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エーテル・グレイス  作者: クロビー
序章 アルストラ王国編
31/72

他国

 取り敢えずここに来た目的である、騒がしい原因を聞くことと、魔術師に連絡を取れるようにすることはできた。


 これからどうするかなぁ……。

 俺がこうして冒険者になって自由な環境にいる最大の理由は元の世界に帰る方法を見つけることだ。


 三ヶ月間この街で図書館で調べたりしたが、それらしいものは見つからなかった。

 ならこの国にずっと滞在していても意味が無い。他の国にも行ってみるべきだろう。


「当分の間いろんな国に行くつもりなんだが、最初に何処の国に行こうか迷ってるんだ。何処かいい国はあるか?」

「それならタンゲルなんてどうだ?」

「タンゲルって確かここから西にある国だよな?」


 タンゲル公国はアルストラの西に位置する国だ。

 昔から貴族制で、一部地域では貴族と庶民の衝突が度々あるものの、海に面している地域では観光業が盛んで、観光客も多いという。


 湖や川のある地方では稲作が盛んに行われているらしく、他国との貿易も盛んらしい。


「あぁ。前までは貴族と庶民のいざこざがよくあったみたいだが、今の公に変わってからは大分落ち着いてほとんどの地域は治安も良くなってるみたいだしな」


 貴族制って言われてたから面倒なのかと思ったんだが、どうやら俺が思っているほど悪くはないみたいだ。

 観光業も盛んみたいだし全然ありだな。


 最初に行くところを何処にしようか悩んでいるとギルドのドアが開き、ローブを着た美少女が入ってきた。

 フードを被っているが顔はそこまで隠れておらず、銀髪と碧眼が覗いていた。


 ギルドにいる冒険者はその容姿に少なからず見惚れてしまったのか、騒がしかったギルド内が静かになった気がした。


 どうやらエナはもう街に戻ってきたらしい。

 エナはギルドをキョロキョロ見渡し、俺を見つけるとトコトコと近寄ってきた。


「もう用事は終わったのか?」


 俺が聞くとエナは小さく頷いた。

 シェリアさんとジオルクは俺とエナのやり取りを見て首を傾げている。


「アスカルくんの妹さん?」

「いや、妹じゃない」


 まぁ、でもこの身長差なら兄妹に見えても不思議じゃないか。


「建物内だしフード取ってもいいんじゃないか?」


 だがエナはフードを取ろうとしない。周りに見られているからか、むしろフードを深く被ってしまう。


「大丈夫だ。ここにエナを悪く言う人は居ないぞ」

「う、うむ……」


 俺がエナを安心させるように頭を撫でながらそう言うと、エナは恐る恐るフードを取った。

 フードを被っていた状態でも十分綺麗だったが、隠れていた容姿が露わになり、その人形のような容姿にこの場にいた者は目を奪われている。


「ほら、せっかく綺麗な眼をしてるんだから隠すのは勿体無いぞ」


 俺はそう言ってエナの髪を分けて、右目を露出させる。


 嫌がられてないよな? エナは拒否してこないから大丈夫なはずだ。

 なんだかそれだけ信じてくれてるんだと分かると嬉しくてついついニヤけてしまいそうだ。


「ほほぅ……なるほどね」


 シェリアさんは何やら理解した様子で俺とエナをニヤニヤしながら見つめる。

 ジオルクはどういうことなのか理解できていないのか、首を傾げている。


 シェリアさんが敏感なのかジオルクが鈍いのか分かりにくいが、周りの冒険者も上手く状況を飲み込めていないようなので前者だろう。


 エナは周りに見られていて恥ずかしそうにしている。


「エナちゃんって言うの? かわいい〜!」


 シェリアさんはそう言うとエナに抱きついた。

 エナはいきなり抱きつかれたことに困惑しているようで、助けを求めるように俺を見ている。


「シェリアさん落ち着いて。エナも困惑してるから」


 シェリアさんは良い人だから何もされないだろうが、このままだとエナが此処から逃げ出してしまいそうなのでシェリアさんをエナから引き剥がした。


