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エーテル・グレイス  作者: クロビー
序章 アルストラ王国編
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異世界

 翌日、昨日は疲れが溜まっていた所為ですぐに寝たのだが、寝坊して学校に遅刻してしまった。


 閉められた校門をよじ登り学校内に入る。重い身体を動かし、憂鬱な気分になりながら自分の教室に向かう。

 教室のドアが普段よりも重く感じ、少しずつ開けていく。


 教室に入るとクラスメイトからの痛い視線が向けられるが、クラスメイトは教師に注意されるとすぐに前に向き直る。

 クラスで目立たない奴はこういうときになんか悲しくなるよな。


 クラスのムードメーカー的な奴だったら絶対誰かが反応するから罪悪感だけで済むのに。いや、そういう奴はそもそも罪悪感すら抱いて無いのかもしれない。ある意味で羨ましい。


「……後で担任のところへ行きなさい」


 俺は授業をしていた教師にそう言われ席に着いた。

 昼休みまで授業で寝ることは無かった。よく眠れたからだろう。ただ寝すぎて遅刻するとは思わなかった。


 俺が布団から出てこないんじゃない。布団が俺を離さなかったんだ。

 この時期の布団はさながらブラックホールのようだ。いや、それだと離さないっていうか吸い込まれちゃってるな。


 西園寺静流に怒られるときの言い訳を考えているとあっという間に昼休みが来てしまった。

 昼飯にしようとしたが弁当を家に忘れてきたので仕方なく購買にパンを買いに行くことにした。遅刻はするし、弁当は忘れるしで踏んだり蹴ったりだ。


 昼休みが終わり、授業が始まる。西園寺静流には昼に遅刻の件でたっぷりと叱られた。

 教師の説教って何でこうも長いのだろうか……。

 怒ってないから言ってごらん? と言ってくるが、そう言う人はこちらが言っても言わなくても怒る。つまり怒ってないから言えと言われた時点でこちらの負けなのだ。それ以上は何を言おうが、負け戦でしかない。


 教室の窓から外を眺める。窓から見えるグラウンドには他のクラスが体育をしているのが見え、空は青く澄んでおり、絶好の晴れ日和だ。気温も高くはなく、席が後ろの窓側なのもあってか風が吹くと、とても心地よい。


 こうしていると眠たくなっていくなぁ……。

 俺は次第に周りの声がどんどん耳に入ってこなくなり、目蓋が重く感じ始める。視界が暗くなると、俺の意識は遠のき、眠りへと誘われた。


     *     *     *


「痛っ!」


 突然、顔面に衝撃が広がったことで目が覚め、眠気が一気に吹き飛ぶ。 

 俺は顔をしかめ、周りを見渡す。


 真っ白な床や壁、柱は大理石と思われるもので作られており、まるでファンタジー小説の宮殿のような場所だった。


 周りには、生徒以外に剣と鎧を身に着けた兵士と思しき人が、レッドカーペットの両側に一列で並んでいる。


 あれ? 俺地面で寝た覚えは無いぞ? それに辺りは見覚えの無い壁や天井が広がってるし……。

 確か俺は教室で寝たはずだ。どうしてこんなところに居るんだ?

 もしかして夢でも見ているのだろうか? でも確かにさっき痛みを感じた。

 何より五感で伝わってくる情報がとても鮮明なのだ。ここは現実で間違いなさそうだ。


「透やっと起きた?」

「義明か。ここは一体どこなんだ? 全く見覚えの無い場所なんだが。ていうかあんな目立つところに座ってるの誰?」

「うーん、それが僕もまだ分からないんだよねぇ。透が寝てる時に教室でいきなり床に円環の模様が浮かび上がったんだよ。そしたら教室全体が光に包まれて、気がついたらここに居たってくらいかな」


 俺の寝ている間にそんなことがあったのか……。教室全体ってことは西園寺先生も恐らくいるよな。


 周りを見渡し西園寺先生見つけると俺と義明は近づいた。

 女性にしては背が高いので見つけやすい。


 ここにいる人数は、自分一人ではとても数え切れないほど居るだろうが、この建物が広いお陰で人と人の隙間が多いため、西園寺先生を見つけるのは容易かった。

 日本の首都圏ではあまり味わえない感覚だ。


「二人共、無事だったか?」

「えぇ、なんとも。それより先生は何か知らないんですか?」

「私もさっぱりだ。取り敢えず静かにして待っとくといいだろう。多分あの爺さんから説明されるだろうからな」


 西園寺先生はそう言うと先程から静かに座っている男を見る。


「そろそろ説明してもいいだろうか?」


 男の声が部屋に響くとみんなが口を閉じ静かになる。


「では説明を始めよう。しかし混乱しておる者もおる故、ここでの説明は軽くで済ませる」

「まずここは何処かというと皆様が居た世界とは違う世界、つまり異世界ということになります。皆様を此処に呼んだのは皆様の力を貸していただきたいのです」


 男が喋り始めるとやはり騒がしくなってしまう。


 突然教室から知らない場所に飛ばされて、突然知らない爺さんから説明され始めるとか混乱しない方が凄いわ。俺も現状がよく分からないしな。


「ふむ、やはり落ち着いて話を聞くのは難しそうですね。皆様に資料を配ります。簡単なことはその資料に書かれていますので軽く目を通していただければと思います。質問については個人的にも受け付けるので、質問がある際は使用人に申し出て私のところへ来てください」


