ギルド月猫団
光学迷彩を解除し、歩いて街の広場に来た。
この国は余程広いのか、王城から街の広場までかなりの距離があった。
普通の人間なら乗り物がないとかなりきつい。
広場には真ん中に噴水が設置してあり、噴水の縁に座って話をしている者もいる。
広場には店が多くあり、武具屋・服屋・薬屋・本屋・宿屋・飲食店などここだけで生活に必要なものは揃えることが出来そうだ。
歩いていると大剣を持った男が入っていった建物に目が入る。他の店より一段と大きく、外の看板には『ギルド月猫団』と書かれていた。
外から見た限り人が多そうだしここに入って人に聞いてみるか。
俺はギルドと書かれた建物に入る。中には武具を身に着けている人が多く、亜人の人たちも居て賑わっている。
ただ中にいるのは大人ばかりで子供の姿は見当たらない。誰に聞こうか悩むが、受付をしている人に聞くことにした。
「あの、すみません。ちょっと尋ねたいことが……」
彼女の身長は百五十センチくらいで頭には猫耳が生えており、後ろには尻尾が動いているのが見える。俺をじっと見つめると彼女の口が動く。
「えっと……、君まだ子供だよね? 子供が来るようなところじゃ無いと思うんだけど……」
え? そうだったの? でも君も子供じゃないの? 働いてるなら関係ないのか?
……取り敢えず事情を説明しよう。何か周りの人らにジロジロ見られてるし。
「実は……」
「坊主こんなところに何用だ?」
俺は男が近づいてくるのに気づかず、突然後ろから声をかけられ驚く。後ろを振り向くと俺がここに入る前に入っていった男だった。
「あれ、ジオルク。帰って来てたんだね」
「あぁ、さっき依頼終えて帰ってきたところだ。ほらこれ」
「じゃ、少し待っててね」
話を聞いている限りどうやら彼女の知り合いみたいだ。
「用事というか聞きたいことが……」
「それはこいつに聞かなきゃいけないことか? なんなら俺が話聞いてやるぜ?」
と男が言う。目的はあくまで情報収集なので話が出来れば誰でも問題はない。
「別に彼女に用があるわけじゃないから誰でもいい。それより話を聞いてくれるなら助かる」
「そうか」
「あ、ジオルク。これが報酬だから」
男は彼女から金らしきものを受け取ると店の端の方を指差す。
「あっちで話を聞こうじゃないか」
俺と男は端の席に移動する。
ジオルクと呼ばれてた男は周りの人たちより一回り背が高く、服の上からでも体を相当鍛えているのが分かる。背中には自身の身長と同じくらいの大剣を背負っていた。
頭は髪の毛が生えておらず、照明の所為で輝いて思わず笑ってしまいそうだったがなんとか堪える。
「で、話ってのはなんだ?」
「実はこの国のことをあまり知らなくてな……。そのことを聞こうと思って……」
「ってことはお前さんは他の国から来たってことか?」
別の国というか別の世界なんだけどな。ただそんなことを言っても信じてもらえるとは思わないので若干言葉を濁しながら言う。
「うんまぁ、そんなところかな」
「ふぅんそうか。俺の名前はジオルク=フェンデルだ。お前さんの名前は?」
ジオルク=フェンデルか……。名前が先にくるってことはフェンデルは姓だろう。だったら俺は川崎透じゃなくて透川崎ってなるわけか。
「俺はトオル=カワサキだ」
「分かった。俺のことはジオルクって呼んでくれ」
ジオルク、見た目は怖いんだが落ち着いた声で怖くなく、話してみるといい人だ。この人に出会えたのは幸運かもしれないな。
「ところでお前の親は?」
「あー親は居ないんだ。ちょっといろいろあってな」
俺の本当の親は既に亡くなっている。義父と義妹はいるが向こうの世界だからもう会えないだろう。
「ほぅ、ってことは一人でこの王都に来たってことか。魔物も出るっていうのにその歳で大したもんだなぁ」
ジオルクは感心したような口調と態度で言う。
勝手に勘違いしてくれてるが訂正しなくていいか。それにこっちに来てからまだ魔物に会ったこと無いけどね。
「ジオルクこそその大剣を使うなんて凄いじゃないか」