「お前らもいい加減見るのやめてやれ」


 俺がそう言うと冒険者はこぞって顔を逸らした。


 エナとシェリアさんがくっついているときに拝んでる奴がいたけど見なかったことにしておこう。知らぬが仏って言うしな。


 ひとまず俺、エナ、シェリアさん、ジオルクの四人でテーブルを囲むように座る。

 だがエナは俺から離れようとしなかったので二人で並んで座り、エナは俺に寄りかかっている。


「えー、彼女はエナ=ルージュ。俺の友人だ」

「師弟でもある」


 シェリアさんとジオルクは師弟という言葉にいまいちピンと来ない様子で、首を傾げていた。


「まぁ、この通り目立つから普段はローブを着てるんだ」

「確かにその容姿じゃ仕方ねぇよなぁ」


 ジオルクは納得したように頷いている。


「それで此処に来たってことは何か俺に用事があるのか?」

「吾輩がただアスカルと一緒に居たかったから来ただけじゃ」


 相変わらずエナは嬉しいことを言ってくれるなぁ。


「でも俺はまだこの二人と話すつもりなんだが……どうする?」

「吾輩は邪魔をしに来たわけではない。吾輩はこうしているから気にせずともよいぞ」

「エナが気にしなくても俺は気になるんだけどな……」


 エナと話しているとシェリアさんとジオルクがじっと俺達を見ていた。


「す、すまん」


 反射的に謝罪してしまった。二人の世界に入りすぎてたか? 反省反省。


「それで話の続きいいか?」

「おう。タンゲルのことは言ったよな?」

「あぁ、それで他はどんなところがある?」


 俺がそう尋ねるとジオルクは少し悩む。


「そうだな……。地図を見ながら国を一つずつ説明するのがいいかもな。シェリア、地図持って来てくれるか?」

「はいはい。ちょっと待ってなさい」


 シェリアさんはそう言ってカウンターに行き、地図を引っ張り出して来ると、丸められた地図を机の上に広げた。


「俺達が今いるアルストラはこの真ん中の国だ」


 ジオルクは地図の中心の国を指差してそう言う。


 地図を見た限りではアルストラは一番大きな国みたいだ。

 他の国はアルストラを中心に、それぞれ東西南北に位置しているようだ。


 国の位置関係だけを考慮すると、アルストラに勇者を召喚するのは中々合理的かもしれない。

 中心に位置しているからこそ別の国で魔物が発生したとしても短い時間で救援に行くことができる。

 もし東の国に召喚したとしたら、西の国に救援に行く際には単純に考えれば、倍の時間を要することになるからな。


「さっき言ったタンゲルってのはここだな」


 ジオルクはアルストラの西にある都市を指差して言う。


「それでタンゲルの次におすすめなのはここ、グランシュだな」


 ジオルクがアルストラの南にある大きな島を指して言う。


 グランシュ国……王国じゃないんだな。だとしたら王政ではないということか。

 まぁ、アルストラも貴族に権利があるわけではないし、治安は王城の騎士団や一部ギルドが取り締まってて安全だしな。

 王政が悪いとは一概に言えない。


「このグランシュ国ってのは島国で、五カ国の中で唯一亜人国家と言われるとこだな」


 亜人国家か……。てことはシェリアさんみたいに獣耳とか尻尾が生えてる人が多いのか。


「亜人国家って言われてるみたいだが、人間の俺が行っても安全なのか?」

「そんな危険なことはねぇよ。ただ今でも亜人以外が港以外に行くことは少ねえから珍しがられるかもな」

「まぁ、それぐらいならいいか」


 特に危険があるわけではないみたいだしな。


「俺が勧められる国はタンゲルとグランシュの二つだな」

「この北と東にある国はどうなんだ?」


 俺は説明されなかった都市を指差してそう言う。


「お前って旅には慣れてるのか?」

「全く」

「ならおすすめはできねぇな」


 ふむ……。旅に慣れてないとおすすめできないってことは気候やら立地なんかが厳しいということだろうか?


