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エーテル・グレイス  作者: クロビー
序章 アルストラ王国編
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酒場での話

「では、私はそろそろ城に戻ります。あまり長く城を空けていると、無断でここに来たことがバレてしまうので」

「あぁ、急に呼び出してすまなかったな」


 そう言って空になったグラスを、シュバルツさんが下げた。


 フレデリクさんが無断でここに来たのには少し驚いたが、よくよく考えればそうするしかないのか。

 フレデリクさんが団長を務める騎士団は、王宮騎士団とも呼ばれる、第一騎士団。

 王族の護衛など、重要な任務を行う部隊だ。

 その部隊のリーダーであるフレデリクさんが、簡単に城を離れる許可が下るはずがないからな。

 街に来るには、無断で城を抜け出すしかないのだろう。

 城の警備はフレデリクさんの指示でどうとでもなるだろうから、あとはこっそり城を出るだけだ。


「もし何か困ったことがあれば、そのときは騎士団を頼ってくれ。きっと力になれると思う」

「分かりました。もし何かあれば、そのときは相談させてもらいます」

「あぁ」


 フレデリクさんが椅子から立ち上がる。お酒で少し体が温まったのか、頬が少し赤くなっている。


「あ、最後に少しお願いをしてもいいですか?」

「私にできることなら構わないが……何かな?」


 俺に呼び止められたフレデリクさんは店のドアに進めていた足を止め、俺の方に向き直る。


「シズル=サイオンジとヨシアキ=コマイの二人には、俺が生きていることを伝えてくれませんか?」


 三ヶ月も音沙汰無しで、生存報告も一切していなかったからな。

 無用な心配をかけてしまっていることにちょっと罪悪感を感じる。

 元の世界に帰る方法が見つかるまで数カ月、もしくは一年程。下手したらそれ以上掛かるかもしれない。

 それまでずっと生存報告をしていないと、再会したときに西園寺先生の説教を長々と聞く羽目になってしまうかもしれない。

 もしかしたら、既に怒っているかもしれないが。


「それは構わないが……、どうしてその二人だけなんだ?」

「皆に話してしまうと、城に居る騎士や魔術師の耳に入る可能性が高まると思うので。全員が全員、口が堅いわけじゃないですから」

「二人なら、その心配がないと?」

「そんなところです」


 まぁ、同じ特務機関の人間っていう理由もあるけど。

 でもまぁ、納得させるにはこれくらいの理由で十分だろう。


「分かった。そういうことなら、私から二人に話しておこう」

「じゃ、フレデリクさん、また」

「あぁ、また会おう」


 カランという鈴の音と共に、フレデリクさんが店を出た。


「俺達もこれで……」

「悪い、もう少し話すことがある」


 話も終わっただろうと思い、グラスを下げて椅子から立ち上がると、シュバルツさんに止められた。

 特に用事は無いし、ゆっくり話を聞いてもいいか。

 俺ばかり話しているから、エナは退屈そうにしているが……。


 エナの不満そうな視線に耐えながら、カウンター席に座る。


「二度も引き止めてすまない」

「特に用事もないので大丈夫です。で、まだ話すことっていうのは?」

「あぁ、ちょっと待っていてくれ」


 そう言って、カウンターの奥の部屋へとシュバルツさんは行ってしまった。


 この酒場、冒険者がよく利用しているのだろうか。月猫団のみんなもシュバルツさんとは顔見知りみたいだったしな。

 ギルド街の近くだし、色んなギルドの冒険者が利用してそうだ。


 そう思いながら、店内を見渡す。

 木で出来たテーブルや椅子が多い。

 よく見ると剣で斬ったような傷がついているテーブルがあるが、見なかったことにしよう。

 冒険者同士の喧嘩でもあったのだろうか。

 それにしても物騒すぎるだろ……。


「待たせたな」


