ヴァルガ領防衛戦
馬車で移動してニ時間後にはヴァルガに到着した。
予想通り馬車に乗っている人の多くは冒険者みたいで、それぞれ武器を所持していた。
俺達みたいな子供が冒険者をしているのは珍しいのか、馬車の中では少し注目を浴びていた。そのせいか、居心地が悪かった。
「ここがヴァルガか。思っていたより被害は少ないな」
「でも負傷者は多いようじゃな」
魔物が出たとはいえ一応ヴァルガ領にも警備隊は居るからここまで被害が少ないのだろう。
「取り敢えず、街を回って状況を確認しよう」
「うむ」
俺とエナは一緒に街を回り、建物の被害状況を確認する。
幸いなことに建物への被害はほとんど無く、宿泊施設や飲食店は今まで通り営業していた。
建物の被害が少ないのはそれだけ警備隊と王都から派遣された騎士団が優秀だったということだろう。
街の被害状況を確認して回っていると、見知った人物が居た。スキンヘッドの頭で、その大きながたいに大剣を背負っている。
俺とエナはその人物に近づいて声を掛けた。
「よう。ジオルクも来てたんだな」
「お? お前たちも来てたんだな」
ジオルクはそう言うと、俺の横に居るエナを見て心配そうにする。
「こんな小さい子をこんなところに連れてきて大丈夫なのかよ?」
確かに何も知らない人からしたらそうだよなぁ……。馬車に乗ってるときも特にエナは冒険者に見られてたしな……。
エナの身長って百五十センチくらいだからそりゃそうか。まぁでもシェリアさんとあまり身長は変わらないし誤魔化せるだろう。
「問題無い……ってエナ? どうした?」
俺とジオルクが話している間、エナはじっと街の外を見ていた。
「……気にするでない」
エナは気にするなと言ったが、吸血鬼だからこそ何か気付けることもあるかもしれない。
ここは気のせいで済まさないほうが良さそうだ。
「いや、何か気になることがあるなら確かめてみたほうがいいんじゃないか?」
「そうか? では一度街の外へ出るとしよう」
エナはそう言い、俺達は北門から街の外へ出る。
街の外に出てちょっとした坂道を上り、エナは平原の遠くを見る。
すると地平線に何か動く物体が見えた。
「何だあれ?」
「ん? 何か居たのか?」
「地平線辺りに何か見えるんだが……」
俺が指を差すとジオルクも見えたようで、じっと目を凝らす。
「よく見えねぇが……、生き物みたいだな。段々と近づいて来てねぇか?」
ジオルクがそう言うのでじっくりと見ると、それが生き物だと分かった。
その生き物はこっちに向かって歩いているようで、ぼやけていたのが段々と鮮明になっていく。
「魔物じゃないかあれ?」
「間違い無い。あれは魔物だな」
今までじっと遠くを見ていたエナがそう断定する。
「おいおい、なんか数が増えてるぞ」
最初に見えたのは一体だったが、三人で話している間に増えていて、その数は数体どころではなく何十体ものの大群だった。しかも魔物は一種類だけでなく、何種類もの魔物が群れを成している。
そして一番の疑問点がこの近くには生息してないはずの魔物まで居ることだ。
「このままじゃ街が危ねえ! 今すぐにでも街の奴らに伝えて全員で対処しねぇとやばいぞ!」
ジオルクはそう言うと、全員で街に向かって走り出した。
三人で全力で走るが魔物の足は早く、坂道を下りきった頃には魔物が数十メートル後ろまで迫っていた。
「何だあれ!?」
「何体居るんだあれ!?」
街に居る冒険者もこの数の魔物には気が付いたようで、街の中の冒険者も続々と街の外に出て、戦闘態勢になった。
「街の中には一体も入れるな! ここで食い止めろ!」
恐らく騎士団の団長であろう人がそう言い、全員で街の防衛に徹する。
冒険者や警備隊、騎士団はそれぞれ魔物を倒していき、街の入り口前は戦場と化している。
「魔法は使うなよ」
「分かっておる」
エナに小声で確認し、俺とエナも他の冒険者と同じように魔物を倒していく。
「魔術を使える者や弓を使っている者は飛んでいる魔物を、それ以外の者は地上の魔物を対処しろ!」
この状況でも冷静に指示をできるのは流石団長ってとこだな。
冒険者の中でも数少ない魔術を使える人は後方での援護をしていて、剣や斧などの武器で戦う冒険者は前衛で魔物を倒していっている。
現状、前線で魔術を使って魔物を倒しているのは俺とエナだけだ。
魔物の数は減っているようには見えるが、こちらの消耗も激しい。
魔術組も魔力が残り少ないのか、魔術の発動回数が少なくなってきている。
前線にいる殆どの冒険者も疲弊していて、動きも鈍くなってきている。まだ余裕がありそうなのは俺とエナを含めて五人だけのようだ。
個々の魔物は強いわけではなく俺の刀の一撃で倒せるほどだ。だが数が多く、対処し切れず体に傷を負ってしまう。
その度に傷を治し、魔物を倒す。
「このまま戦っていればなんとか殲滅はできそうだが、全員が疲弊したら防衛が手薄になるな」
「そう考えると、早く終わらせるべきであろうな」
俺とエナは互いに背中を合わせて話す。
流石吸血鬼と言うべきか、エナは全く疲れている様子はない。魔術も連発していることから魔力もまだまだ余裕があるのだろう。
早く倒したいのは山々だが、俺の超能力でも厳しいな……。
俺の超能力は自身の情報は変えられるが、他人の身体には干渉し辛い。
超能力で俺ができる最大限まで身体能力を強化すれば、一瞬で魔物を数体も倒すこともできるかもしれないが……、そんなことをすれば派手に目立つことになるのは間違いないだろう。強化した身体を制御出来るかも分からないが。
それだけならまだしも、超能力というこちらの世界にはない力だ。魔法陣なんて使わないし、魔術といって誤魔化すことも難しい。
この状況を打開できる方法は何かないのか……?
