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3話 スライムとの対決

 その後、俺達は早速クエストを受けに冒険者ギルドに向かった。


「Eランクのクエスト、これが良さそうだな」


 俺は、畑に出たスライム10匹の討伐クエストの張り紙を指さした。


「はい! 初クエスト頑張りましょう!」


 サラは握った両手を掲げてやる気満々だ。


 スライムなら子供でも勝てるレベルらしいので俺達には丁度いい……はず。

 それに散々スライムと戦ってきたサラには成長の実感を得るのに良い機会だろう。


 報酬は1匹につき、たったの1ガラン……ぶどうコッペパンが一つ買えるかどうかの額でしかないが、そこは気にしても仕方ない。


---


 現場に行くとスライムはすぐに見つかった。

 畑のキャベツのいくつかに、全長1メートルくらいの緑のドロドロがまとわりついている。

 キャベツをああやって溶かして食べているのだろう。


 ……気持ちわる。

 日も落ちかけているしとっとと終わらせよう。


「サラ! 近くのスライムに3番戦術だ!」


「はい!」


 俺は事前に割り振っていた戦術番号でサラに指示を出した。

 3番戦術はまず魔術師が攻撃し、敵が怯んだ所を戦士が叩くという基本戦術だ。


 早速俺は詠唱を開始した。1年前は分からなかった全身の魔力の流れが今はぼんやりと読み取れる。

 そして、赤い魔法陣がスライムへと突き出した俺の杖先でクルクル回りだした。魔法陣の術式も歪ではあるが一応形になっている。


 ――うお! 魔術師って感じがする!


 俺は胸の高鳴りと共にテンションが上がっていくのを感じていた。


 5秒程詠唱した所で、魔力が手の辺りに溜まってきた。1年前より詠唱は2倍の速さになったので、やはり成長している。


 ――よし今だ!


「――灼き尽くせ! ファイア!」


 俺は杖先に集め切った魔力を一気に放出した。

 魔力の赤い光は直径3センチくらいの炎になり、スライムへ向かってゆっくり飛んで行った。

 スライムからジュッと焦げたような音がする。


 ――よし命中した!


 スライムは攻撃に気付いたのか、嫌がるように体をくねらせてキャベツから離れた。キャベツの安全を確認したサラは、すかさずスライムに剣を叩き込む。

 ……相変わらず体幹がグネッっとなっているが、1年前よりも少しマシになっている。


 しばらくスライムと距離を取りつつ様子を見る。

 スライムはさながらスプーンで突かれたぶどうゼリーのように少し揺れ動いていたが、あまりダメージはないようだ。


 俺はすぐに次の手を打った。


「頭の天辺に1番だ!」


 1番戦術は、守りが堅い敵に対処する為、敵の同じ場所に同時に攻撃するという戦術だ。

 ……だが……どうにも頭が痛い。

 体内の魔力が減ると起きる偏魔頭痛は、魔術師の職業病であり、俺にとっては名誉の痛みではあるのだが……痛いもんは痛い。


 それにしても初級魔術一発撃っただけで魔力が切れかけるとは……。

 ……どうも俺の最大魔力値は地獄の修行の甲斐なく、あまり成長していないようだ。


 こうなったら、次の一撃で決めるしかない。


「ファイア!」


 俺は全身の魔力を絞り出し、さっきより小ぶりな炎をスライムに放つ。


「――えいっ!」


 すかさずサラがスライムを斬り付ける。

 それでもスライムは、飛び跳ねての体当たりでサラの脚に反撃してきた。

 たじろいだサラは、畝で足を滑らせてスライムの方に剣ごと倒れこんだ。


 ――グチョッ!


 気持ち悪い音を立ててスライムは動かなくなった。


「……やったー! 私たち勝てましたよ!」


「まだ油断したらダメだ。あと9匹倒さないと」


 1匹でこれなのに9匹倒すのは相当骨が折れそうだ。

 魔力切れで頭が割れるように痛い。サラも少し息が上がっている。

 とりあえず休憩して次に備えよう。そう思った矢先、おかしなことに気づいた。


「あれ? 他のスライムはどこだ?」


 俺がキャベツ畑を見渡していると、畑の隅から棍棒を腰に付けた2人組の子供が駆け寄ってきた。


「お兄ちゃんたち大人の癖に僕たちの小遣い稼ぎ邪魔しないでよ!」


「どういうことだ? このクエストは俺達が受けたはずだが……」


「これフリークエストだから複数のパーティがクエスト受けることもある奴だよ」


「だから早いもん勝ちね! 9匹分の報酬は僕たちの分だから」


 ……言葉を失ってしまった。


 俺達が必死にスライム1匹を倒している間に、このクソガキ2人は9匹のスライムを平然と倒してしまったのか……。

 実はすごい冒険者かもと思ったが、そんな気配もないしどう見てもただのクソガキだ。


 俺達は重い足取りで冒険者ギルドに向かうと、スライムの体液を換金してクエストの報酬を受け取った。

 無言のまま行きつけのカフェに入ると、受け取った報酬の1ガランと5サリをカウンターに置く。


「マスター、いつもの二人分」


「あいよっ」


 マスターは俺達の空気を見て何となく察したようで、値段に見合わない程大きなぶどうゼリーをサービスしてくれた。

 しかし、俺はあまり食欲がなかった。


 ――てかスプーンも器も一つしかないし。マスターの奴余計なことしやがって。


「魔力が切れて頭痛いし、サラにあげるよ」


 俺はいつもより弱々しい声で言った。


「……ありがとうございます」


 サラは普段とは別人のように元気がない様子で答えると、ゆっくりとぶどうゼリーを口に運んだ。

 俺はその様子を呆けたようにじっと見ていた。


 やがて、ゆっくりとぶどうゼリーを飲み込んだサラは、疲れた笑みを浮かべて見せた。


「……ケンスケ様すごかったですよ。術式も一応ちゃんと出来てましたし、詠唱も速くなってました!」


 俺はなけなしの気力を振り絞ってサラに言葉を返した。


「サラも強くなってたよ。スタミナもかなり付いてたし、剣さばきは良かった」


 傷の舐め合いだ。俺達は棍棒持っただけのガキに負けた。

 俺達がまともなパーティに成長するには、まだまだ途方もない努力が必要なのは間違いない。

 それでも、俺達は一歩ずつ着実に成長していっている。


 ――今日くらい傷の舐め合いしてもバチは当たらないよな。


「私ばっかり食べてたら悪いです……。ケンスケ様もちょっと食べませんか?」


 サラがスプーンを差し出してくる。


「はい……あーん」


「……ん……うまい」


 サラは優しく微笑んで俺を見つめていた。思わず目をそらす。


――もしかしなくても、これ間接キスって奴だよな?


 俺はニヤニヤと笑いそうになったが、変態っぽくなったら嫌なので、なるべく平静を装おうと口をモゴモゴさせて誤魔化した。


「……今日は疲れたな」


「……はい」


 ――後でサラと気まずくなりそうだが、今は深く考えなくていいか。


 俺はまどろみのような不思議な気だるさに包まれながら、窓に映し出された暗がりの街を眺めた。


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