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エーテル・グレイス  作者: クロビー
序章 アルストラ王国編
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ヴァルガの事件解決

 洞窟での戦いが終わった俺達は、ヴァルガの街に戻って建物の修復の手伝いをした。

 あそこにいた魔物が、今回の事件の元凶だったのかは定かではない。

 騎士団では様々な意見が交わされ、一旦調査を終了することになった。


 今回の事件が本当に解決したのかは定かではないため、第四騎士団はまだヴァルガに残ることになるらしい。

 そのため、ここで第四騎士団の人達とはお別れということになる。

 俺にとって騎士団とこれ以上関わることはなるべく避けていたいし、あまり関係のないことだが。


 報酬がどのくらいで支払われるのか気になったが、騎士団は忙しそうで話しかけられそうになかった。

 個人ごとではなくギルドごとに支払われるそうだし、もし俺がタンゲルに行くまでに支払われなかったときは、シェリアさんに任せよう。


 冒険者の人達はヴァルガから早々に退散し王都に戻る人、まだヴァルガに残る人に分かれた。

 俺とエナは、ジオルクと一緒に王都に戻って月猫団のギルドに行くことにした。


 日はだいぶ傾いて来ているが、まだぎりぎり馬車は残っている。

 今からヴァルガを出れば、王都に着く頃には辺りも暗くなっているだろう。


「じゃあ、俺らもそろそろ行くか」

「そうだな」

「うむ」


 馬車には先にジオルクが乗り込み、その後に続いて俺、エナが馬車に乗り込む。

 馬車の中には他の冒険者も数人おり、乗り込んだ俺達を一瞥する。

 中には洞窟で共に戦った冒険者もいた。

 俺達が乗り込んで少しすると、馬車が出発した。俺達三人で満員になったらしい。


 元の世界での乗り物の移動に慣れていると、馬車は揺れすぎて尻が痛くなる。こんなの、車や電車に慣れた現代人には耐え難い乗り物だ。

 王都とヴァルガの道は整備されているとはいえ、日本のようにアスファルトで舗装されているわけではない。

 土の上だから細かい石などでガタガタだし、少しの段差でも酷く揺れるから、とても落ち着けたものではない。眠気なんて一瞬で吹き飛んでしまう。


 しかし、こんなに不満を抱いているのは俺くらいなものだろう。

 他の冒険者は慣れた様子で談笑していたり、寝ていたりしている。

 ガタガタ揺れているせいで武器もガチャガチャと鳴っていてうるさいのに、よく寝られるものだ。

 この世界で生きていくためには、馬車での移動にも慣れないといけないのだろうか。

 エナのように、空を飛べられたら楽だろうなあ。


「ジオルクは馬車に乗っててよく平気だな……」

「何がだ?」


 エナとジオルクも平気な顔をして座っている。ジオルクはともかく、女の子のエナにこんなところまで負けるのは悔しい。


「いやだって……、馬車って結構揺れるし……」

「ああ、そういうことか。それなら俺はもう慣れたな」


 ジオルクくらいの冒険者ならそりゃそうか。冒険者は馬車を使う機会が多いし、ジオルクは何年も冒険者をやってるもんな。


「どのくらいで慣れたんだ?」

「五、六回くらい馬車に乗ってたら慣れたな」

「ま、まじか……」


 たったの五、六回で慣れるものなのか? いや、絶対に無理。

 五、六回どころか、数十回乗っても慣れそうにないんだけど。下手したら一生慣れないかもしれない。

 このままだと馬車恐怖症になっちゃうよ。


「アスカルは駄目みてぇだが、お嬢ちゃんの方は平気なんだな」


 ジオルクはエナを見て言った。


「吾輩は体が揺れないようにしておるからな」

「ん? どういうことだ?」


 確かに体は全く揺れていないみたいだが……。


「魔術で少しだけ体を浮かしておるのだ。吾輩も馬車の揺れは耐え難い」


 エナは腰に手を当ててそう言った。

 ヴァルガに来るときの馬車で痛かったのだろう。


「魔術ってそんなこともできるのか?」


 ジオルクがエナに尋ねる。


「魔術は理論的に現象を具現化する技術じゃからな。発想力と創造力さえあれば、簡単な魔術の一つや二つすぐに作れるのだ」


 と、少し自慢げにエナは言う。

 発想力と創造力と言うが、それは魔術の基礎を理解していてこそ出来ることだからなあ……。

 俺にとっては雲の上のような技術だ。


「でも体を浮かせているだけなのに、どうやって馬車と一緒に移動しているんだ?」


 馬車に触れず浮いているのなら、馬車と一緒に移動できるはずないと思うが……。


「吾輩自身の座標と馬車の座標を一致させている。じゃから、馬車と一緒に移動しているというわけじゃ」

「座標か……。なるほどな」


 馬車に乗って移動しているというよりは、馬車にくっついているという表現の方が合っているか?


「やっぱお嬢ちゃんはすげぇな」


 ジオルクがエナを褒める。

 エナも褒められるのは悪い気はしないようだ。


「あの洞窟の時の魔術もすごかったぜ。あんなの滅多に見れねぇからな」


 あの時使ったのは魔術じゃなくて魔法だけどな。ともかく、魔法だってバレてなくて良かった。

 魔術も魔法も現象を具現化する技術だから、中々見分けが付きにくいのだろう。


「ジオルクもエナに魔術を教えてもらうか? 俺もエナに教えてもらったから、魔術を使えるようになったし」

「そりゃあ教えてもらえるのは有り難いが……いいのか?」

「吾輩は別に構わぬぞ?」


 エナは嫌そうな顔もせず承諾してくれた。


「魔法のことは絶対に話すなよ?」

「分かっておる」


 小さい声でエナと話す。

 図書館で魔法のことに関する記述を見たあと、魔法は一部の種族にしか使えないことをエナに伝えたことで、エナもその辺りには気をつけている。


 エナが魔術の説明を始めると、馬車に乗っている他の冒険者もいつの間にか傾聴していた。

 大の大人達が女の子に教えてもらっている光景は、見ていて面白い。

 馬車の中では勉強会と呼べるものが開かれた。


 最初の説明は簡単なもので、冒険者達も熱心に聞いていた。しかし魔法陣の説明が始まると、徐々に冒険者達は追いつけなくなったのか首を傾げたり、ついにはリタイアする冒険者も出てきた。

 魔術式の説明になると冒険者達は全員リタイアし、そこで勉強会は打ち切りとなった。


 最初に教えてもらうと言ったジオルクは、完全に伸びていて、声にも覇気が感じられなかった。

 冒険者に頭を使うことはやらせるべきではないと、この時改めて感じた。

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