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エーテル・グレイス  作者: クロビー
序章 アルストラ王国編
33/72

ヴァルガからの依頼

 体が重い……金縛りというやつか?

 そう思い、体を起こさずに目を開けると、エナが俺の体の上に跨がっていた。


 ベッドで体を寝かせたまま部屋を見渡す。

 既に太陽が昇っていて、窓から入る光で部屋は明るい。

 外からは鳥の鳴き声が聞こえ、朝になっているのは明白だった。


 昨日のカレンさんとの会話が原因で、ベッドに入っても中々寝れなかったような気がするのだが、いつの間にかぐっすりと眠っていたみたいだ。


 状況を把握し、再びエナを見ると、頬を膨らませて怒っているようだった。


「エナ……?」

「何故そんなにぐっすり寝ておるのだ!」


 エナは突然大声を出し、俺に対して怒りをぶつけた。


「何をそんなに怒ってるんだ!?」


 何故怒っているのか分からず、思ったことを口に出してしまい、その言葉が余計にエナの怒りを買ってしまった。


「昨日あのような話をした後に同じベッドで寝て何もしないとはどういうことだ! 吾輩は心の準備もできて期待しておったのに!」


 そう俺に訴えるエナの声には怒りだけではなく、悲しさや寂しさも籠もっているように感じた。


「あれは恋人同士がする行為であって俺達がやるようなことじゃ……」

「……まぁよい。今回は吾輩が勝手に期待しただけじゃからの」


 エナは許してくれるようで、胸を撫で下ろす。

 実年齢は違えど、エナのような子供と同じベッドで寝るだけで背徳感が物凄いというのに、やったらそれこそ犯罪的……というより犯罪だ。

 今のエナは無知だから仕方がないのかもしれないが、もうちょっと自分の身体を大事にしてほしい。いつか変な男に引っかかりそうだ。

 いや、既に俺という変な男に引っ掛かってたな。がはは。


 ……自虐も程々にしないと悲しくなるな。今はツッコんでくれるような友人もいないし。


「だが、今回のことを不問にする代わりに血を吸わせてくれぬか?」

「……吸血鬼になったりしないのか?」


 物語とかだと吸血鬼に血を吸われたら吸血鬼になるとかいう話もあるが……、実際はどうなのだろうか?


「吸血鬼になるのは吸血鬼に血を一定量摂取したときだけじゃ。安心せい」

「そうなのか」

「うむ。そのままじっとしておれ」


 エナは寝ている俺の上に覆いかぶさり、口を首に近づけてくる。

 そのまま俺の首筋を噛み、血を吸い始めた。


 噛まれた瞬間に多少の痛みはあったものの、それ以外の痛みや痒みは無い。あるのは血が吸われているという感覚だけで、注射器で採血されているような感じだ。


 数秒間血を吸い、俺の首筋から口を離すと、ベッドの横に移動した。エナに噛まれた首筋に手を当てるが、噛まれた跡はなかった。吸血が終わると再生するようになっているのだろう。


「もういいのか?」

「吸われすぎると貧血になるぞ?」


 確かにそうだな。

 今のところ身体は何ともないし大丈夫みたいだ。


「おはよう。エナ」

「うむ。おはよう、アスカル」


 俺は体を起こし、互いに遅い挨拶を交わす。


 初めて吸血鬼っぽいことをされたな。

 エナは元々人間だからてっきり吸血は苦手なのかと思ってたが……。


「吸血鬼にとって血は美味しいのか?」

「そのようだな」

「……もしかして今まで吸血したことがなかったのか?」

「吸血は先程のが初めてじゃな」


 てことは吸血鬼って血を吸わなくても大丈夫なのか。だとしたら血を吸う利点って何だ?


