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2話 ジェフの大特訓

 その後、俺達は夕暮れの砂利道を踏みながら、ビニールハウスに囲まれたぶどう畑と、広大なキャベツ畑を抜け、石のアーチで出来たアドラント大通りの西門に戻った。


 そしてそのまま冒険者ギルドに向かい、パーティ登録を済ませる。


―――――――――――――――――――――

 パーティーリーダー: ケンスケ 魔術師

 サブリーダー: サラ 戦士

―――――――――――――――――――――


 よし! 頑張るぞ!

 俺はブラウン管のモニター画面に映った白い文字を見つめて決意を新たにした。


「さて、まずは鎧を新調しようか」


 俺の提案に、サラは少し顔を曇らせた。


「……え? 今の鎧じゃ駄目ですか?」


「……ちょっと大き過ぎるかなあ」


 俺が重鎧で魔王を倒した伝承に憧れてこんな重装備にしているのだろうが、重鎧は上級者向けで、駆け出し戦士には向いていない。


 サラは不服そうだったが鍛錬を積んだらまたデカ鎧着ければいいと言ったら、渋々承諾して鎖帷子を買っていた。


 次は魔導具屋だ。


 俺は魔術師らしい黒い山高帽と、短い紫のローブを買った。


「ケンスケ様……杖も変えた方がいいですよ」


「……今のままじゃ駄目なの?」


「……ええと……初心者の人はもう少し初心者向けの方が」


 杖は細長くてカッコいい今の杖の方が気に入っていたのだが、俺はサラに言われるがままに渋々グネグネの杖を買ったのだった。


 ……似た者同士って奴なのかな、俺達。


「さて、今日はそろそろ帰るか」


 そんなこんなで外に出るとすっかり暗くなっていたので、そのまま宿屋に戻ることにした。


「あれ? もしかして俺たち同じ宿屋?」


「ほんとだ! すごい偶然ですね!」


「……じゃあまた明日な」


「さようなら!」


 もちろん一緒の部屋で泊まろうとかいう展開にはならず、普通に自分の部屋で寝た。

 まあ少しずつ距離を縮めていけばいいか。


---


 次の日、俺は西門の前で早速サラに修行を付けてやることにした。


「まずは素振り100回だ!」


「はいっ! いちっ……にっ……さんっ……」


「違う! そこは腕をもっとビャビャっとやって!」


 サラは恐る恐るといった感じで剣を構え直した。


「え? ビャビャっと? こうですか?」


 ……うーん。なんか違う。


「いやそれだと手がシュッってなってないから」


「えっと……こうですか?」


「それはビャビャっとなり過ぎ!」


 サラはついに、困惑した表情で固まってしまった。


「……もしかしてケンスケ様って、人に教えたりする事はあんまり上手じゃないんじゃ」


「……うぐっ」


 薄々思ってはいたが、言われてみたら確かにそうだ。俺は言葉ではなく感覚で剣技を出すタイプなので、言葉で説明するのは苦手だ。


 例え言葉にできたとしても、正直レベルの差もありすぎるので初心者に有効なアドバイスができるとも思えない。


「1日交代の予定でしたけど私疲れちゃいましたし、今日は私がケンスケ様に魔術教えますね」


 サラが気を使ってくれたのでとりあえず甘えさせて貰うことにした。

 でも一方的に教えてもらうばかりというのもサラに悪いし、上手く教えられる方法を考えておかないといけない。


 そう考えながら宿屋に戻り、サラの部屋にお邪魔させて貰う運びとなった。

 ……いや、別にこれはそういうアレじゃないんだ。

 ……そういうのは段階踏んでからでないとな。


「お邪魔しまーす」


「どうぞー!」


 サラの部屋は綺麗に整理整頓されており掃除も行き届いていた。


 ベッドに可愛らしいぶどうのぬいぐるみが置いてあるし、何とも女の子らしい部屋だ。

 ――ダメだ。変なこと考えるな。集中しろ。


「じゃあまず水魔術から行きましょう」


 俺は目を閉じ、杖を瓶に向けると古代語の詠唱を開始した。しかしすぐにサラに止められてしまった。


「違います! もっと魔力をギューって出す感じで!」


---


 どうやらサラも感覚タイプで、教えるのが下手なようだった。


「ごめんなさいお役に立てなくて……」


「いやまあそれはお互い様だから……」


 ――どうしようか……そうだ!


