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エーテル・グレイス  作者: クロビー
第一章 タンゲル公国編
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事情を知る青年

 街の門をすぐ出たところに行くと、馬車が一台停まっていた。

 近くに居た騎士に事情を説明すると、俺とエナの二人はすぐに乗ることが出来た。

 しかし、ヒューゲルの同乗はすぐには認められなかった。


「馬車に乗せるのは二人だと聞いていたが……」

「だから、ちょっと事情があって……」


 騎士に説得を試みるものの、引き下がってはくれない。


「中々言うことを聞いてはくれぬのう……」


 エナが言ってもダメで、お手上げ状態だ。


「僕のことは構いませんよ」

「……いいのか?」

「ええ」


 どうしたものかと悩んでいると、ヒューゲルがそう言ってきた。

 聞きたいことは山ほどあるが、無理なものは仕方ないと諦めてその場から離れ馬車に乗る。


「こちらの勝手なのは重々承知しています。ですが、どうか乗車を認めていただけないでしょうか」


 ヒューゲルが騎士に何かを手渡す。


「これはっ…………少々お待ちください」


 それを見た騎士は何かに驚いたようで、他の騎士と何かを話し始める。

 身分証みたいなものを渡したのは分かったんだが、どういうものかは分からなかったな。

 俺やエナが持っている冒険者登録証とは違うみたいだが……。


「お待たせしました。どうぞ、お乗りください」


 騎士の間で話は纏まったらしく、ヒューゲルの乗車の許可が降りた。


「ありがとうございます」


 騎士から渡したものを返してもらったヒューゲルは騎士に礼を言い、馬車に乗り込んできた。


「……何をしたんだ?」

「それは……後々お話します」

「……」


 ますます謎は深まるばかりだ。

 エレナ=ザイートと知り合いだったり、あの騎士の態度を見る限り、只者じゃないってのは分かるんだが……。


 そんなこんなでヒューゲルも馬車に乗ることが出来た。

 勇者を乗せた馬車が街の外に出ると、俺達の乗った馬車も出発した。


 俺達が乗っている馬車は後ろから二番目。

 一番前と後ろには護衛の騎士が乗っている馬車が。

 その間にクラスメイトが乗っている馬車が走っている。


 クラスメイトの姿を確認できないかと、フードを少し上げて前の馬車に視線を送ってみる。

 だが残念なことに、クラスメイトの声は聞こえないし姿を確認することも出来ない。

 馬車だから、そこは仕方ないと割り切るしかないのかもな……。

 安易に勇者の姿を外に晒すわけにもいかないだろうしなぁ。


 クラスメイトの姿の確認を諦めて、上げていた布を降ろした。


「ありがとうございます。あなた方が居なければ、僕は予定を変えざるを得ませんでした」

「いや、礼はいい。それよりも……」

「僕が何者か、知りたいわけですね?」

「ああ」


 ただ今までの態度を見る限り、質問全てを答えてくれるとは思えない。

 むしろ、俺にも明かせないようなことが多いんじゃないかとすら思える。


「僕はタンゲルである人の補佐をしています。具体的な内容は言えませんが……」

「エレナ=ザイートとはどこで?」

「仕事柄上の人と行動を共にすることが多いので、そのときに。僕の上の人とアルストラ王国は友好関係にありますから」

「もしかして……外交関係?」

「合っているといえば合っていますが、それだけではないですね」


 それ以外もあるけど、仕事の中に外交は含まれてるってことか。

 ……もしかして、国の役人?

 騎士の人も驚いていたしな。

 いやでもなぁ……、俺と同じくらいの年だぞ?

 アルストラ王国でも、俺くらいの子供は学院に行っていた。

 でもエレナ=ザイートとかいう例外もあるわけだから、可能性としてはあるのか?

 うーん……分からねぇ。


「なんで俺を知っているんだ? 俺は公表されていない。というか、一部を除いて行方不明者になっているはずだ」

「気付いているとは思いますが、あなたのことはエレナ=ザイート、彼女から聞きました。他にも、あなたが異世界人であること。何者かに命を狙われたこと。冒険者として生きていること。透=川崎という、あなたの名前」


 眼鏡の向こう側に映っている瞳から、嘘は感じられない。


「ただ、あの時点で異世界人が召喚されたということだけは他国の君主など、一部の人も知っていましたよ。僕が初めてあなた方を知ったのは、上の人に言われたからですね」

「そ、そうなのか……」


 てっきり、他国には完全に伏せていたものだと思ってたぞ。

 にしてもなんでヒューゲルの上の人は知っているんだ?

 やっぱり国の役人とかか?


「俺を助けたのはエレナ=ザイートに頼まれたからってのは本当なのか?」

「本当ですよ。あなたは事情が事情ですから、死なれては困ります」

「俺も死ぬのは嫌だなぁ……」


 何回か死にかけてるけど。


「お主はまだアスカルに関わるのか?」


 俺ではなく、エナがそう質問する。


「いえ、もうそのつもりはありません。エレナ=ザイートに頼まれていたのは一時的なものです。それに、僕はタンゲルで仕事に戻りますから」

「では、タンゲルに着くまでの間なのだな」

「ですが、タンゲル国内でしたらまたお会いするかもしれませんね」

「それもそうだのう」


 馬車に揺られながら、俺達三人で会話を繰り返す。

 タンゲルに行くには、西の港から船を使って行く必要がある。

 港までの距離はそう遠くない。

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