森の少女
目を覚ますとベッドで寝ていた。俺は体を起こしてと周りを眺める。
ここはどうやら木で作られた家みたいだ。昨日の出来事は夢……、なんてことはないか。
どのくらい寝ていたかは分からないが、ベッドで寝ていたお陰か体の疲れは取れていた。刀は丁寧に枕元に置かれており、刀身もしっかり鞘に納まっていた。
一体誰がこんなことを……。と思ったが一つだけ思い当たる節がある。昨日の突然現れて魔物を倒した少女だ。
そんなことを考えていたらドアから昨日の少女が入って来る。銀髪だったからすぐに分かった。
噂をすればなんとやらだな。
「む、起きたか。外傷はこれといって無かったが身体の調子はどうだ?」
どうやらこの少女が俺をここに運んでくれたらしい。
百五十センチより少し高いくらいの背丈で白黒の衣装を着ている。ゴスロリというやつだろうか?
左右に束ねられた髪は腰まで伸びており、右目は髪によって隠され、左目はサファイアのように綺麗な青色をしていた。碧眼というやつだろうか。
まるでどこかのお姫様のようだ。だが少女に少し違和感を覚える。
……昨日は片目を隠したりなんてしてたか?
それに少し不自然に目が隠れていて、わざと隠しているようにも見える。
だがそれを本人に聞きはしない。もしかしたら俺の勘違いという可能性も十分にあるし、何より聞いたところで何かするわけではないのだ。
「あぁ、昨日はありがとう。お陰でだいぶ疲れが取れたよ。ところで俺はどれくらい眠っていたんだ?」
「九時間くらいじゃな。普通の睡眠とそう変わらん。それよりお主は夜中にこの森で何をしておったのだ? 普通の者はこの森には近づかないはずだぞ?」
そうなの? この森そんな危険な場所だったの? ジオルクに街のことだけじゃなくて街の外のことも聞いとくべきだったな……。
「昨日は平原で魔物狩りをしようとしてたんだけど大量の魔物に囲まれてしまって……。街逃げようと思ったけど既に魔物に塞がれてて……」
「それで森の中を逃げ回っていたということか。なんとも馬鹿だのう」
言い返す言葉も無いです……。
「って、俺が馬鹿とかそんなのはともかく、この森ってそんな危険なのか?」
馬鹿呼ばわりは少しイラッっとしたがそんなことはどうでもいい。いやよくないが
「逃げ回っていたお主なら分かると思うがこの森は夜は何も見えんのだ」
確かに森の中は外から全く見えなかったな。俺は超能力のお陰で普通に森の中を逃げ回れていたが、確かに普通の人ならまず夜の森には入らないな。
「だから夜に森に来るのは自殺行為に等しい。ま、お主はそれ以前の問題のようだがのう」
少女はそう言うと部屋を出た。
それ以前の問題か…。単純に弱いってことだろうな。
向こうで相手をしていたものとは違うのに、ちょっと魔物を倒せたからって調子に乗りすぎたか。
あの少女は一体どうやってあそこまで強くなったのだろうか。それともあのくらい強い人はそんなに珍しくないのだろうか?