 店内を見渡してそんな感想を抱いていると、シュバルツさんが戻ってきた。

 手には首飾りを持っており、シュバルツさんはそれを俺の目の前に置いた。


「これは?」

「着けてみるといい」


 目の前に置かれた首飾りは、首に掛ける部分は紐で作られ、ひし形の魔石が吊るされている。

 首飾りを手に取って着けてみる。


 着けた感じは特に変化はない。

 不思議に思っていると、視界の端に映った自分の髪に違和感を覚えた。

 少し髪を弄ってみる。


「髪色が変わってる……?」

「しかも、吾輩と同じ銀髪じゃのう」


 これは俺が手に入れようと思っていた品だ。

 シェリアさんと行った店で見た首飾りとは違うデザインだが、シェリアさんに選んでもらったものと同じ髪色だ。


「それはお前にやろう」

「いいんですか?」

「それなら騎士団に顔を見られても、多少は誤魔化せるだろう」


 こんな高価な品を貰えるとは思わなかった。

 ……もしかしてシュバルツさんって金持ち?

 元騎士団団長って言っていたし、給与も多かったんだろうか。


「何故銀髪を?」

「お前は黒髪だからな。銀髪にすれば、印象もだいぶ違うものになるはずだ」


 そういう理由か。

 着せ替え人形のようにシェリアさんに弄られていた場面を、目撃されたわけじゃないなくてよかった。


「わざわざ俺のためにありがとうございます」

「構わない。どうせ埃を被っていた品だ」


 こんな高価なものが埃を被ってるとか想像も出来ないな……。やはり金持ちか……!


「それとエナ=ルージュ、君は戦闘の時に周りを気にした方がいい」

「どういう意味じゃ?」

「魔法を使うのは、極力控えた方がいいということだ」

「……!」


 そのシュバルツさんの言葉に、俺は動揺する。

 エナも一瞬動揺したようだが、すぐに冷静になっていた。


 魔法を使った瞬間を見られていた?

 しかし、あの時近くに他人の気配は無かった。

 一体いつ魔法に気付いたんだ?


「俺は君が人間だろうが人間じゃなかろうが、どうだっていい。誰かに言うつもりもない」


 その言葉に、俺は少し安堵する。

 エナが人間じゃないということは、周りに知られないほうがいい。

 もし騎士団に報告するとか言われたら、この街を離れないといけなかったかもな。

 というか俺の超能力だけじゃなく、エナの魔法まで気付くとか、シュバルツさんの観察眼はどうなっているんだ。


「魔法を使えるということは、普通の人間じゃないんだろう?」

「……うむ」


 嘘をついても意味がないと判断したのか、エナは降参するように頷いた。


「見た目は人間だから気づかれることはないと思うが、気をつけた方がいい。人間と亜人は共存しているが、それ以外の種族は姿を見ることもほとんどないからな。好奇の目で見られるか、差別を受けるかのどちらかだろう。もっとも、一部の国では亜人すらも差別されているがな」


 俺達二人は、周りに正体を隠して過ごさないといけないというのには変わりないが、エナは特に気をつけた方が良いということか。

 俺は正体がバレても、異世界人だから歓迎されるだろう。

 しかし、エナは吸血鬼。もし正体がバレれば、差別されかねない。


 月猫団のみんなは、もしエナが人間じゃないと知ったら、どうするんだろうか。

 あの人達がエナを差別する姿は思い浮かばないな……。


「俺からの話は以上だ。何か聞きたいこととかあるか?」

「いえ、俺からは何も」

「そうか。何かあれば、騎士団じゃなくて俺を頼ってくれてもいい」

「分かりました」


 礼を言って、俺とエナは立ち上がる。

 フレデリクさんに直接会えることは少なそうだし、俺の正体を知っているシュバルツさんを頼る方が安全か?

 城の警備をしている騎士団の人に、フレデリクさんに合わせてほしいと言っても無理だろうしな。


「では、俺達はこれで」

「あぁ」


 ドアを引いて、カランという音と共に、俺とエナは店を出た。

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