洞窟の偵察
宿屋の一階で待つこと数十分後。騎士を二人引き連れたクラナッハさんが来た。
「すまない。待たせたな」
「全然大丈夫ですよ」
クラナッハさん以外も居るとか聞いてないんですけど。お陰で変な間が空いちゃったよ。
騎士の二人は男性で、赤と白の服を身に着け、二人とも背中に剣を背負っている。
「私達は副団長の直属の部下だ。君達が発見した洞窟までの案内、よろしく頼むよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
副団長直属の部下なのもあってか、礼儀正しい。もちろん冒険者である俺達のことを警戒していると思うので、変な行動は起こさないようにしないとな。
「それでは行こうか」
「分かりました」
そんなやり取りをして、五人で宿を出た。そして、北門へと向かっていると、見覚えのある人物が声を掛けてきた。
「おーい、アスカル……って、なんだこのメンバーは?」
あの頭は……ジオルクか。またも会ってしまうとはこれは運命の相手なのでは?
……こんな運命あってたまるか。
「あぁ、ちょっとな」
「って、そっちに居るの騎士団の副団長じゃねぇか!」
ジオルクは俺の後ろに居るクラナッハさんを見ると、驚いて声が大きくなった。
まぁ……驚くのも無理はないか。
「お前……何をやらかしたんだ?」
「俺が何か悪いことをしたみたいに言わないでくれ、傷付くから」
一発殴ってやろうかと思ったが、騎士が真後ろに居るので止めた。何か問題を起こしたら面倒なことになるだろうからな。
「それで? 結局のところ何で騎士がお前と一緒に居るんだ?」
「実はちょっと怪しい場所を見つけたんだよ。それを騎士団に言ったら案内することになった」
つい世間話をするように話しちゃったけど大丈夫だろう。特に隠すようなことでもないしな。
「……俺も付いて行っていいか?」
ジオルクは少し悩んだ後、そう言った。
俺としてはどちらでもいいのだが、洞窟まで案内するだけだしな……。ここはクラナッハさんに判断を委ねよう。
そう思い、俺は後ろに居るクラナッハさんに顔を向けた。
「わ、私か?」
クラナッハさんは自分が判断をすることになると思っていなかったのか、キョトンとしている。
この人本当に副団長か……?
「えぇ、まぁ……。クラナッハさんに判断を任せます」
「そうだな……」
クラナッハさんはそう言い、二人の騎士と相談をする。
「すまない。今回はただ見に行くだけなので、同行はまたの機会にしてもらいたい」
「そうですか……」
断られるのも仕方がないか。騎士からしたら、ジオルクって居ても居なくても変わらないだろうからな。
ジオルクはなんだか少し残念そうだ。
今日まで特に成果も無く、調査するだけってのも飽きてくる頃合いだしな。暇なのだろう。
「じゃあ俺は別のところに行ってくるぜ」
「あぁ、くれぐれも変なことはするなよ」
「お前もな」
ジオルクはそう言うと、何処かへ行ってしまった。
言われなくても変な行動はしないっての。むしろ意識し過ぎて、逆に挙動不審になっていないか心配だ。
「それじゃあ洞窟に向かおう」
五人は止めていた足を街の北へと動かした。
それから特に何事もなく洞窟へと辿り着いた。エナが施した結界はまだ残っており、入り口まで俺とエナを追い掛けた魔物は居ない。
だが、地面の荒れ具合から、俺とエナが洞窟を去った後も暴れていたことが分かる。
「この洞窟が君達の言ったところか」
クラナッハさんは洞窟の入り口の前で立ち止まると、そう言った。
「中に入りますか?」
「一応見ておきたい」
「分かりました」
中に入るかの確認を取り、エナの隣に行って、小声で話し掛ける。
「結界を解いてくれるか?」
「中は危険じゃが、本当に入るのか?」
「……危ないときは頼む」
一応依頼主は騎士団だしな。それに金が手に入らないと困る。
「分かったのじゃ」
エナは自分で張った結界を解くために、一人入り口へと近づく。そして、結界に触れてほんの数秒で結界を解いてしまった。
その様子を見ていたクラナッハさんと二人の騎士は、エナが一体何をしたのか分からなかったのか首を傾げていた。
それも仕方がないと言えるだろう。
エナの結界は無色透明で何より作業が早い。それに加え、魔力の使い方にも無駄が無いので余計に分かりにくいのだ。
「いつ魔物が襲ってくるか分からないので注意してください」
「あぁ、分かっている」
もし魔物に察知されたとしても、エナが教えてくれるから大丈夫だしな。
俺はそんなことを思いながら、五人で洞窟の中へと入って行く。
洞窟の中は前と変わらず薄暗い。俺とエナは問題の無い明るさだが騎士の三人にとってはやはり薄暗いようで、照明で洞窟内を照らしていた。
魔光鉱石自体は珍しくないが、自然の状態で光っているのは珍しいのか騎士は歩きながら、周りにある魔光鉱石を見ている。
「何処まで行くんですか?」
洞窟の偵察と言ってもどのくらいの情報が欲しいのか分からない以上、何処まで歩くのか俺には分からない。だができることなら魔物に感知されないところで引き返したい。
「出来ることなら、この洞窟に居る魔物を確認しておきたいのだが……」
「それは止めておいた方がいいですね」
「何故だ?」
「ここの魔物は索敵能力が高いので視界に入る前にこちらが見つかりますし、足が速いのでもし見つかったら全力で逃げる羽目になりますよ?」
全力で逃げる羽目になるどころか、最悪騎士の三人を置いて俺とエナだけ逃げることになりかねない。騎士の三人を助けるために魔物と戦おうものなら、命がいくつあっても足りやしないしな。
「そういうことなら今回は遠慮しておこう」
となると魔物に見つかる手前で引き返すことになるのか……。でもそれって偵察をしに来た意味があるのか?
