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エーテル・グレイス  作者: クロビー
序章 アルストラ王国編
37/72

騎士団からの頼み

「……君達の実力を見込んで頼みがある」


 一体何を頼まれるのかと思い、ごくりと唾を飲み込んだ。


「君達に今回の件の対策本部に入ってほしい」


 クラナッハさんはゆっくりと、そして真剣な顔でそう言った。


 対策本部か……。恐らく騎士団が主導でしているのだろう。

 断るのは話を聞いてからにしよう。


「それで、その内容を教えてくれますか? どうするかはそれを聞いてから判断します」

「それは私から説明しよう」


 再び低い声が部屋に響く。

 その声の圧にビクッと身体を震わせる。


 なんだオルゲルさんか。クラナッハさんに怒られてから一言も話さないからびっくりしてしまった……。


「対策本部に入るといっても、君達はこいつの下で働いてもらうことになる」


 オルゲルさんがクラナッハさんに指を指してそう言う。


「そこでは魔物発生の原因の調査、街の防衛、建物の修復が主な仕事になる」


 やることは今現在騎士団がしていることと同じか。つまり、俺とエナは限定的に騎士団に入るということになるのか。


「金も他の者と同様に支払おう。ただし、行動に制限がかかることになる」


 その言葉で俺の中の水平だった天秤は、一気に断るほうへと傾いた。


 冒険者をしているよりも金が手に入るのは、俺にとって大きなメリットだ。しかし、行動に制限がかかるとなれば、俺にとってはそれ以上の大きなデメリットだ。


「……すみませんがお断りさせてもらいます」


 申し訳ないと思いつつ、二人に頭を下げて対策本部に入るのを断る。

 騎士団団長からの直々の頼みごとを無下にするなど、恐ろしくて普通はしないだろう。


 断ったことで怒ったりしていないだろうかと頭を上げて二人を見る。

 二人は先程と変わらない様子だったが、少し残念そうにしているように見えた。


「そうか……」

「すみません。せっかくの頼みごとを無下にするようなことをしてしまって……」


 俺は二人に申し訳なく思い、そう言った。


「いや、元々断られることも想定はしていた。君が気にすることは何も無い」

「むしろ君は冒険者にしては慎ましすぎるんだ」


 するとクラナッハさんが少し呆れたように言った。

 だがその怒りは俺に向けられたものではなく、冒険者に対して向けられたもののように思えた。


「冒険者なんてすぐに報酬を要求してくるし、私が一人で居るとナンパしてくるし……。どうにかできないものか……」


 クラナッハさんは愚痴をこぼすようにそう言った。


 クラナッハさんは俺が宿屋に来たときにオルゲルさんの隣に座っていたが、ナンパ対策でもあったのか。

 確かにオルゲルさんが居るとクラナッハさんにナンパをしようとは思わないだろう。


「そうなんですか?」


 月猫団のみんなは優しかったからそんなに気にならなかったが……いや、数人酔っ払いが居るな……。

 俺も絡まれたことが何回もある。


「もちろん中には君のように礼儀正しい者も居る。だが態度の悪い奴らの印象がどうしても大きくてな……」


 まぁ……それは何処の組織でも同じだろうな。一部の人達の態度の悪さが目立って、組織全体が悪く見られてしまうんだよな。

 ……ギルドのギルマスの負担って多そうだなぁ。


「それじゃあクラナッハさんって冒険者が嫌いなんですか?」

「そうだな……。できることならあまり関わりたくないのだが……」


 クラナッハさんはあまりはっきりと言わず、声が少し小さくなっていた。


「それじゃあ、何故冒険者である俺を対策本部に入れようとしたんですか?」

「そんな連中でも実力は高い者もいるからな。そこに関しては我々も高く評価はしているのだ」


 率直な疑問を投げ掛けると、クラナッハさんではなくオルゲルさんが答えてくれた。


 確かに冒険者の中には実力や実績のある人は一定数いる。

 冒険者には普通の騎士より強い人も多いからな……。


「だいぶ話が逸れてしまったな。我々からの話は以上だ」


