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エーテル・グレイス  作者: クロビー
第一章 タンゲル公国編
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俗世で生きるエルフ

 市長室が静寂に包まれる。

 俺は何も言葉を発さず、ただ目を丸くしているだろう。

 市長は自ら人間ではないと告げた。

 何故、俺達に言ったのだろうか。

 俺達は気づいていなかったのだから、隠したままでいいはずだ。

 隠したところでデメリットは無いし、明かすことにメリットは無い。

 むしろ、明かすことで発生するデメリットが大きいように思う。

 俺達がこのことを誰かに話さないという保証もない。

 それなのに何故、会ったばかりの俺達に明かしたのか。


「エルフ……というのは聞いたことがあるかね?」

「本で少しは」


 エルフは精霊の森に居ると言われている種族だ。

 魔力や身体能力が高く、魔法も使うことが出来る。

 種族としての特徴は、やはり寿命が長いことだろう。


 本で少し……というのも、エルフは現代に居るかどうか分からないのだ。

 三百年前の神魔大戦終結後に、エルフは俗世から姿が消えている。

 まぁ、姿が消えたのはエルフだけではないらしいが。


 人間ではないなら、一体イルヴァーナ市長は何者なのか。

 エルフの話題を出したということは、そういうことなのだろう。


「でも何故俺達にわざわざ明かしたのですか? そちらにメリットがあるようには思えませんが」

「エナ=ルージュくんと話す上で必要だと感じたからだ。人間には彼女を吸血鬼と見抜くことは出来ないからね」

「……気づいていたんですね」


 先程、市長が小さく呟いた時に聞こえた言葉は、聞き間違いではなかったみたいだ。


「エナ=ルージュ、君は一体何者だ? 吸血鬼は三百年前からエルフ同様、姿を消しているはずだ」


 そう問われるも、エナは口を開くことが出来ない。

 エナが何者か、という問いには過去が大きく関係してくる。

 エナが口を開かないのを見て、イルヴァーナ市長は俺に目を向けた。

 俺が事情を知っていると思ったのだろう。


 だが、俺も口を開く気はない。

 エナのことを聞かれて、本人の同意無しに他人が話すのは違う。

 これはエナ自身のことであり、自分で判断することだ。


「……吾輩はずっと……封印されておったのだ」


 エナが口を開き、自身のことを話し始めた。


「封印……?」

「正確には、広大な結界の中に閉じ込められておった」


 その話を聞いて、イルヴァーナ市長は更に不思議そうにエナを見つめる。

 エナの話し方的に、要所しか話すつもりはないようだ。


「吾輩は外へ出ることが出来ず結界の中で暮らしておったのだが、そこをアスカルに助けられたのだ」


 まぁ、要所としてはそんなものか。

 流石に結界に閉じ込められた理由は話せない。

 今ここに居る理由としては弱いかもしれないが、エナは事情が特殊だからなぁ。


「……結界の中に閉じ込められた理由を聞いてもいいだろうか?」


 イルヴァーナ市長の表情が少しだけ強張る。

 無理もない。結界で閉じ込めるというのは、しなければいけないほどの理由がないとしないことだ。


「それは……吾輩を守るために……」

「守る?」

「吾輩が殺されそうになったから……だと思うのじゃ」

「自身で結界を張ったわけではないのか?」

「あの時の吾輩にそんな力などなかった」


 吸血鬼になったばかりだし、魔術も魔法も知らなかったみたいだからな。


「他の吸血鬼は? 何故、君のような幼子が一人なんだ?」

「他の吸血鬼については……何も知らぬ。吾輩は何年も独りじゃった」


 ……ん?

 そう話すエナに、少しだけ違和感を覚えた。

 少しだけ間があったような……?

 まぁ、大したことじゃないか。


「ちょっと待ってくれ、君は何年生きている?」

「三百年は生きておるが……」

「それは……大戦中から生きているのか?」

「うむ」

「……どういうことだ?」


 イルヴァーナ市長はそう言い、エナをじっと見つめる。


「あの……どうかしましたか?」


 吸血鬼が三百年生きているなんて、不思議な話ではない。

 じゃあ、イルヴァーナ市長は何に引っかかったんだ?


