未知の魔物と戦闘
洞窟の奥で魔物との戦闘が始まってから、少し経った。
戦闘の指揮はクラナッハさんが行い、負傷者もそれほどいない。
「また来るぞ!」
魔物からまたしても、光線が放たれる。
魔物が光線を放つ前兆が分かったはいいものの、その圧倒的な破壊力で吹き飛ばされそうになる。
攻撃が来ることが分かるのと、それを対処するのは別の問題だ。
魔物は俺達が戦う前から弱っていて、それでも俺達は苦戦を強いられている。
この魔物が万全の状態だったらと思うと同時に、どうしてこれほどまでに強い魔物が、傷だらけで弱っていたのだろうと考えてしまう。
未だ魔物からは血が滴り、地面を赤く染めている。
魔物は唸るようにして、長い腕を振り下ろす。
魔物の動きは鈍く、攻撃する隙は十分にある。
魔物が他の人達を対処している隙に、俺は魔物の後ろに回り込み、刀を振るった。
「ちっ……」
しかし、刀は魔物を斬ることはなく、キンッという音が鳴っただけだった。
まるで岩を斬っているかのように固く、とても生き物を斬っているとは思えない感触だ。
想像していたような動きができなかった俺は体が宙に舞い、足場を失う。
魔物は俺のほうを向き、長細い腕を振るった。
「やべっ――」
宙を舞う俺は身動きが取れず、そのまま魔物の大きい手が体に直撃した。
気がつけば地面に叩きつけられ、全身に痛みが走る。
「アスカル!」
急いでエナが駆けつけてくれ、魔術で傷を治してくれた。といっても軽い怪我で、そのままでも大丈夫な怪我な怪我だった。
だが、心配そうに俺を見つめるエナにそんなことを言うことができず、大人しく回復の魔術を受けた。
超能力で体を強化した上で、この痛みだ。もし、超能力で体を強化していなかったとしたら、想像に容易い結果となっていただろう。
「刀じゃ無理だな、あれは」
「吾輩も先程から魔術で攻撃してみてはいるが、効果は薄いのう。洞窟内で、強力な魔術を使うわけにもいかぬからな」
下手に強力な魔術を使えば、この洞窟が崩落する可能性もあるからな……。
「エナ、刀の刃が通りそうな場所はないか?」
「……目、じゃろうな」
「だよなあ……」
だが、目になんてとても近づけそうにない。
「……いや、刃が通らないのであれば、別のものを通せばよいのじゃ」
「別のもの……?」
俺がはてなを浮かべていると、エナが俺に耳打ちした。
「……それ、できるのか……?」
「吾輩の腕を信じるがよい」
エナの腕を疑うわけじゃないが、そういうものを実際に行ったことはない。
俺は再度、魔物の死角へと入り込み、エナが攻撃するのを待つ。
「其は凍てつきし刃、その身に凍気を纒い永久に眠れ――」
周囲の人に見つからないよう、エナは小さい声で詠唱する。
エナが今から使うのは魔術ではなく魔法。
俺が吹き飛ばされたことで、周囲に人がいない場所に俺とエナはいた。
それに、今は全員戦闘に集中していて、後ろに気を配っている余裕なんてない。
今なら、周囲に見つからず魔法を使うことができる状況だ。
「――出てよ氷晶〈フリージングコフィン〉」
エナが詠唱を終える。
その瞬間。魔物が氷に包まれた。
その氷は魔物ごと完全に凍結させるのではなく、魔物に薄い氷の膜を張るようにして、その周囲に冷気を放っている。
少し近づくだけでも、その冷気が肌で感じられる。下手に近づけば、すぐに凍傷を起こすだろう。
俺は魔物の死角から、一番冷気が濃く、氷が薄い箇所に狙いを定める。
「〈紫電〉!」
魔物の頭上から、〈紫電〉を放つ。
魔物に一直線に雷が飛んでいき、俺が狙った箇所にピッタリ当たった。
雷は冷気と絡み合い、魔物を包み込む。
そして、魔物の全身に電流が流れた。
今度こそ効いているようで、全身に電流が流れたことで、魔物の体からはシューと煙が立ち上る。
超伝導――。
物質を非常に低い温度へ冷却したときに、電気抵抗が急激にゼロになる現象。
エナが思いついたのは、魔物の体に電気を通すこと。
俺一人じゃ、こんなこと思いつきもしなかっただろう。
魔物は地面に倒れ、ピクリとも動かない。
「やった……のか……?」
「いや、まだ魔力反応が消えておらぬ」
「ま、まじか……」
魔物がさっき受けた攻撃は、決して弱くはないはずだ。
それでも倒しきれないとか、とんだ化け物だな。
他の人達はこの機を逃すまいと、一斉に魔物に攻撃を仕掛ける。
魔物は着実に消耗しているようで、動きも段々と鈍くなってきた。
俺も他の人達と同じように魔物に近づいたと時。魔物の目が光った。
俺は慌てて足を止める。魔物の上を見ると、無数の魔法陣が浮かび上がっていた。
魔物が魔術を使っている!?
知能を持った魔物がいないということはないが、魔術を使う魔物なんて聞いたことがない。
……いや、今はそれよりみんなに知らせるべきだ。
「そこから逃げ――」
俺がそう叫ぼうとした瞬間。後ろから一つの人影が現れた。
金色の髪に、黒い服を身に包んだ人。大剣を片手で軽々と持っている。
「――〈翔雷滅破〉」
その人は、手に持った大剣を魔物に振るう。
俺の〈紫電〉よりも強力な雷が、波のように魔物へと襲いかかる。
右手に持っている大剣には、ビリビリと雷が纏わっている。
雷が魔物に当たると、頭上にあった魔法陣はキャンセルされ、徐々に薄くなっていって消えた。
「ちっ、まだ倒せないか」
大剣を持った人物はそう呟く。
魔物はまだ目が光っており、その人の言う通り倒せていない。
その人は魔物の頭上に行き、大剣を構える。
大剣が纏う雷は先程よりも強くなった。
「〈雷神剣〉」
魔物の頭上から真っ直ぐ大剣を振り下ろす。
ドオオオオオオオオオオオオオオオンッ!
まるで雷でも落ちたかのような威力。つい耳を塞ぎたくなるほどの轟音が鳴り響いた。
魔物は真っ二つに裂かれ、巨体は塵となって消えた。
この空間には戦闘の酷い跡と、攻略組の歓声が残った。




