盗賊に捕まっていた亜人
「これでよしっと」
捕らえた盗賊の手足を縛り、騎士に引き渡す。
「ご協力感謝します」
騎士に礼を言われ、一番後ろの馬車へと連れて行った。
この盗賊達は取りあえず港の街まで連れて行き、一時的に留置しておくらしい。
後日改めて王都に連れて行くとか。
まあそこは騎士に全部任せればいいか。
「――――」
何処からか声が聞こえた気がした。
「……何か聞こえなかったか?」
「聞き間違いではないのか?」
「僕も何も……」
俺もはっきりと聞こえたわけではないので、今度は超能力で聴覚を強化して耳を澄ます。
すると、少し離れたところから草木の揺れる音がした。
「……ちょっと行ってくる」
「吾輩も行こう」
騎士は盗賊のことで手一杯らしいし、俺らが助けに行こう。
「僕はここで待っていますね」
「分かった」
ヒューゲルを置いて、俺とエナは声のした方向に行ってみる。
草木を掻き分けて声の方に行くと、地面に女の子が倒れていた。
女の子には亜人の特徴である、動物の耳と尻尾が生えていた。
だが一目でどの動物かは分からない。
亜人の中でも……どの種族に分類されるんだ?
「助けを呼んでたのは貴方ですか?」
俺がそう聞くと、女の子は首を縦に振った。
ひとまず、女の子の口を塞いでいたテープを剥がす。
「き、君達は……? 盗賊の仲間じゃない……よね?」
女の子は警戒しながら俺とエナを一瞥する。
木漏れ日に照らされる女の子の髪は、自然に紛れるような緑色の髪をしていた。
「俺達は冒険者です。盗賊は全員捕らえました」
「よ、良かった〜……」
女の子は盗賊を捕らえたと聞いて、一安心したらしい。肩の力を抜き始めた。
別に変な髪ではないけど、何か普通の人とは違うような……。
そう思ってよく見ると、毛先の色だけ異なっていた。
毛先だけ薄紫色の髪なんてあるのか……。
珍しい……というか、見たことない。
「悪いんだけど、この縄を解くの手伝ってくれない? もう何時間もこの状態だから、あたし疲れちゃって……」
「盗賊にでも捕まっておったのか?」
「野宿して寝てるところを襲われてね〜」
「それは災難じゃのう……」
エナもそれには同情してしまったらしい。
野宿ってことは、この辺の人じゃないのかな?
女の子の手と足を縛っていた縄を、なるべく丁寧に解いた。
「お〜やっと動ける〜!」
女の子は立ち上がると、手足をジタバタ動かす。
身長はエナより少し高いくらい。
どう見ても俺より年下だ。
こんな子が野宿なんて普通するか……?
「助けてくれてありがと〜!」
女の子は俺の手を掴むと、手を上下にブンブンと振った。
大袈裟に振るもんだから、身体が引っ張られて視界が揺れる。
馬車に乗っているときにいきなりの戦闘で、その直後にこれはまずい……。
「いや! 気にしなくていいです!」
「うんうん、ありがと〜」
俺がそう言うと、女の子はようやく手を離してくれた。
「そっちの君もありがと〜!」
「吾輩は何もしてなああああああああ!」
今度はエナの手を掴んで、ブンブンと上下に振る。
悪意を持っているわけじゃなさそうだから、やめてのは言いづらい……。
「だ、大丈夫か?」
「う、うむ……」
エナの手を離した女の子は、何かを探すように周りをキョロキョロと見る。
「ってあれ? 杖がない……」
女の子は何かを必死に探すように、草むらの中を探す。
「あたしの杖がなーーーい!」
女の子は両手で俺の肩を掴んで思いっきり揺さぶってきた。
それはまじでやばい。
「い、一緒に探しますから、それ以上揺らさないで……」
「あたしの杖〜!」
女の子は叫びながら、騎士達が居る方へと走って行ってしまった。
「ちょっ、待ってください!」
俺の呼び止めを聞かず、そのまま走って行ってしまった。
「賑やかなやつじゃのう」
「……とりあえず追いかけよう。あの様子だと騎士に迷惑を掛けかねない」
「じゃな」
俺とエナは先に行ってしまった女の子の後を追いかける。
「あー! あたしの杖ー!」
女の子は盗賊の荷物が山積みになっているところに走って行く。
「ちょっ、君! 何をしている!」
騎士の静止も聞かず、女の子は山積みの荷物の中から大きい杖を引っ張り出した。
杖は女の子の身長よりも長い。
杖の持ち手側の先は円状に曲がっていて、その内側には赤色や水色の石のようなものが嵌っている。
杖の中心には何故か持ち手のような部分がある。
見るからに普通の杖じゃない。
「君、一体何者だ!」
その行動を怪しんだ騎士が、女の子を捕まえる。
「え? ちょっ、待って待って!? あたし何かした!?」
「こらっ、暴れるな!」
騎士に持ち上げられて足が地面につかない状態で、ジタバタと暴れる。
わざとなのか天然なのか、自分が怪しいという自覚がないらしい。
「そっちこそ誰なのー! あたしはただ自分の荷物を取っただけなのにー!」
本当に何故捕まっているのか分かっていないらしい。
盗賊の荷物から勝手に取ったら、そうなることくらい分かると思うんだが……。
子供ならこのくらいが普通か?
