川崎透の関係者
シュバルツさん、フレデリクさんとの話が終わり、僕達は夜会の会場に戻ってきた。
透が今はアスカル=トキサカという別の名前で暮らしていること。
ギルドに所属して、冒険者として生きていること。
気になることは一通り聞いたつもり。
「もう話は終わったんですか?」
会場の隅に居た魔術師が、僕達に近づきながら言った。
フードを被っていて、相変わらず表情は見えない。
「エレナか。彼のことは一通りは話した」
「そうですか、なら私の出る幕はないですね」
シュバルツさんと魔術師が、周りを気にしながら話す。
「あの……、その彼って……」
「アスカル=トキサカのことだ。一応、この魔術師も事情を知っている一人だ」
僕の問いに、シュバルツさんが答える。
「ザイートさんも知っていたんですか!?」
「……そう言えば、団長には言ってませんでしたね」
フレデリクさんは知らなかったのに、シュバルツさんは知っていたんだ。
てことは、ザイートさんはシュバルツさんが団長だった頃からこの城に居たのかな。
シュバルツさんはザイートさんのことを、『エレナ』って名前で呼ぶくらいの仲みたいだし。
「まだ何か用でもあるのか」
ここを離れないザイートさんを、迷惑そうに見つめるシュバルツさん。
仲は良い……のかな?
「私も事情を知っている一人ですし、話にくらい混ざらせてくれてもいいじゃないですか……」
フードで表情が隠れているからよく分からないけど、ザイートさんちょっと拗ねてる?
ずっと城に居るはずなのにほとんど姿を見ないから、未だにザイートさんのことはよく分からないんだよねぇ……。
「まぁまぁデューク先輩、別にいいじゃないですか。ふ、二人も構わないよな?」
これ以上雰囲気が悪くなるのを避けるためか、フレデリクさんが二人の間に割って入った。
「私は構わんぞ」
「僕も平気ですよ」
今まで話す機会が少なかったから、僕自身がザイートさんと話したいという気持ちも少しあるしね。
「デュークさんと違って、お二人は優しいですね。デュークさんと違って」
「おい、何故そこで俺を強調する」
「その態度が原因とは思わないんです?」
「なら態度を改めてやろうか?」
「……結構です」
ちょっと怒っているザイートさんに対して、シュバルツさんは素っ気ない態度を取っている。
最後はザイートさんが折れる形で終わった
……もしかして仲は悪いのかな?
「お二人はこの城に残るんでしたっけ?」
「そうですね。今のところ、僕達は城に残る組です」
ザイートさんが言った『城に残る』というのは言葉の通り。
僕達異世界人の中から、他の国に派遣することになっている。
理由としては、地上に出現している魔物への対処だとか。
派遣されるのは、タンゲルという国とカンネラという国で、それぞれ十人ずつ派遣されることになっている。
誰が派遣されて、誰がここに残るかはフレデリクさん含め騎士団の人達と話し合ったけど、最初は議論することすらままならなかった。
知らない世界に突然連れてこられてただでさえ心細いというのに、さらに周りから知り合いが居なくなるのだから。
既に決まったことだけど、未だに不安だ。
「この城に残る……ということは、それなりの腕はあるのか?」
シュバルツさんが、僕と西園寺先生を見て言う。
「どうですかね……。僕はそこまで腕があるとは思ってないですけど」
「いや、コマイくんはかなり腕のある方じゃないか? そんなに謙遜しなくてもいいと思う」
自分でも謙遜だと分かるほどに言うと、フレデリクさんに指摘されてしまった。
僕達の訓練を見ているだけあって、フレデリクさんには分かってしまうのか。
フレデリクさんの言葉にシュバルツさんが反応し、興味深そうに僕を見始める。
謙遜したつもりではあるけど、全部が嘘という訳でもない。
もちろん、クラスメイトと比べたら腕のある方かもしれない。
けど、実際に何回か迷宮に行って実力不足だとは思った。
僕が身につけているのは人との戦い方であって、魔物みたいな人外との戦い方なんて知らないからなぁ。
違う戦い方が身についている僕と、最初から相手に合った戦い方を身につけるクラスメイトとでは、多少クラスメイトに軍配が上がりそうだ。
癖っていうのは、簡単に直せるものじゃないからね。
「貴方は?」
今度は西園寺先生に興味を示すシュバルツさん。
それに対し、西園寺先生は少し申し訳なさそうにする。
「興味を持たれているところすまないが、私は迷宮の攻略には参加していないんだ」
それを聞いて西園寺先生に興味を無くすのかと思ったが、むしろ興味が湧いたらしく、シュバルツさんの目は真っ直ぐ西園寺先生を見ていた。
「何故参加していないんだ? 他の者は参加しているようだが」
「理解してもらえないだろうが、生徒のように体を動かすのはしんどいんだ。体を鍛えているわけでもないからな」
「そういう理由か……。でも魔術での後方支援くらいは出来るのでは?」
「私は魔力が低くてな。魔術も十分には扱えないだろう」
何とか言い訳を言って、西園寺先生は話を終わらせようとする。
意地でも「やりたくないだけ」とは言いたくないんだ……。
「異世界人なのに魔力が少ないのか?」
「それについてはどう答えることもできない。この世界に来るまで、魔力という存在も知らなかったからな」
「あぁいや、今のは少し疑問に思っただけだ。気にしないでくれ」
王様とか騎士団も不思議そうな反応をしていたけど、やっぱり僕達の魔力が少ないっていうのはおかしいことなのか。
まぁ、誰にも理由が分からない以上、気にしても仕方がないけどね。
「おーい、エレナちゃーん」
クラスメイトと話していた亜人の女性が、僕達の方へと歩いてきた。
ザイートさんの名前を呼んでるってことは、ザイートさんの知り合いなのかな。
「シェリア先輩ですか、お久しぶりです」
「えぇ、久しぶり。デュークさんと……団長さんも一緒ですか。勇者の方々も、こんばんは」
シュバルツさんとも知り合いみたいだ。
この人も透のことを知っている人なのかな?
