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エーテル・グレイス  作者: クロビー
序章 アルストラ王国編
9/72

狙われた命

 この日少し帰りが遅くなり、自室に入った頃には夕食の準備が整ってた。


 俺は慌てて着替えて食堂へと移動し、義明の隣に座っていると西園寺先生も隣に座ってきた。


「で、今日は何をしてきたんだ」

「ちょっと魔物を狩りに行っただけです。快く武器を貸してくれた人に協力してもらって」

「そうか、無茶はするなよ」


 分かってるっての。

 ふと昨日の魔術師に言われたことが頭によぎるがすぐにどうでもいいと振り払う。


 この後も俺、義明、西園寺先生の三人で情報交換をして、食事を終えた。


 部屋に戻ってきた俺は早速魔物狩りに向かうため服を着替え、人形を置こうとしたとき、突然部屋に魔法陣が現れる。


 嫌な予感がし、肉体強度と身体能力を大幅に上昇させる。


 部屋の窓に一直線に突っ込み、突き破って外に出ようとするが間に合わなかった。


 轟音と共に部屋が爆発し、城には大きな穴が空く。


 俺は爆発によって吹き飛ばされ、体を城壁に叩き付けられる。


 肉体や身体能力を強化したが受け身が取れず怪我をしてしまったが、超能力で元の状態に戻していきすぐさま怪我を治す。

 怪我を負った拍子に城壁には血が飛び散っていた。


 あの魔術師はこのことを言ってたのか? でも知っているんだったら助けてくれてもいいだろうに。


 いくら肉体を強化したとはいえ痛覚はある。一瞬意識を刈り取られるかと思ったぞ。

 あの威力だと普通の人間だったら死んでるな。あの魔術を仕掛けたやつは明確な殺意を持ってやったのだろう。


 なんとか無事だが俺が死んでないということが確認されればまた命を狙われるかもしれない。流石にそれは面倒だ。


 誰にも見つからないようにするために光学迷彩を起動する。


 壁を背に項垂れていると、爆発音を聞きつけたのか、クラスメイトや騎士団の方達が一体何ごとかと部屋のあった場所に次々と集まって来ている。


 その中には義明と西園寺先生の姿もあった。今すぐにでも会いたい気持ちがあるがそこは堪える。


「皆様はお下がりください。もしかしたらまだ何か仕掛けられているかもしれません。一度部屋へと戻ってください」


 そこに王様が現れ、皆を部屋に戻るように促し、皆が部屋に戻ると王様もこの場から立ち去って行った。


 予定通りこれから魔物を倒しに行くのはいいが問題はその後だな。


 今は無一文だし夕方の金額からするに魔物狩りをしても宿に泊まれるとは到底思えない。

 ……今日は野宿になりそうだ。


     *     *     *


 一方爆発の後、川崎透の仲間である駒井義明、西園寺静流は部屋で二人で話していた。


「まさか透の部屋がいきなり爆発するなんて……。クラスメイトの中にも透の姿は無かったしやっぱり巻き込まれた……?」


 駒井は明らかに表情が曇っていた。


 付き合いは短いといえど同じ任務をしてきた仲だ。心配になるのも無理はない。

 私は心配していない訳ではないがあいつは案外しぶといからな。


「いや、十中八九川崎は生きてると思うぞ」

「それは本当ですか?」

「確かに部屋は見事に吹き飛んでたし、瓦礫に血が付着していたが、瓦礫の下敷きになっているとしたら距離的に考えて血が城壁のところまで飛ぶことは無いだろう。体の一部が飛んだという可能性もあるが、何処にも川崎の体が一部も見当たらなかった」


 それに他の奴は気づかなかったみたいだが壁のところが少し歪んでいた。あれは光学迷彩を起動していたのだろう。


 西園寺は目で見たものを冷静に頭で整理し、川崎透が無事であると確信した。


「じゃあ何で透は姿を見せないんですか? 皆の前じゃなくてもいいから僕たちだけでも会ってくれればいいのに…」


「そこは川崎がいろいろ考えてのことだろう。私達と会わないほうがいいからか。それとも私達に会えないのか。どちらなのかは分からないがな」


 川崎は昔からそうだ。自分で勝手に行動するという点では組織に所属する身としては不合格だが、実力だけならば私より上と感じるほどだ。

 優秀な部下を持つと上司もそれだけしんどくなってしまうのかね。


 それにしても川崎が狙われた理由は何だ? 川崎が狙われたとなれば私も狙われる可能性があるだろうか?


