成功です」


 俺がそう返すと、大きな歓声と拍手が沸き上がった。

 やがて、村長が満面の笑みで近付いて来る。


「本当にありがとうございます! 何とお礼を申し上げればよいか……」


「よしてください。私達は当然のことをしただけです」


 サラの言葉に、俺はいい気分で頷いた。


「えー、恐縮でございますが、一応討伐証明の方をお願い致します」


 俺はローブから茶色い羽を出して村長に渡す。

 ――次の瞬間、空気が凍り付くのが分かった。


「何だよこれ……」


 群衆がざわめき出す。


「あのクソ鳥は真っ白だったはずだぞ! 羽の形も違う!」


「お前らまさか……そこらに落ちてる鳥の羽拾って来ただけじゃないだろうな!」


 若い男が俺に詰め寄ってくる。


「そんなはずありません! 俺達は確かにグリフィンを倒しました!」


「グリフィンを倒しただって? そりゃありがたいね! たまに人襲うから奴にも困ってたんだ。だがそんなの嘘に決まってる! 北方守備隊に頼んでも匙を投げられる程強いグリフィンを、そこらの冒険者がたった二人で倒せる訳ないだろうが!」


 そういえば行き掛けに白い鳥が襲って来たので倒した気がするが、弱すぎるのでただの鳥だと思っていた。……あれが本来の討伐対象だったのか。


「よくも騙したな!」


「歓迎会でタダ飯食うのが目的だったんだろ! 嘘つき!」


「……最悪」


「出ていけ! 無駄な期待させやがって!」


 俺とサラに非難の声が雨あられと投げかけられる。


「違うんだよ! ケンスケは本当にグリフィンを倒したんだよ!」


「私も見ました! 信じてください!」


 ケンタとミカは必死に俺達を庇ってくれたが、


「最低だな……こんな子供まで利用するなんて……」


 ……逆効果だった。

 俺は罵詈雑言を上げながら詰め寄る村人を無表情で掻き分け、スチール棚から自分とサラの荷物を取ると、サラと連れ立って商業施設を出た。


 そして、長い溜め息をつきながら、逃げるように村の出口へと速足で歩いた。


「すまなかったサラ。俺があの白い鳥を倒した時気付いていれば……」


「ケンスケ様のせいじゃありませんよ……」


 ……サラは寂しそうにそう言った。


---


 そのままレキセ道を30分程歩いただろうか。俺とサラはガードレールを背もたれにして休憩することにした。

 しばらく無言のまま時が過ぎる。


「ケンスケー!」


「サラおねえちゃん!」


 ふと、声が聞こえた。

 元来た道を振り返ると、ケンタとミカが駆け寄ってくるのが見えた。


「ごめんなさい! 僕お母さんにもお父さんにも言ったけど、信じてくれなかった……」


「……私も言ったんです! 二人は悪くないって! 村の恩人なんだって! なのに……」


 泣きじゃくるケンタとミカの頭を、サラが優しい笑顔でそっと撫でている。


「よしよし。もう気にしてないから泣かないで」


 俺は泣きはらしたケンタの目を真っ直ぐ見つめた。


「強くなれよ、ケンタ」


「……うん!」


 暫くして泣き止んだケンタは、サラと一緒にミカをなだめて、やっとミカも泣き止んだのだった。


「じゃあそろそろ行くか」


 ――ん? 何だろうこの紙袋は。


「あの……これつまらない物ですが、受け取ってください!」


 中に入っていたのは大きな一枚のどんぐりクッキーだった。

 半分に割ってサラに渡し、食べてみる。

 ――少しの渋みと、ほのかな甘みがあって素朴な味わいだ。


「おいしいですね!」


「うん! うまい!」


 ケンタとミカは、どんぐりクッキーを食べる俺達を申し訳なさそうに見ていた。


「そんな顔するなよ。俺達はもう、充分過ぎる程の報酬を受け取ったんだ」


 そして俺は、ケンタとミカに思い切り親指を立ててみせた。


「お前らのどんぐりクッキー、最高だったぜ!」


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