「シェリアはカンネラには行ったことあるんだったよな?」


 ジオルクが今まで話に加わることができてなかったシェリアさんに尋ねた。


「えぇ、一回だけね」

「ジオルクが言う通りあまり勧められないのか?」

「そうね。カンネラの都市自体はいいとこなのだけど砂漠に近いから都市以外は暑くて仕方がなかったわ」


 砂漠か……。

 アルストラは安定した気候だから過ごしやすいけど、確かに暑いのはあまり好きじゃないな。


「それに行くなら船になるだろうし、船で行くにしてもグランシュを経由することになるのよね」


 確かにわざわざグランシュを経由してカンネラに行くなら、まずはグランシュに行くのを勧めるよなぁ。

 だが陸で繋がってるし陸路で行けるんじゃないのか?


「陸路で行くのは駄目なのか?」

「駄目ってわけじゃないけど船で行くに越したことはないわね。陸路だと途中で砂漠の真ん中を通る羽目になるのよ」

「確かにそりゃ止めといたほうがいいな……」


 砂漠の真ん中を通るなんて自殺行為に近いのではないか?

 とはいえこの世界では魔法や魔術で水が出てくるし水不足になることはなさそうだけど。


 ならカンネラは候補から外れるとして、もう一つの国だな。


「カンネラについては分かった。じゃあこっちの国は?」


 俺はそう言ってアルストラの北にある都市を指差す。


「そこはフリジッド帝国だな。雪に覆われた国で寒いし、道中にそこそこ強い魔物も潜んでるみたいだからそっちもおすすめはできねぇな。そもそも帝都に入れるかどうか……」


 雪に覆われてるのか……。

 魔物はどうにかできたとしても旅に慣れてないのに雪道を歩くのは危険か……。


「ならタンゲルに行ってみることにするよ」

「まぁ、一番無難だろうな。それでお前たち二人で行くのか?」

「今のところはそのつもりだ」

「大丈夫なのか?」


 ジオルクは心配そうな目でそう言う。


 確かにジオルクからしたら子供二人で旅は危険かもしれないな。


「心配しなくても大丈夫だ。いろいろ教えてくれてありがとな」

「そんなに気にすんな。同じギルドの仲間なんだからよ」

「それじゃあ俺達はそろそろ戻るよ。シェリアさん、魔術師の件よろしく頼むよ」

「えぇ、任せなさい」


 俺はそう言ってギルドを出ようとするが、いつの間にかエナが寝ていて椅子から立ち上がれなかった。


 さすがに退屈だったか。

 もう日も落ちてきてるし飯でも食いに行こうと思ってたんだがなぁ……。


「エナー、起きてくれー」

「むぅ……?」

「起きたか。これから一緒に飯食いに行くぞ」


 エナはまだ寝ぼけているようで、首を傾げている。

 だが数秒後には半開きだった目はいつも通り開き、目を覚ましたようだった。


「じゃあ俺達はこれで――」


「あ、ちょっと待って。せっかくだし皆で一緒に食べない?」


 突然シェリアさんがそんな提案をしてくる。

 俺はエナにどうするかと目を向けると小さく頷いた。


「俺達は構わないぞ」


 俺も拒否する理由は特に無いので、首を縦に振って了承する。


「じゃあ決まりね。これでアスカルくんとエナちゃんのこと聞けるわ」


 俺達が承諾するとシェリアさんは嬉しそうにした。


 この人、俺とエナの関係を聞きたいのか……。もしかして断ったほうがよかったか……?


 俺はそんな後悔をしつつ、四人で飯屋に向かった。

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