 オルゲルさんはそう言って立ち上がる。クラナッハさんも椅子から立ち上がり、部屋から出ようとする。

 俺は部屋を出ようとする二人を見ていると、騎士団に用事があることを思い出した。


 まだここでする話は終わっていない。

 オルゲルさんからの話は終わったが、俺達も騎士団団長に話さなければならないことがあるのだ。


「ちょっと待ってください」


 俺は部屋から出ようとする二人を引き止める。


「……何か聞きたいことでも?」

「俺達から二人に話さなければいけないことがあります」


 洞窟のことを思い出せて良かった。

 危うく二度手間になるところだった……。

 二人は団長と副団長だから簡単には会えないだろうからな。今の内に話しておかないとな。


「それは今すぐにでも話さないといけないかとかね?」

「なるべく早いほうがいいかと」


 俺がそう答えると、オルゲルさんはクラナッハさんのほうを向く。

 そして、オルゲルさんとクラナッハさんは互いに目を合わせて小さく頷くと、再度俺を見る。


「分かった。話を聞こう」


 オルゲルさんはそう言い、再び椅子に座った。


 言葉を交わさず、ジェスチャーもせずに目だけで意思疎通できるところは、流石は団長と副団長ってところか。


 義明とも、元の世界のときのように一緒に戦えるときが来るだろうか……。


「ありがとうございます。それで俺達からの話ですが……」


 オルゲルさんは真剣な表情をして、俺の言うことを聞いている。


「今回の魔物の襲撃の原因についてです」


 俺がそう言うと、オルゲルさんの眉がピクッと少し動いた気がした。だがその表情からは何を考えているのかは分からない。


 ていうかまじで怖い。クラナッハさんっていうほんわかな雰囲気の人が居るから大丈夫だけど、居なかったら多分冷や汗で背中びっしょりになってるぞ。


「何か分かったことが?」

「確証はありませんが、原因と思われる場所が一つ在りました」

「それは本当か!?」


 クラナッハさんは身を乗り出し、驚いたようにそう言った。


「はい。ですがあくまで可能性があるだけです」


 俺は確実ではない。と強調してそう言った。


「たとえ確証がなくとも構わない。その場所について聞かせてほしい」


 オルゲルさんは身を乗り出しているクラナッハさんを引っ張ると、そう言って真剣な顔で俺を見る。


 たかが冒険者の情報を真剣に聞いてくれるってことは、騎士団は少しでも情報が欲しいということだろう。それだけ捜査が行き詰まってるのか……。


 俺は洞窟のことはあまりよく分かってないし、ここはエナに任せたほうがいいか?


「エナ、洞窟のこと話してくれるか?」

「アスカルが話せば良いのではないか?」


 俺がエナに小声で話すと、少し怒り気味にそう言われた。

 俺ばかり話しててごめんな。


「俺よりエナのほうがあの洞窟について分かってると思うから……、頼む」

「……まあ良い。そういうことなら吾輩が話してしまうぞ」


 俺はエナに対して小さく頷く。

 話してくれるとは言ってくれたが、やはり少し怒っているようだし、今度パフェでも買ってあげよう。


「街の北道から少し西に川が流れているのは知っておるか?」


 エナは二人そう尋ねた。

 先程までほとんど喋っていなくて影が薄かったからか、オルゲルさんとクラナッハさんは少し遅れて反応した。


「あぁ、知っている。王都の南の海まで繋がっっている川だな」

「ではこの街から少し北に行ったところの川の近くに洞窟があることは?」

「……記憶に無いな」


 オルゲルさんは少し考えた後、そう言った。


「アルマ、お前は知っているか?」


 自分の記憶に無いだけかと疑ったのか、オルゲルさんはクラナッハさんに川のことを聞いた。


「川辺に洞窟があると聞いたことはある」


 その言葉に俺は少し驚く。

 聞いたことはあるということは、あの洞窟を実際に見た人がいるということか。


「洞窟などあったか?」

「もういい歳ですし、団長が忘れているだけでは?」


 クラナッハさん、遠慮なく言うなぁ。

 まぁ、俺はオルゲルさんの年齢が気にならないといえば嘘になる。実際、何歳くらいだろうか?


