パラメアのバイト先
タンゲルに来てから一週間が過ぎた。
ヒューゲルの助けもあってか無事に宿泊場所を確保し、何事もなく過ごせている。
ちなみにパラメアさんは、日中バイトをするという条件で同じ部屋に泊まっている。
働かざる者食うべからずってことだ。
今の俺は働いていないけど。
「勇者に関する記述の本は……まだあるな」
今頃、義明や西園寺先生は何をしているのだろうか。
義明は迷宮の攻略に行っているのだろう。
というかそもそも、迷宮を攻略する意味があるのか。
王様曰く、魔王に対抗するための神装が眠っているらしいが……。
そんなことに時間を割くくらいなら、騎士団の装備を整えるとか、武器を作るとかに時間を割いたほうがいいのではないだろうか。
神装とやらは強力な武器なのだろうが、存在するかどうか、手に入るかどうかも分からないものに執着するよりも、より建設的な案を実行したほうが俺はいいと思う。
まぁ、そのあたりは全て王様の考えが優先されているのだろう。
誰か近くに王様を止める人は居なかったのかよ。
シュバルツさんが騎士団長だったら、きっと王様を止めていただろうし、異世界人の扱いも違ったものになっていたはずだ。
決してフレデリクさんが悪いというわけではないが。
西園寺先生は未だに放置状態なのだろうか。
流石にそんなことはないと思うが……。
俺と西園寺先生が放置されていたのも一時的な措置だったし、他国への派遣も行っているから、流石にそんな余裕はないだろう。
まぁ、西園寺先生は戦うことになっても、それほど問題はないと思う。
なんたって、俺に戦いの技術を教えたのは西園寺先生だからな。
確か、義明と一緒に西園寺先生から指導を受けていたはずだ。
「勇者は魔王を封じた後、自らの力を後世に残すため、自らの武器に自らの魔力を全て注ぎ込んだ。それこそが神装である」
本に書いている文を、口に出して読んでみる。
神装はそれ自体に膨大な魔力が秘められていると言われている。
だがそうすると、疑問が残ってしまう。
勇者が神装を作ったというのなら、国が厳重に管理していざというときのために保管していればいい話だ。
何故わざわざ人が立ち入ることの出来ない、迷宮の奥に神装があるのだろう。
理由があってそこに勇者が置いたのか、元々は迷宮ではなかったのか。
まぁ何にせよ、俺は迷宮の攻略に参加する気はない。
何ならこっちの世界の厄介事に関わる気もない。
俺達がこっちの世界に居た事実は無くならないが、元の世界に帰ったら俺達は無関係だ。
関係のないことなんて、あとはどうなろうが知ったこっちゃない。
俺達が助ける理由も義理もない。
「はぁ……やっぱり何も無いな」
開いていた本を閉じ、机の上に置く。
タンゲルに来てから毎日街中の図書館で書物を漁っているが、元の世界に帰る方法に関係のありそうなものは一つもない。
こういうところにはないのかも。
俺が今まで会った人達が知らないのだから、普通に見つけられるような場所には置いていないか。
三百年前の勇者が記した書物でもないかなぁ……。
あったとしても、俺みたいなのが見れるところには無いだろうけど。
「エナとパラメアさんのところに行くか」
エナもパラメアさんと一緒に居るはずだ。
様子見がてら昼食を食べよう。
机の上に積んでいた本を棚に戻し、図書館を後にする。
それから少し歩いて街の商店街に入る。
ちなみにここはアクアガーデンではあるが、リゾート特区と呼ばれる地域ではない。
よって人は多くいれど、リゾート特区のような混雑さはない。
多くの人と行き交う中、商店街を抜けたところにある喫茶店へと入った。
「いらっしゃいませー!」
店に入ると、女の子の元気な声が聞こえてきた。
「って、なんだアスカルかー。何しに来たのー?」
喫茶店の制服を着たパラメアさんが、俺の前に現れた。
元気な声を出しているってことは、問題なくバイトは出来ているってことだな。
「ちょっと様子見がてら昼食をな。ところで、エナは何処に?」
「あそこに居るよ」
パラメアさんと同じ方向に目を向けてみる。
窓際の端の席で、エナは外をぼーっと外を眺めているみたいだった。
「エナちゃんと同じ席で良いんだよね?」
「あぁ」
俺が近づくと、エナは窓から視線を外した。
「アスカルか、調べ物は良いのか?」
「調べてても一向に何も見つからないから、きりのいいところで一旦終わって、飯にしようと思ってな」
「街にある普通の書物じゃからな。仕方あるまい」
そう話しながら、俺はエナの正面に座る。
「前から聞きたかったんだけど、アスカルって何を調べてるの?」
「あー……まぁ、色々とな」
答えられないことで、つい言葉を濁す。
「それより、何かおすすめのものとかあるか?」
メニュー表を開いて、パラメアさんに尋ねる。
「無難どころで言うと、パスタじゃないかな? あとはオムライスとか?」
「じゃあ、オムライスで。エナはどうする?」
「吾輩はミートソースというものを食べてみたい。あとパフェを一つ」
パラメアさんは注文を聞きながらメモを取る。
まだ一週間しか働いていないが、様になっている。
「オムライスとミートソース、あとパフェね。かしこまり〜」
パラメアさんは注文を終わると、厨房まで行った。
「オムライスとミートソース一つずつ。食後にパフェを一つお願いしまーす!」
「そんなに大きい声を出さなくても聞こえるわよ。まぁ、元気なのはいいことだけどねー」
俺のところまではっきりと聞こえるパラメアさんの声に、厨房に居る女性が笑顔で答える。
確かこの店の店長だ。
「おっ、いらっしゃいませー!」
店の入口が開けられ、パラメアさんが元気な声で言う。
また新しい客が来たらしい。
「って、今度はヒューゲルかー。連続で知り合いが来るなんてこともあるんだね〜」
「トキサカさんとルージュさんを探しているのですが、宿に居なかったのでこちらに居るのではないかと思って来たのですが……」
「二人なら、あそこに居るよー」
パラメアさんが俺達に指を差した。
「じゃあ、あたしは仕事に戻るね〜」
自分に用事はないと分かったパラメアさんは、他の客のところに行ってしまった。
「こちらに居たのですか」
「一週間ぶりだな。で、何の用だ?」
ヒューゲルが俺達に構う理由は、もうないはずだが。
「実は、お二人に会いたいという人が居まして」
「俺達に?」
「はい」
タンゲルに俺の知り合いなんて居ないはずだ。
「一体誰なのだ? 吾輩達に会いたいと言う者は」
エナも首を傾げる。
まさかクラスメイトなわけがないだろうし。
アルストラから来た人か?
それとも、俺のことを一方的に知っている誰かが居るのか。
「……アクアガーデンの市長です」




