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エーテル・グレイス  作者: クロビー
第一章 タンゲル公国編
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逃げ惑う逃亡者

 市長室から逃げ出した俺たちは、兵士に見つからないよう、建物の陰に隠れながら移動をしていた。


「逃亡者はまだ見つからないのか!」

「それが……魔力痕跡も見当たらず……。手の空いている者は全て動員していますが、どの方角に逃げたかもさっぱりで……」

「たかだか子供ごときに何を手こずっている!」


 建物の陰からひょっこりと顔を出し、俺たちを探す兵士の様子を盗み見る。


「こりゃあ、下手に魔術も使えねぇな……」


 思わず歯ぎしりをする。

 エナの魔術の腕ならば、〈隠蔽〉を使って堂々と逃げることも可能性だろう。

 だが、魔力痕跡は必ず残ってしまう。

 兵士は何らかの方法で魔力痕跡を見つけることが出来るらしく、下手に魔術を使えば見つかってしまう。


「お前たちの班はここから北の地区を探せ。私の班は南の地区を探す」


 兵士は三人や四人で一つの班を作り、俺たちを探している。

 俺が顔を引っ込めると、少しして兵士が前を通り過ぎていった。


「よし、行くぞ」


 周囲から兵士が離れたのを見て、俺たちは再び足を進める。

 建物の陰に隠れては移動し、また建物の陰に隠れる。それを繰り返しながら、アクアガーデンの外へと向かう。


「魔術を使えないというのは、不便なものですね」

「全くじゃ」


 ヒューゲルが愚痴を溢し、エナがそれに共感する。

 攻性魔術以外はあまり使えない俺はそこまで不便には感じないが、二人にとっては不便に感じるのだろう。


「それにしても、アスカルは何か慣れた動きじゃな」

「ん? まぁ……そうかもな」


 当たり障りのない返事をするが、本当のことを言えば、隠密行動は俺の十八番だ。

 向こうの世界では、隠密行動、潜入捜査はよくやっていた。


「確かに、周囲の状況の把握、移動するタイミング、隠れる場所。どれも素人の動きではありませんね」


 こっちの世界は魔術を使って隠れるのが普通。そのため、魔術が使えない状況、今のような生身だけでの隠れ方には慣れていないのだろう。

 それに比べ、元の世界では隠密行動の動きを体に覚え込ませる必要がある。

 光学迷彩を使っていたとはいえ、無闇に身を晒せば見つかる。そのため、隠密行動は本人の判断力がものをいう。


 堂々としていられる魔術と、堂々とはできない光学迷彩では、隠れ方が異なる。

 今回ばかりは、経験の違いだろう。

 とはいえ、俺が働いていたのも二年ほど。

 組織内で言えば、俺の実力は下の下だ。


「あなたの世界では、魔術という技術も、魔物も存在しないと聞きます。他の異世界人の様子を見ても、人と戦うような技術は持っていない。あなたは何処でその技術を?」


 ヒューゲルがそう思うのも無理はない。

 俺がちょっと特殊なだけで、クラスメイトは一般人だからな。

 けど、ヒューゲルの疑問に答えるつもりはない。


「色々あるんだよ色々。それより、今はここから逃げることが優先事項だ」


 俺は適当にはぐらかし、周囲の索敵に戻る。

 ヒューゲルもそれ以上は、何も言ってこなかった。


「もうそろそろ、アクアガーデンを抜けられるはずなんだが……」

「やはり警備が厳重ですね」


 アクアガーデンの西区の端。街の出口付近の建物にて、俺たちは身を潜める。

 街の出口は兵士が見張っており、とても出られそうにはない。


「何処か別の道を……ん?」


 西区から出るのは諦めて、他の道を探そうと思ったその時。


「一体何が起こってるのさあああああああああ!?」


 誰かが兵士に追いかけられていた。

 追いかけられているのは小柄な少女で、狐の耳と尻尾を持っていた。髪は緑色で……。


「って、パラメアさん!?」


 何故あの人まで追いかけられているんだ。市長室にいた俺たちなら分かるが、パラメアさんは喫茶店でバイトをしていたはずだ。


「アスカル、どうしたのじゃ」

「それが……、パラメアさんが兵士に追いかけられてるみたいで……」

「何故あの人まで……?」


 流石にヒューゲルも、よくわからないといった様子だ。

 パラメアさんは必死に逃げているが、あの様子だといずれ捕まってしまうだろう。


「助けに行ったほうがいいんじゃ……」

「そうすると、見つかってしまうぞ?」

「でも見捨てるってわけにもいかねぇだろ」


 仕方なくとはいえ、この街に連れてきたのは俺だ。

