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エーテル・グレイス  作者: クロビー
序章 アルストラ王国編
55/72

夜会の片隅で

 会場の外には警備している騎士が数人おり、僕達はその横を歩いて行く。


「ここで良いだろう」


 会場からあまり離れていない一室の前で、シュバルツさんは立ち止まった。


「そこの騎士、ちょっといいか」


 通り掛かった一人の騎士に、シュバルツさんはそう言った。


「はい、何でしょう……ってシュバルツ元団長じゃないですか。お久しぶりです」


 騎士はシュバルツさんの顔を見ると、頭を下げて挨拶をした。

 久しぶりということは、シュバルツさんの下で働いていた人だろうか。


「あぁ、久しぶりだな。早速で悪いんだが、今からこの部屋の警備を頼めるか。誰もこの部屋には入れないで欲しい」

「分かりました。それくらいでしたら、お任せください」

「頼んだぞ」


 騎士と話を終えたシュバルツさんは、先に部屋へと入って行った。

 それに続いて、僕達も部屋に入る。


「適当に座ってくれ」


 そう言われたので、西園寺先生と僕は近くのソファに座る。

 机を挟んで向かいのソファに、シュバルツさんとフレデリクさんが座った。


 部屋の中はこれといって珍しいものがあるわけでもなく、机とソファがあるくらい。

 窓からは外の景色が見える。

 この部屋は客室みたいなものだろうか。


「それで、話というのは?」


 まず声を出したのは、隣に座る西園寺先生だ。


「その前に一つ確かめたいことがあるんだが……、この世界に来た者の中に現在行方不明者が居ることは、既に知っているだろうか」

「はい、そのことは僕達異世界人はみんな知っています。ですが、城外の人間である貴方が何故それを?」


 シュバルツさんの質問に、僕は冷静に答える。そして、疑問に思ったことを率直に聞く。

 透が襲われて姿を消したことは、城外には決して情報を出していない。

 知っているのは、僕達異世界人と城内の関係者だけだ。


「これでも、元団長だからな。別に不思議ではないだろう。それに、情報の出処を全て塞ぐというのも無理な話だ」

「……確かにそうですね。失礼しました」


 この世界には超能力というものが存在しない。

 魔術という不思議な技術があるが……。

 能力保安機構の特務機関……特に僕達のような特殊部隊のように、情報工作を必ずしも出来るという訳ではないのかもしれない。

 シュバルツさんの場合、単純に人脈があるだけだろうけど。


「話を戻すが、その行方不明の異世界人。トオル=カワサキ、という名前の少年で間違いないだろうか」

「……! その名前を何処でっ――」


 透の名前が出てきて一瞬焦るが、直ぐに落ち着きを取り戻す。


「……いえ、なんでもありません」


 冷静に考えれば、異世界人の中に行方不明者が居ることを知られる情報源があるなら、名前を知っていてもおかしくはない。

 少年だと分かることも、不思議ではない。


「その少年から、貴方達二人に伝言を預かっている」

「伝言ですか……」


 僕は小さく呟いた。

 伝言を預かっているということは、直接透に会ったのだろうか。


「といっても、生きていることを伝えてくれの一言だけですが」

「そうですか……」


 その後、少しの間沈黙が続いた。

 え? 本当にそれだけなの? 僕達には生存報告だけ?

 もっとこう……今何をしてるとかこれからどうする、みたいな報告はないの?


「伝言を預かっているということは、貴方は透=川崎に会ったのか?」

「デューク先輩だけじゃなく、私も街で会いました」


 西園寺先生の問いに、フレデリクさんが答える。


「どんな様子だった?」

「私の見た限りでは、元気そうでしたよ。それと、かわいい女の子と一緒でした」


 その言葉に、僕はビクンと反応した。


「お、おおお女の子!?」


 しかも、かわいいだって!?

 それってもしかしなくても、彼女なのでは!?

 いや透がモテないとは全然思わないけど、それでも先に越されたと思うと悔しい。

 というか僕達が心配してたっていうのに、透はこの世界で彼女作るってどういう了見なのさ!


「そ、その女の子とトオルはどういう関係なんですかっ。ま、まさか彼女……?」

「い、いや、そこまでは流石に……。ただ女の子の歳は十一、ニ歳くらいだったか……?」

「十一、ニ歳!?」


 透はロリコンだったの!?

 日本では子供に手を出せないからって、まさかこの世界で手を出すなんて……。


「仲が良さそうには見えたが……流石に彼女ということはないんじゃないだろうか?」

「そ、それなら良いんですけど……」


 でも彼女じゃなかったらなかったで、どういう関係なのかは気になる。


「まぁ何にしろ、あいつが元気そうなら何よりだ。他にあいつは何か言っていたか?」

「そうですね……あっ、確か元の世界に帰る方法を探すと言っていました。だから、今は城に戻らないと。これからは冒険者として生きるとも」

「元の世界に戻る、か……。そちらとしては嬉しくないかもしれんが、それは私達異世界人、全員の願いですね」

「それは……はい……、すみませんでした」

「謝られたところで、解決はしないのだがな……」


 申し訳なさそうに頭を下げるフレデリクさんに対し、西園寺先生は半分呆れたように呟いた。

 正直言って、僕も西園寺先生と同じ気持ちだ。

 結局のところ、僕達がこっちの世界に来たのは人為的なものによるもの。

 当然、怒りも湧いてくる。

 以前プルーゼ王女にも謝られたが、それで何か解決した訳じゃないし、それで僕達が失ったものが返ってくるはずもない。


「……彼から聞いたのだが、貴方達の世界には超能力と呼ばれる力があるとか」

「私は訓練のときに耳にはしていたが、まさか彼自身が超能力を持っているとは思っていなかったな」


 シュバルツさんとフレデリクさんの話を聞いて、西園寺先生は首を傾げる。


「彼自身が超能力を持っているとは……どういうことだ?」

「あれ? もしかして知らなかったんですか?」

「あ、あぁ……まぁ、そんなところです」


 どう言葉を返そうか困る西園寺先生。


「もし彼が周りにわざと隠していたのだったら、申し訳ないことをしたな……」


 今の感じ的に、僕達が超能力者だということは知らないみたい。

 けどそっか……透、言っちゃったのか……。


「あの馬鹿っ……」


 一方で西園寺先生は呆れ半分、怒り半分といった感じ。

 もし透が西園寺先生と再会したときは、お説教になりそう。


「……他に何か聞きたいことは? トオル=カワサキ以外のことでも構わない」


 その後もシュバルツさんとフレデリクさんに透のことを聞いたり、教えてくれる範囲でこの世界について僕達は聞いた。

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