夜会の始まり
透が姿を消してから、三ヶ月が経った。
初めの頃は、またすぐにひょっこりと顔を出すんじゃないかと思っていた。
しかし、あれから透は一回も僕達の前に姿を現していない。
みんなの前に姿を見せられない理由があるのかもしれないけど、僕の前にすら姿を見せないのは少し寂しい。
西園寺先生は透は生きているとずっと信じているけれど、僕は本当に生きているのか疑ってしまったことが何度もある。
透と再会したとき、僕はどんな顔をすればいいのだろう。
「皆様、本日はこのような場にお集まりいただき、誠にありがとうございます。本日は異世界より来られた勇者様とギルドマスター様との交流を目的に、このような場を設けさせていただきました」
壇上の横から現れた女王様が壇上の中央に立ち、この場に居る全員にお礼を述べた。
お礼と挨拶が終わると女王様は言葉を続け、この夜会のことに触れていく。
女王様の側には王女様の姿があり、王様は壇上の端でひっそりとしている。
何故王様ではなく女王様が挨拶をしているのかというと、王家の血筋を引いているのは女王様だからだとか。
女王様と王女様が初めて僕達の前に姿を現したのは、僕達がこの世界に来てから一ヶ月ほど経った頃だ。
女王様はルメリア=アルストラ、王女様はプルーゼ=アルストラという名前らしい。
王女様は僕達より年下らしいけど、正式な場においての立ち振る舞いや言動は、とても年下とは思えない。
僕達異世界人に対して、突然この世界に呼んでしまったことを謝罪してきたこともあった。
僕達の訓練に突然混ざりに来たり、クラスメイトの女子達と遊んだりと、年相応な一面もある。
魔術の腕はそこそこあるようで、魔術は僕達が教わる側だ。
「この夜会、僕達異世界人と城外の人達との交流が目的ですけど、城外の人達はどういった人達なんでしょうね」
隣に立っている西園寺先生に話し掛ける。
「さぁな。ギルドという組織の長らしいが……。その辺りも知るための夜会なんだろう」
人と交流することは苦手ではないけど……。
夜会に招待されたであろう城外の人達を見る。
見るからに、僕達より年上ばかりだ。
中には僕達より年下なのかなと思ってしまう人物もいるけど、組織の長をしているくらいだから年上なのかな?
話には聞いていたけど、亜人って本当に動物の耳と尻尾が生えているんだ。
「あ、女王様の話は終わったみたいですね」
「王様と王女様からの話は無しか」
「そうみたいですね。もう僕達と話してみようと、移動してる城外の人も居るみたいです」
中には特に移動もせず、ずっと僕達異世界人を見ているだけの人も居るけど。
様子を見てから動く人なのかな。
「この世界で城内以外の人間と話すのは、新鮮でいい気分転換にもなるかもしれんな」
「まぁ、僕達ずっと訓練したり迷宮に行ったりしてますからね。休みの日もあるけど、城の外には出られないですし……」
「衣食住の心配をしなくてもいいのは助かるが、制限ばかりだと窮屈で仕方がないな」
「全くですね」
周りには聞こえないよう、西園寺先生と愚痴をこぼし合う。
「交流の機会を設けられたのは良いとして、不安なのは人見知りのやつだな。相手は年上だし、まともに話せるのか……?」
「うーん……確かに心配ですけど、大丈夫なんじゃないですかね? ほら」
そう言って、既に城外の人と会話をしていたグループを指差す。
そのグループは、笹倉由紀の他、人見知りのクラスメイトで形成されている。
そこに城外の人の一人がやって来ると、すかさず近くに居た夕霧茜がフォローしに行った。
他にも来馬真司などのコミュ強のクラスメイトが、人見知りグループのフォローに行っている。
「ふっふっふ、流石は私の教え子達だ」
「何で西園寺先生がそんなに誇らしげなんですか……」
西園寺先生は腕を組み、クラスメイトを見ながら誇らしげにしていた。
「傍観してるだけじゃなくて、西園寺先生がフォローしに行ってあげればいいじゃないですか」
「これは傍観しているんじゃなく、教え子達の成長を見守っているだけだ。そこに教師の口出しなど無用……」
「屁理屈じゃないですか」
僕がそう言うと、西園寺先生は口笛を吹いて誤魔化した。
西園寺先生の行動原理は、面倒だからというのを覚えておかないと。
授業が適当なのも、普段の生活も厳しくないのは面倒だから。
……なんで教師をやってるんだろう。
そんなやり取りをしていると、僕達のところにも城外の人が一人近づいてきた。
金色の髪に、黒い服。身長は高く、夜会に招待された人の中でも、とても落ち着いている印象だ。
その隣には、フレデリクさんも居る。
「二人とも、少し時間をもらえるだろうか?」
「あー……」
西園寺先生は僕の様子を伺うようにちらっと視線を向けてきたので、小さく頷いておく。
「私達二人とも大丈夫です」
「ありがとう」
フレデリクさんの隣に居る人は誰だろう?