この洞窟、今のところ魔物が潜んでいる以外は何も無いんだよな。
洞窟内に足音を鳴らせながら歩き続けていると、先頭を歩いていたエナの足が止まった。それに気がつき、俺と騎士も足を止める。
「ここは……」
周りを見ても特に変わったものは無いが……、もう少し進んだところが魔物に追われ始めた場所か。
エナが足を止めたのは、これ以上進めば魔物に見つかるからだろう。
「これ以上は進まぬほうが良いであろう」
「そうか……」
偵察の成果はほとんど無しか……。
「魔物に見つからず進む方法とかないのか?」
「低位の魔物なら可能じゃが、ここの魔物のように魔力を感知出来る魔物に対しては意味が無いじゃろうな」
魔術や魔法も万能ってわけじゃないか……。というより魔術や魔法は、それ自体にも魔力を使用するわけだから魔力は隠せないか。
袋で物を包んだ場合、袋の中の物が見えなくても袋で何かを包んでいるということは分かるのと同じことだろう。
「となると引き返すしかないか」
この偵察に意味があったのか怪しいが、これ以上進むのは無理だろう。
後ろに居る騎士に引き返すように言って街に帰ろう。
「これ以上は危険なので引き返しましょう」
一人で壁や地面を見ていたクラナッハさんにそう言って、街に帰るように促す。
クラナッハさんが帰ると言えば、騎士の二人もそれに従うだろうから、ここはクラナッハさんに言うほうがいいだろう。
他の騎士二人は別の場所で壁や地面を見ている。
チラッと地面や壁を見てみると、いくつか魔物の爪痕や足跡が残っていた。
一応偵察の収穫はゼロではないか……。これならここに魔物が居たという証拠にはなるだろう。
「そうか。わかった」
クラナッハさんはそう言うと、他の二人の騎士のほうを向いた。
「お前達、街へ戻るぞ」
「「はっ!」」
クラナッハさんの言葉に二人の騎士は返事をし、こちらに歩いてくる。
俺は五人揃ったことを確認し、来た道を引き返す。
行きと同じように俺とエナの二人が前を歩き、騎士三人がその後ろをついて来ている。
「本当に引き返してよかったのですか?」
特に会話も無く歩いていると、そんな声が後ろから聞こえてきた。
「あぁ、大丈夫だ。問題無い」
これは俺が話に入らなくても特に問題は無いか。副団長であるクラナッハさんの部下の騎士だからクラナッハさんの言うことには従うだろう。
それにしても、ここまで俺やエナのことを信用しているとなると流石に気持ち悪いな。
他人の褌で信用されている身とはいえ、何か隠し事をしているのではと疑ってしまうな。
男の騎士二人は俺のことをそこまで信用してないみたいだから、何か隠し事をしているとしたら副団長のクラナッハさんだろう。
もしかしたら団長のオルゲルさんも俺達に隠し事をしているかもしれないな。
団長と副団長を警戒しておくに越したことはないか……。態度に出ないように気をつけなければいけないな。
その後特に会話も無く歩いていると、いつの間にか洞窟から出ていた。
暗い洞窟に居たからか、地上を照らす太陽の光がいつもより眩しく感じ、俺は咄嗟に目を細めた。
騎士三人も眩しそうに目を細め、また街へと歩き出す。
街に着いた頃には昼が過ぎており、お腹も空いていた。
俺達が洞窟に行っていた間は特に異常は無かったようで、冒険者の姿や建物の復旧に勤しむ住民の姿が見られる。
「私はこれから団長に報告しに行く。洞窟の案内、感謝する」
洞窟を出てから先頭を歩いていたクラナッハさんが、後ろに居る俺とエナの方を向いてそう言った。
「いえいえ」
「もしよかったらまた我々に協力してくれると有り難い」
クラナッハさんはそう言うと、騎士二人を連れて団長のオルゲルさんが居るであろう場所へと歩き出した。
「さて、あとは騎士団の報告を待つだけだし、これからどうする?」
エナにそう尋ねると、不意に俺の腹が鳴った。
エナには聞こえてないよな? もし聞こえていたら恥ずかしいんだが……。
そんなことを思いながらエナの様子を見ると、ニヤニヤと笑みを浮かべて俺のことを見ていた。
「吾輩もお腹が空いておるし、少し遅いが飯にしよう」
「……そうだな。適当な飯屋に行くか」
俺はエナの言葉に笑顔でそう返した。
エナの笑っている顔を見ると、つい自分の顔も緩んでしまう。
腹が鳴った音がエナに聞こえていたことを知り、恥ずかしいなと思いながら街の飲食店へと向かった。




