盗賊の襲撃に遭う
王都を出て少し経った。
港がある街に行く道中は平坦な道ばかりだが、そこはやはり馬車。ものすごく揺れる。
今はちょっとした雑木林の道を進んでいる。
「そちらの事情は大体把握しました。それよりも、隣に居る彼女のことが気になるのですが……」
ヒューゲルにそう言われ、エナをちらっと見る。
だがエナは俺達の会話を聞いていなかったのか、反応することもなくずっと馬車の外を見ている。
「……? どうしたエナ」
「しっ」
エナが人差し指を口に当てる。
その動作を見て、俺とヒューゲルは口を閉ざした。
「……」
静かな時間が過ぎていく。
何か異変感じ取っているのはエナだけのようで、護衛の騎士達は特に変わった様子はない。
だが次の瞬間、ドスッという音とともに、俺達が乗っている馬車に矢が突き刺さった。
「ひょえっ!?」
ビックリして思わず変な声が出た。
そして、その一本の矢が引き金となり、護衛の騎士達が警戒を強める。
そこに更に何本か矢が飛んできた。
俺達の乗っている馬車だけでなく、クラスメイトが乗っている馬車にも矢が突き刺さる。
「うわぁ!?」
「な、何なんだ!?」
クラスメイトの声がこっちにまで聞こえてきた。
聞こえる限りでは、怪我とかないようで一安心だ。
ていっても、安心している場合じゃないよな……。一体何が起こっているんだ?
そう思って外を覗くと、草木の間から男が数人出てきた。
「金目の物を全部置いていきな。そうすれば見逃してやるよ」
男達はニヤニヤと笑いながら言う。
そんなセリフ漫画でしか聞いたことねぇぞ。なんかちょっとワクワクしてきた。
でも残念なことに、ここの馬車に金目の物はほとんどない。
騎士が多いから、大事な物が運ばれてるとでも勘違いしたのだろうか。
大事というか重要というか、間違いではないんだが……。
「全員、賊を捕えろー!」
「ちっ……、野郎共、やっちまえ!」
騎士の人達が襲ってきた賊に応戦し、外で戦いが始まった。
「……俺達も戦ったほうがいいんじゃないのか?」
座ったまま動こうとしないヒューゲルに聞く。
「ただの盗賊でしょうし、騎士団の任せましょう。無理に僕達も戦えば、騎士団の連携を乱す可能性もあります」
至って冷静に、ヒューゲルが言う。
「……確かにそうだな」
騎士団には騎士団の連携のとり方があるだろうしな。
そこに素人が入るのは、避けたほうがいいか。
それにしても、人々を救うはずの勇者が騎士団に守られているというのはどうなのだろうか。
まあ、勇者は魔物から人々を救うために戦うわけだから、人と戦うのは専門外なんだろう。
俺だって、クラスメイトに人と戦ってほしくはないからいいんだけど。
「へへっ、金目の物はいただくぜ!」
その声とともに、細身の男が馬車に乗り込んできた。
「あ? ガキだけかよ」
馬車に金目の物が何も積んでいないと分かった男は、つまらなそうにする。
騎士団の目を盗んで乗り込んできたのか分からないが、流石にこれは撃退したほうがいいよな……?
そう思ってエナとヒューゲルに目を向けるが、二人とも微動だにしない。
何でそんなに冷静なんだ? 俺がおかしいのか?