昨日の出来事を思い浮かべながらそんなことを思う。
少女が部屋へ戻ってくると手には木製の皿を持っており、肉やきのこなど森で取れたものであろう食材が入ったスープを持ってきた。
「ほれ、お主も腹が減っておろう。これでも食べて腹を満たせ」
少女はそう言うと持ってきたスープを俺に渡し、椅子をベッドの隣に持ってきて俺と向き合う形で座る。
「その……、ありがとう」
ここまで世話をしてくれる少女に少し申し訳なく思ってしまう。
俺は少女から皿を受け取ると匙でスープを口に運ぶ。
失礼なのは重々承知だが、城の食事と比べると味が少々劣っているように感じる。だが十分美味しいと言えるだろう。
それにしてもさっきから言葉遣いが子供とは思えないよなぁ……。森に住んでるって言ってたし、あのとき背中に翼が生えてたし、シェリアさんみたいな亜人で背が低いのかな。
「それよりお主のその力は一体なんだ? 普通の人間が持っているものでは無いであろう?」
「ナンノコトデスカネ」
「とぼけるでない。あの足の速さといい夜目が利いていることといい。お主、本当に人間か?」
もしかして途中から見られてた感じなのか? だとしたら流石に超能力のことは隠し通せないか…。
「信じてはくれないだろうけど俺は超能力というものを持ってるんだ」
「超能力……、そのようなものがあるのか、聞いたことがないのう。じゃから魔力が低いのか?」
「え? 確かに魔力は平均よりかなり低いらしいけど……、なんで分かったんだ?」
「吾輩は他人の魔力くらいなら感じ取れるからの」
少女は腕を組んで自慢げに言った。
体を動かす度に長い銀髪がひらひらと揺れ、つい見惚れてしまいそうになる。
「お主の魔力が低い理由として考えられるものはある」
「魔力が低い理由なんてあるのか」
「お主が生まれ持って低いだけかもしれんがの」
それはそれでなんか悔しいな……。
例え理由があったとしても魔力が低いことには変わりないし、超能力があるからこの世界での戦闘ではバランスが取れてそうだが。
もし理由が判明して、それが改善出来るようなら嬉しいけどな。
「まず、人間や亜人、魔物は魔力体と呼ばれるものが必ず一つあり、魔力が血のように体内を巡っておる。しかし、お主は他にも魔力体と似たようなものがあるのだ。おそらくお主が超能力と呼んでおるものじゃろう」
「それと魔力に何の関係が?」
「一つは魔力が魔力体からその超能力に流れてしまっておる可能性。もう一つは、その超能力によって魔力体そのものが小さくなった可能性があるの」
どちらにしろ、超能力が関係している可能性が高いということか。
義明と西園寺先生の魔力が低いのも俺と同じで超能力を持っているからか?
少女が言っている魔力と似たようなものとはエーテルのことだろうか?
と、疑問は尽きない。
「ま、吾輩には関係のないことだ。それを食べたら帰るがよい」
今はそんな場所無いんだけどな。
昨日の出来事の所為で金は全然稼げてないし、今から魔物を狩りまくったところで宿代と食事代を稼げるとは思えないしな……。
それに魔物の群れを相手に出来る実力が俺には無い。刀一本だと限界がある。なら道はただ一つ。
「お願いがある。俺に魔術を教えてくれないか?」
昨日、少女は一歩も動かずに魔物を倒していた。恐らく魔術だろう。
独学で覚えるという方法もあるにはあるがそれではあまりにも時間がかかってしまう。それなら人に教わるのが一番手っ取り早い。
「吾輩がお主に魔術を教えろと?」
「迷惑なのは重々承知だし、もちろんタダでとは言わない。俺に出来る範囲なら何でもする」
「急に何でもと言われてものう…。それに吾輩が使っていたのは魔術ではなく魔法だ。まぁ、吾輩も暇だし指導してやっても構わん」
魔法? 魔術じゃなくて?
俺は教えて貰えることに感謝しながらもそんな疑問を持つ。
こちらの世界に来て魔術という言葉は聞くが、魔法という言葉は聞いたことがないからだ。
だがそんなことは関係ない。魔物を倒せるくらいに強くなれればいい。
「それで構わない。教えてもらえるだけで有り難い」
「なら決まりじゃ。お主にやってもらうことは何か思いついたときに言う。訓練はいつからするのだ?」
少しの間悩むがギルドに本名で登録していることを思い出す。
これから偽名で活動していこうと思っているため、ギルドの登録名と冒険者の人達に名前を訂正する必要がある。早いうちに済ませておきたいことだ。
「一度街に戻ろうと思う。少しやりたいことがあるんだ。訓練については俺がここに戻ってきたときでいいか?」
「うむ、構わんぞ。だが戻るのはいいが道が分からないであろう? 森の出口まで案内してやろう」
「あぁ、助かるよ。ありがとう」
少女は俺から食べ終わった皿を受け取ると部屋を出ようとする。
「お主は……吾輩を見て何も言わぬのだな……」
少女は独り言のこうにボソッと呟いたが、何を言っているかまでは聞き取れなかった。
「何か言ったか?」
「何でもない」
少女はそう言うと部屋を出た。
出る直前に何か言っていたようだが、よく聞こえなかった。それとも単なる空耳だろうか?
少女が部屋を出た後、体をベッドから起こし、刀を倉庫に入れ、部屋を出た。




