アクアガーデンの市長
昼食を食べ終わった後、俺達は市長の居る建物までやってきた。
「この扉の奥に、ソフィア様がいらっしゃいます。くれぐれも失礼のないように」
アクアガーデンの市長、ソフィア=イルヴァーナ。
長年アクアガーデンの市長を努めている人物だ。
アクアガーデンは元々港町というだけだったが、近年急成長を遂げ、今のようなリゾート特区が出来上がったらしい。
現在は国営カジノの誘致も行っているとか。
そのような功績から、住民に尊敬と信頼をされている人らしい。
「ウィステリアです。先日お話したアスカル=トキサカさんと、エナ=ルージュさんを連れてまいりました」
ヒューゲルが扉をノックする。
「どうぞ、入りたまえ」
「失礼します」
扉の奥から女性の声が聞こえ、ヒューゲルは扉を開けた。
長年努めているっていうことらしいし、貫禄のある人なんだろうなぁ。
そう思いながら扉の奥に入ると、女性がいた。
他に人の姿はない。
ということは、あの人がアクアガーデンの市長なのだろうか。
「よく来てくれたね」
優しさを感じさせる笑みを浮かべながら、真っ直ぐに俺達を見据えている。
比べて俺は緊張しっぱなしで、動きもぎこちない。
「君がアスカル=トキサカくん、君がエナ=ルージュくん……でいいのかな?」
「え、えぇ、初めまして」
「初めまして。もっとこっちに来てくれて構わないよ」
椅子に座っている女性に言われるが、本当に行ってもいいのだろうか。
隣に居るヒューゲルにちらっと視線を送ると、小さく頷いてくれた。
「もう気づいているとは思うが、私がアクアガーデンの市長、ソフィア=イルヴァーナだ」
「アスカル=トキサカです」
「エナ=ルージュじゃ」
俺とエナは会釈をして、自己紹介を済ませる。
「立ったまま話をしていては、疲れるだろう。ソファにでも座りたまえ」
「……では、お言葉に甘えて」
市長に促され、俺とエナはソファに座る。
ヒューゲルは立ったままだ。
ということは、俺達はこの人と直接話すってことか……。
「すまないね、急に呼び出したりして」
「いえ、特に急ぎの用事があるわけでもありませんから……」
俺達の前に市長が座る。
落ち着いていて柔らかい印象を感じるが、それと同時に威圧感……みたいなものも感じる。
「あの……」
「なにかな?」
「俺達はなんで呼ばれたんですか?」
イルヴァーナ市長がわざわざ外国から来た人に会うなんて、普通はしないだろう。
しかも、ここは観光都市。
外国からの客も多い中、何故俺達だけが呼ばれたのか分からない。
一緒に居たパラメアさんは呼ばれていないのに。
ちなみにパラメアさんもついていくと言ったのだが、ヒューゲルが却下した。喫茶店の店長にも却下されていた。
「ヒューゲルから君達の話を聞いて、少し興味を持ったのでな」
ヒューゲルから話を聞いた……って言っても、何処から何処まで話したのだろうか。
俺が異世界人だということも知っているのか?
「それにしても……、君は面白い子と一緒に居るのだね」
隣に座るエナのことをじっと見て、イルヴァーナ市長は微笑んだ。
「ヒューゲル、君は席を外してもらえるだろうか。それと、誰もこの部屋には入れないように」
「畏まりました」
ヒューゲルは頷いて、ドアの前まで行く。
「お二人とも、また後で」
「おう」
「うむ」
部屋を出ていくヒューゲルに、小さく手を振る。
ヒューゲルが居ては駄目な理由があるのだろうか。
俺が異世界人ということは知っているから、特に問題はないように思えるが……。
というか前にヒューゲルが言っていた「上の人」って、もしかしなくてもイルヴァーナ市長のことなのか?
「つかぬことを伺いますが、ヒューゲルとイルヴァーナ市長はどのようなご関係で?」
「ただの上司と部下みたいなものだよ。ヒューゲルは私の手伝い役、といったところかな」
俺と同じくらいの年齢でか……。
ヒューゲルが優秀なのは言動からも見て取れるが、そこまでとは思ってもいなかった。
「なんでヒューゲルを? 俺と大して年齢は変わらないですよね?」
「私は彼の祖父にお世話になってね。彼自身も優秀だったから、側に置いているわけさ」
てことは、ヒューゲルの祖父も優秀な人だったのだろう。
まぁでも、学校とかには行かないのだろうか。
「ま、本人のいないところで話をするのは、あまり気分のいいものではないだろう。ヒューゲルの話は終わりにして、本題に入っても良いだろうか」
「それもそうですね」
ヒューゲルのことは気になるが、それはまた今度本人の口から聞けばいいだろう。