「ん? ただのガキかと思ったが、中々の上物がいるじゃねぇか」
男はエナに卑しい目を向け、腕を伸ばしてエナに触ろうとする。
「このっ……!」
「おっと、大人しくしてろよ?」
「っ……」
男を止めようと手を伸ばしたが、首元にナイフを突きつけられ身動きが取れなくなる。
騎士がいるのに襲ってくるような連中だ。多分、人を斬るのに躊躇いはない。
「大人しいじゃねぇか。気に入ったぜ。俺達がたっぷりと可愛がってやる」
ヒューゲルも流石に不快だと思ったのか、男に両剣を突きつけた。
「大人しく捕まってくれますか」
「……嫌だと言ったら?」
「無理矢理にでも捕らえます」
「やれるもんならやってみなっ!」
「……」
ヒューゲルが両剣を振れないと見たのか、男は躊躇いもなくエナに手を伸ばした。
「じゃ、もらって――」
「吾輩に触れるな、たわけ者が」
「ぎゃあああああ!」
エナは不快そうに言い、男を外へと吹き飛ばした。
突き出したエナの右手には魔法陣が浮かび上がっていて、少しすると消えた。
「あの一瞬で盗賊を……すごい魔術行使の速さですね」
ヒューゲルはその様子を見て驚いていた。
「きゃっ!」
他の馬車からも悲鳴が聞こえてきた。
「ヒューゲル、エナ、俺は目の前の馬車に行くから、他の馬車を頼めるか」
「そうですね。馬車に乗り込んできた盗賊を対処するくらいなら、騎士団の邪魔にもならないでしょう」
多分、助けに行ったほうがいい。
護衛の騎士も多いわけじゃないから、対処が間に合っていないのかもしれない。
念のためフードを被ってから、最初に声が聞こえた馬車に行く。
そこには盗賊二人が馬車の後ろから乗り込んでいる。
一人は子柄で痩せている。もう一人は筋肉質で、体格も大きい。
盗賊二人を前にして、クラスメイトは前方で固まっていた。
男子が女子を守るようにして、少しでも盗賊に抵抗しようとしている。
一番前に立っているのは渡辺じゃないか? この状況でよく前に立てるな……。
武器を持ってはいるが、盗賊に向けて振るう気配はない。
「後ろの女共を渡せば――ブッ!?」
まずは子柄な方を馬車から放り出し、地面に叩きつける。
「てっ、てめぇ! 何しやがる!」
男は痛みに耐えながらも起き上がり、右手にナイフを持ったまま俺に向かって来た。
こちらも懐からナイフを取り出し、男に応戦する。
「ちっ、騎士団以外にも戦えるやつが居たのか……!」
後ろからは大柄なやつが俺へと襲いかかる。
「二対一か……」
しかも正面だけならまだしも、一人は後ろの死角からだ。
距離を取って二人とも視界に収めることもできるが、それだとクラスメイトから離れてしまう。
「〈凍結〉!」
「なっ、足がっ!」
魔術で子柄なやつの足元に氷を生成し、動きを止める。
生成した氷の量は少なく、時間稼ぎ程度しか効果はない。
「これは……魔術か!」
子柄な男がそう叫ぶと、大柄な男は険しい表情になる。
「なら使われる前に潰す!」
男は魔術を使われるとまずいと思ったのか、すぐに襲いかかってきた。
俺は構えていたナイフを、男の腕に向かって振るう。
ナイフは男の腕を掠める。
しかし傷は浅く、男は一瞬怯んだだけで勢いは収まらない。
「ちっ……」
この距離では魔術の行使は間に合わない。
というより、俺まで巻き添えになってしまう。
後ろに跳んで躱すか。
そう思ったとき、馬車からクラスメイトの声が聞こえた。
「よっ、避けてくださいっ」
クラスメイトが一人、魔法陣を作っていた。
「っ……!」
俺は思いっきり後方に跳び、男から離れる。
クラスメイトが使った魔術は雷系のものだ。
「あばばばばばばばばばばっ」
男は魔術をまともに受けると、気絶して地面に倒れた。
「あ、当たった……」
「……助かった!」
魔術を使ったクラスメイトは自分でも驚いていた。
まあ、人に使ったことなんてないだろうしな。
「このっ……よくも!」
氷が溶けて動けるようになったのか、子柄な男がまた俺に向かってきた。
仲間がやられたことで冷静さを失ったのか、動きは雑だ。
俺は体制を低くし、男の腹に肘を一発入れた。
「――ガハッ!?」
肘を食らった男は手からナイフを落とし、力なく気絶した。
「そちらも終わりましたか」
「ああ」
前の馬車から、ヒューゲルが盗賊を二人引きずりながら来た。
二人とも手を縛られていて、抵抗する意思はないようだ。
「アスカルー、こっちも終わったぞー」
エナも盗賊を引きずっている。
「終わったようですね」
「だな」
王都を出ていきなりのハプニング。
タンゲルに行くまでに、またハプニングが起こらないように祈ろう。




