無一文は遠慮を知らない
港を出てから数十分後。
目的地であるアクアガーデンに着いた。
「すごい都会だ……」
「あの建物は何階あるのだろうな?」
街の雰囲気は観光地そのもの。
十階以上はあるであろう宿泊施設や、通りに建ち並ぶ飲食店。
アルストラで見ていた街並みに比べて、かなり近代的な街並みだ。
通りは多くの人が入り乱れていて、走れるような場所ではない。
リゾート特区だから夏が一番混雑するのだろうが、冬の今でも十分混雑している。
もしこれが夏だったら、身動きが取れなかったんじゃないか?
「さて、まずは――」
ヒューゲルが何かを言おうとしたとき、「ぐぅ〜」と大きな音が鳴った。
「お腹減ったよ〜……」
リッテラートさんが倒れかけていた。
ここに来るまであった元気は何処に行ったのやら。
「……時間も丁度良いですし、近くのお店で食事にしましょうか」
「賛成ー! そうと決まったら、早く行くぞー!」
食事にすることが分かった瞬間、リッテラートさんは元気を取り戻した。
分かりやすいなーこの人。
「単純なやつじゃのう」
「扱いにくいよりは良いんじゃないか?」
「それもそうじゃな」
そんな感じで食事をすることになったんだが、ここは観光地。
それに丁度昼時なのも相まって、客は何処も多かった。
「やはり何処も人が多いですね」
通りの店を回ること七軒。
全ての店がかなりの待ち時間が発生した。
「ほげー……」
リッテラートさんは既に力尽きていて、またしても俺が背負っている。
「リッテラートさんがヤバいし、なんでもいいから適当なところに入らないか?」
「……そうですね」
そうして適当な店に入って待つこと十分程度。
ようやく食事をすることができた。
「がつがつがつ……はぐはぐはぐ……」
リッテラートさんは料理を凄い勢いで口の中に入れていく。
男の俺が憧れそうになるほどの食いっぷりだ。
「ごちそうさまー!」
あっという間に食べ終わったリッテラートさんは、手を合わせながら元気良く言った。
こんな幸せそうな顔をするなんて、料理を作った人も嬉しいだろう。
「ごちそうさまでした」
「美味かったのう」
俺とエナも食事を終えて、手を合わせる。
あとは宿探しだな。
「これから俺達は宿を探しますけど、リッテラートさんはどうするんですか?」
「あたしもついて行こっかなー」
「……お金はないんじゃ?」
「一緒の部屋なら、あたしは実質タダで泊まれる!」
驚きのあまり言葉を失ってしまった。
今、一緒の部屋に泊まるって言ったよな?
聞き間違いではないだろう。
「いやでもそれは……」
確かにそうすれば、代金は部屋一つ分で済む。
だがその前に、ついて来る理由が知りたい。
もし何処までもついて来られると、俺が自由に行動出来なくなってしまう恐れがある。
俺が異世界人だということを、知られないようにしないといけないからな。
もし知られて騒ぎになってしまうのは避けたい。
「リッテラートさんは何故ついて来るんですか?」
ヒューゲルが警戒心を抑えながら、リッテラートさんに問う。
警戒されているのを知ってか知らずか、リッテラートさんは特に気にした様子もなく、口を開く。
「うーん……面白そうだからかなー。だってエナちゃんって、凄く魔力高いでしょ?」
「……本当の理由は?」
リッテラートさんがついて来る理由はそれだけではない気がする。
エナの魔力が高いということに気づいたのは驚いたが、エレナ=ザイートやエナのように他人の魔力が分かる人に会ってきたからな。
今更騒ぐようなことじゃない。
「その……」
言いにくそうにリッテラートさんは俯く。
「養って欲しいなー……なんて……」
「はぁ……」
思わずため息が出てしまった。
ヒモになる気満々じゃねぇか。
「よし、置いて行くか」
リッテラートさんを置いて、俺達は店を出ようとした。
「待って待ってー! お願いだから置いていかないでー!」
後ろから慌てて追いかけてきて、俺の脚にしがみついてきた。
「あたしこのままだと寝床もご飯もないんだよ〜! お願いだから置いていかないで〜……」
「俺には関係ないことじゃないですか! いいから離してください!」
「絶対に離さないー!」
そのままズルズルと引こずったまま、店を出てしまった。
大声でやり取りをしていたせいか、大通りに出た瞬間周りの視線が突き刺さる。
リッテラートさんは折れる気がしないが、俺も折られるつもりはない。
「大分注目が集まっていますので、取り敢えず移動しませんか?」
「アスカル、ここで女性をそのような扱いはせぬ方が良いと思うぞ……」
はっとして周りを見渡すと、俺達二人に視線が集中していた。
「痴情のもつれか?」
「別れちゃったのかな?」
「いやでも、寝床がどうこう言ってたぞ?」
周囲の人の間では、色々な憶測が飛び交っていた。
主に俺とリッテラートさんが付き合っていて、何かしらあったのではないかという勘違いが大半だが。
「……分かった。移動しよう」
流石に大勢の視線に耐えられるほど、俺は強くない。
というか恥ずかしすぎて、今すぐこの場から去りたい。
「リッテラートさん、行きますよ」
「ついて行っていいの!? やったー!」
ようやく俺の脚から離れる。
周りの視線も全く気にしていない様子で、何事もなかったかのように鼻歌を歌い始めた。
「これから毎日ご飯があるぞー!」
嬉しそうに笑うリッテラートさん。
今日食べた食事が、人の金だということ忘れてないだろうな?
「思ったのじゃが、こっちでは金銭面はどうするのじゃ? アルストラには月猫団のギルドがあったが、タンゲルには無いのだぞ」
「まぁ、数週間なら収入なくても大丈夫だけど、それ以上はきついからな……。ヒューゲルにでも聞いてみるか」
この地域で仕事をしているなら、金を稼ぐ方法くらいは教えてもらえるだろう。




