魔術の訓練
「おい! いい加減起きぬか」
近くで大きな声が聞こえて、慌てて体を起こす。そこは一度だけ見たことのある場所だ。
視線を窓から声の方に向けるとエナの顔が目の前に現れ、ビックリしてしまった。
というより外で寝てたはずなんだが……エナが運んでくれたのだろう。
そんなことをされてしまったら俺でなきゃ惚れちゃうね! うん、惚れてないし俺は決してロリコンではないはずだ。
「起きたらお主がいるものだから驚いたぞ。もう昼が来ておる。どうせ飯も食わずに寝ていたのであろう? お主にも聞きたいことがあるし、食事をしながら話そうではないか」
話……一体何だろうか?
エナと一緒に部屋を出て一階に移動する。
一階のテーブルにはさっき出来たばかりであろう料理が二人分置かれていた。
昨日と同じようなスープで美味しい。
「さて早速だが……、まずはお主の超能力とやらについて聞きたい。どういったものなのだ?」
超能力のことか。そのことを知って気にならないはずないよな。
超能力を一から説明したところで理解できるはずないしな……。
「俺は事象と自分を部分的に変えることが出来るんだ」
「部分的に?」
「例えば自分の身体能力を変えたり、肉体強度を変えたりできる。火とかはそのものを別のものに変えたりできないが、温度とかは変えたりできるな」
日本で任務をこなしてたときも大体は自分の体を変えるだけで済んでたけど。
「なるほどのう……。だからお主は人間離れした足の速さだったのか」
エナはそう言うと何か考えるように、腕を組んで頭を悩ませている。
「……確かめたいことがある。食事を済ませたら外へ出るぞ」
何を考えていたのだろうか? このタイミングだと超能力のことかな?
話はそれだけのようでその後は会話は特に無いまま食事を終えた。
先に外に出ていろと言われたので風の当たる、涼しいところで待機する。
この家にはキッチンと呼べるかは怪しいが一応調理する場所は確保している。
皿を洗うときの何もないところから水が出ていたがあれも魔法だろう。魔法陣は見えなかったし。
そもそも魔術と魔法の違いが魔法陣の有無しか分からん。
もしかしたら魔石という可能性もあるな。
少しの間待っているとエナが家から出てきた。
昨日と同じローブを着ており、頭にはフードを被っている。
「早速だが、魔術を一つ使えるようになって貰いたい。簡単なものだからすぐに出来るはずであろう」
「魔法じゃなくて魔術?」
「うむ。もしかしたらお主の超能力と相性がよいかもしれんぞ?」
相性か……一体何を思いついたのだろうか?
それにしてもエナは魔術も使えるのか。
「吾輩がまず手本を見せよう」
エナはそう言うと手を前に突き出す。
するとエナの手のひらに魔法陣が浮かび上がり、魔法陣から小さな雷が放たれる。その雷はある程度飛ぶと空中で消滅した。
この魔術は城でクラスメイトが使っていたのを見たことがあるな。
「まずはこれを使えるようになれ。こんなもの使えて当たり前だと思うがの」
エナは俺を見て言う。
直接見てはいないが、義明が魔術を使えたんだ。俺にも使えるはずだ。
「まずは魔術で何を起こすのかイメージするのだ。そしたら魔力を集めるために手に意識を集中するのだ」
「分かった。やってみる」
俺はエナと同じ様に手を前に突き出し、先程の魔術をイメージする。
「イメージしにくいようだったら魔術の名称を口にすると良いかもしれんぞ?」
小さな雷を真っ直ぐ飛ばすような感じで…。
イメージは出来たが魔力を手に集める感覚が分からない。
失敗するのも嫌なので魔術の名称を口にする。
「〈雷撃〉」
すると手のひらに魔法陣が浮かび上がり、そこから小さな雷が放たれる。
同じ魔術なのにエナより威力が弱い気がする。なぜだ。
「ふむ……威力は弱いが一応できてはいるな」
良かったー。過去に患ってた厨二病が役に立ったのか?
封印した厨二病の血が騒ぎそうだ。あ、なんか今の厨二病っぽくね?
