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エーテル・グレイス  作者: クロビー
序章 アルストラ王国編
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未知の魔物と戦闘

 洞窟の奥で魔物との戦闘が始まってから、少し経った。

 戦闘の指揮はクラナッハさんが行い、負傷者もそれほどいない。


「また来るぞ!」


 魔物からまたしても、光線が放たれる。

 魔物が光線を放つ前兆が分かったはいいものの、その圧倒的な破壊力で吹き飛ばされそうになる。

 攻撃が来ることが分かるのと、それを対処するのは別の問題だ。


 魔物は俺達が戦う前から弱っていて、それでも俺達は苦戦を強いられている。

 この魔物が万全の状態だったらと思うと同時に、どうしてこれほどまでに強い魔物が、傷だらけで弱っていたのだろうと考えてしまう。


 未だ魔物からは血が滴り、地面を赤く染めている。

 魔物は唸るようにして、長い腕を振り下ろす。

 魔物の動きは鈍く、攻撃する隙は十分にある。


 魔物が他の人達を対処している隙に、俺は魔物の後ろに回り込み、刀を振るった。


「ちっ……」


 しかし、刀は魔物を斬ることはなく、キンッという音が鳴っただけだった。

 まるで岩を斬っているかのように固く、とても生き物を斬っているとは思えない感触だ。

 想像していたような動きができなかった俺は体が宙に舞い、足場を失う。

 魔物は俺のほうを向き、長細い腕を振るった。


「やべっ――」


 宙を舞う俺は身動きが取れず、そのまま魔物の大きい手が体に直撃した。

 気がつけば地面に叩きつけられ、全身に痛みが走る。


「アスカル!」


 急いでエナが駆けつけてくれ、魔術で傷を治してくれた。といっても軽い怪我で、そのままでも大丈夫な怪我な怪我だった。

 だが、心配そうに俺を見つめるエナにそんなことを言うことができず、大人しく回復の魔術を受けた。


 超能力で体を強化した上で、この痛みだ。もし、超能力で体を強化していなかったとしたら、想像に容易い結果となっていただろう。


「刀じゃ無理だな、あれは」

「吾輩も先程から魔術で攻撃してみてはいるが、効果は薄いのう。洞窟内で、強力な魔術を使うわけにもいかぬからな」


 下手に強力な魔術を使えば、この洞窟が崩落する可能性もあるからな……。


「エナ、刀の刃が通りそうな場所はないか?」

「……目、じゃろうな」

「だよなあ……」


 だが、目になんてとても近づけそうにない。


「……いや、刃が通らないのであれば、別のものを通せばよいのじゃ」

「別のもの……?」


 俺がはてなを浮かべていると、エナが俺に耳打ちした。


「……それ、できるのか……?」

「吾輩の腕を信じるがよい」


 エナの腕を疑うわけじゃないが、そういうものを実際に行ったことはない。


 俺は再度、魔物の死角へと入り込み、エナが攻撃するのを待つ。


「其は凍てつきし刃、その身に凍気を纒い永久に眠れ――」


 周囲の人に見つからないよう、エナは小さい声で詠唱する。

 エナが今から使うのは魔術ではなく魔法。

 俺が吹き飛ばされたことで、周囲に人がいない場所に俺とエナはいた。

 それに、今は全員戦闘に集中していて、後ろに気を配っている余裕なんてない。

 今なら、周囲に見つからず魔法を使うことができる状況だ。


「――出てよ氷晶〈フリージングコフィン〉」


 エナが詠唱を終える。

 その瞬間。魔物が氷に包まれた。

 その氷は魔物ごと完全に凍結させるのではなく、魔物に薄い氷の膜を張るようにして、その周囲に冷気を放っている。

 少し近づくだけでも、その冷気が肌で感じられる。下手に近づけば、すぐに凍傷を起こすだろう。


 俺は魔物の死角から、一番冷気が濃く、氷が薄い箇所に狙いを定める。


「〈紫電しでん〉!」


 魔物の頭上から、〈紫電〉を放つ。

 魔物に一直線に雷が飛んでいき、俺が狙った箇所にピッタリ当たった。

 雷は冷気と絡み合い、魔物を包み込む。

 そして、魔物の全身に電流が流れた。

 今度こそ効いているようで、全身に電流が流れたことで、魔物の体からはシューと煙が立ち上る。


 超伝導ちょうでんどう――。

 物質を非常に低い温度へ冷却したときに、電気抵抗が急激にゼロになる現象。


 エナが思いついたのは、魔物の体に電気を通すこと。

 俺一人じゃ、こんなこと思いつきもしなかっただろう。

 魔物は地面に倒れ、ピクリとも動かない。


「やった……のか……?」

「いや、まだ魔力反応が消えておらぬ」

「ま、まじか……」


 魔物がさっき受けた攻撃は、決して弱くはないはずだ。

 それでも倒しきれないとか、とんだ化け物だな。


 他の人達はこの機を逃すまいと、一斉に魔物に攻撃を仕掛ける。

 魔物は着実に消耗しているようで、動きも段々と鈍くなってきた。

 俺も他の人達と同じように魔物に近づいたと時。魔物の目が光った。

 俺は慌てて足を止める。魔物の上を見ると、無数の魔法陣が浮かび上がっていた。


 魔物が魔術を使っている!?

 知能を持った魔物がいないということはないが、魔術を使う魔物なんて聞いたことがない。

 ……いや、今はそれよりみんなに知らせるべきだ。


「そこから逃げ――」


 俺がそう叫ぼうとした瞬間。後ろから一つの人影が現れた。

 金色の髪に、黒い服を身に包んだ人。大剣を片手で軽々と持っている。


「――〈翔雷滅破しょうらいめっぱ〉」


 その人は、手に持った大剣を魔物に振るう。

 俺の〈紫電〉よりも強力な雷が、波のように魔物へと襲いかかる。

 右手に持っている大剣には、ビリビリと雷が纏わっている。


 雷が魔物に当たると、頭上にあった魔法陣はキャンセルされ、徐々に薄くなっていって消えた。


「ちっ、まだ倒せないか」


 大剣を持った人物はそう呟く。

 魔物はまだ目が光っており、その人の言う通り倒せていない。

 その人は魔物の頭上に行き、大剣を構える。

 大剣が纏う雷は先程よりも強くなった。


「〈雷神剣らいじんけん〉」


 魔物の頭上から真っ直ぐ大剣を振り下ろす。


 ドオオオオオオオオオオオオオオオンッ!


 まるで雷でも落ちたかのような威力。つい耳を塞ぎたくなるほどの轟音が鳴り響いた。

 魔物は真っ二つに裂かれ、巨体は塵となって消えた。


 この空間には戦闘の酷い跡と、攻略組の歓声が残った。

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