「……吸血鬼といえど、子供のまま成長が止まり、何年も生きるということはない。必ず成人の姿にはなるはずだ」

「それは多分……吾輩が元は人間だからであろう」


 その言葉に、イルヴァーナ市長は目を見開く。


「人間が吸血鬼になったなど聞いたことは……いや、それなら今までの話にも筋は通るか?」


 一人で何かを考えている様子。


「それにしても、こんな子供がまさか人間から吸血鬼になったとはね……」

「やっぱり、信じられないですか?」


 思わず、そう口にした。

 だがイルヴァーナ市長は、こちらを安心させるように微笑んだ。


「信じていないわけではない。人間が吸血鬼になれることも知っている。だが、こうして当事者を見るのは初めてのことでね。少々驚いてしまった」


 イルヴァーナ市長の様子を見る限り、人間から吸血鬼になったという例は、ほとんどないさそうだ。

 エナのような特殊な場合を除いて、吸血鬼が自ら血を与えるということはまずしないのだろう。

 そもそも、吸血鬼が姿を見せることがないからな。


「長く生きしすぎたと思っていたのだが、いやはや人生というものは何があるか分からないものだ」


 長生きと言っても、イルヴァーナ市長の言う長生きがどのくらいなのか想像が出来ないな……。

 寿命の長いエルフにとっては、どのくらいで長生きと言うのだろうか。


「私の年齢が気になるかね?」

「あ、えっと……少しは……」


 顔にでもわかりやすく出ていたのだろうか。

 まぁ、人のコミュニケーションは六割ほどが視覚情報だとも言われる。

 つまり、人と話さなくてもコミュニケーションは取れるのだ。

 ……果たしてコミュニケーションと言えるのだろうか。まぁいいや。


「ははは、素直なのは嫌いじゃない。けど、私も正確な年齢はもう覚えていなくてね。少なくとも、三百年は生きているということくらいだ」


 エナと同様に、大戦を経験しているということか。

 それなら、三百年前の勇者のことも知っているはず。

 もしかしたら、何か異世界に戻る手掛かりを得られるかもしれない。


「イルヴァーナ市長、聞きたいことが――」

「静かにっ」


 途端にイルヴァーナ市長の表情が一変する。

 先程までの優しい表情ではなく、何かを警戒しているようだった。


「何やら外が騒がしいな」


 イルヴァーナ市長がそう言って立ち上がり、外を見るために窓へと近寄る。

 少々気になるが、イルヴァーナ市長の隣に行くのに気後れしてしまった。

 だがここから外なら、聴力を上げれば聞こえるか。

 超能力を使い、聴力を外の人の声が聞こえる程度に変える。


『いきなり何をするんですか!』

『命が惜しくば、黙って大人しくしていろ!』


 聞こえてきたのは、女性と男性が揉めている声。

 だが、その会話だけでは情報が足りない。

 実際に目にしてみないと、何が起こっているのか分からない。


 今度は聴力の精度を上げて、外の音を聞いてみる。

 あまり脳への情報量は増やしたくないんだが……。


「っ……」


 ピリッと電気が走ったような頭痛に、思わず顔をしかめる。

 慌てて聴力の範囲を少し狭める。


 聴力を上げるということは、それだけ脳への情報が増えるということ。

 対象を絞って情報を抑えるなんて細かい芸当は出来ないため、聴力を少し上げただけでも脳への負担が普段の何倍にもなる。

 俺の超能力の使い方が、ただ下手なだけなんだろうけど。


 再度、耳を澄ます。

 足音がこっちに近づいて来ているか……?

 複数の足音はどんどん大きく、鮮明に聞こえるようになっていく。

 その足音と共に、カシャンカシャンという聞き覚えのある音も聞こえてくる。

 この音は確か、鎧を着た騎士が歩いている時と同じ音だ。


 一般市民が鎧を来ているということはあり得ない。

 冒険者なら鎧を来ている人も居るが、この観光都市でそんな冒険者は見かけたことがない。

 例え冒険者にしても、人数が多すぎる。

 数十人全員が鎧を着ているとなると、それはもう国家組織のレベルだ。


 音を聞いている間にも、足音はどんどん近づいてくる。

 目的は……この市長室か。

間違えて違う作品のほうに投稿してました!

すみません!

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