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エーテル・グレイス  作者: クロビー
序章 アルストラ王国編
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夜の平原

 さて、昼間と同じ平原に来たわけだが……、スライムやキラーラビットが見当たらないな……。


 現在は平原のど真ん中に一人で歩いている。

 街の出入り口には門番が居たが、密かに行動するのは俺の十八番。壁を飛び越えて外に出ることに成功した。


 遠くの山や木は流石に暗くて見えないが平原なこともあり、辺りは十分に見える。


 夜の平原には沢山の蛍と蝶が飛んでおり、夜の田舎の川のほとりで見るような美しい光景に目を奪われる。まるで小さい頃に戻ったかのようだ。


 蛍は街へと流れる川の近くで光を放ちながら漂っていて、蝶は平原に咲いている一輪の花に止まる。


 こんな花もあるのか。異世界様様だな。


 蝶が止まった一輪の花は真っ白な花びらで、満月の光が当たって白く光輝いてるように見える。

 その花びらに触れたら今にも崩れ落ちそうで、なんとも幻想的だ。


「この光景を玲奈にも見せてやりたいなぁ…」


 俺はそれが叶わぬ願いだと知りながら、ぽつりと呟いてしまう。


 少しの間この光景を眺めていると蝶が羽ばたき、何処かに飛んでいってしまい、その姿はもう見えない。


 気持ちを切り替えようと自分の頬を叩く。ここに来た目的はあの光景を見ることではなく、魔物を狩るためだ。


 俺は魔物を探すために歩き出そうとすると違和感を覚える。

 周りにさっきまで居た、沢山の蛍が一体残らず姿が消えていたのだ。


 何十体も居た蛍が一斉に姿を消すなんてあり得るのか? 一体何が起こった?


 嫌な予感がしたが、歩みを進める。すると視界の奥の方、真っ暗な場所に二つの赤い光が浮かび上がる。


 何だあれ? ここからだとよく見えないな。魔物という可能性もあるし念の為に鞘から刀を抜いとくか。


 細心の注意を払いながら二つの赤い光へと近づくとそこには体長百センチ程の狼が赤い目でこちらを見ていた。


 先程の赤い光はこいつが原因だろう。他に赤い光は無い。こいつも魔物なのだろうか?

 魔物と普通の動物との区別が分からない。


 刀を構えてその場から一歩下がる。すると、狼は突然襲ってきた。


 俺は狼が一直線で突撃して飛びかかってきたところを横に飛び、攻撃を躱す。

 動きが速いな。いや、狼ならこのくらい当然なのか?


 狼は地面に着地するとすぐに向き直り、再び俺に飛びかかって来る。

 俺は狼が飛んで空中で動きが制限されたところで横に回避し、狼の体に一太刀浴びせる。

 スライムとは違い、キラーラビットと同様に肉を斬る感触が手に伝わる。


 狼は斬られたところから血が流れ、体が真っ二つになると塵となって消えた。


 魔物だったのか。本当に見分けつかねぇな。魔物かどうか判断出来る方法があれば楽なんだがなぁ……。まぁ、このくらいの魔物ならどうってことないな。


 何はともあれ一体目だ。こいつは何を落とすのだろうか。


 魔物が消えたところに行き、魔物の素材であろう物を拾い上げ、少し観察したあと軽く叩いてみる。


 これは……、牙か? でもあまり頑丈そうではないな。まぁ所詮この辺の魔物ってことだろう。何個か集めないと金にはならないかな。


 さて、この調子でどんどん魔物を狩るとする……か……。


 俺が魔物の素材をポーチに入れ、顔を上げると大量の狼の魔物が目の前に広がっており、その後ろには大量の赤い光が浮かび上がっていた。


 これは流石に無理だな……。街には魔物が入って来ないはずだから街に逃げ込む……のも無理そうだな。


 街の方も魔物で埋め尽くされていたため、街へ逃げる案は即座に捨てる。魔物がいないのは森の方だけだ。


 ひとまず森に逃げよう。魔物には光学迷彩が意味をなしてないみたいだしここは逃げの一手だな。


 森の中は木が生い茂っていて、平原とは打って変わり、暗闇が広がっている。木によって地面に届くはずの光が遮られているからだろう。俺は森の中でもよく見えるように超能力で夜目を効かせる。