「何があった」
「それが、この子がそこの荷物を……」
騒ぎを聞いた騎士がぞろぞろと集まってくる。
助け舟を出したほうがいいか。
「すみません。その子、盗賊に捕らえられていたみたいで……。すぐそこで縛られていたので、俺が助けました」
「君は……そうだったのか。すまない」
騎士がゆっくりと女の子を降ろす。
「もうっ、いきなり何なのさっ」
騎士に向かって、頬を膨らます女の子。
「ですが、まだ我々は彼女を信用できません。彼女は盗賊に捕まっていたと嘘をついている可能性もあります」
「……確かに」
騎士の言うことはごもっともだ。
俺もまだ完全に信用しているわけではないしな。
「君、身分証はあるか?」
「ないよ〜」
あっさりと答える女の子。
身分証がないのは、ちょっと前の俺みたいだな。
「名前は?」
「パラメア=リッテラート」
その名前を聞いた騎士が、額に手を当てる。
「……聞いたことがないな。お前はあるか?」
「俺もないな」
他の騎士にも尋ねるが、誰も聞いたことがないみたいだ。
「年齢は?」
「二十一歳」
「……本当か?」
「失礼なっ! 嘘なんて言ってないよー!」
「……」
二十一歳!?
年齢詐称してる……ってわけでもないよな……。
いやでも見た目含め、今までの言動からはとても想像出来ないな。
大学生だと思えば、ギリいけるか……?
「冒険者なのか?」
「んーん、違うよー」
違うのか。
冒険者じゃないのに野宿してたのか?
「何処から来たんだ?」
「んー……いろんなところをぶらぶらしてる。少し前だとグリニアに居たよー」
「グリニアでは何を?」
「主に歴史の資料を見たりだねー。歴史は奥が深くて面白いよ〜。特に歴史の中でもみんなが知ってる神魔大戦なんかは一節によると――」
「は、はぁ……」
リッテラートさんは楽しそうに話すが、話が変な方向に行ったことで、騎士は少し困っていた。
歴史マニアなのだろうか。
「えっと……出身は?」
「多分、フリジッドじゃないかな〜」
「随分と曖昧だな」
「あたし捨て子だから、何処で生まれたとか正直分かんないんだよね〜」
リッテラートさんがそう言うと、騎士は気まずそうな顔をする。
周りは気まずそうにしているのに、当人は至って平然としている。
「では、フリジッドで育ったのか?」
「そうそう」
「スパイではないだろうな?」
「私亜人だよ〜? フリジッドが亜人なんて雇うわけないじゃん」
「でもフリジッドで育ったのでは?」
「私を育ててくれたのは、フリジッドでも辺境の里だからね〜」
「なるほど」
なんかベラベラ喋るもんだから、怪しい人物に思えなくなってきたぞ……。
「今ので納得できるのか」
「フリジッドの実情を知っているからですね」
「ヒューゲル?」
後ろからヒューゲルが歩いて来ていた。
「フリジッドの実情?」
「フリジッドの多くの都市では亜人差別が残っていますが、辺境の村などではほとんど差別がありませんからね」
「同じ国内なのにどうして?」
「フリジッドは生活するには厳しい土地と環境ですからね。人の少ない集落では、元々迫害などする余裕がなかったそうです」
「詳しいんだな」
「このくらい普通の知識です」
確かに、生きていくのに厳しい環境で、人手を減らすのは愚策というもの。
騎士が納得した理由が分かった。
「その杖は君の所有物で間違いないのか?」
「間違いないよ〜」
「君の身長に大して大きいように思うが……何のために使っているんだ?」
「武器だよ〜」
「武器……?」
騎士がリッテラートさんの持った杖をまじまじと見つめる。
俺もつい杖を見た。
杖が武器なんて聞いたことも見たこともないぞ?