「こんな時こそ冒険者ギルドだ。教えるのが上手い人を雇って教えてもらおう」


 冒険者ギルドで受付のお姉さんに条件を言って検索してもらうと、良さそうな中年のおっさんを紹介してくれた。

 名前はジェフ。職業はこの世界には珍しい魔法戦士で、切れ長の目が理論派っぽくて教えるのが上手そうだ。

 長く切り揃えたアゴ髭と顔の大きな傷は粗野な印象だが、どことなく優しい雰囲気もあった。それに解呪のクエストをいくつかこなしていて実績もそれなりにある。


「よし、この人に頼んでみようか」


 はい!とサラは大きく頷いた。


 連絡を受けてやってきたジェフと適当に自己紹介し合うと、俺達はトントン拍子で契約書にサインした。

 契約金は1日200ガラン。一週間分の宿代とあまり変わらないくらいだ。


 まあ少し高いが魔王を討伐した時にまとまった報酬を貰ったので蓄えはある。このくらいなら問題ない。サラも金には困っていないようで問題なく払えるとの事だった。

 そして、早速西門の前に集合して教えて貰うことになった。


---


「言いにくいんだが……お前ら本当に才能ないよ」


 俺とサラは黙って俯くしかなかった。


 ――うん。別にお前に言われなくても知ってる。痛いほど知ってる。散々知ってる。


「誰にだって向き不向きってもんはある。そうだろ? わざわざ明らかに才能ないことに高い金払って貴重な人生の時間費やして、それって無駄じゃねぇか?」


 ジェフは長い髭をいじりながら続けた。


「兄ちゃんの方は剣の才能を、嬢ちゃんの方は魔術の才能を感じる。これはお世辞じゃねえぞ。欠点を補うよりいい所を伸ばした方がよかねえか?」


 正論だ。――だが、


「才能なんて知るか! 俺は目立たずに……人知れずに世界を救えるような……そんなすごい魔術師になるのが夢なんだよ!」


「私も同じです! 剣が好きなんです! 光みたいな速さで悪いやつを倒したり! 大切な人を身を挺して守れる戦士に、私はなりたいんです!」


 ジェフは嬉しそうに口角を突き上げて言った。


「そんだけの覚悟があるなら、もう何も言わねえよ。俺の特訓は厳しいぞ!」


 ――なんだ、やっぱりいい人じゃないか。


 安心するのも束の間、彼の特訓は地獄のようにきつかった。

 詠唱を早くするために早口言葉を噛まずに1000回繰り返したり、魔力を限界まで絞り出して、魔力切れで頭が痛いのをひたすら堪え続けたりといった感じだ。

 その間も魔導書を読み漁り、魔術理論の習得や、詠唱に必要な古代語の勉強もこなしていった。


 サラも毎日10キロ走った後に素振りを1000回こなし、ヘトヘトになった所にジェフと木刀で実戦稽古といった感じだった。


 ちょっと期待していたサラとのロマンス展開も全くないというか、そんな気力すら全く出ないという有様だった。


 しかしジェフの指導もあり訓練の手ごたえはしっかりと感じられた。どうやら俺とサラは見得を張って基礎訓練を怠り、身の丈に合わない練習ばかりしてきたようだ。

 その手ごたえはサラも感じているようで、辛い訓練も泣き言ひとつ言わずこなしていった。


---


 そんな日々が1年近く続いた。

 そして、ある日の夕暮れ時、ジェフが俺たちに言った。


「お前らに教えることはもうねぇ。勘違いするなよ! 俺がお勉強で教えられるのはここまでって意味だ。お前らの実力はまだまだガキ以下だ。だがEランクのクエストならこなせるだろう。そろそろ実戦で試してこい!」


 ジェフは厳しくも時に優しく、真正面から俺達に向き合ってくれた。

 そんなジェフの姿に俺達は堪らなく感謝していた。


「「師匠! ありがとうございました!」」


 俺とサラは深々と頭を下げた。


「だからその師匠っての止めろよ恥ずかしい……」


 ジェフは照れ臭そうにしながらも悪くはなさそうな感じだった。


「じゃあな。また縁があったら会おう」


 俺とサラは後ろ手を挙げて西門に入っていくジェフの背中を、感慨の籠った眼差しで見送ったのだった。


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