 全力で森の中に走っていくが、魔物も俺を逃がす気は無いのか大群で追いかけてくる。


 やっぱり速いな。俺も身体能力を上げてるんだがなぁ。

 これ以上身体能力を上げれば、自分で身体を制御出来るかどうかが怪しくなってしまう。


 木や茂みを避けながら森を突き進んでいく。ずっと同じような景色が続いくため、いつの間にか街の方角は分からなくなっていた。


 このまま逃げ続けてもジリ貧だな…。何とか出来ないか?


 解決策を練りながら走り続けていると正面に開けた場所が見えた。

 俺はそのまま突き進み、やっと森を抜けたと思ったがそこは森の中のただの崖だった。

 なんとか寸でのところで落ちずに済んだが、魔物に追いつかれてしまった。


 魔物に向き直り刀を構える。しかし、一歩下がると足場が崩れて崖から落ちた。足は地面を捉えることはなく、視界が一瞬で空に変わった。


 この体勢は不味い。正面から落ちたのなら受け身の取りようはあるが、背中から落ちてしまっては受け身の取りようがない。


 俺はそのまま重力に従って背中から落下し、地面に体を打ち付けられる。


「ガハッ!?」


 そんな声が自然と口から出てくるが気絶はしなかった。体を起こし超能力で体の傷を治していくが、心身ともに疲労が蓄積して逃げる元気が無い。

 

 いつの間にか周りには狼の魔物の群れが俺を囲んでいた。森の方だけ狼が居なかったのは、俺が森に逃げるように仕向けた罠だったのだろう。俺は抵抗をする元気が湧かず、ただ崖を背にして脱力したように項垂れるだけだった。


 俺はきっとこのまま死んでしまうのだろう。

 突然異世界に飛ばされて、自分勝手に行動して、自分の力を過信した結果がこのざまだ。


「ははっ……」


 口から乾いた笑いが溢れる。

 異世界に飛ばされなかったらこんなことも無かったのだろうか……。

 だからと言って俺達をこっちの世界に召喚した奴に怒りをぶつけても意味は無い。俺が死ぬ要因にはなったかもしれないが直接的な原因では無いからだ。自分一人で行動せず、魔術師の忠告を聞き入れていればこんなことにはならなかったのかもしれない。


 魔物はこちらに一斉に目の前に迫って来た。俺は死んだかと思ったその刹那、魔物数体の体が一瞬にして上下真っ二つになった。


 目の前には血が飛び散り、魔物と一緒に塵となって消えていった。

 一体何が起こったのか理解出来ず、俺はただ呆然とする。


「全く、こんな時間に騒がしいぞ。落ち着いて散歩も出来ぬではないか」


 上空から声が聞こえ上を見上げると背中に翼を生やした少女が空を飛び、こちらを見下ろしていた。


 夜風に揺られている長い銀髪は、暗闇の中で一際目立っている。


 少女はこちらを一瞥すると俺の前に降りてきた。


 何でこんなところに女の子が? そもそもこの少女は一体何者なんだ?


「少し待っておれ、すぐ終わる」


 少女は魔物の方を見ていたが、その言葉は恐らく俺に向かって言ったのだろう。


 魔物が唸り声を上げて襲いかかるが、その攻撃は少女には届かなかった。


 少女が手を前に出すと突然風が吹き、魔物の体を斬り裂いた。


 その光景を見て先程魔物を倒したのはこの少女だと理解する。


 少女が魔物を倒していくのを見ているとその様子に安心してしまったのか体にドッと疲労が押し寄せる。


 少女が魔物を倒している中、俺は疲労と睡魔によって眠りについてしまった。

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