「そりゃあ鍛えてっからな」
「っと悪い、俺の質問ばかりになっちまったな。俺の知ってる範囲でなら答えるぞ」
「それじゃあ、まずギルドってどういうところなんだ? 武器やら防具やら身につけてる人多いし受付の子を除いて子供も全く居ないんだが」
ひとまず目先の分からないことから聞いていく。
「まずそこからか……。各国にはいくつかギルドがあるから他の国の奴でも知ってそうなんだが……、もしかして田舎の村の出身か?」
「田舎かどうかは分からないけど俺の住んでたところではギルドって言葉は聞かなかったな」
「そうなのか。ギルドっていうのは依頼を受け付ける場所だ。あそこの奴らはみんな冒険者って言ってな」
ジオルクはギルドにいる人達を指を差して言う。
「冒険者はここの依頼を受けて、その依頼を達成することで報酬を貰ってんだ。ギルドに登録しとけば誰でも受けることが出来るぜ」
「報酬ってのは何が貰えるんだ?」
「基本は金だな。だから冒険者ってのは依頼を達成して、その報酬の金で生計を立ててる奴が多いんだ」
なるほど……金はここで稼げるのか。
「ギルドに登録するのは簡単なのか?」
「あぁ簡単な手続きをするだけだ。とは言っても契約書に名前書くだけだけどな」
名前か……こっちの文字を読むことは出来るんだが、俺はこっちの文字が書けないんだよな。
だがここで金を稼げることは分かった。文字に関しては地道に覚えるしかなさそうだが……。
「あと、あの受付やってたあいつ、あんな見た目してるけどもう立派な大人なんだぜ。俺も初対面のときはガキかと思ってたんだが、大人って言うんだから驚いたぜ。だって見た目以外も子供みたいなところがあるからなぁ。ってどうしたんだ?」
ジオルクが喋っていると後ろに受付の彼女が現れ、俺はつい視線をそちらに向ける。
俺の視線が逸れたことに気づいたジオルクは俺が見ている方向を見ようと後ろを振り向こうとした。
すると、ジオルクの後ろに移動した彼女はジャンプしたかと思うと、凄い速さでジオルクの頭を叩いた。
パシッと叩いた音がギルド内に広がり皆の注目を集めるがこちらを見ると「なんだいつものことか」と元に戻る。
「痛ぇ! 何すんだこのやろう!」
「爪で引っ掻かれなかっただけ感謝したらどう?」
彼女はそう言うとジオルクに不機嫌そうな態度をとる。
ジオルクは彼女に対して怒りを露にし、今にも殴りそうな勢いだが手は出さない。
「君はトオルくんだったわよね。私はシェリアって言うの。呼び捨てで構わないわよ。あ、お姉さんって呼んでくれてもいいわよ? この男に何かされたらいつでも私に言ってね」
「お姉さんはちょっと……シェリアさんって呼びます」
「何言ってんだかこの見た目詐欺師は」
「痛ぇ! だから叩くなよ!」
俺は二人のやり取りを見ていてつい笑みが溢れ少し笑ってしまう。二人は俺が笑っているのを気がついたのか俺を見る。
「何かそんなにおかしかったか?」
「いえ、二人とも仲がいいんだなって。少し羨ましく感じるよ」
そう、俺は二人のやり取りを見て羨ましく思ったのだ。義父や義妹とは仲がよく、冗談も言い合える仲だがもう会えないと思うと羨ましく感じ、同時に寂しくも思ってしまった。
「別に仲良くなんて無いわよ。ただのギルドの仲間ってだけよ」
こちらが騒いでいると他の席に居た冒険者が近づいてくる。
「この二人はいつもこんな感じだから気にすんな。それよりお前みたいな若者がそんな目をするもんじゃないぞ。ま、ジオルクはこんな見た目だが非常にいいやつだから仲良くしてやってくれ」
「こっちとしても仲良くしてくれるのは嬉しいよ」
ギルドで他の冒険者とも仲良くなることが出来た。途中で酔っ払いが酒を飲まそうとしてきたがそれはシェリアさんが止めてくれた。
シェリアさん、普通に殴って眠らせたけど一体その体の何処からそんな力が出てくるんだ。
流石にそろそろ別のところに行きたいのでギルドを出ようとするとジオルクが案内を申し出てくれたので俺からもお願いをし、案内してくれることとなった。