 俺が連れてこなければ、パラメアさんが巻き込まれることもなかったはずだ。


「はぁ……アスカルはお人好しじゃのう」

「別にお人好しってわけじゃないんだけど……」


 ここで見てみぬふりをして、後で会ったときに気まずくなるのが嫌なだけだ。


「ここで姿を晒すのは、あまり良いとは言えないと思いますが」

「俺が勝手にやるだけだ。ヒューゲルは隠れてていい」


 さて、どうやって助けるかだが、運良くパラメアさんはこっちに向かって逃げてきている。

 俺たちの前を通り掛かったときに出て、追いかけている兵士たちを魔術で足止め。その隙にパラメアさんを連れて逃走がいいか。


「よし、行くぞ」


 パラメアさんが近づいたと同時に、俺たちは建物の陰から出る。


「あ! アスカルとエナちゃん!」


 パラメアさんが俺たちに気づき、こちらへ向かって走って来た。


「パラメアさん、早くこっちに!」

「た、助かるよ!」


 俺はパラメアさんの手を掴み、急いで兵士達から逃げる。


「貴様らは逃亡中のっ! お前たち、あの二人も捉えろ!」

「そう簡単に捕まってたまるかっ」


 パラメアさんから手を離し、追いかけて来る兵士の方を向き――。


「うおおおおらああああああああ!」

「ぐはっ」


 追いかけている兵士の一人を、思いっきり殴り飛ばした。

 飛ばされた兵士は他の兵士の進路を妨げるように倒れ、気絶した。

 それによって、兵士たちの足並みが少しだけ崩れた。


「ふっ!」


 そこにヒューゲルの追撃が入り、兵士たちの足が止まった。


「今のうちに、早く行きますよ!」

「悪い、助かった」

「礼なら後にしてください」


 そうして、一旦西区から離れるように、兵士から逃げ回る。


「どっか隠れられそうな場所はないのか!?」

「狭い路地を使うか?」

「いや、それだと挟み撃ちされる可能性がある。でもそうすると……」


 もう見つかってしまったし、いっそのこと魔術で一気に逃げるか?


「居たぞ! こっちだ!」

「まだ追いかけてくるのかよっ」


 考え事をしている内に、兵士たちが俺たちをまた捉えた。

 さっきとは違う班だろう。


「やっぱ魔術を使って一気に……」


 ふと、建物の陰から人の手が見えた。

 こっちに来いと言わんばかりに、手招きをしている。

 逃げた一般人か?

 とはいえ、このままあそこに逃げるわけにはいかないだろう。


「エナ、兵士を足止め出来るか?」

「うむ、出来るぞ」


 エナは走りながら、手のひらに魔法陣を浮かべる。


「ねぇねぇ、あの兵士と戦っていいの?」


 俺の隣を走るパラメアさんが、間の抜けた声で言ってきた。


「いやまぁ、追いかけられているわけなんだから戦ってもいいだろうけど、後遺症が残るような攻撃は……」

「なら、気絶させるのが一番じゃない?」

「いや気絶って……そう簡単に出来るもんじゃ……」


 魔術で足止めするのが、一番確実な手だ。

 エナに任せればいいと思い、パラメアさんを止めようとするが……。

 腰の小さなポーチから、パラメアさんは自分の身長より大きい杖を取り出した。


「よしっと」


 それを見て、俺は目を丸くした。

 ポーチには明らかに入らないサイズの杖。

 だが、間違いなく杖はポーチから出てきた。

 だが、俺が驚いたのはポーチから杖を取り出したことではない。


 ……似ている。

 俺の持っている倉庫と、明らかに似ている。

 俺の持っている倉庫は、特務機関で作られたもの。それと酷似していた。


「いっくよー!」


 パラメアさんが兵士に杖の先を向けた。

 そして、まるで狙いを定めるかのように構える。


「〈ラピッドファイア〉!」


 パラメアさんの持った杖の先から、魔力の固まりのようなものが、高速で数発放たれた。

 それが追いかけてくる兵士に次々と命中し、瞬く間に数人の兵士が倒れる。


「なっ、なんだ今の魔術は!?」


 兵士たちは一体何が起こったのかも理解出来ておらず、困惑のあまり足が止まっていた。


「今のは……」


 俺の知識範囲内で答えるなら、今のは間違いなく銃だ。

 だが、俺の知っている銃とは違い、魔力を飛ばしていた。

 そもそも、この世界に銃はないはずじゃ……。


「〈凍結〉!」


 すぐさまエナの援護が入り、残った兵士は足を氷漬けにされ、地面に固定された。


「あ、足が……!」


 兵士たちは必死に抜けようとするが、魔術によって生成された氷はびくともしない。


「今の内に行くぞ!」


 なんとか兵士たちを撒き、俺たちは手招きをしている人のところまで行った。

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