無一文の新たな仲間
乗り心地の悪い馬車に揺られること一時間。
ようやく港のある街まで来た。
騎士や勇者がいたこともあってか街に入るまではスムーズだったのだが、勇者の話を聞きつけた街の人々が押し寄せ、馬車の進む速度は明らかにゆっくりとなっていた。
それも騎士達の働きによって徐々に解消され、人混みを抜けることが出来た。
「やっと着いた〜っ」
港に着いた馬車から降り、身体を伸ばす。
馬車の中でずっと座っていたから、腰が痛い。
「僕は先に船に乗ります。それでは」
「ああ、またな」
港に着いてヒューゲルと別れる。
ヒューゲルは船に行ってしまったが、出港までまだ時間はある。
盗賊に襲われるというハプニングがあったものの、概ね時間通りだ。
「うわぁ、でっけぇ船だなぁ」
「見て見て! あそこに漁船もいるよ!」
「うおっ、魚もでけぇな」
馬車から降りたクラスメイトがはしゃいでいる。
これでもし制服を着ていたら、ただの職場見学だな。
更に言えば、西園寺先生が居れば完璧。
「ここがミラミス港か……」
アルストラ王国の西にある港で、アルストラ王国にある二つの港の内の一つ。
もう一つの港はアルストラ王国の南にあり、そっちはグランシュとの交流が主になっている。
「本当にでかいな……」
「かなりの人数が乗られるのう」
停泊している船に目を向ける。
元の世界で見かけるような鉄鋼で作られた船ではなく、木造の船だ。
こっちの世界はあまり科学が発達していないとはいえ、魔術があるのだからもっと頑丈な材料で作れるのではないのだろうか。
まあ、供給の問題もあるだろうから何も言えないが。
「俺達はどうする?」
船の出港まではまだ時間がある。
ヒューゲルは先に船に行ってしまったし、クラスメイトも騎士に案内されて次々と船に乗っている。
「その前に、あやつをどうにかした方が良いのではないか?」
エナが乗っていた馬車に目を向ける。
馬車の荷台に女の子が放置されたままだった。
「……忘れてた」
リッテラートさんが馬車の積荷と一緒に伸びたままだ。
動く気配がなくて騎士も困っているし、起こしてあげた方が良いか。
「リッテラートさん、起きられますか」
「お腹減った〜……」
「ミラミス港に着きましたよ」
「何処か美味し食べ物があるお店に連れて行って〜」
駄目そうだ。
騎士は他にすることがあるだろうし、手の空いている俺らで何とかするか。
だがここには来たことがないから、何が何処にあるのか分からない。
何処かに店がないか騎士に聞いてみるか。
「近くに飯屋ってありますかね?」
「ここから街に向かう途中に何軒かありますが……、よければ案内しましょうか?」
「いえ、案内は無くて大丈夫です。教えていただきありがとうございます」
港から少し離れることになるが、船に乗り遅れるということはないだろう。
俺達が食うわけじゃないからな。
「リッテラートさん、行きますよ」
「運んで〜……」
本当に年上なのだろうか。
そう疑問を抱きながら、リッテラートさんを背負う。
身長や体重も年上の女性とは思えない。
年下の女の子を背負っている気分だ。
そうしてリッテラートさんを背負いながら、目に入った店に入る。
まだ昼は来ていないので、客は少ない。
入ってすぐに見えたメニュー表を見てみる。
港のある街なのもあってか、海鮮が多い。
どれも美味しそうだが、俺とエナは食べないから関係ない。
というか、これ以上付き合う必要ないな。
「俺達はもう行きますから、あとは一人で何とかしてください」
リッテラートさんを降ろして店を出ようとすると、服を掴まれた。
「あたし、お金持ってないの……」
リッテラートさんが必死に上目遣いで訴えてきた。
俺に奢って欲しいということだろう。
俺が他人に奢る理由なんて何もないし、金が消えて損するだけなんだが……。
「お願い〜安いのでいいから奢って〜」
「アスカル、奢ってやれぬか? 何か見てて心苦しいぞ……」
俺にしがみつくリッテラートさんに、エナが同情の眼差しを向けた。
「はあ……。仕方ないですね……」
「ありがと〜! じゃあ、これ食べよっかな〜」
リッテラートさんが海鮮丼に指を差した。
まあ、値段もそう高くないからいいか。
適当な席に座ってから少し待つと、海鮮丼が運ばれてきた。
美味しそうだ。
「いっただっきま〜す」
海鮮丼にガツガツと食らいつくリッテラートさん。
野宿していたくらいだし、余程腹が減っていたのだろう。
「ところで、二人が乗っていた馬車って何かあるの? 普通、騎士が護衛についてるなんてことないよね?」
リッテラートさんが海鮮丼を食べながら聞いてきた。
勇者がタンゲルに行くことを知らないのか?