「駒井、明日の夜に剣の相手をしてやろう」

「はい、分かりました……。ってえぇ!? 先生って剣使えるんですか!?」

「そりゃな、私を誰だと思ってる。お前の上司だぞ」


     *     *     *


 皆が部屋へ戻ったあと(たちばな)朱里(あかり)は昨日の夜、川崎透と話していた魔術師を探していた。

 川崎くんが無事かどうかなんて分からない。でもただ悲しんでるだけなのは嫌だ。

 あの魔術師ならきっと何か知っているはず。あの時川崎くんの身が危険だって言っていたから。


 そう思い魔術師を探していると廊下の角に真っ白なローブを着た人の姿が見えた。

 橘朱里は急いでその姿を追いかけるが廊下の角を曲がったところでさっき居たはずの姿は消えていた。


「私に何か用でも?」

「ひゃっ」


 突然後ろから声をかけられ、危うく悲鳴を上げてしまいそうになったため、必至に抑えようとして変な声が出てしまった。


「魔術師さん。貴方、川崎くんのこと知ってますよね?」


 橘朱里が魔術師にそう尋ねる。すると魔術師は周りに誰も居ないのを確認し、橘朱里に近づくと耳元で小さく囁く。


「ここではあまり話さないほうがいいです。場所を変えましょう」

「≪隠蔽≫」


 魔術師がそう言うと地面に魔法陣が浮かぶ。どうやら私にも魔術を使ったようだ。


「これで周りからは私達を認識出来ません。それでは行きましょう」


 そう言われ魔術師について行く。途中でクラスメイトやここの使用人とすれ違ったが全く気づかれる気配は無い。


 歩くこと数分後、連れてこられた場所はまるでゴミ屋敷だった。


 本棚に収まりきっていない本が床や机の上に積み重なっていており、崩れ落ちたのか本が散乱しているところもある。


 積み上げられている本は端によっており、通路はあるかと思いきや床には紙が散乱して、足の踏み場が無い。


「ここは……?」

「私の研究室です。すみません。少々散らかってますが気にしないでください」


 魔術師は床の紙を最低限だけ拾い上げながら橘朱里をテーブルへと案内する。


「これが少々ね……」


 この魔術師は絶対誰かと住むべきではと橘朱里は思ってしまう。


「はい、お茶でもどうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 魔術師からお茶を受け取り、少しだけ飲んでみる。

 あ、これ美味しい。


「確か貴方はアカリ=タチバナさんですよね。どうして彼のことを私に?」


「前に貴方と川崎くんが二人で話しているときに川崎くんの身が危ないって……」


「……聞かれてましたか」


 魔術師はやってしまったと言わんばかりに頭を抱える。


「確かにあの時点で彼の身はかなり危険でした。彼は貴方たちが訓練を受けている時何をしていたか分かりますか?」


「いえ……分かりません……。他の人が言うには自室で寝ていたそうですが……」


 橘朱里は異世界人の中でも特に魔力が多く、他のクラスメイトより長い時間、魔術の訓練を行なっている。

 もちろんそれは強制された訳ではなく自分から申し出たのだが休憩時間が短く、自由に行動出来る時間が少ないのだ。


「それは多分人形でしょうね。私もひと目見たときは騙されましたよ。彼は皆さんに内緒で城の外に出ていたんですよ」


「城の外に……? 何で外に出ていたんですか?」


「それは私にも分かりません。ただ秘密裏に出ていくのは正解ですね。この城内には貴方達が外に出るのを嫌がっている者もいますから」


「何故外に出ていくのを……?」


 ここ数日で城内の人達とたくさん話したが皆良い人だった。何故外に出るのを嫌がるのか気になって反射的に質問をしてしまう。

 魔術師は一瞬悩むが、その質問に対する答えは伝えないことにした。

 もしそのことを知っているとバレてしまえば橘朱里が危険に晒されてしまう可能性があるからだ。

 極上の魔力を持っているので、川崎透のように殺されたりはしないだろうが、それでも行動が縛られる可能性は十分にある。


「それ以上は貴方の身にも危険が生じる可能性が出てきますのでお話出来ません」


「でしたら彼は無事なんですか?」

「えぇ、無事なはずですよ。彼の魔力反応が消えてませんから。今は街にいるようですね」

「ほ、本当ですか!? だったら私を川崎くんのところに――」

「行って何をするんですか? 今の貴方にできることは何もありませんよ」


 魔術師は辛辣に橘朱里に向かって言う。橘朱里の魔力は確かに一級品だ。実力はともかく魔力だけで言えばこの国でも一ニを争うだろう。


「私だってちゃんと訓練を受けてるんです。だけど川崎くんは魔力も低いし訓練だって受けてないし危ないじゃないですか!」

「どうしてそこまで彼に執着するんです? 普段はそんなに話していることもないのに」

「それは…」


 橘朱里は言葉に詰まる。他人からしてみれば普段あまり話さない人にここまで執着するのは異様だ。


「ま、彼のことは私に任せてください」

「どういうことですか?」

「私は彼に味方だと宣言してしまいましたからね。ただ今すぐだと城内の者に怪しまれるので、後日彼のところへ行きますが」


 魔術師といえど不審な動きをしてしまえば、今度は自分がマークされかねない。


 そうなってしまうと行動に枷ができてしまって川崎透のように始末してくるかもしれない。それを避けるためだ。


 マークされてしまう前に行方をくらましてしまえば追跡される心配は無くなるし、安全に川崎透に接触出来る。


「そうですか……。あの……どうか川崎くんのことをよろしくお願いします……。」

「えぇ、彼のことは任せてください」


 しかし、彼は一体何者なんでしょうか? この城の警備を軽々と掻い潜って外に出るというのは、魔術でも使わない限り無謀だと思うのですが……。


 城に住み始めて四年が経つ彼女は、城の警備が如何に厳しいか知っている。無断で出ようにも、門を出るにも城壁を飛び越えるにもかなりの魔術の腕が要求される。

 だが川崎透はこちらの世界に来てまだ3日目で、迷宮の攻略に参加していないので魔術は学んでいない。

 誰かに教わったという可能性もあるが、外に出ていた二日だけでは腕もそこまで伸びないはずなのだ。


 魔術師は自分の世界に浸っていたが、橘朱里がじっと見ていることに気がつくと現実に引き戻された。


「あ、すみません。ついいろいろと考えてしまう癖が……」


 魔術師は橘朱里を部屋まで送った後、自室に戻り魔術の研究に勤しむのだった。

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