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15話 水着温泉夢落ち回

「魔術師ケンスケ……サラ姫は渡さんぞ……」


 邪神が大きな口を開け、俺に向かってドス黒い螺旋状の波動を放ってくる。

 俺は闇魔術で姿を隠したまま、風魔術で華麗に空を飛び回り、ガラスのような魔法結界を何重にも貼って波動を防ぐ。


 そして俺は急上昇すると魔法陣を華麗に描き、


「――滅せよ! フルバースト・ファイアマシンガン!」


 隕石のような爆炎が邪神に降り注いだ。


「グアアアアアアアア!」


 邪神はおぞましいうめき声を上げながら盛大に爆発し、崩れるように消えていった。

 俺はゆっくりと草原に舞い降り、闇魔術を解除して姿を現した。


 サラは禍々しいトゲが付いた鳥かごのような檻に閉じ込められていた。

 俺が手をかざすと檻はガラスのように粉々になって消えた。


「……ケンスケ様!」


 サラが俺の胸に飛び込んでくる。

 暫く胸の柔らかな感触を楽しんだ後、そのまま華麗にお姫様抱っこのポーズに移行し、馬モードに変形した白銀に輝くピ太郎に跨る。


「ハイヤー!」


「ピピー!」


 風を切ってピ太郎が颯爽と走り出した。頬を赤く染め、目をキラキラ輝かせたサラが俺を見上げている。


 ――分かっている。これは夢だ。いわゆる明晰夢って奴だな。


 それも自分の思い通りの展開にできるタイプだ。

 折角だからこの世界で好きなだけ楽しませてもらおう。

 文字通り夢うつつのまま俺は村に立ち寄った。温泉で有名なユフィン村だ。

 大冒険で姫も疲れているだろうし、まずは温泉で疲れを癒さないとな。


 温泉は本当に信じられない程全くの想定外なことに、まさかまさかの混浴だった。

 サラの手を取ってゆっくりとエスコートする。

 鏡に映った俺の姿も心なしかいつもよりイケメンである。

 俺は脱衣所の前でサラと別れ、秒で服を脱いでスッポンポンで浴場の扉に進んだ。


「ちょっとお客様困ります! ちゃんと水着着てください!」


「あっ……すみません師匠」


 従業員の格好をしたジェフに呼び止められてしまった。

 どうやらこの温泉は水着を着て入るタイプらしい。


 ――ガッカリだ。

 確かに俺は温泉回も水着回も録画して何回も見るくらいは好きだが、何でも合わせればいいってもんじゃないのだよ。

 そこんとこちゃんと考えてくれよ、明晰夢君。


 ――だがまあ……それはそれでアリかもな。

 つい食わず嫌いしてしまったが、水着温泉というのも案外趣があるのかも知れない。


 俺は光の速度で水着を着て、意気揚々と扉を開けた。

 すると美しい新緑の山々を一望できる露天風呂が視界に映った。

 冷たくて清らかな風が肌に心地いい。


 湯船にはサラの姿があった。

 胸元の開いたワンピースタイプの純白の水着を身にまとっている。

 俺は興奮しすぎて胸が張り裂けそうになったが、なるべく落ち着いた振りをした。


「サラ、隣いいかな」


「はい……ケンスケ様……」


 巨乳と言う程ではないが、柔らかそうでハリがある感じが素晴らしい。

 キュッとくびれた美しい腰と、安産型の柔さかそうなおしり、程よくムチムチとした太もも。

 その全てバランスがとれており文句なしだ。

 俺はニタニタ笑いを心の奥底にしまい込んで、なるべく優しい笑みでサラの隣に座った。

 俺が幸福と湯船にプカプカ浮かんでいると、ふと声がした。


「おーい! 大丈夫だったかサラ?」


 赤ビキニを着たクリスタが泳ぐように近寄ってきた。

 筋肉質だしちょっと色黒だしでなんともワイルドな体系だ。

 特に腹筋はバキバキとしか言いようがない。

 胸は思ったよりでかいしハリがある感じだが、ちょっと硬そうだな。

 一方で引き締まった逆ハート型のプリケツは、得も言われぬ曲線美で中々どうして素晴らしい。


 ――いや、別に俺はサラ一筋だから今更ハーレムとかそういうのはいいんだが……。

 まあどうせ夢だし、折角だからチェックしてやったぞ!


「よう! ケンスケじゃねえか!」


 ……ベルベだ。ヒラヒラが付いた青い水着を着ている。

 薄々思ってはいたが……やはりでかいな。

 腰回りは大してくびれてもないのだが、幼い顔立ちに似合わない大きな胸のギャップはそれだけで圧倒的破壊力を持っていると言わざるを得ない。

 でも中身はむかつくガキだしなー。


「おにいちゃーん!」


 振り向くとスク水姿の少女が浴槽に入ってきた。

 誰だっけこいつ。

 感想としては無だ。それ以上でも以下でもない。

 まあ素材は良さそうだけど、俺はロリコンじゃない。以上。


 ……てかよく見たら俺を散々弄んだ挙句に、魔術の才能がからっきしの状態でこの世界に飛ばしたあの女神に似てるな。

 早くどっか行けばいいのに。


(そんなひどいこと言わないでよー)


 うわ何か脳内に直接語りかけてきたし。

 どうなってんだこの夢はさっきから。


(私カミココだよ。よろしくねお兄ちゃん)


 おい明晰夢君、どうなってんのこれ? いやマジでどうなってんの?

 まあとにかく一度離脱するしかないな。


 ――俺は目を閉じて必死に念じた。

 カミココおおおお!! 滅せよ!! 邪神めええええ!! ハアッ!!

 よし、ブラックアウトした。


 そのまま妄想力をフル回転させて新たな世界を生成する。

 制限時間が迫っているのかも知れないし回りくどいのはナシだ。

 俺とサラはちょっとエッチな雰囲気漂うホテルの一室で向かい合っていた。


 よし、これで行こう。

 宵闇に浮かぶオレンジの柔らかい照明。

 官能的なアロマの香り、バスローブ姿で見つめ合う俺とサラ。


 良し良し良し良し良し良し!


 そのまま二人は目を閉じて……。


 ……いや……うーん…………やっぱ違うな。


 起床。

 俺はそのまま実体の方の目を開いた。

 ちょっと勿体ないことした気もするが、いくら夢とは言え勝手にエロい事するのは流石にサラに申し訳ない気がするし、何もかも上手くいく世界なんてつまらないからな。

 俺はこの世界でもっと強い魔術師になって、サラのハートも真っ向勝負で正々堂々とゲットしてやる!


「――おにいちゃーん!」


 起き上がった俺に、羽の生えた白ワンピの少女が飛びついて来た。

 ……カミココだ。ん? おかしいな。もう目は覚めているはずなのだが。


(お兄ちゃんが楽しそうだから来ちゃった)


 頭の中に直接カミココの声が響いた。カミココは黄色っぽい目で俺をじっと見つめている。


 ……は? どうなってんだ?


「おはようココちゃん。お兄ちゃん疲れてるんだから起こしちゃダメよ」


 ベッドから起き上がったサラが優しい声で言った。

 ――いやどういうことだ? 頼むから誰か説明してくれ。


(孤児だった私をお兄ちゃんが拾って妹にしたって設定になってるから)


 ――ああそうですかい。説明ありがとう。


(どういたしまして!)


 俺はうんざりしてソファで体を丸めると、二度寝を開始した。


 ――どうかこのふざけた事態もただの夢でありますように。


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