「……俺はまだ三十代だ」

「といっても三十九歳じゃないですか。騎士を辞めててもおかしくない年齢ですよ」


 オルゲルさん、三十九歳なのか……。見た目より全然若い……のか?

 親父が三十三歳だったからな……。やっぱりオルゲルさんが見た目より若いだけなのかもしれないな。


「だがその洞窟は三年ほど前に入り口が塞がったと聞いたが……」

「その入り口は塞がったのではなく塞がれたのじゃ。微かに魔術の跡が残っておった」


 俺が見分けられなくてエナが見分けられたのはそういうことか。俺は魔力を感じ取ることができないし、魔術の跡なんてこれっぽっちも分からないからな。


 だとすると最初に塞がれた洞窟を見つけた人物も俺と同じように、魔力や魔術は得意ではなかったということか。

 魔力を感じ取ったりできる人は少ないみたいだし、塞がったと思っても不思議ではないか……。


「ということは意図的に誰かが塞いだということか?」

「そう考えるのが妥当であろうな」


 エナがそう答えると、そこにオルゲルさんが問いかけてきた。


「何故君達はその洞窟が怪しいと?」


 今の話だけでも十分怪しいと思えるものだが、洞窟の入り口が塞がったのは三年も前のこと。

 十二分に怪しいと思えるほどの証拠とは言い難いのだろう。


「塞がれた入り口を破壊して中に入ってみたのじゃ。するとこの街を襲った魔物と同じ個体が多数居た。どれもこの辺の土地では見かけぬ魔物じゃ」


 エナはいつもと変わらない声音でそう言った。俺とは違ってオルゲルさんにびびっている様子はない。

 男の俺がもっとしっかりしないといけないなぁ……。


「なるほど……」


 オルゲルさんはエナの言葉を聞いて、何かを考える。


「アルマ、この二人と共に洞窟を見てこい」

「わ、私がですか!?」


 クラナッハさんは驚いたように椅子から立ち上がって声を上げる。

 それに他の三人が反応すると、クラナッハさんは咳払いをして「す、すまない」と言い、椅子に座った。


 クラナッハさん、反応が忙しい人だな……。驚いて立ったり、前のめりになったり、声が大きかったり……。

 オルゲルさんも苦手だが、俺にとってはクラナッハさんも違う意味で苦手かもしれない。


「それで、何故洞窟を見に行くんですか?」

「この二人の意見を疑っているわけではない。ただ、指揮をする人間が実際の現場を知らないでどう指揮をするというんだね」


 オルゲルさんの言うことがご最もだな。組織の司令塔が現場を知らないと、出来るものも出来ないからな……。


「団長は行かないんですか?」

「俺が離れたら街の騎士を指揮する人間が居なくなるだろうが。それともお前が何十人という騎士を纏めるかね?」

「団長の意見に異論はないです!」


 クラナッハさんはオルゲルさんに半ば脅すように言われると、自分の意見は無かったことにするように手のひらを返した。返しちゃうのかよ。


「そういうわけで、こいつを洞窟まで君達二人に案内してもらいたい」


 俺とエナはお互いに目を合わせて、小さく頷く。


「それぐらいなら構いません」

「感謝する」


 オルゲルさんは俺とエナに頭を下げて礼を言った。


「それで、いつ行きますか? 俺達はいつでも構わないですけど……」


 今日中にはしてほしいけどな。


「それならこちらの準備が出来次第行くってことでいいか?」

「はい、構いません。俺達はこの宿屋の一階で待っておきますね」

「あぁ」


 そうして話を終えると、クラナッハさんは椅子から立ち上がり、部屋を出る。オルゲルさんもクラナッハさんに続いて部屋を出た。

 鍵を返すのは俺らなのかよ。別にいいけど。


 そう思いながら、俺とエナは部屋を後にした。

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