「……少々目立ってしまうことになるやもしれぬが良いか?」
「何か打開策があるのか?」
「剣を少し貸してくれぬか」
「あぁ、分かった」
俺は戦いの最中、エナに自分の刀を渡す。するとエナは刀に何かを施しているようで、刀が光った。
「ほれ、終わったぞ」
エナに刀を返される。刀は光っていて柄には魔法陣が描かれていた。
「これは刻印か?」
「その通りだ」
その魔法陣はジオルクの店で見たものとは違い、刻まれているというよりは付与されているという感じだ。
魔法陣自体も複雑で、何が描かれているか分からない。
「吾輩ももう少し力を出す。一気に片付けるぞ」
「おう!」
エナに刻印をしてもらった刀に魔力を込めると、刀が発している白い光はより一層強く光った。
その状態で刀を振るうと、刀身が届いていないはずの魔物まで斬られていた。
一振りで倒した魔物の数は三体。その威力は周りの者だけでなく、刀を振るった俺自身も驚く程だった。
驚いた拍子に一瞬足を止めてしまいそうになるが、悠長にしている暇は無い。
すぐに魔物が多いところを見つけると、そこに突っ走り魔物を倒す。まるで三メートルもある刀を振るっている気分だった。
エナは今まで魔術を一度で一つ発動させていたのを、二つ同時に発動させて魔物を次々に倒していく。
その様子を見ていた冒険者や警備隊は、二人ばかりに任せているわけにはいかないとばかりに、どんどん調子を取り戻していっている。
(あの人すごいな……)
俺は最前線で戦っている男に目を向ける。
その男は細身で、一見弱々しく見えるがそんなことはなく、むしろ体の俊敏さを活かした剣技は目を見張るものがある。
そして、剣士でありながら魔術も駆使し、魔物をいとも容易く蹴散らしている。
そのお陰で、俺にはあまり注目が集まっていないようだ。
その後も着々と魔物は減っていき、魔物の殲滅は目前になった。
既に魔物を何体倒したかは覚えていない。
俺は空中を飛んでいる虫のような魔物を刀で斬って倒す。
すると、魔物の足音や羽音、鳴き声は無くなった。
「あれで最後か……」
どうやらさっきの魔物が最後だったようで、周りに魔物の姿はない。
魔物を全部倒したことで胸を撫で下ろすと、どっと疲れが押し寄せてきた。
俺はその場で地面に座り、身体を休める。
「魔術を使える人は負傷している人の手当てにご協力ください!」
警備隊のリーダーがそう言うと、魔術を使っていた冒険者は負傷者の居るところへと行き、魔術で傷を直している。
今回の戦闘で殆どの人が疲労している中、まだ余裕があるように見えた冒険者の一人は、警備隊や騎士団と何か話しているみたいだ。
超能力のお陰で体に傷や怪我は無いが、痛みはある所為で精神的に疲れたな……。
魔物は人とは違って行動が読めないから戦い方が全く違い、俺の身体に染み付いた戦い方では危ない。それは魔物と戦う度に痛感している。
特に今回のような乱戦は経験が無かったし、良い動きだったとは言い難いな……。
手に握っている刀を見ると、まだ白く光っている。
柄に描かれている魔法陣を見てみるが、何が描かれているのかは理解できなかった。
「はは……。また……エナに助けられたな……」
そう自嘲するように笑みを溢した。
地面に座って身体を休めていると、そこに足音が近づいて来た。
刀を鞘に納めて顔を上げると、ジオルクがこっちに歩いて来ていた。
「よう。お前が無事で安心したぜ」
そう言うジオルクの体は傷が殆ど無い。流石の腕前と言うべきだろうか。
「そっちも無事で何よりだ」
俺は立ち上がって周りを見ると、一人居ないことに気付く。
「エナを見なかったか?」
「あぁ、あの嬢ちゃんか。それなら向こうに行ってたぜ」
ジオルクはそう言って街とは反対の方向を指差した。
その方向は魔物が街にやって来た方向で、気になることがあると言ったエナが見ていた方向だ。
「そうか。ありがとな」
ジオルクに礼を言って、エナを探すために平原に向かって歩く。
地面には魔物が落とした素材が散乱しており、所々に冒険者が傷を負った際に飛び散った血の跡があった。