どうやって戦うんだ?
杖の先を突き刺すとか?
でも突き刺さるような形状にはなっていない。
あの嵌めてある石に何か仕組みでもあるのだろうか。
「どうする?」
「彼女が何かした証拠もないですし、返していいと思いますけど」
「まあ……そうだな」
騎士達同士でコソコソと話し合う。
「疑ってしまい申し訳ございません。もう行っていただいても構いません」
「疑いが晴れたならいいや〜、じゃあね〜」
リッテラートさんはそう言って去って行く。
だがその場から二歩進むと、硬直した後地面に倒れた。
「だ、大丈夫かね!?」
先程まで取り調べをしていた騎士が慌てる。
「だ、大丈夫ですか!?」
俺とエナが側に駆け寄って、リッテラートさんを起こした。
「し、死んだのか……?」
エナがそう言った直後、「ぐ〜」っと大きな音が聞こえた。
「お腹……減った……ガクッ」
「い、生きておったか」
心配して駆けつけたというのに、損した気分だ。
「ど、どうしますか……?」
そばに居る騎士に尋ねる。
騎士もどうしようか悩んでいる様子だ。
「馬車に食料はないですから、ミラミス港の街まで連れて行ったほうが良さそうですね。このまま放置しておくわけにも行きません」
腹が減っただけなら、それでもいいか。
ここの馬車が向かっている場所だしな。
「ですが、どう連れて行くかですね……。我々の乗っていた馬車は盗賊を連れて行くので一杯です」
「でしたら、俺達の乗っている馬車に乗せましょうか?」
「よろしいのですか?」
今は三人しか乗ってないからな。十分空きがある。
「エナとヒューゲルも、それでいいか?」
「うむ」
「ええ」
他の二人にも確認を取る。
「そういうことなんで、俺らに任せてください」
「わかりました。では、この方はあなた方におまかせします」
騎士は俺達にリッテラートを任せると、他の仕事に戻って行った。
「おーい、立てるかー」
「無理ー……」
リッテラートさんの頬をペチペチと叩くが、返って来るのは力のない声だけだ。
何日野宿をしていたのだろうか……。
「こりゃ駄目そうじゃのう……」
「本当に年上なのでしょうか……」
エナとヒューゲルも呆れていた。
仕方ないので、リッテラートを担いで馬車まで運んでいく。
「よっこいしょと」
リッテラートさんを適当に馬車に乗せる。
「あのー」
「はい、何で――」
後ろから声を掛けられ振り向く。
そこにはクラスメイトの夕霧茜と久川葵が居た。
俺が助けた馬車に乗っていた二人だ。
「……」
あまり深くフードを被れていなかった俺は、心の中でバレるんじゃないかと焦った。
そして、どんな顔をすればいいのか迷った。
笑って話をしたい気持ちを抑え、感情を押し殺す。
「貴方によく似た人を見ませんでしたか? ちょうど貴方くらいの身長で黒髪なんだけど」
「……いえ、見ていませね」
夕霧にそう聞かれ、一瞬動揺する。
どうやら、俺が川崎透だということはバレていないらしい。
というか俺に似て黒髪って、完全俺のことじゃん。髪色変えてて良かったー!
でも逆に、髪色を変えたら俺だと分からないってことか?
それはそれでちょっと複雑だ。
「そっかー」
「ま〜、そうだろうね〜」
得られる情報が無いと分かったのか、二人は諦める。
「突然すみません」
「いえ」
夕霧が丁寧に俺に頭を下げた。
クラスメイトに頭を下げられると、やめてくれって言いたくなるな……。
「ほら、行くよ葵」
「もし見かけたら、私達にご一報を〜」
夕霧が久川をズルズルと引きずりながら、馬車に戻って行った。
夕霧が真面目なのに対して、久川は相変わらず緩いというかマイペースだな……。
その空気を見るのも久し振りなので、何だか嬉しい。
てか俺自身だから見かけることは無いのだが、どうやって勇者に一報を入れるんだよ。
絶対に無理だろ。