……なんてな。もう同じ過ちは繰り返さないぞ。
「なら次はこれじゃな」
エナは俺から少し離れて、再び手を前に突き出す。
今度は魔法陣から風が発生した。
風は塊となり、目に見える形となって真っ直ぐ飛んでいく。
風は木に当たって消滅し、木は衝撃で揺らいで葉を落とす。
「二つ魔術を見せてやったが、お主はその超能力で発動する魔術を変えるのだ」
超能力で魔術を変える……?
「それって出来るのか?」
俺の超能力は〈改変〉。英語だとchangeではなくalterに近い。魔術も未知の技術だが物質のはずだ。それなら情報を読み取り、書き換えることも可能だろう。
しかし、自身で触れていないものは情報を読み取るのに時間がかかるからな。そう簡単には出来ないだろう。
「分からぬからやってみるのであろう? 物は試しじゃ」
「でもどのタイミングですれば……?」
「そうだのう、魔法陣に対して超能力を使ってみてはどうだ?」
魔法陣に……? でもそれって発動直前の少ししか時間ないじゃん。
「吾輩が〈雷撃〉を使うからお主は〈烈風〉に変えてみるのだ」
つまり、雷を風に変えろということだろう。魔術の仕組みは知らないが、恐らくそれは不可能ではないだろうか。
エナは早速魔術を使おうとし、俺は魔術の発動のタイミングを伺う。
エナが手を前に突き出すと魔法陣が浮かび上がり、魔術が発動する。
その瞬間、魔法陣に対して能力を使おうとしたが、魔術は変化しなかった。俺の反応が遅れたからだ。
「すまん、反応できなかった。もう一度やってくれ」
人の動きには敏感だが、魔術という未知の技術に対しては鈍感なのだ。
再度魔法陣の〈改変〉に挑戦するがまたしても反応が遅れる。
何度も挑戦している内に別の魔術に変えるのは無理じゃないか? と思ったが訓練を続けることにした。
数十分ほど経っただろうか。集中力が切れそうになりながらも、訓練を続けている。同じ作業を長時間繰り返しするのは精神的に疲れる。
既に集中は途切れ、夕食はどうしようかなーとその場に全く関係のないことを考えながらしていると、突如魔法陣にひびが入り、硝子のように崩れ落ちた。
俺とエナはお互いに驚いて、目を丸くする。俺は魔法陣に対して超能力を使用したはずだ。その結果、魔法陣が破壊され魔術は発動しなかった。
「……魔法陣を超能力で変えようとしたのか?」
「確かに使ったはずだが……」
エナもこんな出来事は見たことが無いらしい。
超能力を使ったことによる多少の倦怠感はある。
情報を読み取ることもできたし、それの一部を変えることもできたはずだだ……。
「もしかして……」
エナは俺を見つめるとため息をする。
何か呆れさせるようなことでもしたか? いやしてないはずだ。
「お主……この周辺に張っていた結界を壊さんかったか?」
結界……もしかしてあのときの……?
エナの家に来る前の記憶を辿る。その途中で見えない壁のようなものを壊した記憶がある。
「結界……かどうかは分からないが多分壊したな……」
「お主な……あれは魔物や人を近づけないための結界じゃ。それを壊しといて外で寝るとは馬鹿だのう」
またしても馬鹿呼ばわりされてしまった。本人がその後結界を張り直したらしい。何かやらかす度にエナに助けてもらってる気がする。
にしても訓練以前にも魔術を壊したことがあったんだな。あのときは自分が通れるようにしようとしただけで壊そうとはしてないんだよな…。
つまり魔術の〈改変〉は無理ということになる。だが壊れたのは何故だろう?
「別の魔術に変えるのは無理かもしれんのう。魔法陣が破壊できるだけで強力なのだから、ここまでとしよう」
「あのー……魔術のこととか全く知らないんだが……。エナの使っていた魔法についても聞きたいし……」
「そういえば説明してないのう。家の中で話を聞くか?」
「いやここでいい」
森に吹く風が心地良いので、外でエナの説明を聞くことにした。




