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17話 儲け話見つけ機

 最近また雨が減っているせいか、スライム討伐クエストが殆ど出ていない。

 仕方ないので、俺は今日も机に向かって魔術書を読み、要点をノートに書き連ねていた。


 そんな最中、俺は闇魔術のページの、黒いベールに包まれた魔術師のイラストが気になった。

 ……姿を隠す闇魔術だ。


 ――うおっ! これ良いなあ。

 でも闇魔術は必要魔力が多くて俺には使えないんだよなあ……。

 ……そうだ、術式をこうしてやれば必要魔力が減らないかな?


「おーい! ケンスケ暇だぞー」


 クリスタの声に思わず手が滑って、折角書いた術式の線が歪んでしまった。


「……うるさいなー今やってるだろ」


「ちぇーつまんないの。サラも外で素振りばっかりだしよー。そうだ。映画でも見ようぜピ太郎」


「ピピー!」


 ……しまった! 昨日の夜見たエロディスク取り出すの忘れてた!


「ん? 何か変なのが入ってるぞ? ……ケンスケのか?」


「違う! とにかく返せ!」


「おにさんこーちらー! サラに見せてやろー!」


「……待て!」


「待てって言われて待つ私じゃねーっての!」


 玄関の方に逃げるクリスタだったが、何故か急に大人しくなった。


「……ごめん」


 そして無言で俺にディスクを返すと、コソコソと部屋の隅に逃げ込んで行った。


 玄関には、厳つい黒服の男が立っている。

 ……どうもカタギでは無さそうだ。


 ――クリスタの奴……また借金しやがったな。

 大体の事情を察した俺は、クリスタの首根っこを掴んで黒服の前に連れて行った。


「……ごめんなさい」


 クリスタは観念したのかケモ耳と尻尾をタレさせてしおらしい様子で座り込む。

 その様子を見下ろしながら、黒服が抑揚のある大きな声を出した。


「お嬢ちゃん、借りた金はちゃんと返してもらわないと困るよ」


「……だって! マイティソックスは3連勝で一番人気だったんだぞ!あそこで負ける犬じゃないんだよ! インチキなんだよ!」


「インチキだろうがなんだろうが借りた金は返すのが道理やろがい!」


 ……まあ正論だな。


「こうなったら1万ガラン、体で払ってもらうしかないようだなあ!」


 クリスタが必死の形相で俺に縋り付いて来る。……ウソ泣きまでしやがって。


「パパ上さまー! お願いだから助けてくれよー!」


 ……調子のいい奴だなあ。

 俺はクリスタを手で制して優しく諭すように、


「これは俺個人の考え方だが、そういった職業も社会の役に立つ立派な職業だと思うぞ。俺はお前がどんな職業についていようが冷たくしたりはしないから安心しろ」


「私まだ処女だぞ!」


「……あっ、そうなんだ。……ふーん」


 意外とそこは真面目なんだな。

 しかし、そうなると流石に可哀そうな気がしてきた。


 俺はクリスタのブラウンの瞳をしっかり見つめた。


「……二度とギャンブルは?」


「しません!」


「ちゃんと働く?」


「働きます!」


 俺は仕方なしにソファの下からほぼ全財産の封筒を取り出して黒服に渡した。


「まいどありー。またのごひいきを」


 何とかなったが……こんな事繰り返してたらクリスタの為にも良くないよなあ。

 俺の金も有限じゃないし。ここは心を鬼にして厳しくしておこう。


「建て替えただけだからな。ちゃんと返せよ」


「……えーそんなー!」


「甘えるな! 利息付けるぞ!」


「わかった! 返しますって!」


 ……大丈夫かなこいつ。


「とにかく、ちゃんとした仕事探せよ」


「――私の不思議アイテムで見つけてあげようか?」


 突然にカミココが割り込んで来た。


「おう! 流石は天才魔導具職人ココちゃん! 楽に金稼げる奴で頼むよ!」


 ……こいつ……本当に反省しているのだろうか。


 俺の心配を他所に、カミココは白いポーチに手を突っ込んだ。


「はいはーい、悪人見つけ機~」


 見つけ機は銀色の枠に覆われた、長方形の薄い板のような装置だった。


(スマホみたいでしょ?)


 ……いきなり脳内に語り掛けやがって。


(この世界にスマホなんてない筈だが、何故知ってる?)