というか……。
「……子供?」
「この夜会は子供も招待してるのか?」
西園寺先生と同じ反応をしちゃった……。
でもこの夜会に子供なんて招待するわけないよね?
「あーうん、そういう反応になるわよね……。ごめんなさい、これでも私は大人なの……」
「あっ、すみません。初対面で失礼なことを……」
「す、すまない。無礼だった……」
僕と西園寺先生は同じように謝る。
大人の女性に、子供って言っちゃうのは流石に無神経だったな……。
「君は確か……月猫団のギルマスだったか?」
「はい、月猫団のギルマスのシェリア=オズリックです」
ギルドマスターの人だったのか。
じゃあ、城の関係者ではないんだ。
シュバルツさんとは顔見知りみたいだけど、フレデリクさんは違うみたいだし、透のことも知らないのかな。
「エレナちゃんにちょっと伝えたいことがあったんだけど……、お話の途中だったかしら?」
「いえ、構いませんよ。結局、私は会話に入れていなかったので……」
「そ、そう……」
そう言いながら、ザイートさんはシュバルツさんを睨んだ。
「……デュークさん?」
「……ごほん」
オズリックさんがジト目でシュバルツさんを見ると、シュバルツさんは咳払いをしてその場を誤魔化した。
「それでシェリア先輩、私に伝えたいこととは?」
「それなんだけど、アスカルくんが貴方に会いたいそうよ」
その言葉に驚く。
今、アスカルって言ったよね?
だとしたら、やっぱり透のことを知っているのかな。
「あの……」
「待て駒井」
焦ってシェリアさんに話し掛けそうになったところを、西園寺先生に止められる。
西園寺先生に目を向けると、静かに首を横に振った。
「あいつのことを知っているなら、普通はこんな声では話さない。川崎のことは知らないと見て取るべきだ」
「確かにそう……ですね」
西園寺先生は小声で僕に指摘する。
確かに、シュバルツさんもフレデリクさんも周りを気にしながら話しているのに、知っている人が周りを気にせず話すとは考えにくい。
「彼がですか? いつ頃とかは聞いていますか?」
「いつ頃……っていうのは言ってなかったわね。でも出来れば早めのほうがいいんじゃないかしら?」
「……分かりました。彼にも、近々会いに行くと伝えてください」
「えぇ、分かったわ」
透が自分からザイートさんを呼ぶなんて何かあったのだろうか。
それと、やっぱりシェリアさんのことが気になる……。
「シュバルツさん、あの人は一体……」
「トキサカが所属しているギルドのギルマスだ。もちろん、トキサカの正体については知らない」
「あっ、ギルド……」
シュバルツさんが言うには、透は冒険者でギルドに所属してる。
ギルマスならアスカルという名前が出てくるのも納得だ。
危うく早とちりで大事故を起こすところだった……。
「ねぇねぇ、私も話に混ざっていいかしら?」
そう言うオズリックさんは僕と西園寺先生を捉えて、キラキラと目を輝かせていた。
「私なんかでよければ」
「僕もいいですよ」
外の人と話す機会は少なさそうだし、せっかくだからこの人と話してみるのもいいかもしれない。
「やったー! 勇者と話せるなんて、今日は最高の日だわ!」
と、嬉しそうにオズリックさんは笑う。
透がこの人のギルドに居るってことは、信頼できる人なんだろう。