 そういうと使用人らしき人達が全員に資料を配り始める。


 異世界っていうからどんなところかと思ったが本人の口からはほとんど説明無しかよ。

 まぁ、資料見ればいいしこっちの方が何度も読めるのはいいところではあるが。


 にしても紙質もほとんど変わらないしこの建物を見る限り技術はある程度ありそうだな。


「皆様には一人一部屋ずつ用意しております、今日はそちらにてお休みください。今日の夕食は食堂で私達と皆さんで再び集まりましょう」


 めっちゃくちゃ用意周到だな。正直信用できる人物かどうかはまだ分からないし、この資料を読むのはいいが鵜呑みにするのは少し危ないかもな。


「では皆様を部屋に案内いたします。ついて来て下さい」


 使用人に付いていこうとすると、西園寺先生が近づいて来て小声で声を掛けられる。


「川崎、駒井、夕食の後で私の部屋に集合だ」

「「了解です」」


 ひとまず落ち着いて話しが出来るのは西園寺先生、義明の二人だけか、クラスメイトとは普段関わることが少ないからよく分からないしなぁ……。

 これから一体どうなることやら。


     *     *     *


クラスメイトと別れたあと俺は自室で一人で資料を読む。


 部屋の中はベッド、机、椅子、時計といったもの置いてあり、最低限の物は揃っていた。


 俺は椅子に座り、渡された資料に目を通す。


 この世界には人間や亜人が共存していて、魔物と呼ばれる化物が生息している。魔物は人を襲う危険な生き物らしい。

 人類には魔物に対抗する手段として魔術というものがあり、俺たちみたいな召喚者は魔力が一般人より高く、人類にとって大きな戦力だとか。


 俺達を召喚した理由は未だに攻略出来ていない地下迷宮の攻略と、そこに潜んでいる魔物の討伐を手伝って欲しいとのこと。


 この世界の文字や言葉は召喚した時の魔術によって、言葉は聞くのも話すのも翻訳してくれる。

 と資料には書かれているが、資料に書かれている言語は俺の知らないこちらの世界の文字だ。

 文字を見るだけで、自然と頭に内容が入ってくる。翻訳というよりは言語を理解しているような感覚だ。


 ……とにかく俺達は魔物とか言う化物相手に戦えってことか。衣食住は負担してくれるけど命の保証は無いとかたまったもんじゃねぇな。


 正直、いきなり魔力だとか勇者だとか言われても理解できるわけがない。そのあたりはクラスメイトも同じなはずだ。


 資料を机の上に置き、ベッドに横になっていると外はすっかりオレンジ色に染まり、窓からは夕陽が差し込む。


 ……そろそろ夕食の時間か。食堂へ向かおう。俺が一人で考えたところで情報が少なすぎる。確か夕食が終ったら、俺・義明・西園寺先生で集まるんだったな。その時に話し合えばいいだろう。


 俺は食堂に入って義明の隣の椅子に座ると義明に話しかけられる。


「あの資料見てて何か分かったことある?」

「いやさっぱりだ。情報が少なすぎてよく分からん。分かるのは俺達はこっちの都合で勝手に呼び出されて戦えって言われてるくらいだ」

「やっぱりそうだよねぇ。これからしてくれる説明に期待するしかないね」


 どうやら義明も俺と同じ感想を抱いたらしい。


 にしてもこれまた豪華な場所だな。


 十メートルはあるであろうテーブルが繋がれて置かれてあり、食堂の端から端まで届きそうな程だ。


 天井には中央に立派シャンデリアが吊るされており、まるで国のトップが集まって会議をするような場所だ。


 食堂を見渡し、目を奪われているといつの間にかクラスメイトは全員揃っていた。


 今日俺達を召喚するなりほとんど説明しなかった男はテーブルの端の椅子に座っている。クラスメイトが全員揃ったのを確認すると立ち上がり口を開く。


「皆様、お集まりいただきありがとうございます。私はこの国の王で名をエラルド=アルストラと言います」


 あの爺さん王様だったのか……。どうりでなんか偉そうだった訳だ。

 王様が自ら俺達と話すってそれだけで俺達はこの国では特別な存在だということを認識させられるな。

 まぁ……、別の世界の住民ってだけで世界的に見て十分特別というか特殊な存在だとは思うが。


「ひとまず皆で食事としようではないか。存分に食べてくれ」


 王様がそういうと食堂に食器と料理が運ばれてくる。テーブルの上に置かれ、蓋を開けられるとまるで高級ホテルの様な料理が出てくる。


 周りのクラスメイトは目を輝かせてその料理を見つめる。クラスメイトの一人が料理を一つ口に運んだ。


「何だこれ!? めっちゃうめぇ! みんなも食べてみろよ!」


 そのクラスメイトが絶賛するとみんなも料理を食べ始める。

 すると口々に絶賛し、食堂が賑わう。


「うむ、気に入ってもらえたようで何よりだ」


 みんなが美味しそうに食べるので俺も一口食べる。


 む、確かにこれは美味しい。調味料の香りもいいのだが何より素材の味をちゃんと活かしている。


 ただ食べすぎないようにしないとこの後話をするんだから余裕を持たせとかないとな。


「透、もっと食べなよ! これも美味しいよ!」


 義明が俺の皿に料理を盛ってくる。俺そんなに食べねぇんだけど…


「義明、ほどほどにしとけよ」

「大丈夫大丈夫」


 大丈夫大丈夫と言いながら俺の分まで次々と持ってくるので流石に「俺もういいからお前一人で食べとけ」と言うと「じゃあ透の分も僕が貰うねー」と言い、俺の皿に盛った分も食べる。

 こいつの胃はどうなってるんだよ……。

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