(お兄ちゃんの記憶の本に出てた)


(……人の記憶を勝手に覗くな)


(エロ本もいっぱいあった)


(エロい奴はマジでやめろ!)


「おーいココちゃん。これどうやって使うんだ?」


 クリスタは見つけ機をいじっているが画面は黒いままだ。


「下の丸いボタン押したら起動するよ」


「わかった! これで賞金首を捕まえて金稼げってことだな」


 クリスタは意気揚々と見つけ機を起動する。


「……うわっ!」


 途端に見つけ機は警告音を出しながら赤く点滅し出した。


「あれ? どうなってんだ? 壊れてんのかな?」


 俺は流石にいたたまれなくなった。

 ……前科4犯のクリスタが装置に悪人認定されてしまうのは致し方ないだろう。


 クリスタは俺の様子に気づいて察したのか、試しに装置に近づいたり離れたりしていたが、やはりクリスタが離れると点滅の頻度が少し下がるようだった。


「あーもう! どうせ私は悪人ですよーだ」


「……他の奴出すね」


 カミココはポケットから次なるアイテムを取り出した。見た目は悪人見つけ機と似ているな。


「はい儲け話見つけ機」


「うおおおおおお! 流石ココちゃん! そういう話が早いのが欲しかったんだよ!」


「がんばってねー」


 クリスタは儲け話見つけ機を受け取ると上機嫌で部屋を出て行く。

 俺は勉強を再開したが、クリスタが心配になってどうにも手が付かなかった。


 ――儲け話見つけ機なんてよく考えなくても胡散臭すぎるし、一応クリスタの様子見に行ってみよう。


---


「おかしいなー。ここで点滅してるんだけどなあ」


 俺が機械遺跡に行ってみると、怪訝そうな表情でうろうろしているクリスタがいた。……クリスタを探すのに悪人見つけ機を使ったのは秘密だ。


「……どうした?」


「あっケンスケじゃねえか! ここらで見つけ機が反応してるんだけど、何も金目の物が見つからねえんだよー」


 ――成程そういうことか。全く、見つけ機の奴も中々粋なことを考えるじゃないか。

 俺は腕を組んでなるべく威厳が出るように足を広げて立ち、ありがたいお説教を始めた。


「いいかクリスタ! 世の中に簡単な儲け話なんてない! みんな苦労して汗水たらして金を稼いでいるんだ! でもそれが一番堅実にお金を稼ぐ方法なんだよ! 儲け話見つけ機はそのことを教えてくれているんだ!」


 俺はドヤ顔でクリスタの見つけ機をビシッと指さす。……決まった!


「はあー?」


 クリスタは何か言い返したげな顔をしたが、ボリボリ頭を掻くと観念した様子で呟く。


「……はいはい。働けばいいんでしょ働けば」


 クリスタがため息をつきながら、鳴り響く見つけ機のスイッチを切ると、ピ太郎が爪にスコップを二つぶら下げて飛んでくるのが見えた。


「ピピー!」


「流石俺の相棒、気が利くな。ほら! 手伝ってやるからやるぞ」


「……はーい」


---


 日が暮れるまで発掘作業をしてくたくたになった俺とクリスタは家路へと向かっていた。

 人影まばらな大通りを見渡しながら、ふとクリスタに話しかける。

 

「どうだ? 汗水たらして金稼ぐのも悪くないだろ?」


「まあなー。あんだけやって50ガランってのはちょっと白けたけどな」


「まあそんなもんだ」


 俺はクリスタと顔を見合わせて少し笑い合った。


「ただいまー」


「お帰りなさーい」


 暖かいお風呂、温かい食事、温かいソファ。こんな毎日も悪くないな。

 薄れゆく意識の中でぼんやりと幸せを感じながら、俺は瞼を閉じた。


(――あれ? お兄ちゃん今日はアレやらないの?)


 カミココの悪戯っぽい笑い声が脳に響く。


(お前……せっかく人がいい感じで一日を終えようとしてたのに……)


(エロおにいちゃん)


(仕方ないだろ男なんだから! とにかくそれ系の思考盗聴はやめろ!)


(はーい)


(てか不思議アイテムって1日に1回じゃなかったっけ? 今日2つ出してたよな?)


(調子がいいと3つまで出せる)


(……ああそう。じゃあもう寝るから。おやすみ)


(おやすみなさーい)


 カミココの言う事は話半分に聞いといた方がいいな。

 そんなことを考えながら俺はゆっくり瞼を閉じた。


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