「何で初めて血を吸うのが俺だったんだ?」

「血を吸うのは自らが認めた相手だけだからじゃ」

「そ、そうなのか」


 そう言われると何だか照れるな……。

 まぁ、他人からしてみれば同じベッドで寝ておいて今更そんなことで照れるのかよ! とか思われそうだが。


 ここはもし身近な人にそういうやつがいたらどう思うか考えよう。

 もし義明が今の俺と同じようなことをしていたら……何だそれめっちゃ羨ましいな。


「今日はどうするのだ?」

「取り敢えず、昨日見た首飾りが欲しいから金稼ぎがしたいんだよな……」


 しかし、個人的に欲しい物の為にエナまで協力させるわけにはいかないよな……。

 だったらエナには街で待っててもらうか? この街は治安は良いし、もしシェリアさんが承諾してくれるならギルドに居させるのもいいかもな。


「金稼ぎということは昨日言っていた依頼というやつをするのか?」

「そうだな。エナはどうする? 俺が帰ってくるまで何処かで待っとくか?」

「いや、吾輩も付いて行く」


 エナは街に居るのを拒否し、俺と一緒に居たいようだ。

 だが報酬の高い依頼となれば、強力な魔物の討伐だったり、希少な素材の入手といった時間の掛かりそうなものや危険なものばかりだ。

 そんなところにエナを連れて行きたくはないのだが、本人の意思を捻じ曲げてまで断る理由は無い。


「分かった」


 俺が了承して二人で部屋を出ようとすると、お互いに腹が鳴った。


「……依頼を受ける前に飯にするか」

「そ、そうじゃな」


 エナは腹が鳴ったことが恥ずかしいみたいだ。俺も十分恥ずかしいが、エナは耳まで赤くなっている。やはり女の子というのはそういうものなのだろう。


 俺とエナは宿を出ていつもの飯屋に向かう。

 エナと同居するようになってから出費が増えたものの、所持金が尽きるということは今のところない。


 二人で飯屋に入り、いつもと同じのを注文した。

 飯を食べ終わると早速ギルドへと向かった。


「おはよー、アスカルくんとエナちゃん」

「おはよう、シェリアさん。それで早速なんだけどいい依頼ってあるかな?」


 シェリアさんと挨拶を交わすと早速いい依頼がないか尋ねる。

 依頼を受けたのは最初の素材集めだけだったからなのか、不思議そうに首を傾げる。

 そして数秒後に何かを思い出したようにポンと手を叩いた。


「昨日見た首飾り買うことにしたの?」

「あぁ、だから依頼を受けて金稼ぎをしようと思ってな」

「そういうことね。じゃああまり時間が掛からない高報酬な依頼がいいのかしら? ちょっと待ってね」


 シェリアさんはそう言って、横の書類の山を漁り始める。


 時間の掛からない高報酬の依頼なんてあるのか……。いや、あったとしても並大抵の冒険者では達成することは難しいだろう。


「うーん……取り敢えず条件に当てはまりそうな依頼はこのあたりね」


 シェリアさんはそう言って、机の上に依頼の書類を並べた。

 俺とエナは並べられた依頼に一つずつ目を通す。

 やはり魔物の討伐関連が多い。薬草や鉱石の採取もあるが、危険な場所が多い。となると魔物の討伐になるわけだが……。


「これは何じゃ?」


 エナに依頼の書類を渡され、読んでみる。


「これは……」


 それは少し前に魔物に襲われたヴァルガ領の調査の協力だった。

 依頼主を見てみると騎士団から直接依頼されたものだった。

 報酬はその成果に応じて騎士団から支払われるらしい。


「シェリアさん、これは一体……」

「ん? あぁ、それね。時間も報酬もどのくらいになるか分からないから一応置いたのだけど……」

「うーん……これにしてみるよ」


 俺はそう言い、シェリアさんに依頼の書類を渡す。


「これでいいの? まぁ他の依頼に比べたら安全そうだけど」

「あぁ、ちょっと気になってな」


 ヴァルガが魔物に襲われたことは知っていたがまさかギルドに調査依頼を出していたとは知らなかったな。

 この依頼書を見る限り、この事件から三日経って今日で四日目だ。それまでに毎日魔物に襲われているということは何か原因があるのだろう。


「じゃあ俺達は行ってくるよ」

「えぇ、行ってらっしゃい」


 俺とエナはギルドを出て広場の時計を確認する。時刻はもうすぐ八時になる頃だ。


「ヴァルガまでは馬車で移動するか?」


 馬車は残っているようだし、金を払って移動すれば歩かずに済むが……。


「空を飛んで行くのは駄目か?」

「人目に触れる可能性があるから止めといたほうがいいかもな」


 確かに空を飛んで移動すれば、馬車より早く着くだろうが、リスクが大きい。

 魔術で空を飛ぶ技術も今は無いから、もし見つかったら大騒ぎになってしまう。それはなるべく避けるべきだ。


 俺とエナは馬車乗り場へと向かい、近くに居た男性に話し掛けた。


「すみません。ヴァルガまで行きたいんですが馬車って出ますか?」

「お、あんた達冒険者か?」

「はい、そうですけど……」

「それなら八時に出発するからそれまで待っててくれ」


 どうやら八時からヴァルガに出発するらしい。時間を指定しているということは他にも乗客が居るということだろう。


「まだ時間あるけどそれまで噴水の近くで待っとくか」

「そうするかの」


 待ち時間の間にすることも無いし、二人で雑談でもしておくか。

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