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エーテル・グレイス  作者: クロビー
序章 アルストラ王国編
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三ヶ月ぶりの再会

 カウンターテーブルに置かれたグラスに口をつける。

 炭酸は何杯も飲んでいると、それだけで腹が満たされる。しかし今は、どうにも口が寂しく、グラスに注がれたジュースを少しずつ飲んで誤魔化している。

 隣に座る女性には桃酒が出された。


「それで、私が呼ばれた理由を知りたいのですが……」


 そう言うのは俺の隣に座る女性。王城で俺のクラスメイトを指導していた騎士団団長、リーリア=フレデリクさんだ。

 ここに居るということは、誰か代わりがクラスメイトを指導しているのか。それとも今日はたまたま休暇なのか。

 戦いというものに慣れていないクラスメイトを、毎日何時間も訓練で縛るようなことはしていないと思いたい。


 グラスを片手に、フレデリクさんは隣に座る俺とエナを見てくる。

 この人と会ったときのことは全く考えていなかった。

 何なら、王城に居たときにほんのちょっと会話したことがあるだけなので、この人のことを忘れていたまである。

 何を話せばいいのか分からず、俺は無言で目を逸らすしかない。


「一つ確認するが、二人は面識があるということでいいか?」

「は、はい。確かに彼と面識はありますが……」


 どう答えようか迷っていると、フレデリクさんが先に肯定してしまった。

 仕方なく、俺も首を縦に振る。

 ここで否定して、フレデリクさんの勘違いだと言えなくもないが、俺がフレデリクさんを見たときの反応は見られている。

 わざわざ王城に居るフレデリクさんを呼び出すということは、シュバルツさんもそれなりの確信を持っているはずだ。

 今更、異世界人ではないと誤魔化すことは出来ないだろう。


「どうやら、俺の推測は間違っていなかったみたいだな」


 俺が異世界人だと疑う要素はあったということか。

 でもこんな人に聞かれそうなところで話して大丈夫なのだろうか……。


「人払いなら済ませている。何でも聞くといい」


 外が気になっている俺を見て気づいたのか、シュバルツさんがそう言ってくれた。

 入口には「閉店中」の掛け看板があったし、客も入って来ないか。

 俺が異世界人というのは国の重要機密事項レベルだし、情報漏洩には十分気をつけているだろう。


「あの……いつ俺が異世界人だと気づいたんですか?」


 シュバルツさんとは、昨日初めて会ったばかりで面識がない。

 顔を合わせたのも、洞窟の中に居た時間だけ。

 その僅かな短時間で、どうやって俺のことを知ったのだろうか。


「最初疑ったのは、洞窟の奥で魔物と戦っているお前を見たときだ。トオル=カワサキ、お前はあの戦いの時、魔術でも魔法でもない、違う力を使っていただろう」

「……」

「沈黙は肯定と捉えるぞ」


 魔術でも魔法でもない力となると、超能力のことだろう。しかし、その力の正体は分かっていないようだ。

 なんとか平静を装っているが、内心では慌てている。


「確かにお前は〈身体能力強化〉の魔術を使っていた。しかし、あの程度の魔術ではそこまで身体能力は強化されないはずだ。だから俺は、お前が何か別の力を使っているのではないかと思ったんだが」


