隠せない超能力
「さて、一つ確認したい」
「なんでしょうか」
確認するということは、ヒューゲルから聞いた話をそのまま信じているわけではなさそうだ。
まぁ何を話したかにもよるが、ヒューゲルが知っている俺のことと言えば、俺が異世界人であるということ。
俺の力までは、気づいていた素振りは無かった。
「君は、異世界人で間違いないのかな?」
「それは……」
すぐには答えられない。
イルヴァーナ市長がどんな人物で、誰とどんな繋がりを持っているのかわからない以上、細心の注意を払いながら会話をするべきだろう。
もし俺が異世界人だと分かれば、アルストラに引き渡そうとする可能性だってある。
「質問に質問で返すことは無礼だと重々承知なのですが、もし俺が本当に異世界人だとして、どうなさるおつもりでしょうか」
「どう、というのは?」
「俺の扱いに関してです。もし俺が本当に異世界人ならば、無視出来る存在ではないと思います」
アルストラに引き渡されなくても、タンゲルに居るクラスメイトと同じ場所に連れて行かれる可能性がある。
そうなると、結果的に行動が制限されることに変わりはない。
「もし君が異世界人なら、到底無視することは出来ない。しかし、私が君を縛り付ける権利など無い」
「……そうですか」
真っ直ぐイルヴァーナ市長の目を見る。
言葉は少し遠回しだが、俺に何かをするつもりはないようだ。
「……間違いありません。俺は異世界人です」
「……そうか」
イルヴァーナ市長は何かを考えるように、肘をついて顔に手を当てる。
「あの……俺のことを信じるんですか?」
「むっ?」
「俺が異世界人だという客観的な証拠はありません。それに、俺が嘘をついている可能性だってあるはずです」
イルヴァーナ市長はヒューゲルから聞いただけであり、実際に見たわけではない。
ヒューゲルだって、俺が異世界人として暮らしていた時は見ていない。
エレナ=ザイートから聞いたというだけだ。
「……君の言う通りだ。今この状況で、君が異世界人だと断定出来るような客観的証拠はない。私の立場からしても、当然疑うべきことだ」
俺の言葉を聞いて、イルヴァーナ市長は頷いた。
これが一般人なら全く信じてもらえないだろう。多分、俺が馬鹿にされるだけだ。
だがイルヴァーナ市長の場合、異世界人についての情報を持っている分、俺が異世界人ではないとすぐに決めつけはしないだろう。
だからと言って、俺が異世界人だと信じることも普通はしないはずだ。
「だが、それはあくまで客観的証拠に過ぎない。私には私なりの根拠があって、信じているだけだ」
「根拠……というのは?」
「私は普通の人とは違ってね。魔力とは違うものが見えるんだよ」
「っ!?」
魔力とは違うもの……ということは、エーテルが見えているということか?
確かにそれなら、俺が異世界人だという根拠になり得る。
エーテルはこの世界で聞いたことがないことから、元の世界にしかないものと考えていい。
「……エナ、ちょっといいか?」
「なんじゃ?」
小声でエナと話す。
この世界に来てから、俺の持っているエーテルに気づいたのはエナ一人だけ。
魔力とは違う力を持っていることはシュバルツさんにも気づかれたが、それはエーテルに気づいたからではない。
「普通の人が俺の超能力に気づくなんてことがあるのか?」
「ない……とも言い切れぬ。吾輩は長い間生きておるが、俗世に詳しいというわけではない。普通の人間の中にも、吾輩と同じように魔力とは違う力が見える者が居ても、おかしくはないであろう」
エナも俺もこの世界に詳しいわけではないからなぁ。
それに、エナ自身が人間じゃないからな……。
「じゃが、デューク=シュバルツやエレナ=ザイートですら、アスカルの力には気づいておらんかった。相当な実力を持つ者でさえじゃ」
魔力に精通しているエレナ=ザイートも気づいていなかったとなると、まず常人ではあり得ないか……。
「吾輩と同程度の魔力を持っておるか、特殊な目でも持っておるのか、はたまた人間ではないのか」
「一番現実的なのは魔力か……」
特殊な目を持っているかどうかは分からない。
ただ人間ではなかったとして、何なんだ?
人間以外の種族といえば亜人だが、動物のような身体的特徴はない。
吸血鬼やエルフ、龍などは三百年前以降、姿を消しているらしいからな……。
「そんなに私が不思議かな?」
「あ、いや、えっと……」
会話が聞こえていたわけではなさそうだが、どんなことを話しているかは分かったのだろう。
「…………」
イルヴァーナ市長が、ちらっとエナに目を向けた。
「……吸血鬼を連れている君になら、話してもいいか」
「……え?」
今、確かに吸血鬼と言ったよな?
俺の聞き間違いじゃないはず……。
そう思って隣を見ると、エナも口を開いて驚いていた。
「アスカル=トキサカくん、良く聞いてほしい」
イルヴァーナ市長の真剣な表情に、思わず背筋が伸びる。
「――私は人間ではないんだ」




