ヴァルガでの昼食
騎士と分かれた後、俺とエナは街にある飲食店に入る。
この飲食店の利用者はほとんどが一般人のようで、女性や子供の姿も多い。
この店以外にも飲食店を一つ見かけたが、そこは冒険者が多く利用している店だった。
エナはその店でも構わないと言ってくれたが、エナと二人で冒険者の多い店に入ると、周りの視線が気になって仕方がないので別の店を探すことにした。
あと、男ばかりのむさ苦しい空間があまり好きでは無いという理由もあったりする。女の子ばかりでも困るけど。
要するにバランスが大事なのだ。何事も偏るのは良くないしな!
コストパフォーマンス的には冒険者向けの飲食店のほうが値段の割に量が多いが、俺もエナも食べる量は人並みなので、一般客向けの飲食店でも十分だろう。
栄養バランスの点でも一般客向けの飲食店のほうが良かったりする。
店の入り口には看板で『武器の持ち込み禁止』と書かれていた。
俺は武器を倉庫に入れれば大丈夫だが、冒険者は全員と言っていいくらいには武器を身に着けたままだから、遠回しに冒険者は拒否しているようなものだ。
この店で過去に何かあったのだろうか?
「二名様でしょうか?」
「はい」
「ではこちらの席へどうぞ」
店に入ると店員にそう言われ、窓際の席へと案内された。
テーブルや椅子は木製で、独特な匂いが少しする。椅子を引いてゆっくり腰掛けると、ぎしっと音が鳴った。
「ご注文がお決まりになりましたら、近くの店員にお声をご掛けください」
店員が俺達に頭を下げる。
「すみませーん。注文いいですか?」
「はい。今行きます」
店員は他の客に呼ばれ、その客の席へと行ってしまった。
とりあえず何を食べるか決めよう。
テーブルの左に置かれているメニュー表を手に取り、パラパラと捲る。
一般人の多い店だからか、肉が中心の料理でも野菜も入っているものが多い。
中には元の世界と似たような料理もある。
この店は元の世界で言うと、ファミレスに近い感じだな。
でも向こうでは忙しくてファミレスどころか外食すら殆ど行ったことが無いからな。俺の中のファミレスのイメージに近いと言うべきだろうか。
肉を食べたい気分でもないからこのオムライスみたいなやつでいいか。あとはサイドメニューでサラダでも頼もう。
エナは何を食べるんだろうか?
メニュー表から視線を外してエナを見ると、メニュー表の一番後ろのページ……デザートのところを見て、目を輝かせていた。
「何を注文するのか決めたのか?」
「え? あっ……ちょっと待つのじゃ」
エナは慌てたように他のページを捲る。
「そんなに急がなくても大丈夫だぞ。ただデザートのところをじっと見てたから、何を注文するのか決めたのかなと思っただけだ」
「そ、そうか」
デザートに釘付けにされているエナも見ていて可愛かったのだが、注文くらいは決めてもらわないと困るからな。
「アスカルはもう決めたのか?」
「あぁ」
手に持っているメニュー表を捲り、エナにも見えるようにテーブルの上に置く。
「これと……これだな」
注文しようと思ったメニューに指を差し、そう言う。
「それも美味しそうじゃな。しかしこっちも食べてみたいのう……」
テーブルの上に置かれたメニュー表と自分のメニュー表を交互に見ては唸っている。
「これともう一つで迷ってるなら俺がこれを注文するから、エナはもう一つを頼めば良いんじゃないか? それなら互いに頼んだ料理を交換し合えば両方食べられるだろ?」
「ふむ……そういうことならそうするかの」
どうやら俺の言ったことに納得してくれたらしい。飲み物はどうしようか。
水は無料で、他のジュースなんかは五十バルグか。
りんごやオレンジといった、向こうの世界でもよく耳にする果物のジュースもあれば、アルプラというこの世界の果物のジュースもある。
「飲み物はどうする?」
「吾輩は水でも構わぬぞ」
「なら俺も水でいいか」
あとはデザートだな。
エナは食べそうにしていたが、特に何も言ってこない。
注文しようとは思っているのか、それともただ遠慮をしているだけなのか。どちらにしろ、直接聞けばいいだろう。
「デザートはどうする? 何か頼むか?」
「金は大丈夫なのか……? 吾輩と生活しておると消費も増えるであろう」
「そんなこと気にしなくて大丈夫だ。森でエナと魔物を狩っていたお陰でそれなりにはあるからな」
「ではこのパフェというものを頼もう」
パフェか。女の子ってこういうの好きだよな。まぁ俺も甘いものは好きだが。
あらかた注文を決めたので近くに店員が居ないかと周りを見る。だが丁度他の客の対応をしていて呼べそうにない。
困ったなーと思っていると、俺が呼べずに困っていることに気がついたのか、他の店員がこちらに来てくれた。申し訳ない。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「えーっと、これと……」
店員に見えるようにメニュー表の品を指差して注文していく。そして、最後にパフェを頼んで注文を終わる。
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「はい」
「では暫くお待ちください」
店員は用紙にメモを取り終えると、慌ただしく別の場所へと行ってしまった。
ちょうど昼時だから客が多くて忙しいのだろうか?
空席も多少あるようだが……。
バイトをしたことがないからよく分からないな。そもそもバイトが出来るような生活ではなかったけど。
「アスカルはこのままで良いのか?」
エナは店員が近くに居ないことを確認すると、俺に話しかけてきた。
「何がだ?」
「副団長に懐疑の目を向けられていたこと。気づいておったのではないか?」
「そのことか。いざというときは、アルストラ王国から出よう。そうすれば国も追ってこれないだろ」
他国にいる人間を無理矢理自国へ連れて行こうものなら、国家間の問題になりかねない。
それを上手く利用すればいい。
それからはエナと他愛もない話をし、数十分後に料理が運ばれてきた。
それを一口食べる。
「……美味いな」
「うむ」
元の世界の食事と比べても遜色ないくらいだ。
流石に玲奈の料理には勝ててないが。
玲奈の料理は俺の好みとかを把握してるから、他人にとっては普通でも俺にとっては絶品なんだよな。
もう完全に胃袋を掴まれてる。
ひとまず注文した料理を食べ終わり、店員が皿を下げてパフェを持ってきた。
「おぉ!」
目の前に置かれたパフェにエナは目を輝かせ、早速一口食べる。
「美味しいぞ! アスカルも食べてみろ!」
エナはそう言って自分の使ったスプーンで、俺の口にパフェを入れた。
ちょっ、関節キスになっちゃったけどいいのか!?
頬が僅かに熱くなるのを感じながら、口をもぐもぐと動かす。
「う、美味いな」
そして甘い。
エナは関節キスをしたという自覚がないのか、その後も特に気にせずパクパクと食べ続けていた。
周りの客や店員が俺らのことを見ていて、余計に恥ずかしかった。
エナの無自覚の不意打ちには気をつけよう……。
その後店を出た俺達は、一時間ほどかけて空いている宿を探し出した。