 合っているかと確かめるように、俺を見るシュバルツさん。

 ここまで言い当てられてしまっては、沈黙を続けても意味がない。それより、素直に話して信用してもらう方がいいだろう。


「……その通りです。確かに俺は、魔術でも魔法でもない力を持ってます。でも何故それで俺が異世界人だと?」

「お前の力が何なのか、俺には分からん。だが少なくとも、俺の知っている限りでは、この世界のどの国の人間にも持ち得ない力だということだ」

「まあ……確かにこの世界では、聞いたことないですね」


 だから俺は、超能力と一緒に魔術も使うことで知られないようにしていたつもりなんだが……。

 これは超能力の使い方を改める必要があるな。

 シュバルツさんのように魔術を見抜いてくる人は殆ど居ない。逆に言えば、シュバルツさんのように見抜いてくる人は居るということだ。


「あの……ちょっといいだろうか?」


 それまで静かにしていたフレデリクさんが口を挟む。


「えっと……、カワサキくん……で間違いないのか?」

「ええ」

「まずは、生きていてくれて本当に良かった。君が行方不明になってからというもの、全く見つからないのでてっきり……」


 最後の方は言葉を濁すフレデリクさんだが、その先の言葉は予想できる。大方、死んでいるとか亡くなっているといったところだろう。

 その辺りに関しては、全く姿を見せなかった俺も悪かったと思う。

 余計な心配をさせてしまったしな。


「心配をお掛けしてすみませんでした」

「謝らなくていい。無事を確認できて安心した。それより、先程から言っている君の力についてなんだが……」


 手に持っていたグラスをテーブルに置き、俺に目を向けるフレデリクさん。


「君の友人達が時折、『超能力』という言葉を口にしていた。もしかして君はその『超能力』というものを持っているのか?」


 その言葉で、クラスメイトの訓練の様子を見ていた時を思い出す。

 あの時、クラスメイトの何人かが超能力みたいだと言っていた気がする。


「はい、俺の力はその『超能力』で間違いないですよ」


 まあ、魔術を使っていて興奮する気持ちも分からなくはない。

 俺らのような若年層は身近に超能力者が居るといっても、そう多くはない。

 俺のクラスには俺と義明の二人、超能力者が居るわけだが、超能力者が居ないクラスもある。

 まあ、俺と義明は超能力者だということを隠しているから、居ないのも同然だが。

 国際的な教育方針で、超能力者が学校に来て講演をすることが偶にあるため、今の学生の殆どは超能力を見たことがある。

 それでも見る機会は少ないので、超能力に似たような魔術には興味も湧くだろう。


 魔術は魔力。超能力はエーテルを使うわけだから、決して同じものではない。でも、目に見えない物質を使っているという点では同じだからな。

 俺的には魔術も似ているとは思うが、それ以上に魔法の方が似てる。

 あいつらが魔法のことを知ったら、魔術より興奮するんじゃないか?


「俺に超能力が無ければ、王城で部屋を爆破された時に死んでいたでしょうね」


 超能力が無ければ、そもそも狙われなかったと思うけど。

 今は超能力を使わずとも魔術で防げそうだが、あの時はこの世界に来たばかりで魔術なんて使えなかったからな。


「超能力があっても、死にかけておったではないか」

「ちょっ、エナ、それは……」


 全く会話に入れず不満そうなエナが、そんな発言をした。

 エナはちょっとした悪戯のつもりなのかもしれないが、暴露された俺は恥ずかしくて堪らない。今すぐこの場から逃げたい……。


 あの時の俺は、一人で城を飛び出した挙げ句、死にそうになったところをエナに助けられた。情けない話である。


「あの時のアスカルは――むぐっ!?」


 話を続けようとするエナの口を、慌てて抑える。


「んー! んーんー!」


 手を離せと、エナはポカポカと俺を叩いてくる。

 それは傍から見れば男女がじゃれ合っているように見えるだけで……、シュバルツさんとフレデリクさんの二人の視線が痛かった。


「……ごほん」


 誤魔化すように咳払いをし、エナの口から手を離した。


「話を戻しますが、俺を異世界人だと思った理由は、俺の持っていた力だけですか?」

「いや、その時点ではまだ半信半疑だった。だがその後の調べで、ほぼ確信へと至った」


 至って冷静に話すシュバルツさんに耳を傾ける。


「お前は行方不明となったと同時期に、冒険者登録をしただろう。それが、確信へと至った理由だ」

「あー……」


 俺は行方不明になる直前に、冒険者登録をしていた。そして、アスカル=トキサカという名前にしたのは、俺が行方不明になった翌日。

 怪しいっちゃ怪しいよなあ……。


「でも何故行方不明になった異世界人が居ることを知っていたんですか? 街の掲示板にもそんなことは書かれていなかったので、てっきり国の機密事項なのかと……」


 そもそも、何故一般人であるシュバルツさんが、国の機密事項を知っているのか。

 行方不明の異世界人の存在を知っているのは、騎士団関係者でもそう多くないはず。


「いや、お前の言う通り、行方不明になった異世界人が居ることは機密事項だ。各騎士団でも、団長クラスしか知らされていない」

「じゃあ何故シュバルツさんは知っているんですか?」

「それは……、俺とリーリアの関係も話さないといけないな」


 二人の関係か……。

 フレデリクさんは団長という忙しい身でありながら、シュバルツさんの呼び出しに応じるくらいだからな。

 二人の間には何かしらの関係があることは予想がつく。

 だからと言って、フレデリクさんが国の機密事項をシュバルツさんに漏らすとは思えない。


 ……あれこれ推測しても、俺の頭じゃ答えに辿り着けないか。

 どういう答えが返ってきても、冷静でいるようにしよう。

 シュバルツさんに聞きたいことも、まだ沢山あるしな。

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