「あの、そちらの方は……?」
気になって、つい聞いてしまった。
城外の人間……ギルドマスターなのかな?
一緒に居るということは、フレデリクさんの知り合いなんだろうけど。
「自己紹介が遅れてすまない。俺はデューク=シュバルツだ。以後よろしく頼む」
「静流=西園寺です。こちらこそよろしく」
「えっと、義明=駒井です」
と、互いに自己紹介を済ませる。
西園寺先生とシュバルツさんは、互いに握手を交わしている。
非常に落ち着いた声で、近くで見ても不思議と怖いとは感じないな。
「デューク先輩は元騎士団団長で、私の前任なんだ」
「元騎士団団長……」
言われてみれば、そんな風格があるような気もする。
それにしては若い気がするけど。
何年団長をしていたんだろう……。
「それで、何故こんな隅っこに居る私達に? 他の異世界人でもいいんじゃないですか?」
「用事があるのは異世界人ではなく、貴方と隣のお嬢さん二人だけです」
元騎士団団長なら怪しい人じゃないんだろうし、フレデリクさんも信頼している人物みたいだし、話くらいしてもいいんじゃないかなー。
というか……。
「あのー……僕、男です……」
「そ、それはすまなかった。申し訳ない」
「いえ、よく間違えられるので……」
やっぱりこの世界でも、女の子に間違われるのか。
ここ最近は同じ人しか会ってなくて、女の子に間違えられることがなかったなぁ……。
「そうですか……、分かりました。話を聞きましょう」
「感謝する」
シュバルツさんの話を聞くことにしたらしく、西園寺先生は壁から体を離した。
「少し場所を変えましょう。あまりここでは話さない方がいい内容なので……」
そう言って、フレデリクさんが僕達に移動を促そうとしていると、会場の中央から王女様が走って来ていた。
「シュバルツ様〜!」
王女様はシュバルツさんのことを呼ぶと、そのまま飛びついた。
「うおっ、プルーゼ殿下……」
その行動には思わずビックリしていしまった。
まさかシュバルツさんに抱きつくとは思わなかった。
フレデリクさんは特に驚いた様子がないし、普段通りなのかな……。
「お久しぶりですシュバルツ様、お変わりなく元気そうで良かったです!」
「あ、あぁ、プルーゼ殿下も元気そうで何よりです」
「シュバルツ様、少しお固いです。プルーゼとお呼びください」
「いえ、しかし……立場上の問題ですので……」
王女様の声は透き通っていてよく聞こえるからか、いつの間にか周りの視線が集まっていた。
「それよりプルーゼ殿下、その……周りの者の視線があるので、少しだけ離れていただけると……」
恥ずかしそうに顔を赤らめながら言うシュバルツさん。
王女様は周りの目など気にしていないのか、全く恥ずかしがる気配はない。
「……分かりました」
王女様は惜しそうにしながらも、シュバルツさんの言うことに従った。
「プルーゼ殿下、会ったばかりで申し訳ないのですが、私はこの者達と話があるので、その後でお相手するということでもよろしいでしょうか……?」
さっきまで落ち着いた態度だったシュバルツさんが、今は王女様相手に困っている。
王女様パワー凄い……!
「私もその話を聞いてはいけないのですか?」
「うっ……」
王女様の純粋な眼差しが、シュバルツさんに向けられ、言葉を詰まらせる。
あのくらいの女の子に上目遣いをされると、僕でも断れないかも……。
そこに、フレデリクさんのフォローが入る。
「プルーゼ殿下、申し訳ありませんが、プルーゼ殿下でもお聞かせできない話をします。どうか、ご理解の程をよろしくお願いします」
「むぅ……、私に聞かせられない話と言われると余計に気になってしまうのですが……」
王女様はフレデリクさんを見ながら、羨ましそうに言う。
シュバルツさんと話す機会を奪ってしまったようで、何だか申し訳ないな……。
「分かりました。それならば仕方がありません。シュバルツ様とお話するのは、そちらのお話が終わった後にさせていただきます」
「感謝します、プルーゼ殿下」
王女様は残念そうにしながらも、それ以上何も言うことなく引き下がった。
それに対し、フレデリクさんが軽く頭を下げた。
「では、私はここで失礼します。シュバルツ様、お話が終わったら私のお相手をしてくださいね」
王女様はそう言い残し、別のところへと行ってしまった。
「デューク先輩、相変わらずプルーゼ殿下に好かれてますね」
「俺みたいなやつの一体何処を好いているのかやら……」
王女様、シュバルツさんのことが好きなのかー。
確かにシュバルツさんはかっこいいから、女の子なら好きになってしまうのかな。
「……すまない、見苦しい姿を見せたな。場所を変えよう」
シュバルツさんは恥ずかしそうにしながら、先に会場を出た。
僕と西園寺先生、フレデリクさんは何を言うでもなく、その姿を見ていた。
シュバルツさんも思うところがあるのかもしれないけど、王族と一般人、色々と複雑なのかな。
そんなことを考えながら、僕も会場を後にした。




