特務機関第三課第六班
クラス全員での話し合いが終わり、みんなそれぞれの部屋へ戻った。
俺は義明と西園寺先生と話をするために西園寺先生の部屋へと入る。
俺、川崎透と駒井義明、西園寺静流の三人は元の世界の特務機関第三課第六班の一員である。
この三人は超能力を持っており、俺は〈改変〉、駒井は〈解体〉、西園寺は〈停止〉といった超能力というものを持っている。
世間に超能力が公表されたのは二十年ほど前で、公表した当初はその力を危険視する人が多く、超能力を持っていることが周知されれば差別の対象となっていた。
だが二十年経った今では、水の操作や温度操作といった超能力があることから、世間でも超能力を活用しようという流れになってきている。
今の日本政府は超能力容認派が政権を握っているが、それでも与党内で意見が割れていることも少なくない。
超能力による事件が起こると、メディアによって大々的に取り上げられ、野党の超能力規制派が支持率を伸ばすことも多々ある。
現状、世間での超能力に対する見方は若者ほど容認派が多く、高齢者ほど規制派が多い。
俺のクラスには俺と義明しかいないが、俺の通っている学校でも超能力者は十数人はいる。若者に超能力容認派が多いのは、身近に超能力者が居ることも大きいだろう。
規制派は超能力による事件がメディアに取り上げられると支持が伸びることから、暴力団やマフィアを雇い、意図的に超能力による事件を起こしてくることもある。
そこで元の世界には超能力による犯罪を秘密裏に取り締まる組織、能力保安機構、略してASO(ability security organization)という非公開組織が作られている。
元はヨーロッパの方で作られたみたいだが、それが今は国際組織となっている。それだけ世界中が超能力を活用しようという流れになっているということだろう。
ASOにはさまざまな国が加入しており、その規約に基づき国ごとに管理・運営しているのが特務機関である。そして日本支部の特務機関では第一課・第二課・第三課に分けられている。
第一課は超能力者や事件の捜査をする捜査部。第二課は第三課が使用する道具の開発をする開発部。第三課は超能力に関する事件・事故の解決をする特殊部隊。
この中でも特に第三課は他とは違い、暴力団やマフィアなどの裏社会の連中とぶつかり合うことが多く、超能力持ちで固めた部隊だ。
第一から第八班まであり、ここにいる三人は第六班に所属している。
超能力とは人智を超えた能力だ。エーテルと呼ばれる物質によって引き起こされる突然変異だとされている。故に超能力をエーテル能力、超能力者をエーテル使いと呼ぶこともある。
超能力には人それぞれ固有のものであり、例えば俺の〈改変〉は物質の情報を読み取ることで、その情報を書き換えることができる。
ただ、物質の情報に新しく情報を加えたり、情報を削除することは出来ない。他人の身体には干渉出来ない。自身が触れた物質でないと情報の読み取りに時間がかかるという欠点がある。それを抜きにしても、強力な力であることには変わりない。
しかし、そんな強力な力にも共通の弱点はある。超能力を使うと規模に応じて超能力者に負担がかかることだ。
西園寺静流の超能力の〈停止〉では周囲の時間を止めてしまったときに丸三日間目を覚まさなかったこともある。
「さて、これからについてだがお前たちはどうするんだ。特に川崎、お前のことだからどうせ何かするんだろ?」
「取り敢えず暇な時間はこの国の街に行こうと思ってる。おそらく当分は情報収集だな。ここの奴らが街に出ることを許可してくれるとは思えないからこっそり行くことになるが」
俺達がこちらに呼び出されたということはこちらの世界とあっちの世界が繋がったということ。
王様は向こうへは戻れないと言っていたが二つの世界が繋がったのなら戻る手段も無いとは言い切れない。
今のところの目標は向こうの世界に帰ることだ。それに街へ出ればこの世界の金の価値や稼ぎ方など分かるだろう。
何より、今一番知りたいのはこの世界の常識だ。ここは別の世界。俺達の世界の常識が通用するとは考え難い。
元の世界の常識とこの世界の常識は切り離して考えるべきだろう。
たとえ人殺しが罪ではないとしても、俺達の世界の常識では罪なだけで、この世界の常識では罪ではない。そう考えるべきだ。
まぁ流石にそれはないと思うが。殺人をしてもいいとなると社会的秩序が保てないからな。
「僕は迷宮の攻略をするよ。それ以外にやることないしね」
「そうか、二人共ひとまずそれでいいだろう。私はどうするかなぁ……。やろうと思ってたことは川崎がやるみたいだし。私は生徒の訓練の様子でも眺めておくか……」
それはただサボりたいだけじゃないのか。
「あとこれから話すことが重要なんだが組織でも使ってたこの倉庫なんだがどうやら使えるみたいだ。ほら」
西園寺先生はそう言うと倉庫から拳銃を取り出す。
倉庫とは任務のときに使う道具が入っているポケットのようなものだ。あれだ、四次元ポケットのようなものだと思えばいい。
「使えると思ってなかったから驚いたんだが一体どういう仕組みなんだろうなこれ。第二課の技術は私達にも隠されてるからとんでもない技術があるということしか分からないが」
俺と義明も自分の倉庫から武器を取り出してみる。
この倉庫は普段から肌見放さず持ち歩いていて学校の中も例外ではない。
「お、本当に使えた。スマホは圏外なのにこっちは使えるのか」
「武器が確保できたのはいいとして拳銃は弾の補充が安定してできるようになるまで使わない方がいいだろうな。この世界に作る技術があるかは知らないが」
そうなるとこれは本当にいざという時ってことになるな。
魔物とかいうのが居る世界だ。街に行けば武器ぐらいは売ってるだろう。
「駒井は周りにクラスの奴らがいるから使うことは無いだろうが、川崎は街に出るときはいつも使ってる光学迷彩を搭載してる服を着るようにしたらいいだろう」
この服が使えるなら助かるな。気配を消すわけではないから魔物とかいうのに使えるかは怪しいが。
「それじゃもう部屋に戻っていいですよね?」
「あぁ、もういいぞ。倉庫が使えるのとお前達がどうするのか聞きたかっただけだからな」
「それじゃあ俺達は戻りますね」
俺と駒井は部屋を出て自室に向かおうとする。俺がドアを開けたところで西園寺先生が俺に向かって言う。
「……無茶はするんじゃないぞ川崎」
「わかってますよ」
ま、多少の無茶は許して欲しいけどね。
翌日、昼前に起きた俺は昼食を食べた後、早速街に行ってみることにした。
念の為ベッドには俺そっくりに作った人形を置いている。
この人形は自宅療養のときにこっそり出るために作った物だ。普通に何回かバレて怒られたけど。まさかこんなところで使うことになるとは思わなかったな。
城の警備は厳しかったが身体能力を強化したあと、壁を飛び越えて簡単に城外に出ることが出来た。
ひとまず人が多そうなところに行くか。