一応公表されていることだし、言っても問題ないよな?
「他の馬車に勇者が乗っていたんですよ」
「勇者? 何で?」
「タンゲルに行くみたいです」
嘘をついているようには見えないし、本当に知らなかったのか。
勇者がこの世界に来たことは知っているみたいだけど。
「うわー勿体ないことしたなー……。せっかく勇者と話せたかもしれないのに……」
勇者と話せなかったことを悔やむリッテラートさん。
普通の一般人の反応だな。
「二人も勇者なの?」
「いえ、違います」
「じゃあ、何で勇者と一緒の馬車に?」
「俺達もタンゲルに行くからです。事前に馬車を手配していて、たまたま勇者と被ったんですよ」
嘘だけどな。
勇者と一緒なのはたまたまじゃなくて、エレナ=ザイートにそうなるよう手配してもらったからだ。
まあ、本当のことを言うわけにもいかないしな。
「二人ともタンゲルに行くんだー。っと、ごちそうさまー。あー美味しかったー!」
リッテラートさんはあっという間に食べ終わった。
余程腹が減っていたのか、米粒すら残っていない。
「ねぇねぇ、あたしもついて行って良いー? まだタンゲルには行ったことないんだよねー」
「……何か企んでいるんじゃないだろうな?」
「何も企んでなんかないよー! あたしもタンゲルに行きたいだけだよー!」
今まで危害を加えてくるような動きはなかったし、ここまで全部計画的ということはないだろう。
腹が減っていたのも本当だったみたいだし。
「エナ、どうする?」
「吾輩に聞かれてものう……。吾輩も怪しいんじゃないかと疑っておるのだが、だとしたら目的は何だ?」
「大分音沙汰なかったけど、俺を狙っていたやつの仲間とか?」
「だとしたら、森で助けた時点で襲われておるであろう。そもそも、アスカルを狙うようなやつが盗賊に捕まるとは思えぬが」
「確かに」
グリニア城で誰にも気づかれずに魔術を仕掛けることのできる人物の仲間が、あの程度の盗賊に捕まるとは考えにくい。
街中で俺を襲ってきたやつもかなりの手練だったしな。
「タンゲルに行くだけなのであろう? 船には勇者や騎士もいるのだから、何か企んでいたとしても手出しはできまい」
クラスメイトはともかく、騎士が居るのは心強い。
いざとなれば、ヒューゲルも居る。
もしリッテラートさんに悪意がないのであれば、断る理由もないか。
「ついて来る分には大丈夫ですけど……、船の料金は?」
「あっ……」
何も考えていなかったみたいだ。
お金が無いって、今までどうやって生きていたんだ?
「……船代も払ってくれないかな?」
てへっと子供のように舌を出すリッテラートさん。
年上なのに可愛い仕草をするなこの人……。
「……良いですけど」
「わ〜い、ありがと〜!」
尻尾はふりふりと揺れ、耳がピクピクと動いている。
喜んでいるのが分かりやすい。
「あたしはパラメア=リッテラート、パラメアでいいよ」
「俺はアスカル=トキサカです」
「エナ=ルージュじゃ」
「アスカルにエナ、よろしくね〜!」
いきなりのファーストネーム呼び。
距離の詰め方が早いなぁ……。
こうして、タンゲルに行くまでの新たな仲間が加わった。




